中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,253話 大組織の人事部長や役員が社員のことを知るには

2025年02月19日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「人事部長や役員は、社員のことをどれくらい知っているのだろか?」

私が様々な企業などで仕事をさせていただく際に、時々こうした疑問を持つことがあります。一般的に、組織の規模が大きくなればなるほど、部長や役員のような上位の役職の人が社員との接点を持つ機会は少なくなります。そのため多くの場合、部長や役員は特に優秀な社員や少々問題を抱えているような社員などの情報に接することはあっても、それ以外の多くの社員については売上数字や人事評価など以外の情報を把握することは滅多にないと考えています。

そのような組織が多い中で、私が毎年担当させていただいているある組織のA氏は7,000名を超える大きな組織の役員であるにもかかわらず、こちらが驚くほど個々の社員のことを把握されているのです。A氏とは毎年管理職昇任試験で、面接官としての立場で1週間ほどご一緒させていただいているのですが、A氏はいわゆる人事データだけでなく、本人の適性や学生時代の専門、趣味や家族構成にいたるまで非常によくご存知なのです。

以前、「どうしてそんなにたくさんの社員の細かいところまでご存知なのですか?」と尋ねてみたところ、「人事部にいたからですよ」と返答をされたのですが、その組織の別の方がおっしゃるには、A氏が人事部に所属されていたときには、少しでも時間ができると様々な職場に足を運んでよく社員に声をかけていたとのことでした。そして、そのようなときにはじっくり会話することはできないまでも、頻繁に接点を持つことができることから、A氏がとても身近な存在であると感じられていたとのことです。そして、それは役員となった今でも活きているのだと思われます。

人事部の使命として、社員をよく知るために現場に足を運ぶことが大切だということはよく言われることですが、それは同時に個々の社員の側にとっても人事部という存在が身近に感じられるようになり、信頼感が増すということにもなるのではないかと考えます。

では、そうした中で人事部の部長や課長が現場を訪れたら、それにはどのような効果やメリットがあるのでしょうか。まずは社員から直接話を聴くことにより、インフォーマルなものも含めて「生きた情報をダイレクトに得ることができる」ということがあります。その結果、様々な課題をはっきり浮きあがらせることができます。同時にこれまでは関りが少なかった社員との距離感を縮めたりすることもできるため、よりストレートに具体的な組織戦略の企画・立案、人事異動を含めた人事施策の一助にすることができるのではないかと思います。

このように、人事部の管理職が現場に足を運ぶことには多くのメリットがあります。それに加えて先述のとおり昇任試験の面接をする際にも通り一遍のやりとりにとどまらず、個々の相手に応じた質問をすることで、より深く相手のことを知ることができ、その結果適切な評価ができるのではないかと考えます。

人事部の部課長が現場を訪れるということは、そのための時間の捻出からして簡単なことではないかもしれませんが、組織で最も大切な存在である個々の社員を知るうえで最も大切なことではないだろうかと考えています。

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第1,251話 置物の管理職になってはならない

2025年02月05日 | 仕事

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「私は課長のことを内心、『置物』だと思っています」

これは、私がある組織の管理職昇格試験の面接官を担当させていただいた際に、受験者のAさんから聞いた言葉です。

面接でのやり取りによると、Aさんが管理職を目指すようになった理由は「職場環境を変えたい」と思うようになったからとのことでした。Aさんの職場には様々な問題があるそうなのですが、それを解決すべく上司である課長に働きかけても、どういうわけか課長は何もしようとしないのだそうです。そうしたことが何度も続いたため、Aさんは上司をまるで「置物なのでないか」と思うようになったとのことでした。

改めて置物の意味を広辞苑で調べてみると、「神仏や床の間などに装飾として置く物。(比喩的に)ある位置についてはいるが、実績・実力のないもの。飾り物」とあります。

これらから考えると、Aさんがいう「置物のような管理職」とは、「部下を管理する能力や組織の目標達成に貢献する能力が不足していて、業務の進行に支障がでるような人。問題が目の前にあって部下が困っているのにもかかわらず、動かない、何も決定しない、指示を出さない、責任を取らないような人」を指しているのだと思います。

こうした置物のような管理職では、事態は何も変わらない。そこでAさんは「上司がそのように動かないのであれば、私が何とかしなければ」と考え、一念発起して管理職昇任試験にチャレンジしたということでした。

では、なぜ置物のような管理職がそのポジションに居る(居続けられる)のでしょうか。

もちろんその理由は様々あるでしょうし、組織や部署によっても違うだろうとは思います。しかしAさんの組織では、既に20年以上も前から管理職になるためには自ら希望して昇任試験を受けて、それをクリアしなければならない制度があるのです。そため、Aさんの上司も決して年功序列だけで管理職になったわけではなく、「自分はこのような管理職になりたい。組織をこのようにしていきたい」などの強い思いをもって管理職試験にチャレンジし、晴れて合格に至ったという経緯があるはずなのです。

それにもかかわらず、その上司に一体何が起こり今の置物のような管理職になってしまったのか、その理由は知る由もありません。しかし、そういう人が管理職として居続けることは本人はともかく、部下をはじめ周囲の人間にマイナスの影響を及ぼしてしまっているわけで、やはり問題と言えます。

それでは、このように元々は志高く管理職になったのにもかかわらず、その後に置物のようになってしまった場合に、組織は一体どのように対応すればよいのでしょうか。正直なところケースバイケースであり、これに取り組めば大丈夫といった解決策を見い出すのは簡単ではないだろうと思います。

とはいえ、組織である以上組織としての対応が必要になるのは当然のことです。まずは月並みではあるものの、さらに上位の管理職(今回のケースでは部長)から本人に直接話をして原因を確認し、かつてのモチベーションを取り戻すべく、自らが可能な限りの改善を図るように促すことが大切であると考えます。

その結果として、モチベーションやパフォーマンスに改善が見られないのであれば、最終手段として役職を見直し、本人のキャリアにとっても適切なポジションを検討せざるを得ないのではないでしょうか。

「置物」のような上司が上にいたら、その影響を直接受けるのは部下です。厳しいようですが、組織としては求められる職責を果たそうとしない、果たすことができないような置物を何もせずに放置してしまうということは、断じて避けなければならないのです。

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第1,250話 仕事の生産性と睡眠時間の関係

2025年01月29日 | 仕事

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「24時間働けますか」

いわゆるバブルの頃、こうしたCMがあったことを覚えている人も多いと思います。

毎年12月に日本生産性本部から労働生産性の国際比較が公表されています。先日、最新版のデータが発表されましたが、日本の一人当たりの労働生産性は1970年以降で最も低く、OECD加盟38カ国中32位です。この水準は東欧諸国と同等レベルであり、主要先進7カ国で最も低い値となっています。

日本で働き方改革が叫ばれるようになり、労働環境の質の向上と生産性の向上を目指すようになって久しいです。しかし、前述のように諸外国と比べて長年、日本の一人当たりの労働生産性が低いのはなぜなのでしょうか。実際、私が日々担当させていただいているタイムマネジメント研修等においても、仕事が予定通りに進まない(その結果、生産性が低くなっている)ことを問題としている受講者は圧倒的に多いと感じています。

日本の労働生産性が低い原因には様々なものがあるのだと思いますが、これに関して私が最近関心を持っているのは、筑波大学の柳沢正史教授の研究です。ご存知の方も多いと思いますが、柳沢教授は睡眠や覚醒のメカニズムを研究されているのですが、その中で各国の睡眠時間と生産性の相関についても調べています。

これに関して、先週1月22日(水)にNHK Eテレで放送されていたNHKアカデミア選に柳沢教授が出演されていました。その中で日本は諸外国と比べて睡眠時間が最も短く、6時間10分であり1時間近く少ないこと、一人当たりの労働生産性と睡眠時間には因果関係があるとの最近の研究結果が出てきていること、日本の労働生産性が低い理由には睡眠時間が短いことが大きく関係しているのではないかとのことでした。

柳沢教授によると、社員がよく眠っている会社の方が利益率が高いとのことで、「24時間働けますか」のように寝る間も惜しんで働くようなことは、世界的にはナンセンスとされているのだそうです。また、私たちの周りでも昼間に眠気をおぼえるという人は少なくないと思います。昼間に眠気があるのは本来異常なことであり、日本人は眠くなるのは仕方がないと思っているが、世界標準ではそれはおかしいということを認識することが大切だとのことです。

また、睡眠と記憶には密接な関係があり、エピソード記憶(文字にできる記憶)だけでなく、洞察力(経験したことから、こういうことだったんだと得られる力)も睡眠中に獲得できるとのことです。そのようなことからも睡眠は「量」が大切で、一晩で何時間眠るかが大事とのことでした。以前は睡眠の「質」について言われることが多かったように覚えていますが、最新の研究では違った結果になっているということなのです。

さらには、睡眠不足はメンタルヘルスやメタボなどについてもリスクを上げる要因になるほか、認知症やがんのリスクまで高めてしまうのだそうです。

正直なところ、睡眠がこれほどいろいろなことに大きく関わっているということに私自身とてもびっくりしました。同時に、私たちは自分の健康の維持とともに仕事の生産性を高めるためにも、睡眠時間を積極的に確保すべきであるということです。かつてのような寝る間を削ってでも働くことを求めるような風潮や、時間が余ったから睡眠をとるというような発想からは抜け出さないといけないのだと強く考えています。

仕事の生産性を上げるための重要なカギの一つには睡眠があるように思えます。私たちは十分な睡眠時間をとることを真剣に考える必要があるのではないでしょうか。

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第1,248話 抽象的な質問をすると抽象的に、具体的な質問をすると具体的になる

2025年01月15日 | 仕事

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「面談では部下があまり話をしてくれないので、いつもあっという間に終わってしまいます。」

これは、弊社が管理職研修を担当させていただく際に聞くことが多い話です。言わば管理職の典型的な悩みの一つのように考えています。

先日話をしてくれたある中小企業の管理職A氏によると、評価面談で評価を部下に伝えた後に何か質問があるかと尋ねても特に部下からの質問はなく、10分くらいであっという間に面談が終わってしまうとのことでした。そのために「一体どうしたらよいのでしょうか。私はもっと部下に話をしてもらいたいのです」と研修終了後に相談に来られたのです。

A氏から詳しく話を聴いたところによると、まずA氏と部下とのやり取りは「双方向のコミュニケーション」ではなく、「一方的なインフォメーション」になってしまっているのではないかと考えられます。また、部下への質問が限定的な答えを求める「閉じた質問」が中心のため、部下は「はい」や「いいえ」など簡単に返答ができてしまうなど、質問に工夫がないことにも原因があるのではないかと感じました。

これは上司と部下とのやりとりに限ったことではありません。コミュニケーションをとる際に相手から深く、またたくさんの情報を得たいのであれば、断片的に浅い質問を繰り返すのではなく、一つの話題について様々な角度から質問するというように、質問を工夫することが大切です。そして、答えを限定しない、答え手が自由に答えられるような「開いた質問」を使えば相手も答えやすくなり、得られる情報量も俄然増えることは誰にでもあるかと思います。

そして、同様のことはここ数年で一気に拡がった生成AIの利用においても言えます。私自身も経験がありますが、生成AIから情報を得るために検索をかけたけれども期待した回答をなかなか得ることができず、「AIは役に立たない」と失望した経験がある人も少なからずいるでしょう。しかし、AIを利用する場合も人と人とのコミュニケーションと同様です。期待した答えが得られない原因は質問の仕方にあり、質問方法や表現を変えたら欲していた情報が俄然得られるようになったという経験をしたことがある人も多いかと思います。このようにコミュニケーションは大切であると同時に、一方では難しさも併せ持っています。

私は定期的に昇格試験の面談を担当させていただく機会があるのですが、その際に抽象的な質問をすれば受験者からは抽象的な返答しか得られず、具体的な質問をすれば具体的に答えてもらえると感じています。また、こちらが期待している詳細な返答が得られないときには、具体的な質問に変更して再度投げかけることによって相手から得られる情報の量が増えるだけでなく、質も高くなって評価の精度が上がることを肌で感じています。

面談のみならず、コミュニケーションにおいて「質問」は相手を知るうえでとても大切であり、欠かすことができないものです。なかなか必要な情報が相手から得られないと思っている人は、ぜひ一度自分の質問の中身や仕方に意識を向けて、工夫していただくとよいのではないかと考えています。

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第1,245話 外発的動機付けと内発的動機付けのバランスとは

2024年12月18日 | 仕事

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「給与が今よりも高い会社に転職をすることにしました」

これは、先日知り合い40代前半の男性から聞いた言葉です。彼は長年製造業で監督職として活躍していましたが、このたび給与を上げたいと考えていたのだそうです。詳しく話を聞いたところ、現在の業務や会社自体には大きな不満はなかったそうですが、彼が言うには年齢的にもラストチャンスであり、今後必要となる子どもの教育費などのことも考え、転職を決断したのだそうです。

近年、人材の採用難に対する施策の一つとして給与を上げる会社が増えています。雇用される側としても給与は高いに越したことはありませんので、それ自体は歓迎できることで特に問題はないと思います。

この給与が上がることを動機づけ理論の視点で考えると、外発的動機づけであると言えます。外発的動機づけとは、外部からの報酬や罰などの力によってやる気にさせるもので、たとえば金銭的報酬を得たり、ペナルティを避けたりすることなどを目的として行動を起こさせるものです。一般的に外発的動機づけは人を動かす強い力になりますので、有効な手法とされています。ただし外発的動機づけには問題点もあり、報酬や罰などの刺激を与え続けていないと、いずれやる気が失われてしまうことです。

そのように考えると、給与が高い会社に転職をすることはやる気の向上に寄与することにはなりますが、やがては時間の経過とともに上がった給与にも慣れてしまい、だんだんとやる気が失われていってしまわないとも限りません。

先日、高崎市にある「かみつけの里」博物館に行く機会がありました。ここは、榛名山東南麓で出土した5世紀後半(古墳時代)の人物・動物などの埴輪を模型にして、当時の様子を再現し展示している博物館です。館内の一部では「八幡塚古墳」についても紹介しているのですが、まず古墳を作るための工事費は現在の金銭に換算すると10億円ほどであり、そのほぼ全てが人件費に該当したとのことです。しかし、当時は報酬という概念がなかったため、労力の9割を占める村人たちは食事や少しの褒美を与えられるくらいで労働力を提供したと考えられるのだそうです。

それでは、そうした村人達が古墳を作ることへのモチベーションをどのようにして維持できたのかということについて疑問を持ちますが、村人たちは古墳の造営という壮大なプロジェクトに参加できるということが彼らにとってのステータスになったとも考えられるとのことです。現在のように機械はなく人力のみで古墳を作るとなると、強制されムチで打たれて労働力を提供させられていたようなイメージの、これまでの見方は変える必要があるのかもしれないとも紹介されていました。

このことは、まさに現在でいうところの内発的動機付けに当たるものだと思います。内発的動機づけとは、報酬などのためではなく自身の内部から湧き出る意思で動くことであり、私たちは仕事にやりがいを感じられたり何らかのステータスを感じられたりすると、やる気をもって前向きに働くことができるということです。

人材をなかなか採用できない、あるいは貴重な人材に転職や退職をされてしまうことを避けるためには、報酬が上がるという外発的動機付けが手段として有効であることは確かですが、同時にそれだけでは自ずと限界もあります。

したがって、外発的動機付けと内発的動機付けのどちらか一方だけに取組むのではなく、両者をバランスよく組み合わせながら、継続的に社員のやる気を引き出していくことが大切なのです。そのためには、適切なタイミングで報酬や福利厚生などを見直していくとともに、現在の仕事の魅力ややりがいをあらためて理解してもらうことです。将来の展望やそれに向けた計画などを具体的に示すなどにより、引き続き社員にやる気・モチベーションを持ち続けてもらえるようにバランスよく取組んでいくことが大切だと考えています。

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第1,244話 リーダーシップの発揮には様々なスタイルがある

2024年12月11日 | 仕事

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「おまえは30点でいけ」

これは女優の今田美桜さんが、俳優の中井貴一さんから言われた言葉だそうです。

先日、新聞のテレビ欄を見ていたところ「徹子の部屋」の出演者に今田さんの名前があり、加えて「中井貴一さんから言われた言葉が支えになっている」との見出しがありました。

それを見た私は、「中井さんの言葉に影響を受けた人がまたいるんだ」と思い、即座に録画予約をしたのです。

「徹子の部屋」では、今田さんは20歳のときにドラマで共演した中井さんから「おまえは30点でいけと声を掛けられ、その後肩の力が抜けて楽になった。背伸びしすぎなくていいんだ。 その言葉あったから、そのあとも頑張れたのかなった思っている」と語っていました。続けて、「迷ったとき、失敗したときにはその言葉を思い出して、また新たに頑張れる言葉の一つ」だとも話していました。

私はこれまでにもテレビで、吉田羊さんさんや柳沢慎吾が中井さんの言葉によって新たな機会が訪れたという話や、落ち込んでいるところを助けてもらったなどの話をしているのを見聞きしたことがあります。中井さんのことを、様々な人に対してプラスの影響力を発揮されている方だと思っていましたので、テレビの中の人ではありますが関心を持って見てきました。

前述の3人それぞれのエピソードからわかるのは、中井さんはとてもリーダーシップがある方だということです。そして、そのスタイルはぐいぐいと周りを引っ張るリーダーシップではなく、本人が気づいていない演技力を他者に伝えることによって新たな道を開くきっかけを作ったり、中井さん自身の出番は終了しているにもかかわらず、落ち込んでいる共演者の仕事が終わる時間まで待っていてその後食事に誘ったり、さらには今回の今田さんのように今後どのように頑張ったらよいのか悩んでいる人に「30点でよい」と声をかけたりするなど、ソフトなリーダーシップを発揮していると見て取れます。

話は変わりますが、弊社が研修を担当させていただく際に「リーダーシップからイメージすること」を受講者に尋ねることがあります。すると、多くの受講者がイメージするリーダーシップは「指導力」や「統率力」など力強い言葉のイメージが多く、その結果自分はそうしたリーダーシップを持ち合わせていないと感じてしまうことが多いように思っています。

リーダーシップ理論の一つにPM理論というものがありますが、これはリーダーが持つべき機能をP機能(Performance Function:目標達成機能)とM機能(Maintenance Function:集団維持機能)の2軸で捉えるものです。

P機能は成果を出すために発揮されるリーダーシップで、目標の設定や計画の策定をしたり、メンバーへ指示したり、問題発見・課題解決を率先し行ったりするものです。

一方のM機能は、人間関係を良好な状態に保つことによって、チームワークを強化していくスタイルで、具体的にはメンバーを観察して積極的な話を聴いたり、勇気づけをしたりメンバー間が対立したときに調整をしたりすることです。

そして、それぞれの機能の発揮にあたっては様々なやり方・スタイルがあるわけですから、リーダーシップにも様々なスタイルがあって当然で、100人いれば100通りのスタイルがあるということだと思うのです。

中井さんから様々な影響を受けた3人のエピソードを聞くことによって、改めてリーダーシップの発揮には様々なスタイルがあること、ソフトなリーダーシップでも他者との関係性の中で強い影響力を発揮できるのだということが改めて整理できたように感じています。

多くの人にプラスの影響を与え続けている中井貴一さん。これからのますますの活躍を楽しみにしたいと思います。

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第1,241話 情報のファクトチェックとは

2024年11月20日 | 仕事

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記者:「それはファクトなんですか?」

返答者:「それはわかりませんが、作り手(ユーチューバー)が調べていると思いますよ!」

去る11月17日に行われた兵庫県知事選挙の結果判明後に、テレビ局が街頭インタビューをした際のインタビュアーと答え手の間で、このようなやりとりがなされていました。

職員へのパワーハラスメント疑惑等で県議会から不信任を決議され、失職した知事の出直し選挙でしたが、その結果は前知事が再選されました。前述の街頭インタビューでは、知事を支持した人が「ユーチューブではパワハラはなかったと言っている。テレビの報道がいい加減だ。テレビは信用できない」と興奮冷めやらぬ様子で語っている姿が報道されていました。私自身はこれらのユーチューブを見たわけではありませんが、話の様子からはマスコミ等で報道されていたものとはかなり違った内容であると想像できます。これを含め、今回の一連の流れを見ていて改めて思ったことは、自分が目にする情報には事実がどうかわからないこと・間違っていることが含まれている可能性も否定できず、自分で情報の取捨選択をできるようにならなければならないということです。

インターネット上で膨大な情報が発信されるようになり、SNSをはじめとして私たちの身の回りには様々な情報があふれかえっている状態だと感じています。その情報はまさに玉石混合で中には明らかな間違いや偽情報が含まれており、そうした誤情報や偽情報を信じてしまった結果、誤った判断や行動をしてしまう例も少なくないようです。

日本ファクトチェックセンター(JFC)が国際大学グローバル・コミュニケーション・センターと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%だったとのことです。人は誰でもバイアスがあって、情報が自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向があるということです。

前述のインタビューに答えた人も、ユーチューブの内容が事実なのかどうか(少なくともマスコミで報道されていることと違うのはなぜなのか)を自身で考えることなく、頭から正しいと信じているように見えました。

インターネット上の真偽の不確かな偽情報や誤情報に振り回され、間違った判断や行動をしないようにするためには、情報の真偽を検証するファクトチェックを行うことが重要であり、最近では総務省も「ファクトチェック」の推進をしているとのことです。

弊社が担当させていただいている研修でも、インターネットから入手した情報を参考として受講者に提示する機会が時々あります。これまでも情報元の組織や概要を調べることはしていましたが、私自身もその際に自身のバイアスに基づいて情報を判断していることも確かです。

情報はファクトであって初めて意味をなすものであり、誤情報は人の判断を誤らせるものであるとの認識のもと、これまで以上に情報のファクトチェックを怠らないようにしなければならないと思っています。

もちろん、個人でできるチェックには限界があるとは思いますが、それでも何かの情報に接したときに、わからないことがあったり、ちょっとでも疑問を感じたりしたら「これは本当に事実なのだろうか?」と一旦冷静になって、考えてみることが大切だと改めて考えています。

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第1,240話 対象に関係なく、教えたり指導したりする側にとっての大切なポイント

2024年11月13日 | 仕事

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「Aコーチが良いから来ています」

これは私が通っているスイミングスクールの若い仲間が語った言葉です。スクールには老若男女様々なメンバーがいるのですが、長期間通っている人が多く各々の技量の向上に向けて毎週練習に励んでいます。その中の一人が1年前に練馬区に引越しをしたのですが、引き続き品川区にあるこのスポーツクラブまで毎週遠路電車を乗り継いでやってきていて、その彼が語ったのが冒頭の言葉なのです。

彼の言うとおり、我々のAコーチはなかなかに魅力的な人です。具体的には、まず説明がとてもわかりやすく、理論に基づき一挙手一投足の動きを説明してくれるため、我々も十分に納得した上でそれを実践することができるのです。Aコーチは50代だそうですが、現在でも定期的にレースに出て良い成績を挙げていて、経験に裏打ちされた説明には説得力があります。

また、Aコーチはメンバーに一律にコメントをするとともに、個々へのフィードバックがとても豊富です。コーチのコメントに基づき改善できた泳ぎができると、その瞬間に水中で親指を立てて「グッド」を示してくれることもあり、こちらも正しく改善できたことが即座に理解できるのです。そして、25m泳ぎ終えるたびに、「○○さん ここが良くなったですね。あとはこの点をこのようにすると、さらに良いですよ」と言うなど、とても褒め上手でもあります。

さらに一貫して明るく、「必ずできる」といった雰囲気で接してくれるため、たとえ難しい課題を与えられてもこちらも前向きな気持ちなって、俄然モチベーションが上がるのです。現在はメンバー全員に「年末までにバタフライ50m完泳」という目標が与えられていて、毎週それに向けて努力しているのですが、皆、達成できそうな気持になってきています。

このようなAコーチの指導を毎週受けるたびに、私も「教えることとはこのようなことか」と改めて実感しています。知識やスキルを伝えることに加え、やる気にさせることがいかに大切かを改めて感じています。

これらは様々な組織における上司から部下へ、先輩から後輩に仕事を教える際にヒントとなるところが多いと感じます。同時に私が日々担当している研修でも、「Aコーチのようにできているだろうか」と自身で振り返るきっかけにもなっているのです。

一方で、私が担当している研修や職場での指導と、Aコーチをはじめとするスポーツ競技などでの指導では、条件が大きく異なる点があると考えています。

それは、教えられる側のモチベーションの高低です。スポーツなどの監督やコーチが指導する選手は、そもそもその種目に対するやる気が高い人達です。サッカーやラグビーなどの球技スポーツも、駅伝をはじめとする陸上競技であっても、「レギュラーになりたい、試合に出たい」という強い目標があると思います。同じ意味で私が通うスイミングスクールの受講者の多くも、「もっと楽にもっと長く泳げるようになりたい」という前向きな気持ちを持っていて、そもそもモチベーション高い人たちです。

そのように考えると、Aコーチの指導が職場や研修においてすべてが活用できるというものではないとは思います。しかし彼の行っていることは教える対象がどういう人であっても、教えたり指導したりする側にとっての大切なポイントをしっかりと押さえていると思いますので、私も研修講師としてAコーチのようでありたいと考えています。

「教える」ことは実に奥が深く、やり方も一つではないでしょうが、それ故に追求し続けるべき課題であると考えています。

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第1,239話 できない理由を雄弁に語っていないか

2024年11月06日 | 仕事

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弊社ではコンサルティングの相談をいただいたり、研修終了後に質問をいただいたりした際に、こちらから提案をさせていただくことがあります。

その際に「やってみます。アドバイスをありがとうございます」と答える人もいらっしゃいますが、多くの場合はそこでその提案ができない、することが難しい理由を語り始められるのです。

その理由として挙げられるのが、「私はぜひその方法を取り入れたいと思うけれど、うちの社員はとても忙しいので、新たなことを取り入れるのはなかなか難しい」。また、「一般的な業界であればその方法はうまくいくと思いますが、うちの業界は特別だから、そのやり方を取り入れるのは難しい」などなど、「できない理由」を理路整然と、ある意味で実に「雄弁」に語られるのです。

そのような場面では、私は「できない理由」を一通りお聞きした後で、「それでは、今の状態を続けるのが宜しいかと思います」とやんわりとお伝えすることがあるのですが、そうすると今度は「先ほど教えていただいた方法より、もっと簡単にできる方法はないでしょうか」と質問されるのです。しかし、組織で新しいことを始めたり職場の問題を解決したりすることは決して簡単なことではありませんので、本気でそれを解決したいと思うのであれば、時間をかけて真剣に取り組まなければならないことは言うまでもありません。

それでは、そもそもコンサルティングの相談をされる人や研修終了後に熱心に質問されたりするような人が、なぜ「できない理由」を雄弁に語られるのでしょうか。

その理由は様々あるのだと思いますが、一つには課題の解決に相応の時間と労力をかける「覚悟」ができていない、あるいはその権限などがないため、まずそれができない理由を挙げた上で、次に簡単に効果が得られる方法を知りたいと考えられているように思います。

しかし、前述のとおり組織で何か新しいことを導入したり職場の問題や課題を解決したりするには簡単な解決策はないのが実際のところです。本当に解決をしようとするのならば覚悟をもって真剣に取り組む必要があると私は考えているのです。

また、「この業界は特別だから」とおっしゃっている人の話をよくよく聴いてみると、ご本人がおっしゃるほどには特別ではないことが少なくないということは、長年様々な組織の話を聴いてきている中で、私が感じていることでもあります。

このように、できない理由を雄弁に語られる場面に出会ったときに私が思い出す言葉の一つに、「沈黙は金、雄弁は銀」というものがあります。これは19世紀イギリスの歴史家・評論家であるトーマス・カーライルが広めたとされる言葉で、その意味するところは「時として多くを語らない方が良い、つまり沈黙を保つことにこそ価値がある」という状況が存在することを示唆しているものです。

この言葉の意味するところを踏まえると、問題や課題を解決するためや、新たなことに臨むにあたっては、まずは「できない理由を雄弁に語る」ことに終始するのでなく、「どうしたらできるのか」をじっくりと「沈黙して」考え、具体的に取り組んでいくことが必要なのではないかと考えています。

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第1,235話 サービスを提供する側の神髄とは

2024年10月09日 | 仕事

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「このイクラは逆さにしても粒が落ちない。日本ではここでしか食べられない。また、このネタは日本で5%しか食べられないから、食べないで死んでしまう人がほとんど。それだけ珍しくて美味しい」

これは、私が年に何回か行く寿司屋の大将が寿司を説明する際の言葉です。都心から1時間ほどかかる町にあるのにもかかわらず遠方からも足を運ぶ人が多いかなりの人気店であり、さらに10数席しかないということもあり、予約が取りにくい店です。

この店では、寿司ネタが大きいことにまず驚かされるのですが、それ以外にも仕入れから客に寿司を提供するまでの細部にわたる大将のこだわりが特色と言えます。私がいつも驚かされるのは、寿司を出す際に、このネタはどこの海で取れたものかだけでなく、最近は温暖化により魚が獲れる場所や漁獲量にも影響が出ていること、さらに調理や味付けなどについても大将の微に入り細に入った説明があることです。その説明は長い時には3~5分くらいになります。

テーブルに寿司が置かれると、女将から「これから大将が寿司の説明をしますので、しっかり聞いてください」と声がかかります。私たち客は大将の熱のこもった説明に驚いたり唸ったりしつつひたすら傾聴して、その後に寿司をいただくことになるのです。説明を聞いた分、それぞれの寿司ネタの貴重さや有難み、そして何よりその味に納得することができるわけです。

話は変わりますが、私たちはオンオフを問わず様々な企業などからの売り込みのダイレクトメールや電話を受けたりします。こうしたセールスを歓迎してはいませんが、たまたま関心があるサービスやモノのセールスの連絡が来た際には、試しにセールスポイントやその会社のことを質問してみることがあります。

しかし、ほとんどの場合相手のセールスパーソンは端的に説明することができないのです。きちんとした説明ができないだけでなく、中には「最近入社したばかりなのでよくわかりません」や「そういう質問は想定していなかったのでわかりません」、さらに「新人研修の一環として電話をしていますので、わかりません」など、正直すぎる返答をされることも少なくないのです。こうした対応ではサービス検討以前の問題と感じざるを得ないことから、購入にまで至ることはまずありません。

そうした観点で考えると、先述の寿司屋の大将はおいしい寿司を出すのはもちろん、そのためにネタにこだわり、そしてその良さを顧客に理解してもらいやすいように、できるだけ定量化して論理的に説明をしてくれるのです。これは、客に新鮮なネタを満足して美味しく食べてほしいという寿司職人としてのプライドのあらわれであり、サービスを提供する側の神髄を見ているような気にすらなります。

モノやサービスを売るということは、決して簡単なことではありません。しかし、何よりセールスパーソンが熱い気持ちを持って、顧客にわかり易く伝えることができなければなければ顧客の気持ちを動かすことはできないわけです。

そのためには、この大将のようにプライドと熱い気持ちを持って工夫し努力することが欠かせないのではないかと、大将の寿司を食べるたびに思うのです。

という本ブログを書いていたら、近々またこの寿司屋に訪れたい気持ちになりました。(残念ながら予約は簡単にはとれませんが)

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