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「変態月」

 松村理英子「変態月」を読んだ。
 これは、少し前に感想文を書いた「奇貨」と同じ単行本に収められている、50ページほどの小説であるが、「奇貨」を読み終えた後、妻に「面白いから読んでみろよ」と本を渡してしまったので、読み終えるのに時間がかかってしまった。
 「変態月」という題名から、いったいどんなエキセントリックな小説だろう、と恐い物見たさで読み始めたのだが、それは私の「変態」という言葉についての解釈が間違っていたためだったようだ。
 「変態」という語を goo辞書で調べてみたところ、
1 形や状態を変えること。また、その形や状態。
2 普通の状態と違うこと。異常な、または病的な状態。
3 性的倒錯があって、性行動が普通とは変わっている状態。変態性欲。
4 動物で、幼生から成体になる過程で形態を変えること。おたまじゃくしがカエルに、さなぎがチョウになるなど。
5 植物で、根・茎・葉などが本来の形から変化し、著しく異なる形態をとること。葉がとげとなるなど。
などという説明が成されていた。
 私は「変態月」という題名を見た瞬間、「変態」の意味を3だと勝手に思い込んでしまった。それは、私の日常生活で「変態」という言葉がほとんど3の意味で使われているという不毛さを露呈してしまうことになるが、「変態」と漢字で書くより、「ヘンタイ」とカタカナで表記した方がしっくりくることが多い世情を反映していると言えなくもない。
 だが、この小説の末尾に表されているように、「変態月」の変態は、1もしくは4の意味であるらしいのだ。
 
 「高校1年生の順子と友人の鏡子は、3歳年下で仲のよかった淳美が殺された葬式に行くが、やがてその犯人が、彼女たちの中学の同級生だった喜久江だと知る。その時点から順子には様々な懊悩が心に押し寄せてくる・・」

 簡単に纏めてしまえば、こんな内容の小説であろうが、その過程は「変態」していく少女の心の揺れを描いおり、男である私の目から見ると、なかなか興味深いものであった。
「男はもっと不作法に、ドカドカと大人への階段を上って行ってしまうのに、女の子はまあ複雑だこと・・」
と、やっかみ半分な溜息を漏らしたくなるほど、繊細な少女の心はいともたやすく壊れてしまいそうだ。
「ああ、男に生まれてよかったな・・」
と、ナイーブな感覚にはほど遠い私ではとても少女はつとまらなかっただろうけど、心から男でいられたことに安堵した・・。

 しかし、松浦理英子という作家は、なかなか面白い作家だ。限りなく女性的でありながら、そうとばかりも言えない深みの感じられる小説家だと、僅か2作品を読んだだけだが、印象を持った。 その深みがなんであるのか知るために、別の小説も読んでみたいと思った。

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