六本木の新国立美術館で開催中の「蔡 國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」を鑑賞!
蔡 國強展(ツァイ・グオチャン)は、中国の現代美術の世界的アーティスト。2008年の北京オリンピックでは芸術監督として開閉会式での視覚特効芸術と花火監督を担当したことでも有名だ。今回の展示では、原点である「花火、火薬」をメインに据え、今現在の蔡 國強の眼と心と感覚にあるものを形にした、ダイナミックで力強いパワーあふれる作品に(大袈裟でなく)魂を揺さぶられる思い。チマチマした疲れやら心労やら、ぶっ飛びます。
初めて蔡 國強の作品を観たのは、2015年の横浜美術館での個展「帰去来」。横浜美術館エントランスロビーの壁の上から下まで掛かる巨大な火薬ドローイングは、一時期横浜に住んで活動をしていた蔡 國強が、藝大横浜校の学生達も参加して制作したもの(これは制作過程の動画もあって、面白かった)。壁一面に人生の春夏秋冬を表現した中国絵画も、唐子(からこ)の絵が衝撃的に美しかった(15歳以下は入場禁止の部屋だった)。あるいは、オオカミの剥製が数十頭、アクリル板の壁に向かって列を作って歩き、見えない壁にぶつかってひっくり返される立体インスタレーション。。。。どれもこれも、それまで観たことのない現代アート!であった。
「宇宙と見えない世界との対話を主軸に、作家として歩み始めた中国時代、芸術家としての重要な形成期である日本時代、そしてアメリカや世界を舞台に活躍する現在までの創作活動と思考を遡る本展覧会は、宇宙が膨張するかのように拡大してきた蔡の活動をたどる壮大な旅路のような個展です。
広場のような悠々とした空間で、一方には、歴史的なインスタレーション〈原初火球〉が再現され、その中には、ガラスと鏡を使った新作の火薬絵画3作品も含まれます。隣り合ったもうひとつの核は、LEDを使った大規模なキネティック・ライト・インスタレーション《未知との遭遇》であり、観客は作品の中を自由に歩きながら体感することができます。」解説より。
現代アートが、とても原初的で、東洋古来の思想や風水、占星術など、宇宙や目に見えない世界への興味が、壮大な屋外爆発イベントや火薬ドローイングやインスタレーションという形をとって、強く観るものに訴えかけてくる。同時にそこには、現代の社会問題への感受性と省察が確かに存在するから、観る者にとっては心を動かされるのだ。
メインとなる会場の裏手の部屋で、彼が以前住んだことのある福島県いわき市への復興支援活動の動画が見られる。原発事故後も定期的に現地に赴き、いわきの人たちと共同で活動する様子はとても親しみのあるものである。
特に、「いわきに桜を咲かせるプロジェクト」では、海岸に沿って発射台を並べ、次々と点火されて見事な花火による桜並木を表現したものは感動的。招待された地元の小学生達の表情も映し出されていたが、こんな素晴らしい体験をした彼らは、この先もずっとこの光景を忘れないだろう。
” 最近では、昼花火の新たな可能性を探求している”と解説にあったが、まさにこれぞ昼花火!
「〈原初火球〉—それは私の思想とビジョンに基づく出発であり、今日まで私に付き添ってきた。」────────蔡國強
火薬の発明は、6〜7世紀、中国・宋の時代というが、まさに原初中国の火の球が、20〜21世紀の中国から再び発し、宇宙へと繋がっていく様を眼に見える形で表現してくれているようだ。
会期:2023年6月29日(木) ~ 2023年8月21日(月)火曜日休館
時間:10:00~18:00※毎週金・土曜日は20:00まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E
主催:国立新美術館、サンローラン
https://www.nact.jp/exhibition_special/2023/cai/index.html
いわき市での昼花火。いわきに桜を咲かせるプロジェクト。
フロア中央には、点滅するライトが宇宙への広がりを思わせる立体作品が。