じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

国木田独歩「巡査」

2025-02-20 17:46:30 | Weblog

★ 今日は国木田独歩「牛肉と馬鈴薯・酒中日記」(新潮文庫)から「巡査」を読んだ。

★ 国木田独歩の作品は随分久しぶりだ。高校の国語の教科書で「武蔵野」を学んだ記憶がある。「美文」だと説明されたが、あまり面白い作品だとは思わなかった。

★ 国木田独歩は明治期の作家で、30代で夭折している。「巡査」は、1902年に発表されたというから、独歩30歳頃の作品か。

★ 独歩らしき話者が、ある巡査と親しくなり。巡査の下宿を訪れた時の様子を描いている。

★ 漢字の訓読が面白い。例えば、「懇意になった(ちかづきになった)」「年齢(とし)」「沈黙(むっつり)」「比喩(たとえ)」「憎悪(にくしみ)」「饒舌りましょう(しゃべりましょう)」「手真似(てつき)」など。わずか1ページの中でも多くの読み替えがある。

★ 漢文から和文へ、過渡期だったのかも知れない。人物の描き方もなかなか楽しい。

コメント

角田光代「父のボール」

2025-02-19 20:54:07 | Weblog

★ 家族には傲慢、権威主義で、外では上司にヘコヘコ頭を下げているような父親像は、向田邦子さんの「父の詫び状」が印象に残っている。

★ 角田光代さんの「父のボール」(「ロック母」講談社文庫所収)にも、家族としては許しがたい父親が出てくる。

★ 作品は、娘の視点で書かれている。娘や彼女の兄である息子の目から見ると、なんともできの悪い父親だ。身勝手で、自分の想い通りにならなければすぐに切れる。モノに当たり散らしたときなど、後片付けが大変だ。母親も不満を抱えているが、それを言った後の後始末が大変なので、従順を装っている。

★ その母親も、ポックリ先に逝ってしまった。子どもたちは早々と実家を去り、一人暮らしになった父親。その父親が癌に冒され、死の床に臥せている。もはや意識も混濁し、臨終が身近に迫っている。

★ 他に身寄りもないから、娘が父親の看護をしている。しかし、それは決して家族愛といったものではなく、むしろ今までの恨みつらみを晴らす時間を過ごしているような感じだ。

★ この父親は単に家族との関係に不器用だったのだろうか。それとも生来に自己中心的な性向だったのだろうか。父親の本音はわからない。

★ 人生いろいろ、家族もいろいろ。身近な存在だけに憎悪も深い。しかし、憎悪はまた愛情と表裏一体なのが憎らしい。角田さんの文章がグングン心に押し寄せてくる。

コメント

恩田陸「ノスタルジア」

2025-02-18 15:54:43 | Weblog

★ 京都府公立高校の前期試験が終わった。難易度は例年並みということだが、塾生たちは力を出し切れたであろうか。合格発表は25日、火曜日。そして、3月7日の中期入試で今年の戦いは終わる。

★ この時期何が忙しいかといえば、高校入試、中学1・2年生の学年末テスト、確定申告がドッと押し寄せることだ。これに新年度生募集のチラシづくり。どれも手が抜けない。

★ この中で一番生産性がないのが確定申告だ。面倒だが仕方がない。1年間の所得税、市府民税、個人事業税、健康保険料がこれで決まる。高校無償化、給食無償化など耳障りの良い政策が目白押し。その一方で、税・社会保険料の負担感はずっしりと重い。

★ 昨夜は映画「茲山魚譜 チャサンオボ」(2021年)を観た。何気なく観始めたが、なかなか良かった。19世紀初頭の韓国が舞台。身分ある家柄で、学識に富んだ男性チョン・ヤクチョンが、キリスト教を信仰したがために官職を剥奪され、遠島に流される。当時の韓国は儒教、中でも朱子学が重んじられていた。

★ 流浪の地でも男性の好奇心は衰えず、漁師たちから魚の生態のことを聞き、本を書こうとしていた。そこで一人の青年と出会う。彼の身分は卑しく漁労で生計を得ていたが、向学心豊かで読書を喜びとしていた。特に魚や海の生物についての知識は豊富であった。

★ チョンは青年に漢籍を教え、青年はチョンに海の生き物のことを教えた。月日を経て、二人の間に師弟の関係そして友情が育まれていった。

★ 学問を学んだ青年は、立身出世を志し、師チョンのもとを離れる。しかし、立身栄達の中で彼が目にしたものは、清廉な学問の教えとは縁遠い、官僚たちの腐敗とそのため重税に悩む庶民の姿であった。あまりの理不尽にチョンは上司に暴行をふるい、出世の道を絶たれる。

★ 一方、島ではチョンが赦免されることなく、筆を握りながら生涯を終えていた。師弟の関係、そして師弟を超えた友情に感動した。

★ 日本はパッチワークを繰り返しながら社会主義化が進んでいる。重税に見合うだけの安心感があれば良いのだが、頑張ったものが損をするようで不公平感が漂う。背景には超少子高齢化。ジリ貧化する経済。1970年代、80年代の高揚期を見てきただけに、寂しい気分になってくる。

★ 「良い時代に生きたなぁ」と思えばよいことなのだが。

★ 恩田陸さんの「図書室の海」(新潮文庫)から「ノスタルジア」を読んだ。幻想的な作品だった。「懐かしさ、それだけが僕たちの短い人生の証拠だ」「僕たちは懐かしさについて語り続けなければならない。それだけが僕たちの存在を証明する手がかりなのだから」という文章に引き付けられる。

コメント

大沢在昌「ダックのルール」

2025-02-15 15:45:34 | Weblog

★ 昨夜は韓国映画「ハント」を観た。全斗煥軍事政権下、韓国各地では民主化を求める運動が活発化し、それに対する安企部の取り締まりも厳しくなっていた。

★ そんな折、どうやら安企部に二重スパイがいるらしいとの情報が流れる。その解明に国内班の次長と海外班の次長があたることに。この二人が大統領暗殺計画に巻き込まれていく。「ソウルの春」とも関連しているようだが、この二重スパイというのがややこしい。更に、国内班次長と海外班次長が似ているのでやや混乱する。

★ それはそうとして、アクションシーンは迫力があった。

★ さて読書は、大沢在昌さんの短篇集「鏡の顔」(講談社文庫)から「ダックのルール」を読んだ。

★ 失踪人捜し専門の探偵、佐久間公が依頼されたのはある女性を捜し出すこと。依頼したのは、日本国籍の黒人男性。傭兵として共に戦った戦友との約束を果たすため日本にやってきたが、そこで戦友の娘が失踪しているのを知った。どうやら彼らに適する勢力が拉致したものらしい。

★ 出だしからハードボイルの香りがプンプンする。ほんのり甘い恋愛小説も良いが、こうしたビターなハードボイルドが刺激的だ。

コメント

江國香織「放物線」

2025-02-14 19:37:35 | Weblog

★ 今日はバレンタインデーということで、塾生たちからちょこっとチョコレートをもらった。カカオが高騰しているので、チョコレート製品も高騰している。みんな、ありがとう。

★ さて今日は、江國香織さんの「ぬるい眠り」(新潮文庫)から「放物線」を読んだ。

★ 大学を卒業して5年。かんちゃんは保険会社に勤め、バイトを転々としていた光一朗はペットショップに就職したという。そして主人公の私は、物書きの仕事をしているようだ。

★ この3人、数か月か半年単位で会っている。それぞれに仕事を持ち、それなりに恋愛をしているようだが、3人が出会うと学生時代に戻って楽しい時間を過ごせる。

★ 3人の「規則」は、思い出話をしないこと。常に前へと進んでいくこと。

★ 家庭を持ち、子どもができたらこのままの関係が続くとは思えない。でも、こうした仲間が集まって、個々にいろいろと悩みはあっても、馬鹿笑いができるなら、幸せだなぁと思った。

★ ちなみに「放物線」は、かんちゃんの宴会芸だという。

コメント

井伏鱒二「夜ふけと梅の花」

2025-02-13 21:48:59 | Weblog

★ 私立高校に合格したという知らせが、2つ、3つとあった。明日は報告がどっと押し寄せるだろう。

★ 今年は花粉がきついようで、鼻をぐずぐず言わせていると、どうも風邪気も出てきた。風邪の薬は睡眠に勝るものなし。今日は早めに床に入ろうと思う。

★ 鼻かぜ用の薬を飲んで、少々うつらうつらしながら、井伏鱒二さんの「山椒魚」(新潮文庫)から「夜ふけと梅の花」を読んだ。

★ ある夜ふけ、主人公が歩いていると妙な男に出くわした。その男は顔が血だらけになっていないかと問う。妙な男に関わりたくないと足を速めたが、男はマントの裾を離さない。仕方なく薄暗い街灯に照らして男の顔を見れば、確かにいくつかの傷がある。

★ 男が言うには、消防の男たちに殴られたらしい。男もたいそう酔っているから、何か原因があったのだろうが、それを知ったところでどうにもならない。

★ 主人公が去ろうとすると、男はまたマントを握って放そうとしない。いろいろと相談に乗ってやると、5円紙幣を取り出して受け取れという。拒んでいるとけんか腰だ。仕方なく、後日何らかの方法で返すことを約束して受け取った。

★ そして、その後日談が綴られていく。

★ 早春の梅の花が印象に残る、妙な話だった。

コメント

伊集院静「春のうららの」

2025-02-12 15:10:19 | Weblog

★ ウィークデイに祝日が入り込むと、感覚が狂う。今日は水曜日なんだと改めて思う。今週は私立高校の合格発表だ。朗報が次々押し寄せることを期待したい。

★ さて今日は、伊集院静さんの「三年坂」(講談社文庫)から「春のうららの」を読んだ。

★ 娘が嫁ぐ数週間前。バッサリと髪を切って母親を驚かせる。娘に数年前亡くなった夫の面影を認めつつ、現代っ子の気風がわからない。

★ 母親は若かったころ、亡き夫との出会いに思いを馳せる。二人とも戦後の混乱期の中、孤児として出発した。東京の料亭で住み込みで働き、そこで二人は出会った。

★ ある日、店の主人に2日間の休みをもらって、温泉などを楽しもうとしたもの、いろいろとアクシデントが重なって、日帰りで東京に戻ってきた話へとつなぐ。

★ まるで小津監督の映画を観ているように感じた。

★ どこにでもあるような市井の家族の風景。しかし、どの家族にもドラマがある。そして家族の一人ひとりが主演俳優なのだ。

コメント

石田衣良「スローグッドバイ」

2025-02-11 15:23:58 | Weblog

★ 少し前、近くの高校の国際コースを受験されるという母娘が突然、塾に来られた。中国の方で日本語はほとんどできない様子。英語での会話となったが、私も久しぶりの英会話でドキドキしながら応対した。

★ それから数回来塾された。「ここぞ」とポケット型の翻訳機を購入し、それでのやりとり。AIの進化は著しい。さすがに固有名詞は難しそうだが、普通の会話はごく自然な文で表現してくれる。それも英語だけではなく、中国語、韓国語はじめ世界の多くの言語に翻訳できるというから優れモノだ。

★ 昨日は試験が終わったと報告に来て下さった。合格されることを願うばかりだ。

★ さて今日は、石田衣良さんの「スローグッドバイ」(集英社文庫)から表題作を読んだ。2年間同棲した20代の男女がちょっとした行き違いから別れることになったという話。

★ 二人はこの日「さよならデート」をする。2年間の思い出をたどりながら、彼が住む横浜の町を歩く。

★ どこにでもあるような男女の別れ。それでいて、読者をひきつけるのは作家の筆のうまさだ。

★ テレサ・テンの「別れの予感」、かぐや姫の「神田川」、風の「22歳の別れ」など、古い歌を思い起こした。私にも20代があったなぁ。

コメント

赤川次郎「凍りついた太陽」

2025-02-09 15:31:23 | Weblog

★ いよいよ京都の私立高校入試が明日に迫った。さすがに緊張が高まっているせいか、今日も朝から塾生が最後の調整に頑張っている。「あきらめたら、そこで試合終了」(「スラムダンク」安西先生)。最後まで粘ってもらいたい。

★ 彼らを見守りながら、今日は赤川次郎さんの「幽霊列車」(文春文庫)から「凍りついた太陽」を読んだ。

★ 真夏の海で、久々の休暇を楽しむ警視庁の宇野警部と女子大生の永井夕子。二人のいるところに事件あり。(まるでコナンくんのように)。年の差が20歳もあるこのコンビが、事件を解明する。

★ 今回の事件。宇野警部と夕子が出会ったある婦人と3人の子どもたち。平和そうな家族だが、この婦人、柄の悪い男にどうやらゆすられているようだ。そして、この男が殺される。その死因が、真夏だというのに凍死だという。そこで二人の謎解きが始まる。

★ 赤川作品は文体が軽妙なので、すらっと読める。眉間にしわを寄せて読まずに済むのが良い。 

★ 「幽霊列車」は、田中邦衛さんと浅茅陽子さんでドラマ化されたのが懐かしい。1978年の作品だという。もう半世紀近く前になったのか・・・。

コメント

伊坂幸太郎「籠城のビール」

2025-02-08 14:34:35 | Weblog

★ 2032年、1.3%の確率で小惑星が地球に衝突するという。1.3%といえばおよそ77分の1。だだっ広い宇宙空間にあってはかなりの確率だろう。

★ そんなこんなで、今日は伊坂幸太郎さんの「終末のフール」(集英社文庫)から「籠城のビール」を読んだ。

★ 8年後に小惑星が地球に衝突するとわかって、すでに5年が過ぎた。当初起こったパニックは一段落した。ある者はわずかな希望を求めて逃げて去り、ある者は決められた運命に耐え切れず自ら命を絶ち、ある者は略奪や殺人など反社会的な行動で警察に捕まったり射殺されたりした。

★ もはや警察も人権を守った流暢な対応をしない。むしろ犯罪者をいたぶることにせめてもの終末の喜びを感じているようだ。

★ そんなある日、元ニュースキャスターの家に二人の男が押し入った。二人は兄弟で、不幸な事件で妹と母を失っている。彼らはその原因を「面白ければよい」とするマスメディアや面白おかしく伝えるキャスターだとし、小惑星が人類を一掃する前に自らの手でキャスターを裁こうとしているのだ。

★ 物語は一転、思いもかけない方向へと進むのだが。

☆ 作品の中で主張されるマスメディア批判が心地よい。「面白くなければテレビじゃない」などという時代があった。年を経て、自らの不祥事を記者会見し、それが高視聴率を獲得するとは、何とも皮肉だ。

☆ 現実に戻って、小惑星衝突まであと7年(1.3%の確率だが)。陰謀論、終末論が盛んになるのか。「ノストラダムスの大予言」や「ヨハネの黙示録」がブームとなるのか。

☆ そもそもそれまで生きられるやら。自分の歳を指折り数える。

コメント