ヨーロッパの限りない大地

ヨーロッパの色々な都市を訪問した思い出をつづっていきたいです。

氷川清話 夢酔独言 勝海舟/勝小吉

2023-03-04 08:02:39 | 小説

 

氷川清話 夢酔独言
勝海舟/勝小吉 著
川崎宏 編
中公クラシックスJ48

勝親子によるまさしく独言です。
とにかく親子とも粋な江戸っ子による痛快な弁で、たいへん面白く読めました。
勝海舟はホラ吹きらしいですが、自分の知識では、どこまでがホラでどこまでが本当かよくわかりません。
自分の知る限り、少なくとも咸臨丸のくだりは少しホラが混ざっているようですが。
それにしても西郷隆盛に対しては、文中のあちらこちらで絶賛しており、西郷に対する勝の評価の高さが伺えます。
勝小吉はほとんど懺悔録といっていいのですが、その一方武勇伝を誇っているようにも見えます。

政治的人間の面白さ 『氷川清話』をめぐって 松本健一

幕末・維新期のような〈非常の時〉にあっては、「開国」や「文明開化」のような前列のない選択が迫られる。そこでは
第一に、「予言的思想家」があらわれる。佐久間象山や横井小楠
第二に、「行動的志士」があらわれる。坂本龍馬や高杉晋作
第三に、「政治的人間」があらわれる。勝海舟や西郷隆盛や大久保利通。彼らによって、変革は逆戻りしない次元へとおしすすめられる。p15-16

 

赤穂四十七士に対し、助命論を退け、全員を切腹に処した荻生徂徠
刃傷松之廊下を正義の行為としたら、幕府の政治や法律を破っていいことになり、結局のところ徳川体制の崩壊につながる、というのが、徂徠の断固処罰の理由だった。
この時の徂徠は、政治は決断して、その結果責任をとってゆくものだ、という意味で、まさしく政治的人間だった。p20
2010年、尖閣諸島問題が起きた時、一人の海上保安官が海上保安庁の巡視船に故意に衝突した中国人船長の漁船(?)のビデオ映像をネット上に流出させた時、世論はこれを拍手喝采し、「忠臣蔵」の浪士になぞらえた。たが、時の官房長官仙谷由人はこれを、国家機密の漏洩であるとして断固処罰すべきだ、といった。p20

勝海舟は世間が「尊王」か「佐幕」かと騒いでいるときに、まず第一に、正確にいえば佐久間象山に次いで、「日本」に目ざめた国民であった。それは「国民」という概念がまだない時代のネーションの自立だった。p24

 

氷川清話
北海道の商人、渋田利右衛門
大の本好きで、貧乏だった海舟に対し、経済的援助を行った。

上がった相場も、いつか下る時があるし、下がった相場も、いつかは上がる時があるものサ。その上り下りの時間も、長くて十年はかからないョ。それだから、自分の相場が下落したとみたら、じっと屈んでいれば、しばらくすると、また上がってくるものだ。大奸物大逆人の勝麟太郎も、今では伯爵勝安芳様だからノー。しかし、今はこのとおり威張っていても、また、しばらくすると耄碌してしまって、唾の一つもはきかけてくれる人もないようになるだろうョ。p32

おれは、今まで天下で恐ろしいものを二人見た。それは、横井小楠と西郷南洲(隆盛)とだ。p34
横井の思想を、西郷の手で行われたら、もはやそれまでだと心配していたに、果たして西郷は出てきたワイ。p35

 

この頃の英吉利公使といえば、かの有名なパークスだが、今のサトウなどは、その頃の書記生で、確か二十四歳くらいで、年の若いのに似合わないやり手であったよ。p120
サトウに命が惜しいから、公使館に逃げ込むようなことはお断り申す、と言ったら、サトウはいついかなる事変が貴下の身辺に起こるかもしれないからと言って、写真を撮ることを勧めた。p121

時に古今の差なく、国に東西の別はない。観じ来れば、人間は始終同じことを繰り返しているばかりだ。生麦、東禅寺、御殿山。これらの事件は、みな維新前の蛮風だというけれども、明治の代になっても、やはり湖南事件(露国皇太子襲撃事件)や、馬関騒動(李鴻章襲撃事件)や、京城事変があったではないか。今から古を見るのは、古から今を見るのと少しも変わりはないサ。p134-135
(令和の世でも、元首相襲撃事件が起こってしまいました)

地方自治などということは、珍しい名目のようだけれど、徳川の地方自治は、実に自治の実を挙げたものだョ。名主といい、五人組といい、自身番といい、火の番といい、みんな自治制度ではないかノー。p142

支那人は、天子が代わろうが、戦争に負けようが、ほとんど馬耳東風で、はあ天子が代わったのか、はあ日本が勝ったのか、などいって平気でいる。それもそのはずサ。一つの帝室が亡んで、他の帝室が代わろうが、国が亡んで、他国の領分になろうが、一体の社会は、以前として旧態を存しているのだからノー。p143-144

 

若い時には、色欲を無理に抑えようとしたって、それはなかなか抑えつけられるものではない。ところがまた、若い時分に一番盛んなのは、功名心であるから、この功名心を利用して、一方の色欲を焼き尽くすことができればはなはだ妙だ。
そこで、情欲が盛んに発動してきた時に、じっと気を静めて、英雄豪傑の伝を見る。そうするといつの間にやら、段々功名心に駆られて、専心一意、ほかのことは考えないようになってくる。こうなってくれば、もうしめたものだ。p171-172

何でも人間は乾児(こぶん)のない方がよいのだ。見なさい、西郷も乾児のために骨を秋風にさらしたではないか。おれの目で見ると、大隈も板垣も始終自分の定見をやり通すことができないで、乾児にかつぎ上げられて、ほとんど身動きもできないではないか。およそ天下に乾児のないものは、おそらくこの勝安芳一人だろうよ。p189

 

夢酔独言
鶯谷庵独言

幼少年のころ
おれほどの馬鹿な者は世の中にもあんまり有るまいとおもう。故に孫やひこのために、はなしてきかせるが、よくよく不法もの、馬鹿者のいましめにするがいいぜ。p226

出奔、四ヵ月間のあれこれ
十四の年、おれがおもうには、男は何をしても一生くわれるから、上方辺りへかけおちをして、一生いようとおもって…p236

青年時代の剣術修行など

息子麟太郎、犬にかまれる

隠居後のくらしあれこれ

わが晩年
衣類は、大がいの人のきぬ唐物(船来品)其の外の結構の物をきて、甘い(うまい)ものは食い次第にして、一生、女郎は好きに買って、十分のことをしてきたが、この比になって、漸々人間らしくなって、昔のことをおもうと身の毛が立つようだ。
男たるものは、決しておれが真似をばしないがいい。p330
 

 


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