中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,243話 自分のスキーマを把握しているか

2024年12月04日 | コミュニケーション

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「これはどのようにやればよいのですか」

弊社が研修を担当させていただく際には、テーマにかかわらず講義を行った後に必ず演習に取り組んでいただいています。その際、私としては演習の説明を丁寧に行ったつもりであっても、実際に演習が始まると既に説明をしたことであっても受講者から再度質問されたり、受講者によっては説明の中で指示したことと違うことを始めてしまったりすることがあります。そのようなときに受講者から言われるのが冒頭の質問です。私としては懇切丁寧に説明をしたつもりなのですが、このようなことがあると「伝えることの難しさ」を改めて感じることになるのです。

そうした中、先日今井むつみ氏の「『何回説明しても伝わらない』」はなぜ起こるのか?」という本を読む機会があったのですが、その中では「スキーマ」が取り上げられていました。スキーマとは、認知行動療法における特定の状況や事柄に対する個々人の認知の枠組みのことを言います。スキーマは過去の経験や育った環境などから形成されるものであり、自身の物事への捉え方や対人関係などの行動のパーターンに大きな影響を与えています。今井氏は本の中でスキーマを「当たり前」という言葉で説明していました。自分にとっての当たり前ということです。

これに関して、私たちが他者とコミュニケーションをとる際に、ある事柄について「自分にとっては当たり前のこと」として話をしてしまうと、相手にはきちんと伝わらなかったり、場合によっては誤解をされてしまったりということがありえます。これらのことから考えると、先述のとおりの私が担当する研修においても、幾人もいる受講者の中にこちらの意図が簡単には伝わらない人がいるということは、極々当たり前のことと言えるわけです。

では、このスキーマについて私たちが対人関係においてうまく活用していくためにはどうすればいいのでしょうか。そのためには、まずは自分のスキーマが具体的にどこにあるのかをきちんと認知することから始める必要があると思います。具体的には、自分自身を振り返って再認知するとともに、他者からのフィードバックを積極的に受け入れたり、ときには診断テストなどを受けてみたりするということも、その助けとなるのではないかと考えます。

同時に、他者とコミュニケーションをとる際には「うまく伝わる」ことを前提にするのではなく、そもそも簡単に伝わるものではないということを踏まえておくことが必要です。だからこそ相手にきちんと伝わるようにするためには、繰り返し伝えたり、様々な手段を駆使するとともに、思いがけない他者からの質問に対してはいらいらしたり慌てることなく、根気強く説明をしていくことが大切になります。

このようにスキーマをうまく使いこなすことができれば、他者とのコミュニケーションにおける有効な手段とすることができると思います。私自身、冒頭のような場面でいかに使っていくかを改めて考えているところです。

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第1,242話 マイクロアグレッションをしていないか

2024年11月27日 | コミュニケーション

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「事あるごとに、『て言うか、〇〇だよね』と言われてしまうんです」

これは、先日弊社が担当させていただいたコミュニケーション研修の際に、20代の受講者Aさんから相談をされたときの言葉です。

具体的に話を聴いてみたところ、AさんがB上司に業務の報告をすると、毎回冒頭のように言われてしまうのだそうです。Aさんとしては事実関係とそれについての考えを整理してきちんと報告しているつもりなので、「て言うか・・・」と連発されてしまうと自分を否定されているような気持になってしまい、話を続ける気持ちがすっかり失せてしまうとのことです。

この「て言うか・・・」は、元々は「と、言うか・・・」や「と言うよりは・・・」と表現するところを縮めた言い方だと考えられますが、相手の発言や提案を否定する意味合いを持っています。言っている本人は「そんなつもりはない…」と考えているのかもしれませんが、これを繰り返されると言われている方としては否定され続けているように感じられてしまいます。同時に話を続ける気持ちがだんだんと失せてしまい、やがては自信すら喪失してしまうことになりかねないことが心配されます。

これに関して、最近「マイクロアグレッション」という言葉を耳にするようになりました。マイクロアグレッションとは、「小さい」を意味する「micro(マイクロ)」と「他者への攻撃」を意味する「aggression(アグレッション)」を組み合わせた言葉で、直訳すると「小さな攻撃」と言えます。個人と個人の間のミクロな関係に注目した概念なのですが、B上司はAさんに対してまさにマイクロアグレッションをしていたのかもしれません。

このマイクロアグレッションの背景にあるのが、以前本ブログでも取り上げたことがある「アンコンシャスバイアス」(無意識の思い込みや偏見)です。これは無意識の思い込みや偏見によって、本人にはそのつもりはないけれども他者を傷つけてしまうということです。そのように考えると、冒頭のB上司からAさんへの発言は「アンコンシャスバイアスに基づいたマイクロアグレッション」(無意識の思い込み・偏見による小さな攻撃)に当たると言えるのかもしれません。たとえばBさんは自分よりも上の立場の人や顧客の発言に対しては「て言うか、〇〇だよね」と言うことはないはずです。

それでは相手の発言と自身の考えが異なる場合に、上記のような状況にならないようにするためには、どのように表現したらよいのでしょうか。

それには、相手の意見をいったん最後まで聴いたのちに、「Aさんは○○のように考えたんだね。私の考えはAさんとは少し異なっていて、△△のように考えるけれど・・・」などと言えば、相手が受ける印象は冒頭の例のような頭から否定されたようなものとは全く違ってくるのではないでしょうか。

B上司のように「て言うか、〇〇だよね」を連発している人は、それが自分の口癖なのだと考えるだけでなく、その根底には「無意識による小さな攻撃」があるのかもしれないということを認識することが大切です。

このブログでもこれまで何度も書いてきているように、人と人のコミュニケーションはとても大切なものですが、それゆえに難しいものでもあります。自身の言葉が相手への小さな攻撃になっていないかどうか、一度自身を振り返ってみてはいかがでしょうか。

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第1,238話 声はその人の価値観や生き方まで映す

2024年10月30日 | コミュニケーション

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今年は声優の皆さんの訃報に接することが多い年です。具体的には11名の声優が亡くなられてしまったようですが、中でも「ちびまる子ちゃん」のまる子役のTARAKOさん、「サザエさん」の花沢さん役の山本圭子さん、「ルパン三世」の峰不二子役の増山江威子さん、「ドラえもん」のび太役の小原乃梨子さんは私自身もアニメの中で長年親しんだ声でしたので、とても残念に感じます。同時に各々のキャラクターが他の人の声に代わってしまうと、役そのものが別のものになってしまうようにも感じます。それくらいに声とは、その人(キャラクター)の個性だと言えるのかもしれません。

これまで本ブログでもたびたび取り上げてきていますが、最近若い人(なかでも特に女性)の声が小さいと感じることが多いです。弊社が担当させていただく研修では、演習等で発表をしていただく機会が度々ありますが、その際にマイクを使ってもらっても聞き取れないくらいに声が小さい人がいます。それには、発言する内容に自信が持てないということも影響があると思っていたのですが、実はそれは声の大きさだけでなく声の高さにも関係があることを、この度音声認知の専門家の山崎広子氏の記事(朝日新聞 2024年10月25日)により知りました。

山崎氏によると、日本の女性は本来はもっと低い声のはずの人まで甲高い、場合によっては1オクターブ近く上の声を出しているのだそうです。その理由は、社会(男性)が高い声を暗黙裏に求めているからで、日本の女性は世間から求められているイメージに無意識に自分を合わせてきた結果であるとのことです。

確かに、私自身の記憶でも子どもの頃に固定電話にかかってきた電話に母が出る際に、普段よりも少々高めの「よそ行き」の声で応対していたことが思い出されます。また私自身も、社会人になって電話に出る際に、それに近いことをしてきたのかもしれないとも感じます。

こうしたことを考えると、研修でお会いする受講者の中に極端に声が小さくて聞き取るのが難しいという人が少なからずいるということも、それは声の大きさのみならず声の高さも影響していたのではないかと思っています。つまり、世間(主に男性)から可愛い・保護対象などのイメージと結びつく高めの声を求められていると感じていて、研修でも自身の本来の声とは別の高い声や裏声を出すことで、結果として聞き取りにくい声になってしまっていたとも考えられるということです。

前述の記事の中で、山崎氏は「声は心身の状態だけでなく価値観や生き方まで映す、その人そのものと言ってよい存在。また、日本では自分の声が嫌いな人が8割超に上りました。作り声は、他者だけでなく自分自身をも偽っているようなもの」とおっしゃっています。

他者と話している自分の声の録音を聞くと、日々自分が話している声を聞いているときとは違って聞こえることがあるかと思います。それにはいろいろ理由があるそうですが、もしかするとその一つに無意識に高い声を出しているからなのかもしれないと思うとともに、私自身も自分のありのままの声を自信をもって発していきたいと今回の記事を通して考えました。

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第1,236話 要望に応じられないときの聴き方とは

2024年10月16日 | コミュニケーション

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「顧客の要望に応じることができないときにも、傾聴しなければならないのでしょうか?」

これは先日、弊社が公開型のセミナーを担当させていただいた際に、一人の受講者から受けた質問の内容です。

具体的に話しを聞いたところ、接客時に顧客からの苦情があったものの要望に応じることができない内容だったため、お詫びとともに対応できない旨を伝えたのだそうです。その際、顧客から「私の話に頷いたり、『ええ』や『はい』と言いながら聴いていたじゃないか。それなのに対応できないというのか。だったら頷いたりするんじゃない」と厳しい言い方をされてしまったとのことでした。

一般的には、顧客の要望に応じられない場合であっても、相手の話をしっかり聴く姿勢を示すことは接客対応として重要であると考えられています。その理由としては、頷いたり相槌を打ったりすることで相手への理解を示すとともに、相手の感情をも尊重しているということを表現でき、それらにより顧客との信頼関係を構築することができるからだと言われています。

しかし、頷いたり相槌を打ったからと言って、顧客の全ての要望に同意したことを示すものでないことは言うまでもないことです。とは言え、特に苦情への対応の場合には利害が絡んでいることも少なくないことから、頷くや相槌などの「非言語」が相手方の主張を承諾したかのように受け取られてしまうことがあるのだろうと思います。そして、こうしたことは苦情対応に限らず交渉事や営業などの場面でも少なからず同じことが言えるのではないかと思います。

このように、主張をする側は何とか自分の要望・要求を認めてほしいと思ってそれをしている中で、それにかかるやり取りも自分の都合の良いように受け取ってしまいがちだと考えられます。それでは冒頭の話のような場面ではどのように対応すればよいのでしょうか。

苦情や要望などへの対応には、唯一絶対の方法といったものがあるわけではないと思います。その都度、状況に応じた臨機応変な対応が求められるのも事実ですが、くれぐれも注意をしなければならないのは、苦情や要望に対して嫌々対応しているという雰囲気を出してしまわないことが重要です。

そのためにも何と言っても必要になるのは、やはり「相手の話をしっかり聴くこと」になります。同時にそれが顧客に伝わらないと「話を聴いていない」などと新たな苦情につながってしまいかねないことから、話をしっかりと聴いていることを示すために「相手の目を見る」こと。そして、話が長いようであればメモを取ることがお勧めです。

そして、相手の話が終わった際に、「お客様のご要望は〇〇ということですね。」とメモを見ながら要約し、「内容は理解しました。」とお伝えするとスムースにやり取りが進むのではないかと考えます。そして、そのうえで要望を受け入れらないないことを丁寧に説明して理解していただけるようにしていくという、一連の流れで進めていくことが大切であるというように考えています。

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第1,234話 あなたは人の話を正確に「聴く」ことができていますか

2024年10月02日 | コミュニケーション

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「お尋ねしたのはそういうことではなく、〇〇について知りたいのです。そこを教えていただけますか?」

これは、最近私の知り合いが家電製品を購入する際のやり取りの中で、店員に伝えた言葉だそうです。具体的には、友人は2つの製品のどちらかを購入したいと考え性能の違いを繰り返し質問したのだそうです。しかし、店員は話を聞いているようには見えても、質問の意味を理解できていないのか、ピントのはずれな答えしか返ってこなかったとのことです。結局、知り合いはその店での購入を諦めたと話していました。

知り合いが言うには、店員であっても全ての製品の知識があるとは限らないので、わからなくて返答できないのであれば、別の人に代わってもらうなどの対応をしてもらえれば良かったとのことです。しかし、その時の状況を改めて振り返ってみると、知識の有無というよりもそもそもこちらの質問の意味を理解してもらえていなかったようで、そのために返答がずれてしまっていたのではないかとのことでした。

コミュニケーションにおいては話すことも大切ですが、話をすることの前提として聞くことの重要性について注目されるようになって久しいです。特に、コミュニケーションでは傾聴することが必要不可欠であると多くの人が理解しているのではないかと思います。

傾聴とは、「話し手の話を心を傾けて熱心に聴くこと、相手の言いたいことを言葉や態度で丁寧に示しながら聴くこと」です。これはアメリカの心理学者であるカール・ロジャースが提唱したもので、ロジャース自身がクライアントに対して行うカウンセリングにおいて、傾聴することの有効性を強く感じたことが始まりと言われています。

私自身の経験でも、研修を担当している際に受講者が頷いたり、前のめり(積極的)になったりするなどの傾聴の姿勢を示してくれると話がし易いと感じますので、傾聴は本当に大切なことだと思っています。

しかし、傾聴してくれているように見えても、実際にはこちらの話や意図があまり通じていないということが少なからずあるのも事実です。冒頭の例のようにこちらの意図とは異なる返答をされてしまったりすると、コミュニケーションを深めることができず、話が終わってしまうことになってしまいかねないのです。

それでは、相手の話をしっかり正確に聞きとれるようにするためには、どうすればよいのでしょうか?

相手の話を集中して聞くことはもちろんですが、自分の経験や考えに基づいて相手の話を解釈してしまうと正しい理解が難しくなる場合もあるため、まずは自身の先入観や偏見といったものを排除することが重要になると思います。さらには、自分の答えのピントがずれているようであれば、相手(話し手)が話が通じていないという表情になるなど何らかの変化が生じる場合もありますので、こうした「非言語的のサイン」を見落とさないことも必要です。

私は、コミュニケーションには「聞く(聴く)」「理解する」「表現する」などの総合的な力が必要だと考えていますが、それはあくまで話し手と聞き手の双方向で分かち合いながら行われるものです。

一方通行では成立し得ないものだからこそ、私たちはまずは相手の話を傾聴したうえで、先述のように相手が言わんとすることを正しく理解することができているのか、そしてそれに対して自分の考えをきちんと返せているのか、コミュニケーションの中で見返すことが必要だと考えています。

あなたは人の話を正確に「聴く」ことができていますか。

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第1,233話 1on1 ミーティングを意味のあるものにするためには

2024年09月25日 | コミュニケーション

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「部下とのコミュニケーションは1on1 ミーティングがありますから大丈夫です」

近年、「1on1 ミーティング」という言葉を聞くことが増えたと感じています。弊社では管理職昇格試験の面接における外部面接官を担わせていただくことがありますが、その際の口頭試問においても「1on1でコミュニケーションは積極的にとっていますから」と答える人が多数います。また、管理職研修を担当させていただく際にも、部下とのコミュニケーションを取る手段として同様に1on1ミーティングを挙げる管理職が増えてきたと感じています。このように、最近1on1ミーティングを行えばコミュニケーションは万全だと考えている人が多くなったように思います。

この「1on1 ミーティング」(one on one meeting)とは、文字通り一対一で行う面談であり、上司が部下の育成を目的に部下の仕事に対しての考えや問題点の有無を確認したり、今後の展望や希望などを確認したりすることを目的として行うものです。このミーティングは1~3か月に1度位の頻度で開催しているところが多いようです。

1on1 ミーティングを導入したことによって、部下とのコミュニケーションの時間をなかなか作れなかった管理職が定期的に部下との接点を持つことができるようになり、部下の現状や考えを知ることができる機会になるなど、メリットを感じている人の声をたくさん聴きます。

一方、部下の方からは1on1により上司との接点は増えたものの、上司からの一方的な話を聞くだけだったり、自身が話をする時間はあまりないと感じていたりするなど、1on1 ミーティングのメリットを感じないという声を聞くことも少なくありません。

実際、先日お会いしたある企業の中堅社員からは、「仕事における問題を解決するために他部署との交渉の援助を依頼したものの、一向に上司が動いてくれることはなかった。話をしても何も変わらず、何のためのミーティングだったのか。このような結果をもたらさないミーティングであれば、実施する意味を見出せない」という声を聞きました。

この話を聞いて思ったのは、1on1ミーティングはあくまでも「手段」であって「目的」ではないのですが、管理職によっては1on1ミーティングを行うことが目的となってしまっている人が少なからずいるのかもしれないということです。

それでは、1on1 ミーティングを意味のあるものにするためには、どうすればよいのでしょうか。

そもそも、1on1という言葉が出てくる以前から上司と部下との1対1の面談は行われていたわけで、1on1自体が取り立てて新しいことではないのですが、対面して行う面談を本当に有効なものにするためには、その際の上司の「話の進め方」が鍵になるのではないかと考えています。

対面で面談を行う目的は、部下の仕事の現状や問題点、今後の展望などを確認し、必要なアドバイスをすることです。そのためには、部下からきちんと話を聞きだすことがまず必要になることから、上司は事前に質問・確認する内容を整理しておくとともに、話を傾聴するなどのコミュニケーションの基本を改めて確認しておくことが大切です。事前に十分に準備して面談に臨めば、部下からたくさんの情報を収集することができ、的確なアドバイスを行うことができます。それによって部下の気持ちのリフレッシュも期待できるのではないでしょうか。

漫然と1on1 ミーティングを行ったり、話が一方通行で終わったりするなどの事態にならないようにするために、上司の皆さんには事前に十分な準備と段取りをしてからミーティングに臨んでいただきたいと考えています。

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第1,228話 部下に自分の言葉で話してもらうことから始める

2024年08月21日 | コミュニケーション

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「部下に何度言っても、言ったとおりにやらないんです」

「部下に伝わらないので、つい『だから・・・!』と感情的に言ってしまうのです」

これらの言葉は、弊社が管理職研修や部下育成研修を担当させていただいた際に、必ずと言ってよいくらいに受講者から相談される内容です。

部下の育成に関する悩みは、古今つきないものだと思います。毎年厚労省が行っている「能力開発基本調査」の最新の令和5年の調査においても、人材育成に問題があるとしている会社は約8割になっています。この数値からも、現場での部下育成が思うように進んでいないことが伺えます。

さて、先日パリオリンピックが終了したところですが、日本選手団の活躍は国外開催の夏季五輪で史上最多となる20個の金メダルを獲得しました。それだけの活躍ができた背景には様々な理由があるのだと思いますが、その一つには外国から招いたコーチの指導があると言われています。

報道された中で私が最も印象に残っているのは、男子バレーボールチームを指導したフランス人のフィリップ・ブラン氏です。各国での指導経験を持つブラン氏は2017年から日本チームでの指導を始め、強豪国とも対等に渡り合えるようになったものの、就任当初は日本人選手との接し方に戸惑いを覚えたといいます。

それについてブラン氏は、「選手それぞれと面談をして、『私は君にこういうプレーを求めている』とリクエストを出したんです。選手たちはみんな『ハイ』と答えていたんですが、まったくプレーが変わらない。最初は通訳が正しくないのかと思いました。私もあきれて、3度目の面談の時には『私の方から説明はたっぷりしたから、今度は私がいったい何を求めているのか、あなたの言葉で説明してください』と言ったら、みんなびっくりしていました。日本の選手たちは心の中では『ノー』と思っていても、指導者の前では『ハイ』と言える。そうした社会になっています。これは私にとって大きな学びでした」といった話をしています。こうした中で、指導してもそれがなかなか生かされず、チームの成績にも結び付かないということが続いたのではないかと思います。

これは、指導が一方的な情報の伝達になってしまっていて双方向のやり取りになっていない状況であり、「はい」と返事はするものの実際は内容がきちんと伝わっておらず理解されていない状況であり、結果として指導にはなっていないということです。

同じように、部下がなかなか育たないと悩んでいる管理職の皆さんは、部下に指示をしたり指導したりする際に、一方的に伝えるだけで終わってしまっているのかもしれません。そして、伝えたことが部下にきちんと伝わったか確かめることをしないままで、部下を指導したつもりになってしまっているように思えます。

自分が伝えたことが相手に理解をされているのかどうかは、まさにブラン氏が行っているように、部下の言葉で語ってもらうことによって、どれくらい伝わったか、理解されたのかを確認できます。ブラン氏は先述のようなコミュニケーションを選手と行うことによって少しずつ信頼関係を築いていき、チームの成績もそれに伴って上がっていったとのことです。

部下が育たない、部下に伝えたはずのことが伝わらないと悩んでいる管理職の方は、この例のように部下に自分の言葉で話してもらうということから始めてみてはいかがでしょうか。

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第1,214話 孤立感をもたせないためには

2024年05月08日 | コミュニケーション

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今から半年ほど前の朝日新聞の「孤立したアリ(蟻)は短命になる (2013年10月23日)」という記事が強く印象に残っています。その記事には、孤立したアリは活性酸素が増え、それが原因で寿命が短くなったということが書かれていました。

さて、ゴールデンウィークも終わり、職場に配属された新入社員は今後本格的に仕事を覚えていくタイミングになりました。当の新入社員の中には、これから職場に馴染めるだろうか、仕事をしっかり覚えられるだろうかなどと心配をしている人も少なくないだろうと思います。一方で仕事を教える側(OJTトレーナーなど)の先輩社員や上司にも、仕事をきちんと教えられるだろうかと心配している人、しっかり育てるぞと思いを新たにしている人もいるのではないでしょうか。

それぞれの職場では、新入社員に早く仕事を覚えてもらうために様々な工夫をしていると思いますが、その中で私が重要だと考えている一つが、先述の記事にあった「孤立させない」ということです。改めて「孤立」と言う言葉を辞書で調べてみたところ「他とかけはなれてそれだけであること。ただ一人で助けのないこと」(広辞苑)とあります。これを職場で考えると、新入社員に全く関心を示さない、気にかけることがないなどにより、周囲からの助けがない状態に置かない。そして何より、そのような雰囲気を作らないということが大切になると考えます。

職場で上司や先輩社員をはじめ大勢の人がいるのにもかかわらず、自身への関心が示されず、困っているときにも助けてもらえない。また、周囲が絶えず「忙しいオーラ」を出して周囲の人に話しかけにくい、質問をしにくいような雰囲気があると、新入社員にとっては周囲の人たちに話しかけようとするハードルが高くなってしまいます。その結果孤立感はどんどん深まっていってしまうのではないでしょうか。

それを防ぐためには、職場においては積極的に周囲に話しやすい雰囲気を作るように心がけることが大切です。具体的な取り組みとして仕事時間中に質問の有無にかかわらずディスカッションタイムを設けること、新人とOJTトレーナーの組み合わせのみならず、様々な組み合わせで、双方向のやりとりができるようなフリーディスカッション時間を設けるなどから始めてみてはいかがでしょうか。もちろん、その際には聞き手は話し手の話に対して頷くなどの関心を示したり、タイミングよく反応したりすることが大切なことであるのは言うまでもありません。

そして、先述の記事の終わりには「今後、社会的な関わりが生き物の健康を左右することを、アリを使って解明していきたい」とも書かれていました。このように職場で孤立をさせない、職場での良好な雰囲気や人間関係を作っていくということは、新入社員だけでなく職場のすべての人の健康にも関わる重要な問題だと考えています。社員が心身ともに健康で働くことができるようにするためにさらに職場でできることがないのか、改めてこの機会に見直してみてはいかがでしょうか。

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第1,212話 多数決ではなく、対話して議論を深めよう

2024年04月17日 | コミュニケーション

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「では、多数決で決めましょう」

弊社が研修を担当させていただく際には、テーマにかかわらず多くの場合、講義と演習を繰り返しながら進めていきます。演習では3名から6名で1つのグループになっていただきますが、初対面の人同士のグループでも最初は少し遠慮がちにしていても、演習を進めていく中で徐々にうちとけて意見交換が盛んになっていきます。そのためグループ演習に取り組んでいただくことは各テーマの理解を深めるだけでなく、チームワークを作り上げる上でもとても有効な手段です。

しかし最近では、そのグループ演習での討議の様相が少々変わってきているように感じることが増えてきています。それは、メンバー同士で積極的に意見交換をしたとしても、最終の意見のまとめはそれまでの議論の経緯とは別に、多数決で決定することが多いのです。

多数決は民主主義の基本と言われているように、多くの人が子どものころから慣れ親しんできている方法だと思います。たとえば小学校の学級会などで何かを決める際には、みんなで意見を出し合った後に多数決で決めるという経験をした人はたくさんいると思います。このように、多数決は物事を決定する際の最も基本的な方法ということなのでしょう。

しかし、前述のとおり最近ではグループ討議を観察していると、「最後は多数決で決めればよい」ということを前提に話し合いをしているように見えることが少なくありません。たとえば、演習であるテーマについて話し合いをしてもらうような場面では、まず一人一人順番に意見を言い、それを聞いた周囲のメンバーはその意見に「いいね」や「なるほど」などと同調はするのですが、その意見に対して「なぜそのように考えたのか」を聞いたり、それに対して「自身はどのように思うか」などを発言することは少ないのです。こうした結果、議論の中でメンバー間の実のあるやり取りが少なく、最後のとりまとめも多数決で決めるため、あまり議論が深まらないということになってしまいます。

多数決は一見公平な方法のようにも見えますが、よく言われるように、多人数が支持する意見が必ずしも正解とはかぎりませんし、少数意見に耳を傾けないことにもなってしまかねないという一面も持っています。日本人の多くが多数決を好む理由には、文化的な要因や社会的背景、歴史的な影響などが関係しているようにも言われています。確かに周囲との衝突を避けてうまくやっていくことを重視するあまり、自分とは異なる意見に対して自分の考えを主張することを控えてしまうということが少なくないように思います。こうしたこともあって、結論を出す場合にもわかり易くかつ反対も出にくい多数決という方法を選択するということなのかもしれません。

仕事に限らず、コミュニケーションの重要性は日々様々な場面で叫ばれていますが、そのためにはまずは積極的に対話をしていくことが大切です。意見の異なる相手ともお互いの立場や意見の違いを理解し、その上で簡単に多数決などに流されることなく一致点を探っていくという努力が必要不可欠だと思うのです。

以前、どこかのメディアで「最近の若い人は周りから浮いてしまうことをおそれるあまり、自らは強い主張をしない」というような話を聞いたことがあります。「出る杭は打たれる」ことを恐れずに、意見の異なる相手とも積極的に対話していくことを意識していくことが大切なのではないでしょうか。

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第1,204話 「君付け」で後輩や部下を呼ぶ人の意識とは

2024年02月21日 | コミュニケーション

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「先輩社員から『〇〇君』と、「さん」付けではなく呼ばれることに抵抗があります。これはビジネスマナーのルール違反にはならないのでしょうか?」

これは、先日弊社が若手社員の研修を担当させていただいた際に、ビジネスマナーの振り返りをした中で、一人の受講者から尋ねられた質問です。ちなみにこの「君付け」、最近の学校では男女を問わず「さん」と呼ぶことが多くなっているようですが、一方で国会中継などを見ていると議員のことを呼ぶ際に「〇〇君」と言っています。そこでここではあくまで職場での呼び方について考えてみたいと思います。

さて、職場内では以前から他者のことを「〇〇さん」ではなく、「〇〇君」と君付けで呼ぶ人がいます。実際、私が会社員をしていたときにも、後輩社員を「〇〇君」と呼ぶ同僚がいましたし、現在も研修を担当させていただいている会社の担当者が、後輩社員を「〇〇君」と呼んでいるのを頻繁に耳にしています。

それでは「〇〇さん」でなく、敢えて「〇〇君」と呼ぶのには何か理由があるのでしょうか。以前から気になっていたことから、実際に職場で君付けをしている人に尋ねてみたことがあるのですが、一様に「親しみを込めて使っている」との返答でした。本人はあくまでポジティブな気持ちから使用しているようなのですが、一方では冒頭の質問をした受講者のように、君付けで呼ばれることに抵抗感を持っている人も少なからずいるのではないかと感じています。

いくら「親しみを込めて言っている」としても、目上の人に対してはさすがに君付けでは呼ばないはずです。そのように考えると、君付けをしている人は後輩社員に対して、無意識であったにしても「自分より目下の存在である」というような、何らかの意識が働いているのではないでしょうか。そのため、職場などで何かのきっかけで相手に対する言動が「上から目線」になったり、上から下への命令口調になったりしやすいということがあるのではないかと考えています。

これに関連して、先日(2024年2月17日)の朝日新聞の天声人語に、刑務所や拘置所などに収容されているすべての人について、今年4月から「名字+さん」でよばれることになるという記事が載っていました。かつては番号で呼ばれたという受刑者について、戦後は番号ではなく苗字を呼び捨てで呼ばれることが多くなったとのことでしたが、以前に起こった刑務官による受刑者への暴行事件等を受けた改革の一環として、呼び方を「さん」付けに変えるとのことでした。

ちなみに、「さん」は江戸時代に「様」から転じて使われるようになったということで、年齢や性別に左右されずに誰にでも使用できる呼び方とのことです。確かに「君」より「さん」のほうが語感も柔らかいように感じられ、使いやすいように思えます。

「たかが呼び方、されど呼び方」かもしれませんが、同時に朝日新聞の記事にもあったように、「呼び方」によっては様々な(上下の)関係のあり方が固定されてしまうというような面も持っているのではないでしょうか。これまでは、小さなこととしてあまり真剣に取り上げられることが少なかったテーマかもしれませんが、私は人の気持ちに大きく影響する大切な事柄なのではないかと考えています。

さて、あなたは職場でどのような呼び方を使っていますか?また、あなたの職場全体ではどうでしょうか?もし、呼び方が職場の人間関係などに何らかの影響を及ぼしている可能性が考えられるのなら、一度皆で話し合って別の呼び方を試してみてはいかがでしょうか。

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