goo

「泣き虫なまいき石川啄木」

 井上ひさし「泣き虫なまいき石川啄木」を読んだ。
 私は、石川啄木を好きではない。どこが?と問われても、明確に返事はできないのだが、何となく貧乏くさいところが好きではないとしか答えられない。
 「友が皆 我より偉く 見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻と親しむ」
などという歌は、読むたびにゲンナリする。「それなら、もっと頑張れよ!」と「喝ッ!」を入れたくなってしまうのは余計なお世話なのだろうけど・・。
 ならば、読まなきゃいいのに、と自分でも思う。だが、稲垣吾郎が以前この芝居で啄木を演じたときに、妻が買った本が、どこかから出てきたものを見つけてしまったものだから、ついつい読んでしまった。
 で、その感想は?ということになるのだが、やっぱり啄木は私の好みではない。この戯曲を読んだ後、啄木について調べてみたところ、この戯曲に描かれたことは概ね史実と合致するようなので、井上ひさしが読者に差し出した啄木像は実像に近いように思われる。まあ、ろくな甲斐性もない文学かぶれの人物は、啄木に限らず、多かれ少なかれ芯の通っていないフニャフニャ人間だから、憂き世の荒波に抗することもできず、きりきり舞いするしかないのだろうけど・・。
 結局、井上ひさしの本にしては、余り面白くなかった。綺麗に纏めようとした結末も、何だかわざとらしくて鼻白んでしまったが、巻末に記載されていた、この舞台の初演記録(1986年)に記されていた配役の妙には、思わず唸った。

 石川一(啄木)‥‥平田満
 石川節子(啄木の妻)‥‥石田えり
 石川一禎(啄木の父)‥‥戸浦六宏
 石川カツ(啄木の母)‥‥大塚道子
 石川光子(啄木の妹)‥‥范文雀
 金田一京介(啄木の親友)‥‥高橋長英

 禅僧気取りのアル中オヤジの戸浦六宏と言い、啄木を気に掛け金銭の援助も厭わない金田一を高橋長英が演じれば、啄木役の平田満も随分引き立ったことだろう。節子と仲の悪い意地悪そうなカツを大塚道子が演じるなんて、あまりに適役過ぎる・・。舞台など一度も見たことのない私だが、この配役だったら見てみたかったな、と本気で思う。今となっては鬼籍に入った役者さんが多いため、叶わぬ夢となってしまったが・・。 
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする