予定が空いて、渋谷Bunkamuraまで。
ル・シネマで上映中のベトナム映画「第三夫人と髪飾り」と、ザ・ミュージアムで開催中の「リヒテンシュタイン侯爵家の至宝展」。どちらも見たい!午前中の用事をサクサクと片付けて、電車に乗る。映画を先に観て展覧会に回るか、先に展覧会にするか時間次第だ。
渋谷に着いたら、東横線渋谷駅からJR渋谷駅東口へ新しい出口ができていて、エスカレーターで地上に出たらいつも乗る東急本店までのシャトルバスの乗り場が変わってる!案内図を見るとヒカリエの脇に移動だと!!周囲は工事中の塀で囲まれていて、道路の反対側のヒカリエに渡る歩道が見えない!これもなくなったのか?!(実際は塀の陰になっていて見えなかった!)
歩いた方が早いかな?と思いつつ、案内図に従ってもう一度エスカレーターを上ってヒカリエに向かい、その脇の道まで。。
結局、バスを待つこと5分。渋滞する東口から西口に進むまで時間がかかり、本店に到着したのが12時25分。
なんとか上映時間に間に合って、ゆったりと観た「第三夫人と髪飾り」。これが静かでしっとりと美しい映画だった!
ベトナム映画は、これまで「青いパパイヤの香り」「夏至」を観ていて、日本とは違う情感とたっぷり水分を含む木々や風景、空気感の瑞々しさに心が癒やされる思いがしたものだが、この映画は、その2作品の監督が美術監修を手がけていて、19世紀ベトナムの古い習慣が残る暮らしとそこに生きる一族を描いたもので、絵画的な映像の美しさが印象に残る。
舞台となっているのは北ベトナムのチャンアン。世界遺産に登録されている秘境であり、その地で絹の里を収める土地の富豪の下に第3夫人として嫁いだ14歳のメイが中心。
初夜のよく朝、第2夫人の娘の初潮、夜更けに家を抜け出して禁断の愛に耽る第2夫人、そして娶ることを拒否する長男の秘密。。。エロティックなシーンも絵画的な美しさで水が流れるように描かれ、すべてが自然に流れている。
蚕が棚で動き繭の中に眠り、それを大釜で茹でて紡ぎ糸を取り出す、夫人たちが着るアオザイが儚げに風に揺れ、ランタンの光や竹林を渡る風や光が揺れ、葉を打つ雨だれの滴。。。
14歳の花嫁メイの初々しさや女性たちの瑞々しさが、柔らかな緑の木々や山肌や水の色と溶け合い、ここでは決して尖ったものはない。単調だが繊細な営みの強さにも気づく。日の光さえも優しく、細かな粒が降り注ぐように辺りのすべてを包み込むように柔和だ。
一夫多妻が残る時代、3人の夫人たちが交わす、密やかなお喋り。
結婚式を挙げたものの、どうしても花嫁を受け入れられない長男、実家に帰そうとするが対面を重んじる実家は受け入れない。花嫁は雨の降る朝に水辺の木に自らの命を絶つ。流れる川の水、薄い水色のアオザイに白いパンツ、首に巻き付けた白い帯。。。
自身の曾祖母の体験を下に脚本を書き上げたという、ベトナム生まれでニューヨーク大学で映画制作を学んだアッシュ・メイフェア監督。この作品がデビュー作となるが各地の映画祭で数々の映画賞を受賞している、期待される女性監督である。
さらに嬉しいことに、上映前の予告編で何と!「去年 マリエンバートで」が4Kデジタルリマスターされて上映されることを知った(!!)
アラン・レネ監督、アラン・ロブ・グリエ脚本、ココ・シャネルが衣装を担当した1961年制作の映画はどこまでも詩的でちょっとシュールな映画だ。
登場人物には名前がなくA、X、Mという記号。繊細で緻密、幾重にも張り巡らされた謎に分け入るような静止画のようなモノクロ画面の美しさ、豪華で華麗な建物や室内や衣装や庭園や。。。モノクロ画面であってもゴージャズな金色や、月に照らされた夜の庭園の植え込みや、ドレスの色までも感じる。。ヨーロッパ文化の贅沢さと豊かさにクラクラする。
これを観たのは(もちろん!)公開時ではなく、何年も後で再上映された時だと思うが、これまで観た映画の中では特別に印象深いものだ。
以前、遠くで上がる横浜の花火を近くの公園で見た帰り、月明かりの草地を走る白い子犬を見ながら不意に「あ、去年 マリエンバートのようだ!」と思った。ふいっとした時に、記憶の断片として映像が蘇る。。。そんな映画である。
細部の記憶は消えてゆくが、今回、リマスターされた映像は覚えているままのもので、最初に観たときから数十年たっている今、きっと前よりも分かることがあるかもしれない。。。
映画が終わって、地下の「ザ・ミュージアム」で「リヒテンシュタイン侯爵家の至宝展」に回り、こちらは、ヨーロッパ貴族の趣味の良さと財力で集めた秘宝の数々。絵画はさておき、陶器の数々には圧倒された。日本や中国の陶器に金で飾り縁を付けた(ダイナミックな金継ぎ、って感じ)ものは、煌びやかを誇るヨーロッパの意匠と繊細な陶器の絵柄との対比が面白く、東洋と西洋の感性の違いを垣間見る思い。
1日で映画と美術展のハシゴ、というのもBunkamuraならでは可能なことだ。それに加えて「去年マリエンバート」の再上映を知り、さらに来年1月には、これも前回観て感激したソール・ライターの写真展もあるというので(!!)、楽しみなことが2つもできてよかったよかったの1日でありました。