厚い雲に遮られてギラギラ照りつける陽の光が届かないためか、幾分涼しい気がする午前中だったが、午後はまた猛暑に逆戻りの日曜だった。
となり町まで散髪に出かけ、帰りに通りかかった八百屋でトウモロコシとスイカ6分の1カットを買う。切り分ける前のスイカが脇に置いてあったがとんでもなく巨大だった。そこいらの店で「これはでかい」と思うスイカの倍はありそうだ。これを丸ごと買って行く人はどんな人なのか見てみたいという衝動に駆られたが、休日とはいえ、じっと張り込みを続けられるほどヒマではない。カットされてなお重いスイカとトウモロコシをぶら下げて日盛りの道を帰る。
シュワシュワとクマゼミが鳴いている。暑さとともに北上して来たのだろう。地元のミンミンゼミやアブラゼミを応援したい気持ちになる。
わが家の玄関脇の紫陽花の葉の下には、びっしりとセミの抜け殻が張り付いている。何年か前に親ゼミが産んだ卵が近くにたくさんあったのだろう。よくぞ生き延びてくれたものだ。おそらく数年は同じ敷地で寝起きを共にしたかもしれないセミたちだ。もう家族も同然と言って良いだろう。外からやって来たクマ公なんかに駆逐されるんじゃないぞ。
何日前だったか、夕暮れの公園を散歩していて、道端にひっくり返って助けを求めているカブトムシを見つけた。小さくて不器用なやつだった。助け起こして放してやればよかったが、ガシッと持っていたタオルに張り付いて離れない。近くで遊んでいる子供でもいれば自慢気にプレゼントしてやろうなどと目論みつつ散歩を続けた結果、ぐっしょり汗をかいたジョギングおじさんにしか会わないという悲劇に見まわれ、カブトムシ君は貰い手もないままわが家の客人となった。
カットガーゼに砂糖水を染み込ませて小皿に乗せ、黒黒としたチビすけを放つと一瞬何事かという顔をした後、ガバっとガーゼに張り付いて恍惚の表情で動かなくなった。よほど腹を空かせていたか、人類の英知が創りだした純粋な砂糖水のような甘さに度肝を抜かれてしまったに違いない。夜が更け、家族の皆が寝静まる頃になっても固まったカブトムシは動こうとしない。急性砂糖水中毒にでもかかって、お陀仏になってしまったのかと、頭をつついてみたら、むっくり顔を上げて「何?用が無いなら放っといて」という表情をする。
客人にはおもてなしの精神で接するのが2020年のオリンピックを控えたわが日本人の心意気ではある。がしかし、もう眠いと思った私はテッシュの空き箱で作った即席虫かごに小皿に乗ったカブトムシを小皿ごと突っ込んで寝てしまった。
翌朝になってみると即席虫かごの中にカブトムシは見つからず、部屋中声を限りに探し回ったがどこからも返事がない。出入口は全て網戸で密閉されている。部屋の外に出ることが出来るとも思えない。年末あたりになって、タンスの後ろから干からびたカブトムシが発見されるという事件が発生しないとも限らない。考えたくない。が、今は見つからないのだから仕方がない。
カブトムシも腹が減る。翌日夜になったら「メシを喰わせろ」と向こうから出て来たのである。ホコリだらけの姿ではあったが公園で見つけた時のように弱々しい印象は無い。元気がいい。やはり砂糖水を振る舞いつつ、公園にお帰り頂くことにした。
やつは今でも元気でやっているだろうか。暑い8月の炎天下をスイカとトウモロコシをぶら下げて歩く。(三)
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センサー、IoT、ビッグデータを活用して新たな価値を創造
「できたらいいな」を「できる」に
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株式会社ジェイエスピー
横浜に拠点を置くソフトウェア開発・システム開発・
製品開発(monipet)、それに農業も手がけるIT企業
となり町まで散髪に出かけ、帰りに通りかかった八百屋でトウモロコシとスイカ6分の1カットを買う。切り分ける前のスイカが脇に置いてあったがとんでもなく巨大だった。そこいらの店で「これはでかい」と思うスイカの倍はありそうだ。これを丸ごと買って行く人はどんな人なのか見てみたいという衝動に駆られたが、休日とはいえ、じっと張り込みを続けられるほどヒマではない。カットされてなお重いスイカとトウモロコシをぶら下げて日盛りの道を帰る。
シュワシュワとクマゼミが鳴いている。暑さとともに北上して来たのだろう。地元のミンミンゼミやアブラゼミを応援したい気持ちになる。
わが家の玄関脇の紫陽花の葉の下には、びっしりとセミの抜け殻が張り付いている。何年か前に親ゼミが産んだ卵が近くにたくさんあったのだろう。よくぞ生き延びてくれたものだ。おそらく数年は同じ敷地で寝起きを共にしたかもしれないセミたちだ。もう家族も同然と言って良いだろう。外からやって来たクマ公なんかに駆逐されるんじゃないぞ。
何日前だったか、夕暮れの公園を散歩していて、道端にひっくり返って助けを求めているカブトムシを見つけた。小さくて不器用なやつだった。助け起こして放してやればよかったが、ガシッと持っていたタオルに張り付いて離れない。近くで遊んでいる子供でもいれば自慢気にプレゼントしてやろうなどと目論みつつ散歩を続けた結果、ぐっしょり汗をかいたジョギングおじさんにしか会わないという悲劇に見まわれ、カブトムシ君は貰い手もないままわが家の客人となった。
カットガーゼに砂糖水を染み込ませて小皿に乗せ、黒黒としたチビすけを放つと一瞬何事かという顔をした後、ガバっとガーゼに張り付いて恍惚の表情で動かなくなった。よほど腹を空かせていたか、人類の英知が創りだした純粋な砂糖水のような甘さに度肝を抜かれてしまったに違いない。夜が更け、家族の皆が寝静まる頃になっても固まったカブトムシは動こうとしない。急性砂糖水中毒にでもかかって、お陀仏になってしまったのかと、頭をつついてみたら、むっくり顔を上げて「何?用が無いなら放っといて」という表情をする。
客人にはおもてなしの精神で接するのが2020年のオリンピックを控えたわが日本人の心意気ではある。がしかし、もう眠いと思った私はテッシュの空き箱で作った即席虫かごに小皿に乗ったカブトムシを小皿ごと突っ込んで寝てしまった。
翌朝になってみると即席虫かごの中にカブトムシは見つからず、部屋中声を限りに探し回ったがどこからも返事がない。出入口は全て網戸で密閉されている。部屋の外に出ることが出来るとも思えない。年末あたりになって、タンスの後ろから干からびたカブトムシが発見されるという事件が発生しないとも限らない。考えたくない。が、今は見つからないのだから仕方がない。
カブトムシも腹が減る。翌日夜になったら「メシを喰わせろ」と向こうから出て来たのである。ホコリだらけの姿ではあったが公園で見つけた時のように弱々しい印象は無い。元気がいい。やはり砂糖水を振る舞いつつ、公園にお帰り頂くことにした。
やつは今でも元気でやっているだろうか。暑い8月の炎天下をスイカとトウモロコシをぶら下げて歩く。(三)
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