ロシア万華鏡
社会・文学・芸術
沼野恭子 著
五柳書院 発行
2020年3月31日 初版発行
この本は、2007年よりおよそ十年間に書きためた、ロシアに関する文章をまとめたものです。
現在から見ると、まだロシアの風通しのよかった時代だったなあと感じてしまうのが、哀しいです。
第一章 社会編
ラジオ・ジャパンのロシア語放送の特別番組で国立民族学博物館の加藤九作さんにインタビューした筆者
大佛次郎賞を受賞した『天の蛇』に心打たれたから。
アイヌ語や宮古方言の優れた研究をしたニコライ・ネフスキーという悲劇の日本研究者の評伝
(柳田国男と深いつながりがあったロシア人です)
料理が順番にゆっくり運ばれてくる給仕法はフランス由来と思いがちだが、実はもともとはロシア式セルヴィスと呼ばれ、19世紀末、そちらの方が合理的だと判断したフランス人シェフによってフランスにもたらされたものだった。
ウズベキスタンの三不思議
・アヴァンギャルド作品の美術館
・やたら札束が必要になる
・報道の自由が制限されている独裁国家にもかかわらずにこやかに笑っている人が多い
お茶が普及する以前のロシアの国民的飲料は「ズビーチェニ」。「蜂蜜湯」とも訳される。
ロシア最古の酒は、ウォッカではなく蜜酒
ロシアで空間的な「異郷」のエキゾティシズムを漂わせた飲み物といえば「馬乳酒(クムィス)」
馬乳を発酵させて作るため三パーセント程度の弱いアルコール分と酸味
第二章 文学編
ロシア文学の題名の意訳に成功した例
サミュエル・マルシャークの童話劇『十二月』を、湯浅芳子が『森は生きている』と名付けた。
聖愚者(ユロージヴイ)とは?
正教会において「キリストのために」狂人を装い、さすらいながら修行する者のことで、しばしば自ら首や手足に重い枷や鎖をつけ、裸足にぼろをまとって歩き回った。
第三章 芸術編
イワン・クラムスコイ『忘れえぬ女(ひと)』
霧にかすむぺテルブルグで、最新モードに身を包んだ高貴なたたずまいの女性
実は彼女は高級娼婦であるのは間違いないらしい。1883年作。トルストイの小説、アンナ・カレーニナが発表されて数年後の作品。
ギターを爪弾きながら歌う詩人、ブラート・オクジャワ(1924-97)
(個人的には五木寛之の対談集で名前を知り、ロシアの声の日本語放送にリクエストし、曲をかけてもらった思い出があります)
20世紀後半のソ連で一世を風靡した「歌う詩人」のことを、ロシア語ではケルト語由来のバルドという言葉で表す。
ソ連時代の一群の「歌う詩人」たちに共通しているのは、何よりも自分の詩に自分でメロディをつけて、ギターを爪弾きながら歌ったことである。
バルドたちの歌が広まった技術的な理由として、1950年代から60年代にかけて家庭用カセットテープが急速に普及したことだ。
当時のソ連社会にとってカセットテープは、おそらく中世のグーテンベルグの活版印刷技術や現代のインターネットの普及に匹敵するような革命的な技術革新だった。
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