「うちは今まで研修なんてものは一切やったことがないんだけど、社員も増えてきたことだし、試しに一度やってみようかと思ってね。」これは、ある中堅企業の社長さんの言葉です。
大企業の人材開発部門からはまず聞けないような発言ですが、中小企業ではこうしたことは少なくありません。
そして「その研修をやると、いくら儲かるの?」という質問も、必ずと言っていいほど付いてきます。
研修をはじめ「人」に対する投資は、その効果を測定することが難しいものです。
機械や建物など「物」に対する投資(設備投資)であれば、期待される効果はかなりはっきりしています。
たとえば、ある機械を導入するときには、将来得られるであろうリターン(利益の増加などによる金銭的な見返り)を予測しますから「約〇〇円儲かる計画です」と言えます。それに、導入後しばらく経っても期待したリターンが得られそうもなければ、機械を売却して損を少なくすることも可能です。
ところが、研修のような「人」への投資は費用対効果がはっきりしません。しかも、「人」は会社の資産ではありませんから、研修を受けた社員が辞めてしまえば効果はゼロになってしまいます。
そう考えれば「いくら儲かるの?」あるいは「損をしないの?」という疑問が社長さんの口をついて出てくるのもうなずけます。
私はいつも「いくら儲かるのかは、わかりません」と正直に(!)答えて、次のように続けることにしてます。
「例えて言うならば、研修とは兵士に武器を与え、その使い方を教えるようなものです。」
「確実に戦闘能力は上がります。したがって勝利する、つまり儲かる確率は高くなります。」
「しかし、戦闘において兵士の能力を引き出すのは指揮官の仕事です。」
「この会社の指揮官は社長さん、あなたですよね。」
「ですから、研修の費用対効果を決めるのはあなた次第と言うことになります。」
多くの社長さんは「・・・なんか煙に巻かれた感じだなあ」と苦笑いしながらも概ね納得してくださいます。ご自身が指揮官であることを十分にわかっていらっしゃるからです。
一方「それじゃいくら儲かるか全然わからないよ」とおっしゃる場合は、仮に研修の依頼があってもお受けしないことにしています。
トップである社長に指揮官としての自覚がなければ、いくら社員を鍛えても全く成果は望めないからです。
(人材育成社)