思い出ダイバー 参

小学生の時の夏休みの予定は、6年間変わらず母の実家がある長崎県の大村市に行くことだった。飛行機で行くことが多かったが、何度かはブルートレインや新幹線などの別の交通手段で行ったこともあった。

何歳のころだったかすっかり忘れたが、とても印象に残っている事がある。

通勤前（今思うと、午前休を取ってくれたのだろう）の父と一緒に東海道線に乗って川崎駅で降り、タクシーで羽田空港まで行く。朝が早い便だったため、朝食は空港でサンドイッチとオレンジジュース。普段と違う環境に当時の私のテンションメーターは既に振り切れ状態だ。祖父母や従兄弟に渡すお土産と、機内で読むためのなぞなぞの本を父に買ってもらい、後は時間が来るまで何度もチケットを取り出しては出発時間や座席番号を確認後、リュックのポケットに入れなおす事を繰り返す。周りの人間の目には、興奮して顔を真っ赤にした小学生がおかしな行動をとっている姿が映っていたはずだ。

ANAのジュニアパイロット（今は「ANAキッズらくのりサービス」というらしい）という制度をご存知の方もいらっしゃるだろう。係員が搭乗口から機内まで引率してくれて、到着後も到着ロビーまで引率してくれるサービスだ。機内ではおもちゃやジュースがもらえたりと、子供にはとても至れり尽くせりだった気がする。

搭乗手続きをした後、父と別れて係員のところへ行く。周りには私と同じくらいの歳の小学生が10人ほど集まっていた。子供たちは一般の乗客よりも早く搭乗することになるためである。皆、胸には自分の名前が書かれた名札を胸元につけていた。一様に誇らしげな表情をしていたことだろう。

1時間半のフライトを経て、係員に引率されたジュニアパイロットの子供たちは到着ロビーにやってくると、それぞれの出迎えの人に向かって笑顔で走り出した。私も漏れなくその一人であり、祖母と伯父を見つけて叫びながら走っていた。

長崎空港は大村市の大村湾に浮かぶ箕島（みしま）全域が空港として使用されている。空港から海岸に向かって延びる2km程の道路を、伯父の車に乗って大村市内へ向かう頃には、父に買ってもらったなぞなぞの本は既に役目が終了しており、3週間ほどの期間を過ごすための予定を考えることで頭がいっぱいになっていた。だが、到着後の予定は毎年変わらず「皿うどん」を食べることである。これは毎年の恒例行事だ。

その夜は一人で飛行機に乗ったことに興奮していたのか、それとも暑い夜のせいなのか、蚊取り線香の煙が漂う蚊帳の中で、なかなか寝付けない自分がいた。

(照)


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