>検察官「Aさんとの関係を続けていく選択はなかったのか?」と聞かれ、
「そういう選択もあったが、Aさんをひきつけておく自信がなかった」と答えた。白石被告の素の部分を垣間見た気がした。
白石隆浩被告 座間9人殺害事件は「被害者が望んだ承諾殺人」だったのか から続く 「私以外の男性との付き合いがあるような雰囲気だった。2度目のホテルで性交渉を持ちかけたが断られたこと、そして、自分のこれまでの過去の経験上、短期的にお金をひっぱることはできるが、長期的には難しいと思っていたことです」
【写真】この記事の写真を見る(5枚) 被害者の一人、Aさん(女性、当時21)殺害について、裁判員から「迷っていたのに最終的に殺害をしたきっかけは?」という質問を受けた白石隆浩被告(29)は、淡々とこう答えた。
白石被告の素と思われる部分が出た
神奈川県座間市内のアパートで男女9人を殺害した白石被告の裁判が、東京地裁立川支部で開かれている。最初に殺害されたAさんに関して、白石被告は弁護側からの質問を拒否。弁護側が質問した内容を、検察側や裁判官が繰り返すという異例の展開になった。 また、これまでの証言と矛盾すると弁護側が指摘した場面もあったが、「答えるつもりはない」とつっぱねた。しかし、法廷では、白石被告の素と思われる部分が出たような気がした。
白石被告は被告人質問の初日から、弁護側の質問に答えていない。2日目となった10月8日、ようやく弁護側の質問に答えるつもりがない理由をこう話した。 「裁判が長引くと、親族に迷惑がかかる。そのため、(承諾殺人ではないという)検察側の起訴事実を認めてると、最初から弁護人には言っていた。弁護人も『わかりました』と言っていました。ずっと私の希望に合わせますと言っていた。
しかし、公判前整理手続きに入ってからは『争う』と言ってきた。話が違うので、受け入れられません。解任したいと思ったのですが、裁判所に受け入れられませんでした。仕方がないですが、(承諾殺人ではないという)今の主張は変わっていません。結局、今の国選(弁護人)で裁判に臨むことになりましたが、方針が合わず、根に持っています。以上です」
被告と弁護人の主張が違ったまま進行
白石被告は、裁判前から弁護人と方針が合っていなかった。公判が開かれる前の報道でも、弁護人の方針とは違っていることが報道されていた。 私が拘置所にいる白石被告と面会したとき「裁判はどんなスタンスなのか?」と聞いたことがあった。すると、白石被告は、「基本的には(起訴事実を)認める方法。私本人は争わないつもりです。最初の弁護士は『黙秘して』と。その弁護士はお断りした」とも言っていた。弁護人を一度は解任していたためだろうか、裁判所が解任を認めなかった。だからこそ、白石被告と弁護人の主張が違ったまま、裁判が進行することになった。
家族には「もう会うこともないでしょうから」
裁判が長引くと「家族に迷惑がかかる」と思っているようだが、今年7月の面会で家族への思いを聞いた際には「ごめんなさい」とだけ言っていた。ただ、2019年4月の面会では、「ごめんなさい。いや。違うな。もう忘れてください。もう会うこともないでしょうから」と語っていた。
白石被告によれば、家族は面会にもきていないし、手紙も届いていない。そうした関係が断絶した家族にも「迷惑がかかる」と話す。本心なのだろうか。それとも、弁護人と話が合わないことへの苛立ちから出てきた言い訳のような言葉なのだろうか。
答えない理由を白石被告が言う前、弁護人は、6つの視点で質問をしていた。
これらの質問には答えない白石被告だが、同じ質問を検察側が問うと答える。ある意味で、人を操作する戦術なのだろうか。
弁護人が思う通りにならないなら、思う通りになる検察側や裁判官の心理を操っているようにも見える。ネット・ナンパでも、長年、そうしてきたのだろう。自分についてくる人だけをターゲットにしたときと似ているのかもしれない。
なぜロープを使って殺害したのか?
検察側の問いには素直に答えた。
Q「初めてAさんと会った日に、ホテルに泊まることになるが、その途中でガムテープとロープを購入している。一緒に買ったのか? ホテルに持っていったのか?」
A「一緒に買いに行ったのかどうかは覚えていませんが、記録から考えると、おそらく一緒に買いに行っている。購入したものを持ってホテルに行ったのだと推察します」
Q「スマホを片瀬江ノ島駅に捨てるという話になったが、その駅は、1年前にAさんがネットで知り合った人と入水自殺をした場所から近い。それをAさんから聞いていたのか」
A「聞いてなかったかもしれません」
Q「携帯電話を捨てた後、Aさんと一緒に生活をする予定だったが、別の新しい携帯電話の契約の話は出たのか?」
A「新しい携帯電話の契約の話はしていません」
Q「Aさんは片瀬江ノ島駅のトイレ内に携帯電話を置いてきた。財布を捨てたのは確認したのか? 殺害後に奪った所持金はどこにあったのか?」
A「財布を持っていたかどうかは覚えていない。しかし、家を出るときには思っていなかった服を着ていたし、バッグを持っていた。どこかにあったのではないか」
Q「Aさんか片瀬江ノ島駅から戻った後、部屋に戻るが、殺害前にAさんはお酒と薬を飲んでいる。お酒と薬の種類と量は? 首を絞めて動かなくなったAさんをなぜロープを使って殺害したのか?」
A「Aさんがコンビニで買ったお酒。種類はわかりません。薬は、Aさんが日常的に飲んでいるもので、具体的には見ていない。いつも以上に飲んでいたかは、正直、わからない。ロープを使ったのは、山に遺棄しようと考えたときに、首を絞めて殺したのではなく、ロープを使った自殺に見せかけようと画策したから」
「私以外の他人と死ぬことをほのめかすように指示」
「薬の種類がわからない」と言っていたが、2019年4月の面会では「酒を飲ませて、睡眠薬と安定剤を飲ませた」と答えていた。
「睡眠薬と安定剤」という種類を認識していたが、裁判では答えないだけなのか。それとも、面会時の回答が「嘘」あるいは「勘違い」だったのだろうか。 事件当初、病院で嘘をついて睡眠薬を処方してもらったとの供述をしたとの報道もあった。精神安定剤は「被害者が持っていたもの」と言っていた。睡眠薬や精神安定剤の違いを認識していた可能性があるが、検察側はそれ以上の追及をしなかった。たとえ、誤報だったとしても確かめる価値はあったのではないかと筆者は思う。なかなか証言をしない白石被告。検察側の質問に答えたというだけでも、弁護側に優位に立てると思わせることができ、詳細な部分は、話さない作戦なのか、と思わされた。
8月23日には、AさんとAさんの母親がLINEをしている。Aさんは「明日の夜、帰る」と送っている。また、友人と電話をしている。これに関連して白石被告は「私は内容の指示はしてない。私以外の他人と死ぬことをほのめかすように指示したが、電話の内容の指示はしていない」と詳細に述べた。
冒頭陳述等によると、白石被告は8月23日、預かった金と所持金を奪う目的で殺害を決意した。Aさんの首を絞めたところ、失神した姿に欲情して、Aさんを姦淫。その後、ロープで首を吊って殺害した。遺体をバラバラにしたが、その方法はインターネットで検索したという。肉片や内臓等は一般ゴミとして処分。頭部はクーラーボックスに隠した。
「ヒモになろうと思ったんです」
この日の質問で、捜査段階で供述していないことを引き出したのは、冒頭の裁判員による「殺害を決意したきっかけ」についての質問だった。
弁護側は、「性交渉を断られたと証言したが、それは、捜査段階では言っていないのではないか。手書きの上申書を含めて、警察の捜査資料には、そのことはない。この質問にも答えませんか?」と質すと、「はい」と言い、白石被告は答えない。
ちなみに、Aさんを殺害した理由について、面会ではこう答えていた。 「早く口説けた。お金を持っていることがわかり、ヒモになろうと思ったんです。しかし、他に男がいるとわかった。だとすれば、他の男に行くかもしれない。部屋を出て行けと言われるかもしれない」
しかし、実は、白石被告はAさんに彼氏がいることを確認していない。裁判で、「なぜそう思ったのか?」と聞かれ、「彼氏がいないという会話はなかった」「男に困っている雰囲気ではなかった」と答えている。思い込みが強いのと、自信のなさからきた判断のようにも筆者には感じられた。裁判官から「Aさんとの関係を続けていく選択はなかったのか?」と聞かれ、「そういう選択もあったが、Aさんをひきつけておく自信がなかった」と答えた。白石被告の素の部分を垣間見た気がした。