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「額の柿の木」

 小学四年生の国語の教科書(光村図書)に「額の柿の木」という短い話が載っている。瀬川拓男という人の作となっているが、読んでみると、荒唐無稽も甚だしい法螺話なので、いくら何でもこんな話を小学四年生に読ませてよいものか判断に迷うが、話としては愉快なので、全文をこのブログに載せてみたいな、と思った。だが、いくらネットを探しても見つからなかったので、著作権の関係があるのかな、と諦めかけたとき、「頭の池」という内容的に酷似している秋田県の民話を見つけた。思うに、伝承された民話をベースにして、より面白おかしくしたのが「額の柿の木」であろう。ならば、元ネタの民話の方を載せておけば、面白さの輪郭くらいは十分伝わるだろうと思って、以下にその民話を載せてみることにした。

 『むかしむかし、あるところに、どうにも貧乏な男がいました。
「人並みに暮らしたいなあ。・・・そうだ、観音様(かんのんさま)にお願いしてみよう」
 男が村の観音様に通って、お参りを続けていると、ある晩、観音様が現れて、
「いいだろう。お前の願い、叶えてしんぜよう。夜が明けたらお宮の石段を降りていって、最初に見つけた物を拾い、それを大事にしなさい」
と、告げました。
 やがて男が石段を降りて行くと、何か落ちています。
「ははん。これだな」
 拾いあげると、それはカキのタネでした。
「何だ、こんな物か」
 男は捨てようかと思いましたが、せっかくお告げをもらったのですから粗末に出来ません。
 ありがたくおしいただくと、これは不思議。
 カキのタネが男のひたいにピタッと張り付いて、取ろうにも取れません。
「まあいい、このままにしておこう」
 すると間もなく、カキのタネから芽が出て来ました。
 芽はズンズン伸びて、立派な木になりました。
 男がたまげていると、カキの木は枝いっぱいに花をつけ、花が終わると鈴なりに実をつけました。
「うまそうだな。試しに食べてみよう」
 男が食べてみると、甘いのなんの。
 男はさっそく、町へカキを売りに行きました。
「頭にカキの木とは、珍しい」
「おれにもくれ」
「おれもだ」
 カキは、飛ぶ様に売れました。
 男はお金をふところにホクホク顔でしたが、面白くないのは町のカキ売りたちです。
「おれたちの商売を、よくも邪魔したな!」
 男を囲んで袋叩きにすると、頭のカキの木を切り倒してしまいました。
「ああ、もう、金もうけ出来ない・・・」
 男がしょげていると、切り倒されたカキの木の根元に、カキタケという、珍しいキノコが生えてきました。
 おいしいキノコなので男が売りに行くと、これまた飛ぶ様に売れました。
 面白くないのは、町のキノコ売りたちです。
「おれたちの商売が、あがったりだ!」
 男を囲んで袋叩きにすると、カキの木の根元を引っこ抜いてしまいました。
 男は、ガッカリです。
 頭には、大きなくぼみが出来てしまいました。
 やがてこのくぼみに雨がたまって、大きな池が出来ました。
「こうなったらいっその事、池に身投げをして死んでしまいたい」
 男がなげいていると、頭の池でパチャンとはねるものがありました。
 手に取ってみると、大きなコイです。
 頭の池にはいつしか、コイやらフナやらナマズやらが育っていたのです。
 男は頭の池の魚を売りに行って、またまたお金をもうけましたが、町の魚売りたちはあきれて、ポカンとながめているだけでした。
 おしまい』

 無茶苦茶な話だけど、「神仏に帰依する尊い心は人間の妬みを超越する」というテーゼを唱えているのかな、と思ったりして・・。
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