奇跡と呼ばれた学校―国公立大合格者30倍のひみつ朝日新聞社出版局このアイテムの詳細を見る |
★ この手の本は、どうせ「勝ち組」の自慢話だろうと敬遠しがちだったが、読んでみると実に面白かった。そしてとても刺激された。
★ 国公立大学に現役で6人しか合格しなかった高校が、4年後には30倍の180人が合格。難関京都大学への合格者も30人前後と京都の公立高校ではダントツの実績を挙げるまでに至った。
★ 公立高校でなぜこの「堀川の奇跡」が実現できたのか。本書は奇跡を起こした(いや、本書を読むとこれが奇跡ではなく綿密に計算された当然の帰結であることがわかる)当事者である荒瀬校長が肉声で綴った記録である。
★ 堀川高校は京都市内に位置する公立高校。伝統校ではあるが取り立てて進学校ではなかった。音楽科が有名だったが、音楽科は「音楽高校」へと発展し独立した。
★ 私立高校隆盛の中、時代の中に埋没したこの学校がいかに改革されたのか、詳細は本書を読んでいただければよいが、まず改革の土台、基本的な理念が明確であることに感心した。改革とは何であるか。何のための改革であるか。この点が明確であるから、あとは地道な作業をコツコツと重ねればよい。土台がしっかりしているから壁にぶつかってもブレない。それに感心した。
★ 「二兎を追う」という考え方は実に共感できた。「ゆとりだ」「学力向上だ」と世間が空騒ぎをする様子を荒瀬校長が苦笑されている姿が目に浮かびそうだ。髭を蓄えられた精悍な面持ちは奥義を見据えられた剣豪の雰囲気すら感じられる。
★ 良いものをつくろうと思えば「手間、ひま、金」をかけなければいけないというのも参考になった。
★ 本書を通して最も実感することは、荒瀬校長の人間愛だ。子ども達に注がれるあふれんばかりの愛情だ。教育学をかじり教育に何らかの関わりをもっているとこうした書籍もつい裏読みをしてしまう。書かれなかった、書けなかったことを勝手に想像してしまう。荒瀬校長が指摘されるように高校教育は今日、現実と理念との交差点にあって、現場がその中でどれほど苦悩しているかは筆舌を絶するものだと思う。こうした中でも、荒瀬校長の生徒に注がれる愛情は本物だ。本物だからこそ、教職員も生徒もそして父母や行政も動くのだと思う。
★ プロだから当然だと言ってしまえばそれに尽きるが、なかなかできることではない。
★ 荒瀬校長のプロフィールを見て、校長が私と同じ大学の出身で、数年先輩でいらっしゃっることを知った。こうした点も実に身近に感じた。
★ 改革しても改革しても尽きる事のない教育。「現場」はプロであることに誇りをもち人生をかけて改革にあたっている。こう考えれば考えるほど、教育再生会議の宙に浮いたような論議や彼らを操る政権の人々への怒りがグツグツと沸きあがってきた。