志村けんが語った酒とコントと人生「ひとりじゃなく全員でウケるのが大事
新型コロナウイルスによる肺炎を患っていた志村けんさんが、3月29日、入院中の病院で亡くなった。「週刊SPA!」2011年3月1・8号の「エッジな人々」では、ちょうど61歳の誕生日を迎えたばかりの志村さんにロングインタビューを敢行。当時も今と変わらず、幅広い世代の心をつかんでいた志村さんに、コント作りの秘密をひもといてもらったその内容を再公開する。※年齢、日付等は掲載当時のまま。
『週刊SPA!』(11年3/1・8号)、「エッジな人々」より
61歳の誕生日を迎えたばかりの志村けん。60代で今なおテレビでコントの冠番組を持ち続けるコメディアンは、志村氏をおいてほかになし。今年で6回目を迎えた一座公演「志村魂」では全国のファンへ爆笑を届ける旅に出る。日本一の変なおじさんが説きあかす「コント平等論」とはいったい……。
――お誕生日おめでとうございます。昨年は還暦を迎えられたわけですが、その日のことを覚えていますか? 志村:いやぁ、酔っ払って覚えてない(笑)。還暦を過ぎたと言われても「二日酔いが抜けるのが遅くなったかな?」という程度の変化しか感じていないんです。
――毎晩のようにお酒を飲むそうですが、酔うとどうなるのですか。 志村:僕は酔っても、ほとんど変わらないんですよ。スタッフや出演者と飲みながら仕事の話をしていますね。「あそこ、こうしたほうがウケるんじゃないか?」「あそこは、もっとこう撮ったほうがいいよ」って。「もう仕事の話題はやめよう」って、くだらない話に切り替えるんだけど、それがまた仕事の話に戻っちゃう。
睡眠時間一日3時間。酒とコントの日々
――志村さんにとって、お酒の席は仕事の延長なんですね。 志村:そう。「俺は本当はこうしたい。こういうコントがやりたい」って、スタッフたちにわかってもらうための場だよね。『ごきげんテレビ』と『だいじょうぶだぁ』を並行してやっていた時期なんて、各番組で3日ずつ、週に6日間も飲んでた。そのせいで一日の睡眠時間が3時間しか取れなくなってしまったけれど、やりたいことや伝えたいことがたくさんあるから、どうしてもそうなっちゃう。
――では残り一日は、どのように? 志村:残り一日は、地元の人たちと飲む(笑)。芸能界の関係者と飲んでいてもコントは広がらないんです。『ひとみ婆さん』なんて、街にいる実在の人物がモデルですから。 ――なるほど。しかし、カメラマンとまで一緒にお酒を飲むコメディアンは、珍しい存在なのでは? 志村:僕はテレビでのコントを作るうえで重要な点は「カメラ割り」だと考えているんです。テレビのコントは「カメラで笑わせる」とまで思ってる。どんなに面白い動きをしても、それが撮れていなかったら意味がない。僕のコントを撮ってくれているチーフカメラマンは『だいじょうぶだぁ』『バカ殿』からもう20年来、同じ人。僕と同い年の方なんです。一緒に飲みながら話をして、カメラワークを作ってきた。彼はもうコントに欠かせない一員だよね。
――志村さんは、演出家の視点でもコントを作られているんですね。 志村:そうですね。意思の疎通ができている今でこそもうしないけれど、かつては照明さんにも口出ししたり、収録が終わっても編集に立ち会って選曲までやりました。コントを放送する順番も僕が決めていましたから。
――収録を終えても、まだコントを練るんですか! しかも放送順まで。 志村:当時はどうしても任せられなかったんですよ。ディレクターはコントを単に笑いが多い順に並べて放送しちゃう。でもコントって、フリが長くてオチでドン!とくる、あえて爆笑させないタイプのものもあるでしょう? 笑いの量こそ多くないけれど一発が大きいという。「セリフがない」とか、「カメラが引いてみると、実はこうなってた」みたいな、静かなコント。そういうものはどこにはさむと効果的なのか、それを考えることはとても重要で。笑いが少ないコントを前に持ってくることで、次のコントがすごく面白くなる場合もあるしね。アナログのLPレコードで激しい曲の前にあえてバラードを持ってきたり、B面にはマニアックな曲を配したり、というあの感覚。でも、そういうコントを作ること自体が勇気が要るし、それをわかってもらうまで、闘いの時期はあったね。
――志村さんのコントの根底には、音楽をレコードで聴いていた原体験があるのですね。観ていると「どこまで台本で、どこまでアドリブなのか」わからなくなることがあるんですが、それもまた音楽的ですね。 志村:そう。僕のコントは、レコードを作るのに似ているかもしれませんね。アドリブに見えて、実は計算している。とにかくリハーサルで、みんな思いつく限りのアドリブをやるんですよ。竜ちゃん(上島竜兵)が「こう言っていいですか?」、優香が「ここでこう言うと面白いから試したい」って。そのやりとりをチーフカメラマンがサブ(副調整室)に伝えて、っていうコミュニケーションがだんだんできてくる。そして「そのアドリブは本番で活かそう」「竜ちゃん、それはやめておこう」と、次第にひとつの作品になっていく。だから本番ではアドリブなし。ほぼ計算どおりに笑いがきてるんで、やってて楽しいね。
――志村さんたちならではの独特なグルーヴは、そうやって生まれるんですね。そこで、ご自身が突出して「ウケたい!」という気持ちは? 志村:ないですね。僕はあえて「平等」と呼ぶんだけど、誰かひとりがすごくウケたり、誰かひとりがすごくダメだったり、それではコントにならない。例えば『全員集合』で加藤さんがウケているときは、引かなきゃいけない。自分がウケるより、ドリフがウケるほうが大事だから。だから自分でコントを作るときでも、竜ちゃんがどうやったらウケるか、どうやったら優香のよさが活かせるか、どうやったらゲストが気持ちよく演じられるか、それをものすごく考えるんですよ。
アイドルもウケると笑いの才能が花開く
――志村さんが制作陣とも酒席を共にするのは、「全員でウケる」という考えがあるからなのでしょうか? 志村:そうですね。平等ですよ。先輩後輩とか、そういう縦の関係を気にしていたら、コントってできないと思うんです。田代君や桑野君とでバカ殿をやり始めたときも、彼らは若くてシャイだから、はじめは委縮している。そういうとき、本番のあとに酒を飲みながら「俺が先輩だとか気にしなくていいよ。敬語も使わなくていいから」って、少しずつほぐしてゆく。それでその場はいい感じになるんだけど、現場でまた元に戻っちゃう。壁を取り払うのに随分と時間がかかりましたね。
――志村さんが若い頃は、ドリフの先輩方と飲んだりされたんですか。 志村:初期の頃はなかったけど、地方に行ったときなんか、ホテルでいかりやさんに「おい、志村行くか」ってバーに誘われることがあって。加藤さんや仲本さんはお酒をあまり飲まないし、ブーさんはタダのお酒しか飲まないからね(笑)。一緒に飲んでるときに「俺、しんどいんだよ。お前、やってくんねえか」っていかりやさんに言われたことがあって。実は『全員集合』が終わるまで半年くらい、僕が台本を作ってましたね。
――えっ!? それは初耳です。 志村:いかりやさんに言われて最初にやったのは、5軒のアパートで全員早変わりだけでやるっていうコント。みんなが出てくる順番とか、裏にカメラを置いて着替えを見せようとか、いろいろ考えましたよね。
――メチャメチャ名作じゃないですか! いやあ、後期のコントは志村さんが作っていたとは。また、志村さんはアイドルにもコントをやらせますが、彼女たちからどうやって笑いの才能を見いだすのですか? 志村:まず、よく笑うコですよね。昔はいきなり本人の目の前で屁をしたり(笑)、そうやって試していました。次に、とんでもないメイクをさせて、そのコがウケるようにコントをやらせる。そうすると、「アイドルがそこまでやるんだ」っていうギャップがあるからウケる。そっからガラッと変わりますね。例えばいしのようこなんて、シャイでお嬢様で、ぜんぜんやりたがらなかったんですよ。でも一度ウケる喜びを知ると、そこから才能が開花しますね。
――最近では、どなたが? 志村:やっぱり、みひろちゃんですね。まず見た目がかわいいし、求めることを、さらっとやってのけた。しかも余計なことをしないで引くところは引く。芸人だと、こうはいかない。もうちょっとウケが欲しいと思って、つい余計な、変なことをしちゃうんです。だから彼女には『志村魂』にも出てもらったんです。
――彼女に笑いの才能があるって、志村さんじゃないと気がつかなかったと思います。そういった人心掌握術はどこで養われたのですか? 志村:やはり、ドリフターズ時代ですね。ずっと一緒にいるからメンバーの気持ちがアップしてる、ダウンしてるって、わかってくるんですよ。例えば加藤さんが「もう舞台に出てしゃべりたくない」って、気持ちが落ちてた時期があったんです。そこで加藤さんに「セリフがなく、動きだけでやれることをしませんか?」って提案したんです。音楽と振り付けを僕が考えて、そうやってできたのが「ヒゲダンス」。 ――えっ! ヒゲダンスって、そんなきっかけでできたのですか? 志村:加藤さん、「志村、あのとき、お前があれやろうって言ってくれなかったら、俺きつかったぜ」って言いますもんね。とはいえ「次の週のネタどうしよう」って、別の悩みを抱えることになるんだけど(笑)。
――ヒゲダンスがドリフを救ったんですね。しかしそこまで人を思いやる性格なら、恋人やお嫁さんがいらしてもおかしくないと思うんですが。 志村:ちゃんとしすぎるのかもしれない。結婚願望もあるし、子供も欲しいんですけどね。以前は、女性とお付き合いを始めるとき、相手の親御さんに挨拶にいってました。芸能人だから、親御さんとしては「遊ばれるぞ」って心配するじゃないですか。そこで「ちゃんと付き合います。そんな変な男じゃありませんから」って誠意を見せて、安心させたかったんだよね。気をつけないと、相手の親のほうが年下だったり。で、一回だけ別れる前にも挨拶にいった。
――お別れするときまでですか!? 志村:「もうお付き合いが無理みたいなんです」って。そしたら向こうの親御さんが娘に「このバカタレが!」って怒りだして。「いやいや、僕の責任もありますから」ってなだめて。やっぱり、変な男だよね(笑)。