立ちすくむシングルマザー 新型コロナ感染拡大で収入減
新型コロナウイルスの感染拡大で経済が停滞し、収入が減ったシングルマザーたちが悲鳴を上げている。厚生労働省の調査によると、母子世帯の平均年間就労収入は200万円。多くがぎりぎりの生活を送る中、減収に加えて休校に伴う昼食代や学習費など支出が増え、あすをどうするか立ちすくむ。
▽子どもの優しさ 心に痛み
買い物に行ったスーパーで、小学生の長男はお菓子を欲しがりながら、「ごめんね」とつぶやいた。広島市の40代女性は、どう返事していいか分からなかった。不自由な思いをさせているのが申し訳なくて、「こっちこそ、ごめんね」と心の中で謝る。
この女性は小学生の長男と、高校に進学したばかりの長女と3人暮らし。夫は5年ほど前に亡くなった。生活費や学費は、イベント関連の会社で働く女性の給料で賄う。
月給は10万円余りの基本給と平均8万円の歩合給で計20万円ほど。ただ、3月からはイベントの中止が相次いだ。4月はかろうじてあった基本給も、5月からはなくなるかもしれない。
一方で支出は増えた。一斉休校で子どもの昼食代や昼間の光熱費がかさみ、3月は2、3万円プラスに。政府が臨時で支給する子ども1人1万円の児童手当は「焼け石に水のような額です」と途方に暮れる。切り崩してきた預金も200万円ほどになった。近くに頼れる親戚はいない。「私が倒れたら終わり。八方ふさがりです」と声を落とす。
岡山県の30代女性はキャバクラで働きながら、小学生から未就学児までの子ども4人を育てる。2月ごろまでは週6日勤めて、月30万円ほど稼いでいた。
ただ感染が広がり、客が激減。4月から勤務は週2日となり、給与は月10万円に下がる。同居の母が稼ぐ月10万円のパート収入と合わせても、計6人が生活するのには厳しい。
転職も考えるが、求職活動や昼間の仕事を始めるとなると、未就学児を預けないといけない。その費用を考えると、そう簡単には踏み切れない。
子どもにはシングルマザーを理由に不自由な思いをさせまいと努めてきたが、小学生の長女は現状を察しているようだ。肉、野菜とバランスを考えた料理を出すと「毎日、ご飯頑張らんでいいよ」と言ってくれる。「節約していいよ」のメッセージ。その優しさがうれしい半面、親としての情けなさもこみ上げる。夜、子どもたちの寝顔を見ながら不安になる。「これから、どうしよう…」
■経済対策、金額・手続きに懸念 長期的支援求める声
苦境に立つシングルマザーには、何が必要なのだろう。母子世帯を支える活動をしてきたNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ(東京)の赤石千衣子理事長(65)は、政府の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済対策について「これでは生活が厳しい家庭には届かない」と懸念する。
子ども1人1万円の臨時の児童手当は「たった1回しかなく、金額が少なすぎる」とため息をつく。収入が減った世帯を対象にした「30万円の現金給付」については、受給対象者への案内がなく自己申告での手続きが必要で「生活が苦しい家庭でも、申請できず漏れる人が出てくる恐れがある」と指摘する。
国の「生活福祉資金特例貸付」も使いにくいという。社会福祉協議会を通じて、10万~20万円の生活費を緊急で借りられるが、今回の一斉休校で生じた昼食費や学習費などの支出増は原則、考慮されない。「生活がぎりぎりの家庭は少しの負担増でも子どもに食べさせるものに困る」と訴える。
ほかにも支援の現場からは「もっと長期的なバックアップが必要」と声が上がる。生活保護の基準緩和や児童手当の継続的な増額、再就職の手助け…。「しわ寄せがいきやすい世帯にもっと手厚い策が必要なのに」との嘆きが相次ぐ。
中国新聞社