主人と息子・・・二人が潮に流され島の向こうに消えてから、どれくらい時間が経ったでしょう。
救助に向かったガイドさんの声も、とっくに聞こえなくなりました。
私は、崖の上に立ち、二人が消えていった方向を眺めながら、ただ祈るしかありませんでした。
20分・・・30分・・・時計も携帯も持っていないので、時間を知ることは出来ません。
救命胴衣を着用しているので、二人は浮かび続けているはずです。
どんどん流されることがあっても、瀬戸内の海には釣り船もたくさん出ていて、救助されるのは時間の問題のはず・・・
そう自分に言い聞かせながら、待つしかありませんでした。
「お母さん、だいじょうぶですよ! 無事、救助しましたよ!!」
全く逆の方向からガイドさんの声がしました。
カヤックで上陸した海岸に戻ると、二人が待っていました。
潮の流れに乗って、ぐるりと島の向こう側の岸に泳ぎ着き、そこから歩いて戻ってきたようです。
恐怖で半分パニックになり、父親の腕にしがみついて離さなかった息子の手を、父親の救命胴衣の腰のベルトをしっかりと掴ませるようにして、それによって、主人が泳げるようになったそうです。主人は、本来泳ぎが得意なはずでした。
息子は足を怪我して少し血を流してはいましたが、たいしたことはありませんでした。
安堵するとともに、ガイドさんにお礼を言い、長い間待ってくださっていたツアーの女の子達に謝って、やっと前島を目指して出発しました。
この日の海は、穏やかに見えるものの、潮の流れは普段よりきつかったそうです。
前島に戻るのも、直接前島を目指すのではなく、ガイドさんの指示で、もっと遠くまでカヤックで漕ぎ進んで、潮の流れの少ない海域に入ってから、サンビーチに向かって漕いでいきました。
潮の流れは、私達の目には見えないけど、ガイドさんの目にはしっかり見えているのですね。
爽やかな潮風と、カヤックを漕ぎながら望んだ水平線、眩い波のキラメキを満喫して、シーカヤックの体験が終了しました。
アクシデントも含めて、一生忘れられない思い出となりました。
サンビーチで少し遊んでから帰ろうかと思ったのですが、息子が「もう泳ぎたくない」と言うので、そのまま着替えて帰ることになりました。
臨海学校でシーカヤックに乗る前に、息子のペースで落ち着いて体験させてやり、余裕を持って臨ませてあげようと思っていたのに、これではマイナス体験になってしまったではないかと思うと、
「何やってん! 何で深いところに連れて行くの!?」と、主人に文句を言わずにはいられませんでした。
今年の特別水泳教室で、やっと2秒顔をつけれるようになったばかりの息子が、自分から行きたがるわけがありません。
「なめとったわ・・・。気ぃ着いたら、どんどん流されていくし、腕にしがみつくから身動きとれんし・・・マジでやばいと思った!!」
帰り際に、息子に「また来たい?」と尋ねると、
「カヤックは乗ってもいいけど、遊ぶ時に、海には入らん!!」と、言いました。
「無茶せえへんかったら、だいじょうぶやねんで。先生がここで遊んでいいよっていうところは、安全やからな~」
とりあえず、シーカヤックに限って言えば、プラス経験になったみたいです。
このあと、本土に渡って、オリーブ園を訪れ、最後に前島を一望して別れを告げてから、帰宅の途につきました。
一番向こうが小豆島で、その前にくっきりと見えるのが前島