始まりは15年前のことだった。その日、私はいつものように“パトロール”をしていた。
5・4・2020
【画像】小屋の中には戦慄の光景が……“別荘地で見つけた廃墟”の写真を見る(10枚)
廃墟探索を趣味にしている私は、まだ誰も知らない廃墟を開拓するのが好きで、今も暇を見つけては車で各地を巡回している。既にネット等で公開されている廃墟を訪れるのとは異なり、何が飛び出すのか分からないドキドキ感がたまらないのだ。
15年前に発見した岐阜県内の“廃れた道”
計画が頓挫した別荘地に残された廃墟
その日は、岐阜県内の人影もまばらな観光地の近くに、廃れた道の入口を発見した。建物が廃れると、そこに至る道も廃れる。つまり、廃れた道の先には、廃墟が待っていることが多い。
私が発見した道路は、舗装されていたものの、路面に落ち葉が堆積し、穴だらけだった。左右から伸びた草木を車で掻き分けながら進んでいくと、大きめの枝が車体を擦る“キー”という音が聞こえてきた。あまり聞きたい音ではないが、車の傷は廃墟探索を趣味にする者にとっては勲章のようなものだ。
しばらく進んでいくと、その場所の全体像がおぼろげながら掴めてきた。同じような廃れた道が縦横に交差し、網の目状に伸びているのだ。どうやら、別荘地として区画整理したものの、計画が頓挫した土地のようだ。同じような光景を、余所でも見たことがあった。しかし、これといった建物は見つからない。「今日は空振りかな……」と諦めかけたとき、一軒の小屋が見えてきた。
私が発見した道路は、舗装されていたものの、路面に落ち葉が堆積し、穴だらけだった。左右から伸びた草木を車で掻き分けながら進んでいくと、大きめの枝が車体を擦る“キー”という音が聞こえてきた。あまり聞きたい音ではないが、車の傷は廃墟探索を趣味にする者にとっては勲章のようなものだ。
しばらく進んでいくと、その場所の全体像がおぼろげながら掴めてきた。同じような廃れた道が縦横に交差し、網の目状に伸びているのだ。どうやら、別荘地として区画整理したものの、計画が頓挫した土地のようだ。同じような光景を、余所でも見たことがあった。しかし、これといった建物は見つからない。「今日は空振りかな……」と諦めかけたとき、一軒の小屋が見えてきた。
小屋の中に広がっていた異様な光景

かつては明るい青色だったと思しきトタン屋根は色褪せ、全体的に赤茶色に変色している。道路から見た正面側には2枚の窓がついていたようだが、片方は完全に無くなり、そこから建物の内部が見えてしまっている。もう一方は木製の雨戸が残っていたが、こちらもところどころ木が剥がれ、ここが紛れもない廃墟であることを物語っていた。
私は車から降りて、小屋に近づいた。そして、軽い気持ちで中を覗いたのだが――その瞬間、異様な光景に背筋が凍りついた。6畳ほどの狭い室内に、色鮮やかな雑誌の切れ端がビッシリと敷き詰められていたのだ。
何百枚……いや、何千枚もあるだろうか。しかも、その全てに、裸の女性が写っている。どうやら、これらは全て、元はエロ本だったようだ。
私は車から降りて、小屋に近づいた。そして、軽い気持ちで中を覗いたのだが――その瞬間、異様な光景に背筋が凍りついた。6畳ほどの狭い室内に、色鮮やかな雑誌の切れ端がビッシリと敷き詰められていたのだ。
何百枚……いや、何千枚もあるだろうか。しかも、その全てに、裸の女性が写っている。どうやら、これらは全て、元はエロ本だったようだ。
雑誌は全て刃物で切り刻まれていた

予想外の展開に戸惑いながら、中に入った。その部屋には、バラバラになったエロ本の紙切れが、20センチほど堆積していた。これは、とんでもない量だ。本能的にこの空間のヤバさを感じ取り、心臓の鼓動が大きくなる。警戒しながら室内を見渡すと、私はあることに気が付いた。
これらの切れ端は、単に雑誌がバラバラにされたものではなく、全て刃物で切り刻まれたものだったのだ。しかも、大きさはどれも異なる。つまり、まとめて裁断したのではなく、1つずつハサミで切り取られているということだ。
それまでも多くの廃墟を見てきたが、これほど戦慄したことは一度もなかった。夕暮れ時だったこともあり、気味が悪くなって早々に退散した。
これらの切れ端は、単に雑誌がバラバラにされたものではなく、全て刃物で切り刻まれたものだったのだ。しかも、大きさはどれも異なる。つまり、まとめて裁断したのではなく、1つずつハサミで切り取られているということだ。
それまでも多くの廃墟を見てきたが、これほど戦慄したことは一度もなかった。夕暮れ時だったこともあり、気味が悪くなって早々に退散した。
1年後に再訪してみると……
その後も、あの小屋で見た猟奇的な光景を思い出すことはあったが、私は近寄らないようにしていた。それでもどうしても気になり、再訪してしまったのは1年以上が過ぎた日のことだった。
久々に中を覗き込むと、積み重ねられた切れ端の量も内容も、前回とは変わっていた。何者かが雑誌の切れ端を大量に持ち込み、更新しているようだ。この小屋の猟奇さが、さらに増した気がした。
ここで一体何が起きているのか。こんなことを続けているのはどんな人物なのか。
この小屋のことが気になり、好奇心が止められなくなってしまった。以後、私の訪問ペースは格段に上がっていった。
久々に中を覗き込むと、積み重ねられた切れ端の量も内容も、前回とは変わっていた。何者かが雑誌の切れ端を大量に持ち込み、更新しているようだ。この小屋の猟奇さが、さらに増した気がした。
ここで一体何が起きているのか。こんなことを続けているのはどんな人物なのか。
この小屋のことが気になり、好奇心が止められなくなってしまった。以後、私の訪問ペースは格段に上がっていった。
“小屋に潜む者”からのメッセージ
朝から雨が降っていたその日も、小屋へと至る廃れた道を走っていると、道中に木が倒れていた。車から降りて倒木を除けようとした時、ふと木の根元を見ると、ナタでバッサリと切り落とされていることに気付いた。木が自然に倒れたのではなく、何者かが切り倒して、道を塞いだのだ。誰がこの木を切り倒したのか――その理由も含めて、安易に想像がついた。“小屋に潜む者”からの「ここに来るな!」というメッセージだ。
このまま進んで、もしも当人と鉢合わせしたら……。そう考えると、躊躇せざるを得なかった。しかし、好奇心には勝てなかった。せっかくここまで来たんだから、少しだけでも……。そんな思いで先を急ぐと、小屋の前には、真新しい飲みかけのペットボトルが放置されていた。
恐る恐る小屋を覗きこむと、やはり切れ端は更新されている。しかし、背後が気になって、気が気ではない。こうしている間にも、いつ“彼”が現れるとも限らない。しかも、その人物はナタを所持しているのだ。数分で早々に切り上げて車に戻ると、暑くないのに大量の汗をかいていた。
このまま進んで、もしも当人と鉢合わせしたら……。そう考えると、躊躇せざるを得なかった。しかし、好奇心には勝てなかった。せっかくここまで来たんだから、少しだけでも……。そんな思いで先を急ぐと、小屋の前には、真新しい飲みかけのペットボトルが放置されていた。
恐る恐る小屋を覗きこむと、やはり切れ端は更新されている。しかし、背後が気になって、気が気ではない。こうしている間にも、いつ“彼”が現れるとも限らない。しかも、その人物はナタを所持しているのだ。数分で早々に切り上げて車に戻ると、暑くないのに大量の汗をかいていた。
ついに彼と遭遇する日がやってきた
小屋の観察をはじめて数年が経った頃、私はそこで見た光景を自分のホームページで紹介するようになった。観察開始から4年も経つと、探索仲間が何人かでき、回数を重ねるうちに様々なことが分かってきた。雑誌の切れ端は小屋だけに留まらず、付近の山林数か所において広域的に観察されること。また、切れ端とともに惣菜類のゴミや空き缶、スポーツ新聞等も捨てられていること。
それらの残留物から、彼の嗜好や訪問月日を推測し、私たちは勝手に人物像を想像していた。そして、ついに彼と遭遇する日がやってきた。
その日、探索仲間と一緒に現地を訪れると、小屋の横に1台のセダンがとまっていた。これは、ひょっとして、彼かもしれない。はやる気持ちを抑えて遠巻きに観察すると、彼はまさにハサミを使って、車の中でエロ本を切り刻んでいた。いや、切り刻むという表現は適切ではなかった。切り取っていた。だが、丁寧に切り取るわりに、切った後には興味がないらしく、そのまま小屋や山中に捨てていたのだ。
その日を境に、私たちは何度も彼と遭遇することになった。はじめのうちは、彼は私たちのことが視界に入っても完全に無視を決め込んでいたが、何度も顔を合わせるうちに、次第に言葉を交わせるようになった。
それらの残留物から、彼の嗜好や訪問月日を推測し、私たちは勝手に人物像を想像していた。そして、ついに彼と遭遇する日がやってきた。
その日、探索仲間と一緒に現地を訪れると、小屋の横に1台のセダンがとまっていた。これは、ひょっとして、彼かもしれない。はやる気持ちを抑えて遠巻きに観察すると、彼はまさにハサミを使って、車の中でエロ本を切り刻んでいた。いや、切り刻むという表現は適切ではなかった。切り取っていた。だが、丁寧に切り取るわりに、切った後には興味がないらしく、そのまま小屋や山中に捨てていたのだ。
その日を境に、私たちは何度も彼と遭遇することになった。はじめのうちは、彼は私たちのことが視界に入っても完全に無視を決め込んでいたが、何度も顔を合わせるうちに、次第に言葉を交わせるようになった。
「僕は切っていない」と彼は言った
ただ、彼はとても人見知りが激しく、接触には気を使った。仲間の中から最も話が合うメンバーを一人選定し、他は離れた場所で待機していた。そのメンバーは、まず雑談で盛り上げた後、なぜエロ本を切るのかと本題を切り出した。
しかし、彼は「僕は切っていない」の一点張りだった。そして「遠くから不法投棄しにくる奴がいるんだ」と、不可解な“言い訳”を放った。私たちの目の前で切っているのに……。
その後も、我々と彼との不思議な交流は続いた。それと並行するように、彼は小屋周辺に留まる時間が増えていった。だが、事態はここから思わぬ展開をみせる。男が小屋の前で、車上生活を始めたのだ。そして1ヶ月後――最も恐れていたことが起きた。
しかし、彼は「僕は切っていない」の一点張りだった。そして「遠くから不法投棄しにくる奴がいるんだ」と、不可解な“言い訳”を放った。私たちの目の前で切っているのに……。
その後も、我々と彼との不思議な交流は続いた。それと並行するように、彼は小屋周辺に留まる時間が増えていった。だが、事態はここから思わぬ展開をみせる。男が小屋の前で、車上生活を始めたのだ。そして1ヶ月後――最も恐れていたことが起きた。
小屋”にとりつかれた日々の終わり
ある週末の午後、探索仲間の一人から「今、警察の事情聴取を受けています」とのメールを受け取った。詳細を聞くと、小屋の前で男の死体を発見し、通報したのだという。
発見したときには、彼は小屋の前で倒れ、既に事切れて硬直している状態だった。警察や消防が駆け付け、付近は緊迫した空気に包まれたという。はっきりとした死因はわからないが、車上生活を始めてからはきちんと食事を摂ることもなくなっていたようだ。
後日、私は第一発見者となったメンバーと共に現場を訪れ、お線香をあげて献花した。最悪の結末を迎えてしまったが、いつかこうなるんじゃないかという予感が、頭の片隅にあったのも事実だった。なんとか防ぐことはできなかったのか。そんなことを思いながら、心からご冥福をお祈りした。約5年に及ぶ、“小屋”に取りつかれた日々はこうして終わった。
発見したときには、彼は小屋の前で倒れ、既に事切れて硬直している状態だった。警察や消防が駆け付け、付近は緊迫した空気に包まれたという。はっきりとした死因はわからないが、車上生活を始めてからはきちんと食事を摂ることもなくなっていたようだ。
後日、私は第一発見者となったメンバーと共に現場を訪れ、お線香をあげて献花した。最悪の結末を迎えてしまったが、いつかこうなるんじゃないかという予感が、頭の片隅にあったのも事実だった。なんとか防ぐことはできなかったのか。そんなことを思いながら、心からご冥福をお祈りした。約5年に及ぶ、“小屋”に取りつかれた日々はこうして終わった。
【若年層】死因の一位が「自殺」 先進国で日本のみ…深刻な事態
10/28/2020
した令和2年版自殺対策白書では、昨年の自殺者数は前年より671人少ない2万169人で、全世代的に減少する中、10代が唯一、前年より増加した。
15~39歳の各年代の死因は自殺が最も多く、先進国では日本だけにみられる事態として、厚生労働省は「国際的にも深刻な状況」と危機感を抱く。コロナ禍の今夏には中高生の自殺が増えており、心理的な孤立化を防ぐ取り組みが求められる。
■「悩み解消の知識が足りない」
「さらに分析しないといけない課題。はっきりしたことは言えない」。若年層の自殺者数が減らない要因を問われ、厚労省の担当者はこう言葉を濁した。
昨年の10~19歳の自殺者は659人で、前年より60人増加。人口10万人当たりの自殺者数を示す自殺率も前年比0・3ポイント増の3・1で過去最悪を更新した。
15~39歳の各年代の死因は自殺が最多で、がんなどの病気や不慮の事故を上回る。15~34歳で比較した世界保健機関(WHO)の資料によると、先進国で死因1位が自殺なのは日本だけで、韓国と並んで若年層の自殺が深刻化している。
筑波大の太刀川(たちかわ)弘和教授(精神医学)は「メンタルヘルスのリテラシーに関する教育が不十分で、日ごろの悩みをどう解消するかなど自殺予防のための知識が足りない」と指摘する。
■外出自粛…若年層ほどストレス大
厚労省と警察庁の統計では、今年は7月以降、3カ月連続で前年同月より自殺者数が増加。人気俳優らの自殺報道やコロナ禍の影響が大きいとみられる。
一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」の分析では、同居人がいる女性と無職女性の自殺者が多く、家庭内暴力や育児の悩みなどがコロナ禍で深刻化している可能性がある。8月は中高生の自殺者数が過去5年間で最多で、特に女子高生が目立った。
太刀川氏は「外出自粛などで周囲とのつながりが断たれたストレスは、女性や若年層ほど大きい」と分析。「誰かに相談することで悩みの糸口が見つかり、解決がもたらされる時期がくる」と強調する。
自殺予防学会は26日、SNSを含めた自殺報道が社会に不安を与えるとして、むやみに情報発信を繰り返さないことなどを求める緊急提言を出した。
■「悩み解消の知識が足りない」
「さらに分析しないといけない課題。はっきりしたことは言えない」。若年層の自殺者数が減らない要因を問われ、厚労省の担当者はこう言葉を濁した。
昨年の10~19歳の自殺者は659人で、前年より60人増加。人口10万人当たりの自殺者数を示す自殺率も前年比0・3ポイント増の3・1で過去最悪を更新した。
15~39歳の各年代の死因は自殺が最多で、がんなどの病気や不慮の事故を上回る。15~34歳で比較した世界保健機関(WHO)の資料によると、先進国で死因1位が自殺なのは日本だけで、韓国と並んで若年層の自殺が深刻化している。
筑波大の太刀川(たちかわ)弘和教授(精神医学)は「メンタルヘルスのリテラシーに関する教育が不十分で、日ごろの悩みをどう解消するかなど自殺予防のための知識が足りない」と指摘する。
■外出自粛…若年層ほどストレス大
厚労省と警察庁の統計では、今年は7月以降、3カ月連続で前年同月より自殺者数が増加。人気俳優らの自殺報道やコロナ禍の影響が大きいとみられる。
一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」の分析では、同居人がいる女性と無職女性の自殺者が多く、家庭内暴力や育児の悩みなどがコロナ禍で深刻化している可能性がある。8月は中高生の自殺者数が過去5年間で最多で、特に女子高生が目立った。
太刀川氏は「外出自粛などで周囲とのつながりが断たれたストレスは、女性や若年層ほど大きい」と分析。「誰かに相談することで悩みの糸口が見つかり、解決がもたらされる時期がくる」と強調する。
自殺予防学会は26日、SNSを含めた自殺報道が社会に不安を与えるとして、むやみに情報発信を繰り返さないことなどを求める緊急提言を出した。