安倍政権という泥船から逃げ出す国賊たち ─新型コロナウイルスは総理大臣に忖度しない─
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新型コロナウイルスは総理大臣に忖度しない。そして現在の日本が三流国家になってしまったという事実を誰の目にも明らかにしてしまった。政府の対応は後手後手で、海外メディアからも叩かれる始末。支持率も急降下中。周辺の熱烈な応援団も泥船から逃げ出した。そこから見えて来たのは「今だけ」「カネだけ」「自分だけ」といった思考停止した連中の利権構造だった。安倍政権の危険性を当初の段階から鋭く指摘してきた作家適菜収氏が新刊『国賊論~安倍晋三と仲間たち』で、その背景をすべて暴く‼️
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■騙された国民だけが悪いのではない。メディアが腐り果てているのだ
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国内で新型コロナウイルスの感染1例目が判明してから約3カ月。安倍政権が打ち出したのは「全世帯に布マスク2枚配布」だった。各家庭に布マスクを送るために、どれだけの人の手間がかかるのか。駆り出される配達員のことも考えていない。天下の愚策である。
こうした中、安倍礼賛を続けてきた自称「保守」たちが泥船から逃げ出し始めた。百田尚樹は、布マスク2枚配布に「なんやねん、それ」「アホの集まりか」とツイートしていたが、その「アホの集まり」をヨイショし売国・壊国に加担にしてきた自分のアホさ加減を先に恥じたほうがいい。
「泥船逃げ出し系」の連中の言い訳は「これまでの安倍の判断は間違っていないが、コロナ対策で間違った」というものが多い。しかし、まともな判断をしてきた人間が、いきなり大きく間違うわけがない。この7年間、外交、国政、一貫してすべて判断を間違えてきたのである。その結果が今の惨状だ。
それでも安倍を支持する人々がいる。
現実が見えていないのだ。
しかしこれは彼らの責任とばかりは言えない。
国民を騙すメディアが腐っているのだ。
『プロパガンダ 広告・政治宣伝のからくりを見抜く』(A・プラトカニス/E・アロンソン著 )という本がある。刊行された1998年の段階で、《アメリカ政府は自国に有利なプロパガンダを作り出すために8000人以上の人間を雇っているが、その費用は年間400億円に達する。その結果、1年間に90本の映画が製作され、22カ国語で12種類の雑誌が発行されている。ボイス・オブ・アメリカは37カ国語で800時間にわたり番組を放送し、推定7500万人がこれを聴いている。これらが、すべてアメリカのやり方の正当性を主張するために使われているのである》。
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どこの国でも事情は同じだ。日本も広告会社によるマーケティングとプロパガンダで政治が動いている。その背景にはニヒリズムがある。議論によって相手を説得し、合意形成を目指すよりも、社会に一定の割合で存在するバカの動向をマーケティングで探り、プロパガンダにより「ふわっとした民意」をすくい上げたほうが手っ取り早いと考える連中が、政権中枢にもぐり込んだ。これを露骨にやったのが小泉政権におけるB層(=構造改革に肯定的なバカ)戦略だった。騙すバカと騙されるバカの自転車操業。こうした平成の30年間にわたる政治の劣化と制度破壊の成れの果てが安倍政権だったのだと思う
■自発的に隷属への道を選択させる情報操作の手法
プロパガンダの技術を政治に応用するのはケシカランなどと、生徒会の優等生みたいなことを言いたいわけではない。その語源はラテン語のpropagare(繁殖させる、種をまく)であり、特定の思想を拡散させる技術と考えれば、それは政治そのものである。
しかし、技術が人間を破壊することもある。
《プロパガンダは特定の観点を受け手に伝達することであり、その最終的な目標は、受け手がその立場があたかも自分自身のものであるかのように「自発的に」受け入れるようにすることにある》(前掲書)
強大な権力が情報を押し付けても無駄である。心理学の知見を駆使し、自発的に隷属への道を選択するように情報を操作する。そのためにはテンプレートがあらかじめ用意される。
例えば「既得権益を握っている悪い人間がいるからだめなんだ」といった具合だ。守旧派、抵抗勢力、伏魔殿……どこかに悪を設定し、それを「改革」する姿勢を見せることにより、大衆のルサンチマンを吸収し、拡大する。その背後では常に危機が演出される。
人間の脳は認知した情報をすべて処理するのではない。
《人間の情報処理の能力には限りがあるので、複雑な問題を単純化する周辺ルートを採用することが多い。何か良い理由があるからではなく、単純な説得の小道具につられて、よく考えずに結論や主張を受け入れてしまうのである》(前掲書)
人間は理解できないことや自分の世界観に合致しない事実を提示されると、自分を守るために事実のほうを歪めていく。社会心理学者のレオン・フェスティンガーは「認知的不協和」という言葉を作った。一貫しない二つの認知があると人間は不快になる。特に自尊心が脅威にさらされると、歪曲、否認、自己説得が行われる。
われわれはその事例を日々目の当たりにしてきた。
「保守」「ナショナリスト」がナショナリズムを解体するグローバリストの安倍を礼賛する一方、頭の悪い一部の左翼は「戦後レジーム」を確定させた安倍を「戦前回帰の復古主義者」と誤認する。自分の世界観に合わせて、都合よく現実を解釈するわけだ。
《アメリカの大統領は、状況を分析し合理的に行動するために必要な情報を市民に提供することを拒否してきた。本当の意味で不幸なのは、多くのアメリカ人がシニカルな態度を抱き、自分たちが欺き導かれることを当然のこととして受け入れるようになってしまったことだろう》(前掲書)
日本で発生した現象も同じだ。
多くの日本人が政治に対してシニカルな態度を取るようになったとき、心理学から動物行動学まであらゆる知見が悪用され、人間を傷つけ始めた。
私は「国賊」という言葉は安易に使うべきではないと思う。これは、都合の悪い人間にレッテルを貼るために使われてきた。例えば戦時中に戦争に反対すると「国賊」「売国奴」「非国民」と罵倒された。しかし、戦争に反対することが、国家に仇するとは限らない。それどころか、無謀な戦争は国を壊す。
言葉は厳密に定義し、かつ正確に使わなければならない。
私は安倍を罵倒するために「国賊」と言っているのではない。
事実として、国を乱し、世に害を与えてきた者について考えていく上で、正確な言葉を選んだだけである。
文/適菜 収