ヨーロッパの限りない大地

ヨーロッパの色々な都市を訪問した思い出をつづっていきたいです。

国境で読み解くヨーロッパ 境界の地理紀行(後半)

2022-11-24 19:29:36 | ヨーロッパあれこれ

 

6 見えない境界を巡る 北イタリアの言語境界

柳田國男の「峠に関する二、三の考察」より
峠には表と裏がある
峠の道には谷をたどっていく道と、尾根筋を行く道がある
谷の道は平野から登っていくのに都合がいい。しばらくは川筋に沿って行くので傾斜が緩く、最後に急坂を登れば峠に着く。
尾根道は峠から下りてくるのに都合がいい。常に目的の場所を見下ろして確認しながら進んで行ける。
つまり峠は谷を上がって尾根で下りるのが自然であり、柳田はそれぞれを表の道と裏の道と呼んだ。p91-92

 

7 国境に接する町を歩く 多文化都市ブラティスラヴァ
多くの都市には、現地読みの名前の他に、それとは異なる呼び名がある。学術的には現地語による呼称を内生地名、現地以外の言語による呼称を外来地名という。 
ヨーロッパの多くの都市に複数の名前があるのは、人の往来によって異なる言語を使う人々がしのぎを削ってきた歴史があるため。p95-96

スロヴァキアの首都がなぜ西の端のブラティスラヴァになったか?
この町は長い歴史の中でオーストリアやハンガリー、そしてさまざまな民族の拠点になり、ブラティスラヴァ城や数々の宮殿、劇場が立ち並ぶ風格ある都市になった。首都にとって望ましい条件は整っていた。もちろん、国境に近すぎるので首都は国の中央に置くべきとする声がないわけではなかった。しかし何よりも、スロヴァキアにはこの町に勝る都市が見当たらなかったのである。p101

 

ドナウ川を越えて、その南側も領土に取り込むことに成功したチェコスロヴァキアのブラティスラヴァ
似た例として、イギリス領ホンコン。そこにはイギリスの大陸への野心が透けて見える。
野心はともかく、ブラティスラヴァの南の領土も、のちにさらに南へと伸びたから p103

スロヴァキアとハンガリー、オーストリアの国境が集まる三国国境を目指す筆者。
ヨーロッパにはこのように3つの国境が集まった場所があちこちにある。
有名なのはドイツとフランス、スイスの三国国境。これが位置するバーゼルは、国境の町として知られている。p109

 

8 国境に消えた人々を追う アウシュヴィッツ鉄道紀行

チェコ北部からポーランド南部にかけての地域にはなぜたくさんの鉄道線が張り巡らされているのか?

19世紀後半、ヨーロッパの鉄道建設ブーム時、このあたりはドイツ帝国とオーストリア=ハンガリー帝国、それにロシア帝国の国境が集まっていた。産業の要である製鉄業のため、原料、製品、そして労働者を運ぶ鉄道が必要だった。
また国境ゆえ、軍事行動のため、前線に武器や兵士を多量に運べる準備も必要だった。

アウシュヴィッツは大工事を建設するための最適の場所になってしまい、工場の労働力は強制収容所から供給された。
またヨーロッパ各地からユダヤ人を連行するのにも鉄道網が役立ってしまった。



9 国境に紛争跡を探る クロアチア国境

バルカンの特徴を言い当てた言葉「バルカニゼーション」
それまであった巨大な国や領域が小さな国に分裂していく状況p131

クロアチアの町ヴコヴァル
人口2万8千ほどの町だが、クロアチア人でこの名前を知らない人は恐らくいない。なぜならクロアチア紛争の最大の激戦地であり、この町の犠牲があってクロアチアが独立できたとされているからp136

ボスニア・ヘルツェゴヴィナは紛争後、連邦制となる。
ボシュニャク人が住むボシュニャク人地区とクロアチア人が住むクロアチア地区からなるボスニア・ヘルツェゴヴィナ連邦と、セルビア人が住むスルプスカ共和国であり、両国の間に「国境」が引かれた。
スルプスカとは、セルビア語でセルビアを意味する。
主権国家の国境でないので、パスポートチェックも柵もなくて、案内板があるだけだがp141、セルビア語の文字がスプレーで消されているのをよく見かけた。p142

バルカンはどこか、という質問をクロアチアの知人たちにしてみると、一様に、それはセルビアから東の地域、と答えが返ってきた。
ところが、クロアチアの西隣のスロヴェニアや北のハンガリーで聞くと、バルカンはクロアチアから始まると言ってきた。
そしてオーストリアのウィーンで同じ質問をすると、バルカンはハンガリーから先なのだそうだ。
どうやらみんなバルカンには住みたくないらしい。p144

 

10 ヨーロッパを映し出す国境

川の国境は地理学で自然的国境の例として挙げられている。
しかしその一方川は両岸を結ぶ役割も果たしてきた。そうすると川に国境を引くのは、むしろ不自然ということになる。
多くの川は沿岸に大都市が立地している。
逆に川が国境になっているところを見ると、地域の人々の暮らしを無視して引かれたものが多いことに気づく。
exドイツとポーランドの国境オーデル川
ハンガリーとスロヴァキアの国境のドナウ川
 


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