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六月の雨

 6月もあとわずか。時の流れの速さを憂う間もなく時が過ぎていく、そんな感覚だが、6月は自分の誕生月だけに、思い入れが強い。梅雨空の鬱陶しさに心は塞ぎながらも、雨の香りに慰められる、そんな日々を送っていると、思い出すのは、中原中也の「六月の雨」。

  またひとしきり 午前の雨が
  菖蒲のいろの みどりいろ
  眼うるめる 面長き女(ひと)
  たちあらわれて 消えてゆく
 
  たちあらわれて 消えゆけば
  うれいに沈み しとしとと
  畠の上に 落ちている
  はてもしれず 落ちている

  お太鼓叩いて 笛吹いて
  あどけない子が 日曜日
  畳の上で 遊びます

  お太鼓叩いて 笛吹いて
  遊んでいれば 雨が降る
  櫺子(れんじ)の外に 雨が降る


 今更中原中也でもないかもしれないが、私にとって一番の詩人は中原だから、どうしたって彼の詩は折に触れて思い出す。
 しかし、中原がこの詩を書いたのは昭和11年(1936年)と言われるから、29歳の頃。長男も1歳半になり、かわいい盛り、中原の生涯の中で最も穏やかな時期だったかもしれない。そんな時期に書かれた詩だから、六月の雨も好ましく感じられる・・。中原にこんなほんのりした時間がもっと長く続いていたらどうだろう?子供も大きくなり、一家団欒の時を過ごせたとしたら、どんな詩を書いただろう、知りたい気もするし、知りたくない気もする。
  
 夭逝した人間はある意味幸せかもしない。老いさらばえた中也など中也じゃないと思えるから・・。
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