最近の潮流としてビジネスマンは網棚にカバンを置かない。網棚に乗せなければ重要機密が入っているカバンをそこに忘れたり誰かが似たカバンと間違えて持って行ってしまうリスクをゼロにすることができる。そんな訳で網棚が荷物でいっぱいという状況には最近ほとんど出会わなくなった。
その日も電車に乗ると網棚だけはスッキリしていて、どこでも自分のスペースとして使うことが出来た。私のカバンは重く大きい。電車に乗ると手に持っているのが急に嫌になるシロモノだ。どすんと網棚に乗せ、つり革に掴まった。視線を落とすと前の座席に座って隣に並んだ子供たちに何かを話し込んでいる男性が目に入った。その横顔を見て、私は固まった。
父はある年職場に入って来た3人の若者を自分の子分のように、いつでもどこでも連れ回した。土曜の深夜、父と、この3人が大声で騒ぎながら帰ってきたことが何度あったことか。ただ不思議なことに日曜の朝になると3人の内2人は姿を消しており、いつもその人だけがわが家に残って神妙に母の作った味噌汁などをすすっていた。父は日曜日だというのにさっさと外出してしまい、まだ小学校にあがる前の私と幼稚園に入る前の妹はその人に連れられて横浜の百貨店に出かけたりした。屋上にある遊園地などに行くのが定番だったのだが、乗り物に乗って遊ぶより、その人が話す不思議な世界の出来事を聞くほうが私には面白かった。
その人の創作した話しだったのか、どこかで読んだ話しだったのかわからないが宇宙から飛んでくる円盤の話しや人類に紛れ込んでいる宇宙人の話し、時間旅行の話しなど、その日最初に話し始めたテーマの話しが、電車の中でも屋上遊園地のベンチで休憩しても続いた。
ある日話してくれた話しは、今でも忘れることが出来ない。事故の影響で強い衝撃を受けた列車が乗客を乗せたまま何十年か未来の線路を走る話しだ。乗客は未来の風景を眺めながら東京の街を走る。とてつもなく高いビルや奇妙な服を着た人が手に不思議な機械を持って歩きながら仕事をしている姿などが目に入って来る。やがて列車はある駅で止まり、乗客は周囲の風景に驚きの声を上げてぞろぞろと列車を降りる。そのうち、駅のホームの片隅に立っている碑の前で悲鳴をあげる人が現れる。それは事故の記憶を風化させないために立てられた慰霊碑で、そこには悲鳴を上げた人の名前が刻んであった。結局、列車から降りて集まってきた人たち全員の名前が刻まれていることがわかった、という話し。
つり革に掴まりながら呆然としているのは、あれから50年近くも経過した私である。ただ、目の前にいるのは、あの時のまま少しも変わらないその人だった。
慌てた。頭の中は慌てているのに体は固まっている。良く似た人がいるものだと笑い飛ばせばいいだけだった。だが慌てた挙句、私は降りなくてもいい次の駅で電車を降りた。
降り際、その人の方を振り返りたい衝動を抑え切れず、振り返ると、その人はいかにも親しそうな顔をして目だけで私に挨拶を送ってよこした。そして隣に座った子供たちに私のほうを指さして「あの人が」と言っているような気がした途端、ドアが閉まって見えなくなった。
その人の隣に座った子供たち2人もどこかで見たような気がしたが、あまりにもよく似たその人に気を取られて注意を払う余裕が無かった。男の子とその妹のような女の子だった。(三)
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横浜に拠点を置くソフトウェア開発・システム開発・
製品開発(monipet)、それに農業も手がけるIT企業
その日も電車に乗ると網棚だけはスッキリしていて、どこでも自分のスペースとして使うことが出来た。私のカバンは重く大きい。電車に乗ると手に持っているのが急に嫌になるシロモノだ。どすんと網棚に乗せ、つり革に掴まった。視線を落とすと前の座席に座って隣に並んだ子供たちに何かを話し込んでいる男性が目に入った。その横顔を見て、私は固まった。
父はある年職場に入って来た3人の若者を自分の子分のように、いつでもどこでも連れ回した。土曜の深夜、父と、この3人が大声で騒ぎながら帰ってきたことが何度あったことか。ただ不思議なことに日曜の朝になると3人の内2人は姿を消しており、いつもその人だけがわが家に残って神妙に母の作った味噌汁などをすすっていた。父は日曜日だというのにさっさと外出してしまい、まだ小学校にあがる前の私と幼稚園に入る前の妹はその人に連れられて横浜の百貨店に出かけたりした。屋上にある遊園地などに行くのが定番だったのだが、乗り物に乗って遊ぶより、その人が話す不思議な世界の出来事を聞くほうが私には面白かった。
その人の創作した話しだったのか、どこかで読んだ話しだったのかわからないが宇宙から飛んでくる円盤の話しや人類に紛れ込んでいる宇宙人の話し、時間旅行の話しなど、その日最初に話し始めたテーマの話しが、電車の中でも屋上遊園地のベンチで休憩しても続いた。
ある日話してくれた話しは、今でも忘れることが出来ない。事故の影響で強い衝撃を受けた列車が乗客を乗せたまま何十年か未来の線路を走る話しだ。乗客は未来の風景を眺めながら東京の街を走る。とてつもなく高いビルや奇妙な服を着た人が手に不思議な機械を持って歩きながら仕事をしている姿などが目に入って来る。やがて列車はある駅で止まり、乗客は周囲の風景に驚きの声を上げてぞろぞろと列車を降りる。そのうち、駅のホームの片隅に立っている碑の前で悲鳴をあげる人が現れる。それは事故の記憶を風化させないために立てられた慰霊碑で、そこには悲鳴を上げた人の名前が刻んであった。結局、列車から降りて集まってきた人たち全員の名前が刻まれていることがわかった、という話し。
つり革に掴まりながら呆然としているのは、あれから50年近くも経過した私である。ただ、目の前にいるのは、あの時のまま少しも変わらないその人だった。
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降り際、その人の方を振り返りたい衝動を抑え切れず、振り返ると、その人はいかにも親しそうな顔をして目だけで私に挨拶を送ってよこした。そして隣に座った子供たちに私のほうを指さして「あの人が」と言っているような気がした途端、ドアが閉まって見えなくなった。
その人の隣に座った子供たち2人もどこかで見たような気がしたが、あまりにもよく似たその人に気を取られて注意を払う余裕が無かった。男の子とその妹のような女の子だった。(三)
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