中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,248話 抽象的な質問をすると抽象的に、具体的な質問をすると具体的になる

2025年01月15日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「面談では部下があまり話をしてくれないので、いつもあっという間に終わってしまいます。」

これは、弊社が管理職研修を担当させていただく際に聞くことが多い話です。言わば管理職の典型的な悩みの一つのように考えています。

先日話をしてくれたある中小企業の管理職A氏によると、評価面談で評価を部下に伝えた後に何か質問があるかと尋ねても特に部下からの質問はなく、10分くらいであっという間に面談が終わってしまうとのことでした。そのために「一体どうしたらよいのでしょうか。私はもっと部下に話をしてもらいたいのです」と研修終了後に相談に来られたのです。

A氏から詳しく話を聴いたところによると、まずA氏と部下とのやり取りは「双方向のコミュニケーション」ではなく、「一方的なインフォメーション」になってしまっているのではないかと考えられます。また、部下への質問が限定的な答えを求める「閉じた質問」が中心のため、部下は「はい」や「いいえ」など簡単に返答ができてしまうなど、質問に工夫がないことにも原因があるのではないかと感じました。

これは上司と部下とのやりとりに限ったことではありません。コミュニケーションをとる際に相手から深く、またたくさんの情報を得たいのであれば、断片的に浅い質問を繰り返すのではなく、一つの話題について様々な角度から質問するというように、質問を工夫することが大切です。そして、答えを限定しない、答え手が自由に答えられるような「開いた質問」を使えば相手も答えやすくなり、得られる情報量も俄然増えることは誰にでもあるかと思います。

そして、同様のことはここ数年で一気に拡がった生成AIの利用においても言えます。私自身も経験がありますが、生成AIから情報を得るために検索をかけたけれども期待した回答をなかなか得ることができず、「AIは役に立たない」と失望した経験がある人も少なからずいるでしょう。しかし、AIを利用する場合も人と人とのコミュニケーションと同様です。期待した答えが得られない原因は質問の仕方にあり、質問方法や表現を変えたら欲していた情報が俄然得られるようになったという経験をしたことがある人も多いかと思います。このようにコミュニケーションは大切であると同時に、一方では難しさも併せ持っています。

私は定期的に昇格試験の面談を担当させていただく機会があるのですが、その際に抽象的な質問をすれば受験者からは抽象的な返答しか得られず、具体的な質問をすれば具体的に答えてもらえると感じています。また、こちらが期待している詳細な返答が得られないときには、具体的な質問に変更して再度投げかけることによって相手から得られる情報の量が増えるだけでなく、質も高くなって評価の精度が上がることを肌で感じています。

面談のみならず、コミュニケーションにおいて「質問」は相手を知るうえでとても大切であり、欠かすことができないものです。なかなか必要な情報が相手から得られないと思っている人は、ぜひ一度自分の質問の中身や仕方に意識を向けて、工夫していただくとよいのではないかと考えています。

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第1,245話 外発的動機付けと内発的動機付けのバランスとは

2024年12月18日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「給与が今よりも高い会社に転職をすることにしました」

これは、先日知り合い40代前半の男性から聞いた言葉です。彼は長年製造業で監督職として活躍していましたが、このたび給与を上げたいと考えていたのだそうです。詳しく話を聞いたところ、現在の業務や会社自体には大きな不満はなかったそうですが、彼が言うには年齢的にもラストチャンスであり、今後必要となる子どもの教育費などのことも考え、転職を決断したのだそうです。

近年、人材の採用難に対する施策の一つとして給与を上げる会社が増えています。雇用される側としても給与は高いに越したことはありませんので、それ自体は歓迎できることで特に問題はないと思います。

この給与が上がることを動機づけ理論の視点で考えると、外発的動機づけであると言えます。外発的動機づけとは、外部からの報酬や罰などの力によってやる気にさせるもので、たとえば金銭的報酬を得たり、ペナルティを避けたりすることなどを目的として行動を起こさせるものです。一般的に外発的動機づけは人を動かす強い力になりますので、有効な手法とされています。ただし外発的動機づけには問題点もあり、報酬や罰などの刺激を与え続けていないと、いずれやる気が失われてしまうことです。

そのように考えると、給与が高い会社に転職をすることはやる気の向上に寄与することにはなりますが、やがては時間の経過とともに上がった給与にも慣れてしまい、だんだんとやる気が失われていってしまわないとも限りません。

先日、高崎市にある「かみつけの里」博物館に行く機会がありました。ここは、榛名山東南麓で出土した5世紀後半(古墳時代)の人物・動物などの埴輪を模型にして、当時の様子を再現し展示している博物館です。館内の一部では「八幡塚古墳」についても紹介しているのですが、まず古墳を作るための工事費は現在の金銭に換算すると10億円ほどであり、そのほぼ全てが人件費に該当したとのことです。しかし、当時は報酬という概念がなかったため、労力の9割を占める村人たちは食事や少しの褒美を与えられるくらいで労働力を提供したと考えられるのだそうです。

それでは、そうした村人達が古墳を作ることへのモチベーションをどのようにして維持できたのかということについて疑問を持ちますが、村人たちは古墳の造営という壮大なプロジェクトに参加できるということが彼らにとってのステータスになったとも考えられるとのことです。現在のように機械はなく人力のみで古墳を作るとなると、強制されムチで打たれて労働力を提供させられていたようなイメージの、これまでの見方は変える必要があるのかもしれないとも紹介されていました。

このことは、まさに現在でいうところの内発的動機付けに当たるものだと思います。内発的動機づけとは、報酬などのためではなく自身の内部から湧き出る意思で動くことであり、私たちは仕事にやりがいを感じられたり何らかのステータスを感じられたりすると、やる気をもって前向きに働くことができるということです。

人材をなかなか採用できない、あるいは貴重な人材に転職や退職をされてしまうことを避けるためには、報酬が上がるという外発的動機付けが手段として有効であることは確かですが、同時にそれだけでは自ずと限界もあります。

したがって、外発的動機付けと内発的動機付けのどちらか一方だけに取組むのではなく、両者をバランスよく組み合わせながら、継続的に社員のやる気を引き出していくことが大切なのです。そのためには、適切なタイミングで報酬や福利厚生などを見直していくとともに、現在の仕事の魅力ややりがいをあらためて理解してもらうことです。将来の展望やそれに向けた計画などを具体的に示すなどにより、引き続き社員にやる気・モチベーションを持ち続けてもらえるようにバランスよく取組んでいくことが大切だと考えています。

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第1,244話 リーダーシップの発揮には様々なスタイルがある

2024年12月11日 | 仕事

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「おまえは30点でいけ」

これは女優の今田美桜さんが、俳優の中井貴一さんから言われた言葉だそうです。

先日、新聞のテレビ欄を見ていたところ「徹子の部屋」の出演者に今田さんの名前があり、加えて「中井貴一さんから言われた言葉が支えになっている」との見出しがありました。

それを見た私は、「中井さんの言葉に影響を受けた人がまたいるんだ」と思い、即座に録画予約をしたのです。

「徹子の部屋」では、今田さんは20歳のときにドラマで共演した中井さんから「おまえは30点でいけと声を掛けられ、その後肩の力が抜けて楽になった。背伸びしすぎなくていいんだ。 その言葉あったから、そのあとも頑張れたのかなった思っている」と語っていました。続けて、「迷ったとき、失敗したときにはその言葉を思い出して、また新たに頑張れる言葉の一つ」だとも話していました。

私はこれまでにもテレビで、吉田羊さんさんや柳沢慎吾が中井さんの言葉によって新たな機会が訪れたという話や、落ち込んでいるところを助けてもらったなどの話をしているのを見聞きしたことがあります。中井さんのことを、様々な人に対してプラスの影響力を発揮されている方だと思っていましたので、テレビの中の人ではありますが関心を持って見てきました。

前述の3人それぞれのエピソードからわかるのは、中井さんはとてもリーダーシップがある方だということです。そして、そのスタイルはぐいぐいと周りを引っ張るリーダーシップではなく、本人が気づいていない演技力を他者に伝えることによって新たな道を開くきっかけを作ったり、中井さん自身の出番は終了しているにもかかわらず、落ち込んでいる共演者の仕事が終わる時間まで待っていてその後食事に誘ったり、さらには今回の今田さんのように今後どのように頑張ったらよいのか悩んでいる人に「30点でよい」と声をかけたりするなど、ソフトなリーダーシップを発揮していると見て取れます。

話は変わりますが、弊社が研修を担当させていただく際に「リーダーシップからイメージすること」を受講者に尋ねることがあります。すると、多くの受講者がイメージするリーダーシップは「指導力」や「統率力」など力強い言葉のイメージが多く、その結果自分はそうしたリーダーシップを持ち合わせていないと感じてしまうことが多いように思っています。

リーダーシップ理論の一つにPM理論というものがありますが、これはリーダーが持つべき機能をP機能(Performance Function:目標達成機能)とM機能(Maintenance Function:集団維持機能)の2軸で捉えるものです。

P機能は成果を出すために発揮されるリーダーシップで、目標の設定や計画の策定をしたり、メンバーへ指示したり、問題発見・課題解決を率先し行ったりするものです。

一方のM機能は、人間関係を良好な状態に保つことによって、チームワークを強化していくスタイルで、具体的にはメンバーを観察して積極的な話を聴いたり、勇気づけをしたりメンバー間が対立したときに調整をしたりすることです。

そして、それぞれの機能の発揮にあたっては様々なやり方・スタイルがあるわけですから、リーダーシップにも様々なスタイルがあって当然で、100人いれば100通りのスタイルがあるということだと思うのです。

中井さんから様々な影響を受けた3人のエピソードを聞くことによって、改めてリーダーシップの発揮には様々なスタイルがあること、ソフトなリーダーシップでも他者との関係性の中で強い影響力を発揮できるのだということが改めて整理できたように感じています。

多くの人にプラスの影響を与え続けている中井貴一さん。これからのますますの活躍を楽しみにしたいと思います。

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第1,241話 情報のファクトチェックとは

2024年11月20日 | 仕事

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記者:「それはファクトなんですか?」

返答者:「それはわかりませんが、作り手(ユーチューバー)が調べていると思いますよ!」

去る11月17日に行われた兵庫県知事選挙の結果判明後に、テレビ局が街頭インタビューをした際のインタビュアーと答え手の間で、このようなやりとりがなされていました。

職員へのパワーハラスメント疑惑等で県議会から不信任を決議され、失職した知事の出直し選挙でしたが、その結果は前知事が再選されました。前述の街頭インタビューでは、知事を支持した人が「ユーチューブではパワハラはなかったと言っている。テレビの報道がいい加減だ。テレビは信用できない」と興奮冷めやらぬ様子で語っている姿が報道されていました。私自身はこれらのユーチューブを見たわけではありませんが、話の様子からはマスコミ等で報道されていたものとはかなり違った内容であると想像できます。これを含め、今回の一連の流れを見ていて改めて思ったことは、自分が目にする情報には事実がどうかわからないこと・間違っていることが含まれている可能性も否定できず、自分で情報の取捨選択をできるようにならなければならないということです。

インターネット上で膨大な情報が発信されるようになり、SNSをはじめとして私たちの身の回りには様々な情報があふれかえっている状態だと感じています。その情報はまさに玉石混合で中には明らかな間違いや偽情報が含まれており、そうした誤情報や偽情報を信じてしまった結果、誤った判断や行動をしてしまう例も少なくないようです。

日本ファクトチェックセンター(JFC)が国際大学グローバル・コミュニケーション・センターと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%だったとのことです。人は誰でもバイアスがあって、情報が自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向があるということです。

前述のインタビューに答えた人も、ユーチューブの内容が事実なのかどうか(少なくともマスコミで報道されていることと違うのはなぜなのか)を自身で考えることなく、頭から正しいと信じているように見えました。

インターネット上の真偽の不確かな偽情報や誤情報に振り回され、間違った判断や行動をしないようにするためには、情報の真偽を検証するファクトチェックを行うことが重要であり、最近では総務省も「ファクトチェック」の推進をしているとのことです。

弊社が担当させていただいている研修でも、インターネットから入手した情報を参考として受講者に提示する機会が時々あります。これまでも情報元の組織や概要を調べることはしていましたが、私自身もその際に自身のバイアスに基づいて情報を判断していることも確かです。

情報はファクトであって初めて意味をなすものであり、誤情報は人の判断を誤らせるものであるとの認識のもと、これまで以上に情報のファクトチェックを怠らないようにしなければならないと思っています。

もちろん、個人でできるチェックには限界があるとは思いますが、それでも何かの情報に接したときに、わからないことがあったり、ちょっとでも疑問を感じたりしたら「これは本当に事実なのだろうか?」と一旦冷静になって、考えてみることが大切だと改めて考えています。

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第1,240話 対象に関係なく、教えたり指導したりする側にとっての大切なポイント

2024年11月13日 | 仕事

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「Aコーチが良いから来ています」

これは私が通っているスイミングスクールの若い仲間が語った言葉です。スクールには老若男女様々なメンバーがいるのですが、長期間通っている人が多く各々の技量の向上に向けて毎週練習に励んでいます。その中の一人が1年前に練馬区に引越しをしたのですが、引き続き品川区にあるこのスポーツクラブまで毎週遠路電車を乗り継いでやってきていて、その彼が語ったのが冒頭の言葉なのです。

彼の言うとおり、我々のAコーチはなかなかに魅力的な人です。具体的には、まず説明がとてもわかりやすく、理論に基づき一挙手一投足の動きを説明してくれるため、我々も十分に納得した上でそれを実践することができるのです。Aコーチは50代だそうですが、現在でも定期的にレースに出て良い成績を挙げていて、経験に裏打ちされた説明には説得力があります。

また、Aコーチはメンバーに一律にコメントをするとともに、個々へのフィードバックがとても豊富です。コーチのコメントに基づき改善できた泳ぎができると、その瞬間に水中で親指を立てて「グッド」を示してくれることもあり、こちらも正しく改善できたことが即座に理解できるのです。そして、25m泳ぎ終えるたびに、「○○さん ここが良くなったですね。あとはこの点をこのようにすると、さらに良いですよ」と言うなど、とても褒め上手でもあります。

さらに一貫して明るく、「必ずできる」といった雰囲気で接してくれるため、たとえ難しい課題を与えられてもこちらも前向きな気持ちなって、俄然モチベーションが上がるのです。現在はメンバー全員に「年末までにバタフライ50m完泳」という目標が与えられていて、毎週それに向けて努力しているのですが、皆、達成できそうな気持になってきています。

このようなAコーチの指導を毎週受けるたびに、私も「教えることとはこのようなことか」と改めて実感しています。知識やスキルを伝えることに加え、やる気にさせることがいかに大切かを改めて感じています。

これらは様々な組織における上司から部下へ、先輩から後輩に仕事を教える際にヒントとなるところが多いと感じます。同時に私が日々担当している研修でも、「Aコーチのようにできているだろうか」と自身で振り返るきっかけにもなっているのです。

一方で、私が担当している研修や職場での指導と、Aコーチをはじめとするスポーツ競技などでの指導では、条件が大きく異なる点があると考えています。

それは、教えられる側のモチベーションの高低です。スポーツなどの監督やコーチが指導する選手は、そもそもその種目に対するやる気が高い人達です。サッカーやラグビーなどの球技スポーツも、駅伝をはじめとする陸上競技であっても、「レギュラーになりたい、試合に出たい」という強い目標があると思います。同じ意味で私が通うスイミングスクールの受講者の多くも、「もっと楽にもっと長く泳げるようになりたい」という前向きな気持ちを持っていて、そもそもモチベーション高い人たちです。

そのように考えると、Aコーチの指導が職場や研修においてすべてが活用できるというものではないとは思います。しかし彼の行っていることは教える対象がどういう人であっても、教えたり指導したりする側にとっての大切なポイントをしっかりと押さえていると思いますので、私も研修講師としてAコーチのようでありたいと考えています。

「教える」ことは実に奥が深く、やり方も一つではないでしょうが、それ故に追求し続けるべき課題であると考えています。

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第1,239話 できない理由を雄弁に語っていないか

2024年11月06日 | 仕事

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弊社ではコンサルティングの相談をいただいたり、研修終了後に質問をいただいたりした際に、こちらから提案をさせていただくことがあります。

その際に「やってみます。アドバイスをありがとうございます」と答える人もいらっしゃいますが、多くの場合はそこでその提案ができない、することが難しい理由を語り始められるのです。

その理由として挙げられるのが、「私はぜひその方法を取り入れたいと思うけれど、うちの社員はとても忙しいので、新たなことを取り入れるのはなかなか難しい」。また、「一般的な業界であればその方法はうまくいくと思いますが、うちの業界は特別だから、そのやり方を取り入れるのは難しい」などなど、「できない理由」を理路整然と、ある意味で実に「雄弁」に語られるのです。

そのような場面では、私は「できない理由」を一通りお聞きした後で、「それでは、今の状態を続けるのが宜しいかと思います」とやんわりとお伝えすることがあるのですが、そうすると今度は「先ほど教えていただいた方法より、もっと簡単にできる方法はないでしょうか」と質問されるのです。しかし、組織で新しいことを始めたり職場の問題を解決したりすることは決して簡単なことではありませんので、本気でそれを解決したいと思うのであれば、時間をかけて真剣に取り組まなければならないことは言うまでもありません。

それでは、そもそもコンサルティングの相談をされる人や研修終了後に熱心に質問されたりするような人が、なぜ「できない理由」を雄弁に語られるのでしょうか。

その理由は様々あるのだと思いますが、一つには課題の解決に相応の時間と労力をかける「覚悟」ができていない、あるいはその権限などがないため、まずそれができない理由を挙げた上で、次に簡単に効果が得られる方法を知りたいと考えられているように思います。

しかし、前述のとおり組織で何か新しいことを導入したり職場の問題や課題を解決したりするには簡単な解決策はないのが実際のところです。本当に解決をしようとするのならば覚悟をもって真剣に取り組む必要があると私は考えているのです。

また、「この業界は特別だから」とおっしゃっている人の話をよくよく聴いてみると、ご本人がおっしゃるほどには特別ではないことが少なくないということは、長年様々な組織の話を聴いてきている中で、私が感じていることでもあります。

このように、できない理由を雄弁に語られる場面に出会ったときに私が思い出す言葉の一つに、「沈黙は金、雄弁は銀」というものがあります。これは19世紀イギリスの歴史家・評論家であるトーマス・カーライルが広めたとされる言葉で、その意味するところは「時として多くを語らない方が良い、つまり沈黙を保つことにこそ価値がある」という状況が存在することを示唆しているものです。

この言葉の意味するところを踏まえると、問題や課題を解決するためや、新たなことに臨むにあたっては、まずは「できない理由を雄弁に語る」ことに終始するのでなく、「どうしたらできるのか」をじっくりと「沈黙して」考え、具体的に取り組んでいくことが必要なのではないかと考えています。

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第1,235話 サービスを提供する側の神髄とは

2024年10月09日 | 仕事

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「このイクラは逆さにしても粒が落ちない。日本ではここでしか食べられない。また、このネタは日本で5%しか食べられないから、食べないで死んでしまう人がほとんど。それだけ珍しくて美味しい」

これは、私が年に何回か行く寿司屋の大将が寿司を説明する際の言葉です。都心から1時間ほどかかる町にあるのにもかかわらず遠方からも足を運ぶ人が多いかなりの人気店であり、さらに10数席しかないということもあり、予約が取りにくい店です。

この店では、寿司ネタが大きいことにまず驚かされるのですが、それ以外にも仕入れから客に寿司を提供するまでの細部にわたる大将のこだわりが特色と言えます。私がいつも驚かされるのは、寿司を出す際に、このネタはどこの海で取れたものかだけでなく、最近は温暖化により魚が獲れる場所や漁獲量にも影響が出ていること、さらに調理や味付けなどについても大将の微に入り細に入った説明があることです。その説明は長い時には3~5分くらいになります。

テーブルに寿司が置かれると、女将から「これから大将が寿司の説明をしますので、しっかり聞いてください」と声がかかります。私たち客は大将の熱のこもった説明に驚いたり唸ったりしつつひたすら傾聴して、その後に寿司をいただくことになるのです。説明を聞いた分、それぞれの寿司ネタの貴重さや有難み、そして何よりその味に納得することができるわけです。

話は変わりますが、私たちはオンオフを問わず様々な企業などからの売り込みのダイレクトメールや電話を受けたりします。こうしたセールスを歓迎してはいませんが、たまたま関心があるサービスやモノのセールスの連絡が来た際には、試しにセールスポイントやその会社のことを質問してみることがあります。

しかし、ほとんどの場合相手のセールスパーソンは端的に説明することができないのです。きちんとした説明ができないだけでなく、中には「最近入社したばかりなのでよくわかりません」や「そういう質問は想定していなかったのでわかりません」、さらに「新人研修の一環として電話をしていますので、わかりません」など、正直すぎる返答をされることも少なくないのです。こうした対応ではサービス検討以前の問題と感じざるを得ないことから、購入にまで至ることはまずありません。

そうした観点で考えると、先述の寿司屋の大将はおいしい寿司を出すのはもちろん、そのためにネタにこだわり、そしてその良さを顧客に理解してもらいやすいように、できるだけ定量化して論理的に説明をしてくれるのです。これは、客に新鮮なネタを満足して美味しく食べてほしいという寿司職人としてのプライドのあらわれであり、サービスを提供する側の神髄を見ているような気にすらなります。

モノやサービスを売るということは、決して簡単なことではありません。しかし、何よりセールスパーソンが熱い気持ちを持って、顧客にわかり易く伝えることができなければなければ顧客の気持ちを動かすことはできないわけです。

そのためには、この大将のようにプライドと熱い気持ちを持って工夫し努力することが欠かせないのではないかと、大将の寿司を食べるたびに思うのです。

という本ブログを書いていたら、近々またこの寿司屋に訪れたい気持ちになりました。(残念ながら予約は簡単にはとれませんが)

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第1,232話 メモは何のために取るのか

2024年09月18日 | 仕事

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「メモを取るのか、それとも取らなくてよいのか」

これは今でも必ずと言ってもいいほど、議論になるテーマの一つです。仕事に関しては、弊社が行う新入社員研修では「上司からの指示は必ずメモを取ること」と伝えており、メモを取る練習をしてもらうこともあります。

私が担当する様々な研修でも小まめにメモを取る人がいる一方で、そうしない人がいるのも事実です。では、そのような人は仕事中でもメモをすることはあまりないのでしょうか。

これに関して、私はジャーナリストの池上彰さんがニュース等を解説しているテレビ番組をよく見るのですが、タレントのカズレーザーさんが出演していることが多くあります。その中でのカズレーザーさんは、池上彰さんをはじめ他の出演者の発言をノートにメモしていることが多いと感じます。カズレーザーさんが番組終了後にメモしたものを見返しているのかどうかなどはわかりませんが、番組中のカズレーザーさんは多方面にわたって博識で、また説明も非常に端的であり、とても論理的な人であることが伺えます。(上から目線の表現で失礼かもしれませんが)

カズレーザーさんを見ていると、メモを取ることはとても有用であるように感じますが、では実際にメモを取ることは有用なものなのでしょうか?これについては様々な考え方があるようで、たとえばメモを取らなければ忘れてしまうようであれば、それはその人にとって無用な情報だと考えられるから、忘れてしまっても問題ないという説もあります。しかし、記憶力がよほど良い人でない限りは、せっかく獲得した知識であったとしても時間の経過とともにだんだん忘れていってしまうのではないでしょうか。

人間はどれくらいの時間記憶することができるのか。記憶と時間に関して引用される一つに、エビングハウスの忘却曲線があります。エビングハウスの忘却曲線とは、ドイツの心理学者であるヘルマン・エビングハウスが提唱した中長期の時間の経過と記憶の関係を表した曲線のことです。時間と記憶の相関関係における実験を行った結果、1時間後には44%しか覚えていない、1週間後には21%しか覚えていないというデータがあります。このように、人の記憶は「時間が経つほど忘れてしまう」ものです。

ただし、一点注意しなければならないのは、この調査は「意味を持たない音節の記憶」に対する実験結果だということです。したがって、関心のないことを学習するときの記憶の定着率はこの忘却曲線と同様の結果になるのだと思いますが、学習する側が関心のある分野においては記憶の定着率はより高いと考えられるわけです。

私たちの仕事や生活においては、関心が高いものだけに触れるということはあり得ません。そのように考えると、仕事にしろ研修にしろ関心の有無にかかわらず、ここは有用だというところはしっかりメモを取ることが大切だということです。

もちろんメモをとること自体が目的でなのはありません。メモしたことを定期的に振り返ることによって知識を定着させ、それを仕事で活かしていくことが大事であることは言うまでもないことです。

あなたはメモをしていますか?

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第1,231話 言動の責任は自ら負わなければならない

2024年09月11日 | 仕事

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「口や手を出して何の責任も負わないような人には、どうかならないでほしい」

これはNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「虎に翼」の先日(9月5日)の放送の中で、主人公(虎子)の娘(優未)が義理の姉(のどか)を蹴り飛ばした後に、家を飛び出し駆け込んだ先の法律事務所で虎子の仕事仲間らに不満(蹴り飛ばした理由)を打ち明けた際に、諭された言葉です。

蹴り飛ばしたことを謝りたくないという優未に対して、虎子の仕事仲間らは「口や手を出したりするということは、変わってしまうってことだけは覚えておいて欲しい。その人との関係や状況や自分自身も・・・その変わったことの責任は自分が背負わなければければいけない」とも伝えたのです。

さて、このところ連日兵庫県知事のパワーハラスメントの疑いにかかる告発文書が出された問題が報道されています。知事は「重く受け止め、反省すべきところは反省する」と述べる一方、辞職の要求には応じない考えを示していることも報道されています。知事が辞職しない理由には様々あるようですが、これまでの流れを見ている中で最も私が気になっているのは、ここまで大きく信頼を失ってしまった組織のトップが、今後リーダーシップを発揮できるのかということです。

リーダーシップを発揮するためには人心の和が不可欠ですが、そもそも人心をつかむためには信頼される必要があります。この信頼とは、人の「言葉、行動、姿勢」を他者が見た結果、人間性や習慣といった目に見えないものに対して期待したり、その期待に応えてくれるだろうと当てにしたりする気持ちのあらわれではないかと私は考えています。そして、信頼は日常的な振る舞いを周囲がプラス評価をすることで、徐々に積み上がっていくものだとも思います。

しかし、こうして時間をかけて積み上げた信頼も、ちょっとしたことで簡単に崩れてしまうものであるということも、また確かだと思います。信頼を築くのには時間がかかりますが、崩れるのはあっという間だということです。

これに関連して、新入社員、若手社員を育てていく中で「上司が後姿を見せても、なかなか部下は育たない」というように感じている上司もいるかと思います。私が若手社員の研修などを担当させていただく中で感じるのは、上司としてお手本としてほしいと思うところはなかなか伝わらなくても、逆にあまり手本にしてほしくないようなところについても、案外しっかりと観察しているように感じます。

このように考えると、信頼を失った(手本にしてほしくない行為などをした)人が周囲にプラスの影響を与えるということは簡単にはできないということになります。

今回の兵庫県知事の例を見るまでもなく、法的に問題がある行為はもちろんのこと、余りに一般とかけ離れたような言動や行為というものは、周囲との関係を(大抵の場合は悪い方へ)変えてしまうということです。そして同時に様々な事柄も停滞させてしまうこと、そしてその責任は自ら負わなければならないということを、自戒の念を込めて認識を深めなければいけないと考えています。

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第1,230話 最小限のリスクで乗り越えられるように先手を打つ

2024年09月04日 | 仕事

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先週から長時間にわたり各地に大きな被害をもたらした台風10号の到来を踏まえ、JR東海は新幹線の3日間の計画運休をしました。

JR東海によると、計画運休は台風などの影響で雨や風が広範囲で長時間にわたって規制値を超えることが予想される場合に安全のため実施するとのことで、2018年9月に初めて行われて以降、度々実施されてきています。今回は9回目であり、3日間連続での実施は初めてということですが、一方で多くの利用者に大きな影響を与えたことも、連日報道されていました。

さて、その台風のさなかの8月29日と30日に、私はある企業の研修を担当させていただいていましたが、その受講者は全国各地から集まるものでした。台風の接近が予想されていた研修1週間前位の時点では飛行機での移動ができない受講者が出ることも想定されたため、オンラインで実施することも検討されました。しかし、台風の進路が予想よりも西へ変わり、また接近も遅くなったことなどにより、無事に当初の計画通りに対面での研修実施が叶ったのです。

対面での研修が実施できたことで、参加した受講者の間では懇親会も含めて活発なコミュニケーションがとられ、受講者同士の結束が高まるなど対面の研修ならではの効果がたくさん得られたのではないかと感じています。一方で、東海地区から参加した受講者は新幹線の計画運休により帰途は足止めとなってしまい、帰宅が3日間遅れるなど前述のように大きな影響を受けてしまったのです。

日ごろ、私は突発的な事柄には先手を打つことが重要だと考えていますので、自身でも出来得る限り先手を打って行動するようにしてきました。先手を打つことで、突発的な事柄もある程度回避ができると考えているためですが、今回のような台風や先日の南海トラフ想定震源域で発生した地震などの自然災害に対しては、先手を打っていたとしても自ずと限界があるのも確かです。

今回のJR東海の計画運休は、運航を続けることで大きな被害が発生することなどが予想されたからこその先手策であり、安全を第一に考えなければならない鉄道会社としてはやむを得ない判断だったと言えるのではないかと思います。しかし同時に、そのことによる様々な影響が大きなものとなったこともまた事実であり、今後も同様な事態の発生が予想される中では、とても難しい問題です。

今夏の平均気温は昨年と同様に、平年と比べ1.8度も高くなっているとのことです。今回の台風にも地球温暖化(気候変動)の影響があるという報道も目にしましたが、温暖化をなかなか止められない状況の中では残念ながらこれまでにはなかった、予測がつかないことが起こることを想定して備えをしておかなければならないわけです。

今後も突発的な事柄が頻繁に起こりうることを覚悟し、仕事でもプライベートでも最小限のリスクで乗り越えられるように先手を打って行動することを改めて肝に銘じました。

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