中村です。
リハビリ5日目。
「座る」「立つ」「横になる」「両松葉杖で歩く」「片松葉杖
で歩く」…できなかったことが一つずつできるようになってい
くリハビリから、本格的に左股関節の可動域を広げ、筋力をつ
けるリハビリに入った。現在の私はこれが仕事なので、痛っ
やりたくないっはNG。「足、はずれるぅ~」という恐怖
心をぐっと飲みこみ、リハビリの先生方に身を委ね「まだいけ
ます」「大丈夫です」と奮闘中。
さて前回のブログで理学療法士の指導現場での話をとりあげた
その日、たまたまテレビをつけた時間帯にNHKで有限会社原
田左官工業所という会社を取り上げた番組が放映されていた。
原田左官工業所は、社名にあるように左官業を営む東京の会社。
平均年齢56歳という左官業界において、30名ほどいる
職人の平均年齢なんと35歳
その理由は、職人の世界でまかり通ってきた「技は盗め」
という考え方を改め、職人によるOJTによる職人育成制度を
導入したこと。これによって以前は5割以上だった離職率は
今や5パーセント。若者が辞めない会社としてメディアにも
取り上げられ、業界外からも専門職スタッフ養成という課題
に取り組む企業からの問い合わせが多いんだとか。
テレビで取り上げていたのは、塗り壁トレーニングと言われる
左官版モデリング訓練。先輩左官のお手本ビデオを見て塗り方
を真似る。自分の仕事ぶりもビデオに撮って見比べる。先輩と
の違いを考えさせて、やってみるの繰り返し。番組では南アフ
リカから建築を学ぶために日本の大学に留学し、同会社に就職
したカーリーという女性新入社員の研修ぶりを紹介していたが、
試行錯誤の上塗り切った研修用の壁を前に充実感いっぱいの表
情が印象的だった。
これらの制度導入に対してベテランの先輩職人達は必ずしも乗
り気じゃなかったのは容易に想像がつく。放映でも左官歴15年
のベテラン左官が導入当時を振り返って、否定的な受け止め方
だったが、現在では「導入してよかった」「離職が減っただけ
でなく会社全体の士気も上がった」とコメントしていた。
社長がこれらの制度を導入しようと思ったのは危機感
時代の流れで台頭してきたユニット工法なる新しい工法によっ
てもたらされる左官不要論。職人の手作業による左官離れによ
る経営状況の悪化をいかにして防ぐか
社長が考えたのが、今までの
受けて塗る=「受け」の左官業
から
仕掛けて塗る=「攻め」の提案型左官施工会社
に向けた付加価値の創造。そのための組織改革。職人達の意識
改革。個々が親方の背中を見て育て。一人前まで十数年。では
生き残れない…。
たまたま見た番組だったけど、うちのクライアント先にも応用
できそうなヒントがたくさんつまっていた。
※ちなみに、原田左官レディースという女性の左官部隊を作っ
て感性を生かした営業展開も行っている様子。興味のある人は
検索してみて
中村です。
リハビリ3日目の土曜日。外来診療がないからか、それとも元
気な整形外科の先生方がいないためかなんとなく病棟がゆっく
りしていて静か。
明日からシャワー解禁(予定)、今日は館内に人が少ないから
一人で売店行ってみた
エレベーターに弄ばれる以外、移動には問題なし。ただ、松葉
杖での複数品目買いに少々手こずり明日以降の課題が残った。
ホットコーヒーを溢さず自室に運ぶコツもつかんだ。
週明けからのリハビリは一階のリハビリ室に出向いて実施する
ので、病室で行う往診リハビリは今日明日でおしまい。
できることが一つずつ増え、そのクオリティが上がると同時に
新たな課題が見つかる。まだまだゴールは遠いが励みになる。
傷口の腫れがひくまでは「やりすぎ禁止」と言われているけど、
逸る気持ちにブレーキをかけるのは結構大変。
今日は、8時50分からリハビリスタッフが病室に来てくれる
予定。
「そろそろかな…」と思っていたら、
いつもは、元気なノックと同時に「おはようございます(こん
にちは)」と大きな声で挨拶し笑顔で入室してくるのに、今日
は、ノックの圧弱め、「おはようございます」の声小さめ、
笑顔控えめ。前日に「明日と明後日は別のスタッフが担当」
とは聞いていたけど、雰囲気の違いに少々不安な気持ちのまま
スタート。
仕事でクライアント先に新入社員のヒアリングに行った際、入
室時の「圧弱め」「声小さめ」「笑顔控えめ」は、
不安や不満などモチベーション低下のよくない兆候であること
が多い。
職業柄自分のリハビリより彼のことが気になる
血圧計って手術した左足の筋肉をほぐしてもらいながら、それ
となく会話を振ってみた。最初はちょっと素っ気ないけど、ほ
どなく打ち解けて、
新卒入社で2年目。他社と比べて自分の職場は若手の割合が低
く、40代、50代(いわゆる昭和世代)の先輩達の指導方法
に納得がいかない、自分には合わないと感じていることなどを
話してくれた。
実際の彼の仕事ぶりは(当たり前だけど)丁寧で真面目。でも、
全体からにじみ出る溌剌感のない、なんとな~くどんよりした
雰囲気はここからきていたのか…
納得はしたものの、厳しいようだが、社会に出て給料もらって
働く以上、自分の精神状態は仕事には全く関係なく、特に人と
接する仕事、その中でも社会的弱者と言われる人と接する仕事
を選択した以上自らの心の有り様を相手に悟られ不安感を煽る
ようなことはあってはならないと思う。
ただ、彼の話になるほどと考えさせられるところもある。
所謂ゆとり世代として学生生活を送った彼は、何をするにも
「優劣をつけず」「『がむしゃらに』ではなく『適度(そこ
そこ)』をよしとする」中で育ってきた。他の世代も経験して
ゆとりもならその違いが認識できるだろうが、当の本人はそ
れ(ゆとり)しか知らないからどう違うのか実感しにくい。私
たち昭和世代が学生の頃は、資格取得に必要な実習といえ
ば、実習そのものに加えてその後のレポートや実習先の手伝い
が大変だったらしい。※私自身は実習未経験のためあくまでも
人づてに聞いた話だけど…
でも、彼曰く最近の実習は、実習というより見学の意味合いが
強く、レポートも負荷がかからない程度。「大変だった」とい
う印象はなく、いざ働き始めていきなり現実をつきつけられ、
「社会は厳しい」「ぬるま湯から急に冷水に放り込まれた」よ
うだと言う。
そらせやろゆる~く渡っていけるほど世間は甘ないわい
と思う反面こうとも思う
彼の仕事は身体に何らかの不具合を抱えた人に直接触れる仕事
私のように、「足に人工物入れる手術しました」という人に、
手術の翌日から「足を動かしましょう」と言って動かさなけれ
ばならない。私も経験済みだが、手術翌日は「いやいやそんな
したら足折れますやん」「無理無理」「怖っ」と思うような
ことを平然とさせられる。学校で習って理論的には知っていて
も「はい、そじゃやってみて」でできるものではない。実際、
最初の頃は緊張で手が震えたという。
で、
躊躇していると、「ゆとり世代は甘えている」に加えて「自分
たちの頃は誰も教えてくれへんかった」「自分からくらいつい
て盗め」と言われる…。リハビリを専門にしている病院のよう
に毎年新卒者をある程度の数採用している職場に比べて自分の
職場は年齢層が高くその傾向が強いと感じてるよう。
ゆとり世代に生まれたのは彼の責任ではない。ゆったりしたカ
リキュラムの中で教育を受け、社会に出てきた若者たちにどの
ように仕事の厳しさやそれを乗り越えた際の達成感を伝えるか
は病院だけでなく企業も同じ。大切な問題だと感じている。
学校と違って社会人は仕事に成果が求められるのは昭和も令和
も同じ。ただ、育った環境が違うから指導のプロセスを時代や
相手の性格や習熟度に応じて変えていく必要はある。何より、
新しい環境に適応するために乗り越えなければならない不安な
気持ちに寄り添う、少なくともその不安な気持ちを理解しよう
とする気持ちがなければ師弟関係は上手くいかない。
私たち昭和世代にも新入社員の時代はあった。不安な気持ちも
あったはず。覚えてないだけ。自分がそうだったからお前らも
そうしろ。それが当たり前だというのはやはり通用しない。
自分はそうやったけどもっといいやり方はないか
その前に、
自分はそうやったけどそれでいいのか?と問いを立てる
ことが指導側には必要。何が正しいか、どうすればいいかは一概
には言えないが、一つだけ確かなことは、職場は学校ではない。
上司や先輩は部下や後輩を一人前の仕事人にする。新人は先輩や
上司の指導を受けて一人前になることが目的だということ。その
ためには、押しつけも遠慮しすぎもダメ。お互いのゴールと現在
地を共有したうえで、対話を通じて最適な指導スタイルをつくっ
いくしかない。
愚痴っぽいことも口にしていた彼も、「一人前の理学療法士にな
るために指導を受けてるので、頑張ってやり遂げたい」に加えて、
「自分に後輩ができたら、後輩の不安な気持ちに寄り添える先輩
になりたい」と話していた。
プロの仕事人目指して頑張れ!