政界の長老、亀井氏・山崎氏・藤井氏が座談会「岸田はケンカが弱すぎる」
発足当初から波乱含みの岸田文雄政権の命運やいかに。週刊ポスト恒例「老人党座談会」。政界の長老、亀井静香氏、山崎拓氏、藤井裕久氏の3人が長年培った政局観で占った。(全3回の第1回)
【写真】濃い紺色のスーツ、赤いネクタイの山崎拓氏。他、真っ白なワイシャツにジャケット姿の藤井裕久氏
山崎:岸田首相は国会で所信表明を述べましたが、評価はあまり芳しくない。総裁選で述べていた目玉政策をことごとく薄めてしまい、そのことがマスコミの指弾を受けている状況だと思います。出だしの世論調査でも歴代内閣のご祝儀相場としては、かなり低めに出ているので、順風満帆とはとても言えない。
ただし、自民党自体の支持率は上がっています。あのお祭り騒ぎで、政党というと自民党しかないという状態が9月に続きましたから。その結果、菅政権の時には選挙で危ないと言われていた人が、かなり持ち直しています。
亀井:岸田さんは広島の出身。広島県人というのは、玄界灘の波の中から現われた(山崎)拓さんみたいなごつい政治家は出ないんですよ。池田勇人さんにしても宮沢喜一さんにしても、私もそうだけど、みんな穏やかな性格なんだ。
山崎:亀井さんは広島の異端児だよ。
亀井:私は備後国で、広島でも安芸国と備後は違う。安芸国の気風はよく言えば柔らかい、悪くいえばヤワい。備後になるとちょっときつくなるが、岸田さんは安芸国だから、見た目からしてヤワい。私は彼のお父さん(岸田文武・元衆院議員)と同期だが、お父さんも柔らかい人だった。岸田さんはよく似ていますが、総理になった以上、もっと力強い政治を展開しないと、今の国際社会では生き残れない。バイデンだとか習近平だとか、ごつい連中が暴れまくっている。北朝鮮は日本の方向にミサイルをバンバン飛ばしている状況の中、日本の総理は強くなきゃいかん。
藤井:私も備後の出身なんです。実家は千田村と言って、今の福山市内です。
亀井:名家だな、私は違うが。
藤井:彼の叔父の岸田俊輔君(大蔵官僚出身、元広島銀行頭取)が僕の同級生で非常に親しいんですが、岸田さんが1年前の総裁選で負けた時、岸田俊輔君に言ったのは、「もっとケンカ強くなれよ」と。やっぱり政治はケンカが強くなくてはいけない。
岸田家はみんな政策マンなんですよね。文武さんとも私は付き合いがあったし、爺ちゃんの正記さん(岸田正記・元衆院議員)も知っていますが、みんな政策マンなんですよ。それはそれで評価すべきところもあるが、政治家っていうのはケンカに強くないといけない。その点で岸田さんにはマイナス面がある。
山崎:そのひ弱さから、総裁選でお世話になった3Aライン(安倍晋三、麻生太郎、甘利明の3氏)に対する遠慮が出てしまい、政策にも影響しています。
亀井:あの3人が仕切っているの? そんな力があるかね。私はマスコミが作り上げている虚像だと思います。3人が元老然として、現職総理の指導をしているとは思えないけどね。
裏にいるのは3Aか二階か
藤井:私もやはり3Aの影響力は大きいと思いますね。経済政策でも、岸田さんはアベノミクスはおかしいと思っていたはずです。そうして金融資産課税をすると言っていたはずが、あっさり引っ込めてしまった。山崎さんが言ったように、遠慮し過ぎるんですよ。やっぱりケンカに弱いんですね。
山崎:特にキーマンは甘利さんですね。彼は麻生派に属しているが、河野太郎さんが立ったにもかかわらず岸田陣営に身を投じて総裁選で選対顧問として采配を振るった。同じ神奈川県選出で、父親である河野洋平さんには恩義があるにもかかわらず、です。 それで岸田さんは、勝利したのは甘利さんのおかげであると、非常に感謝して頼りにしている。すっかり甘利コントロール下に入ったように見えます。今度の人事もすべて甘利さんに相談した形跡がある。もちろん甘利さんの背後には、安倍・麻生の2Aがいるわけだけど、直接的には岸田さんは甘利さんのバックアップを受けた。精神的な影響力は甘利さんが一番強いんじゃないでしょうか。
藤井:甘利さんは河野洋平さんが作った新自由クラブの出身で、山崎派(現・石原派)にいたこともありましたね。
山崎:そうです。甘利さんは新自由クラブからうちに来て、独立して研究会(さいこう日本)を作って、安倍政権の実現に骨を折った。その後、山際大志郎(経済再生相)、田中和徳(幹事長代理)らを連れて麻生派に入ったことで、3Aラインができたわけです。今回は麻生派の中の甘利グループがこぞって岸田支援に動いたことで、甘利さんの子分たちも要職に就くことができた。
亀井:いやいや、3Aなどと言うがね、実際には政界一のワル、二階俊博ですよ。私は裏の事情を分かっていないわけじゃないけれど、二階が完璧に絵を描いて、動かしている。最初は、岸田と河野、どっちが強いかと見ていた。そして、どうもこれは岸田が行きそうだと思ったら、スッと行っちゃった。その裏の事情は言いませんが、それからは二階が全部仕切っているんじゃないかな。
山崎:僕は昨日(10月13日)、二階さんと酒を飲んだばっかりだけど、二階さんが最終的に岸田に行ったというのはありえない。むしろ総裁選終盤において、二階さんは最終的にどうしていいか分からないような状況に追い込まれたのではないか。二階派は草刈り場になってしまいました。
亀井:表面的にはそうかもしれないが、今、二階に睨まれたら自民党で生きていけない。それが現実ですよ。
(第2回に続く)
【プロフィール】 亀井静香(かめい・しずか)/1936年生まれ。1979年初当選。国民新党代表、運輸大臣、建設大臣、自民党政調会長などを歴任。 山崎拓(やまさき・たく)/1936年生まれ。1972年初当選。自民党幹事長、党副総裁、防衛庁長官や建設大臣などを歴任。 藤井裕久(ふじい・ひろひさ)/1932年生まれ。大蔵官僚を経て1977年初当選。大蔵大臣、財務大臣、内閣総理大臣補佐官、民主党代表代行などを歴任。 ※週刊ポスト2021年11月5日号