ジャパニーズルーレット

　大おむかしに作られた石の建物や橋は今も健在なのに、今から50年ほど前、ちょうど東京オリンピック前あたりに急ピッチで作られた建物や道や橋などはもうボロボロになってしまっているものが多い。ボロボロという言葉通り本当にボロボロで検査のために小さなハンマーでコンコンと叩くと橋桁が崩れてしまう映像などが、ひっそり公開されている。
　
　JR北海道がずさんだと盛んに報道されているが、橋や道路の管理を話題にすればJR北海道はまだマシな方だと言ってもいいぐらいお寒い状況だ。まだ自動車が走り列車が走りしているのが不思議なくらい危険な状態の橋やトンネルが検査するたびに増えている。
　
　NHKスペシャルで8/4に放映された「調査報告　日本のインフラが危ない」をご覧になった方もいるだろう。この中で地方自治体が検査してOKを出した橋を土木学会の高木千太郎さんが専門家の目で見て回ると、あっちもこっちもひどいものだとわかってしまい自治体がオロオロする姿が映し出されている。映像だけ見ていると、別に専門家でなくとも、普通の人が普通に見ても危険じゃないのこれ？と思うような橋が映る。どれも自治体が検査して大丈夫と太鼓判を押している橋だ。取材できた橋などごく一部だろうから、全国の状況を考えると運輸の仕事に就いている方々が気の毒になるぐらいだ。
　
　もちろん寿命が来ているのは橋やトンネルだけではない。管とかパイプとか中に水やガスやケーブルを通すタイプのインフラもひどいことになっている。特に水道管や下水道管の損傷は恐ろしい。漏れた水が道路の下やトンネルの壁の隙間に巨大な空間を作り、ある時ドサッと崩壊する。日本全国で今現在どれぐらいの数補修を必要とする漏水箇所があるのか誰も知らない。おそらく今後、降れば土砂降りの異常気象の影響で、これまで以上に土中の崩壊が加速し危険な空洞が育つ速度が速まるだろう。交通量の多い道路では大事故が起きないように検査を徹底して欲しい。
　高齢者の暮らしを守るための費用を捻出したくともそれができない社会構造になっている。しかも、日本はすでに世界に冠たる大借金国だ。1000兆円を超える借金を抱える国家など未だかつて世界に存在してこなかったので救済対策など誰にもわかるわけは無いのだが、少なくとも国債の金利はまだ何とか平穏な動きになっている今、とにかく消費税を上げて財政再建への心意気を見せなければ国債の金利が上がって収拾がつかなくなってしまう。上げた消費税は本来福祉に向けたかったが、経済活性化の費用としないと税収がさらに減る。インフラの全面的な修繕に向ける費用などほとんど無いのが現状だ。
　
　せっかく2020年の東京オリンピックという大きな区切りとなる目標が出来たのだから、少しでもインフラ修繕への費用を捻出しないと日本は命がけで来る国というイメージができあがる。ロシアンルーレットと言えば一発の銃弾を入れたリボルバーを回して死ぬか生きるか賭けることだが、「日本に行く」ということ自体がそれに近い賭けとして、イギリスのパブあたりでビールを飲みながらオッズが話題になる日も近い。世界の都市は高層ビルが林立しているが、日本では福島原発から溢れ出した汚染水を貯めるタンクが林立し、車で走ればいつ崩れるかわからないトンネルと橋だらけの国だとアマゾン奥地で暮らすヤノマミ族でさえ知るところとなるだろう。
　
　日本人ならそうなっても、汚染水タンクを寄せ集めて五輪のマークを作ってみたり、崩れた橋を見ながらお茶会を開いて一句読むぐらいの風流さは持っているかもしれないが、そんなことで自分を慰める前に、100年でも1000年でも壊れない丈夫な部材を開発し、安価に作り変えられる工法を編み出して危険なインフラを刷新して行きたい。予算が無いのだからアイデアと工夫で乗り切るしかなかろう。国家も企業も似たようなものだ。新しいものを作ることだけが大事なのでは無い、ということだ。今あるものをもう一度見直し、綺麗にそして安全に整えることも大切だ。国民の多くが意を決しなければ、それは出来ない。それもまた、お・も・て・な・しの心の一つの現われだろうと思う。（三）


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