「お帰り、私のエリィ!会いたかったわ!!」
「・・・おかあ・・・さん・・・?」
「そうよ!エルノラお母さんよ!ようやくこうして抱きしめることができたわ!」
お母さんが抱きしめている。私のこと・・・でも、ちっとも温かくない。ううん、違う。だって私は「ここにいる」のに。なんで私は自分のことを見ているんだろう・・・?
「さぁ、行きましょう。私の大事な娘。ようやく再会できたんですもの。近くにいたのに、貴方に触れることができなくって、お母さんどれだけ寂しかったか・・・」
(お母さん?私、いたよね?アスティカシアに行ってから、なかなか会えなかったけど、でも会えた時はいつも私のこと頭撫でてくれたよね?)
何だろう、ここは・・・薄っすらと曇りがかった世界。その向こうでお母さんが私を連れて行こうとしている―――
(お母さん、待って!私はここにいるよ!)
向こうが薄っすら見えるのに、お母さんの傍に行けない!なんかガラスのような固いものが私の前を塞いでる。
(まって!お母さん、お母さんっ!)
「そうそう、スレッタ。いいえ、今は「エアリアル」かしらね。」
お母さん、振り返ってくれた!ちゃんと私の声聞こえてる!
でも・・・どうして? 少し唇の端を上げ、私を見上げて言う。
「貴方もありがとう。ここまでエリィの身体を守ってくれて。こんなに大きく育ったのは貴方の協力のお陰よ。感謝するわ。」
(え・・・?)
そうとだけ言い残して、お母さんは私と―――ううん、私じゃない私の肩を抱いて、連れて行こうとしている。
そして、お母さんの隣にいる「私」が私を見上げた。
「・・・ごめんね・・・」
その声、聴いたことがある。
いつも傍にいた、いつも私を守ってくれた私の家族――「エアリアル」。
私は「スレッタ・マーキュリー」だよね?お母さんとエアリアルと一緒に、誰も死なない豊かな水星にするって、頑張ってきた家族だよね?
私はここにいるのに―――
(待って!お母さん!エアリアル!―――違う、エリクト!)
二人は二度と振り返らなかった。
そのまま格納庫のシャッターが下りて、電源が落ちる。
真っ暗になった世界。急激な眠気が襲ってくる。通電が切れたんだ。機械自体が眠るため。それが今の「私」なの?
(嫌だ!)
私は叫ぶ!そして暴れる!
曇りガラスの箱の中の世界は冷たくも温かくもなくて、何より何も見えない。
一生懸命ここから出たいのに、今の私には何もできない。
(・・・グス・・・)
あぁ・・・いつもの私に戻る。いつもグズグズクヨクヨしてばかりいて。
こういう時はいつも自分にこう言っていた。
(―――「逃げれば一つ。進めば二つ。」―――)
でも、今の私は進むどころか、ずっと止まっている。ううん、止められたまま。一つだって得られるものはない。
得られたのはエリクトお姉ちゃん。私の体・・・違う・・・私が代わりに育てていた身体を取り戻しただけ。
私は元から「いなかった」んだ。ただ、エリクトの身体を生かしていくために、与えられた人格。
私が物心ついてから、エリクトはずっとこの中に居たんだろうか。
(こんなに、寂しいところに、ずっといたんだね、エリクト・・・お姉・・・ちゃんは)
私がエアリアルに乗った時、一生懸命守ってくれて、励ましてくれて。
優しいエリクトお姉ちゃんは、一度も私を恨んだり責めることはしなかった。
一生この中にいることになったかもしれないのに。
(私・・・眠ろう・・・かな・・・)
眠ったら、きっと何も考えなくって済む。
エアリアルは凍結されるかもしれないってお母さん、言ってた。
クワイエット・ゼロ―――エリクトお姉ちゃんを取り戻したお母さんに、もうガンダムは必要ない。
(つまり、私はもう・・・)
曇りガラスの箱の中で、膝を抱えて蹲る。
そしてこのまま、ただずっと―――
<ピー!>
(えっ!?)
膝を抱えて目を瞑った瞬間、今度は別の入り口から電子音が鳴った。
そしてまた格納庫が眩しく光る。
そこに入ってきたのは―――格納庫の光より、もっと眩しいプラチナブロンド。
わたしの―――大事な花嫁さん!
(ミオリネさん!)
私はまたガラスを叩く。
ミオリネさんは誰かもう一人連れてきた。いくつかのMSが並ぶ格納庫。そこにはダリルバルデもあった。
(グエルさん・・・)
「調整はうまく行っているの?」
「あぁ。AIは俺の意向で外させたが、もう俺に迷いはない。」
グエルさん、あのテロ事件の後戻ってきてから、随分と雰囲気変わった。でも、前の時より怖くない。
(―――「改めて言う。スレッタ・マーキュリー、お前が好きだ。」―――)
ふぉおおおおおっ💦 思い出しただけでも顔が赤くなっちゃうよ/// 私にはミオリネさんがいるから、勿論お断りいたしましたが、それでも笑って受け入れてくれた。以前のグエルさんなら絶対そんなことしなかったはずなのに。
経験って凄いな。グエルさんに何があったのかはわからないけど、それでもきっと逃げずに進んだんだ。
―――「進めば二つ」―――
私は・・・私はどうなんだろう。
このまま、ずっとここで、ミオリネさんに気づかれずに・・・
プラチナブロンドがふわりと揺れる。
柔らかかったな~そして、凄く温かくって。
何時も言ってくれた。
(―――「アンタ、何やっているのよ。」―――)
(―――「言いたいことがあるなら、ちゃんと言いなさいよ、スレッタ!」―――)
(―――「スレッタ!」―――)
私の前を歩く、きらきら光るプラチナブロンド。
一見冷たく感じるけど、本当は熱い意志を湛えた灰色の瞳。
わたしの進んだ先にあったのは、いつも二つ。
エアリアルと―――ミオリネさん。
二人がいれば、私は何でもできた。引っ込み思案で同世代の人と話すのが苦手だったけど、そんな私を地球寮に入れて、仲間ができて、株式会社ガンダムを作って。
そうだ。二つなんかじゃなかった。
ニカさんにチュチュさん、マルタンさん、ヌーノさんにオジェロさんにティルさん、リリッケさん、アリヤさん。
こんなに、こんなに沢山の友達ができた。逃げなかったからできたんだ。ミオリネさんがいつも手を引いてくれて。
いつの間にか「やりたいことリスト」が埋まってた。
でも私は欲張りさんだ。
もっと、もっとみんなといたい!ミオリネさんの手を取りたい!
もっと名前を呼んで欲しいよ!
(ミオリネさん!ミオリネさぁーーーん!!)
私は叩く。精一杯大声を出しながら曇りガラスの向こうに消えていきそうなミオリネさんに向かって。
今の私の進む先。そこにはミオリネさんと一緒に行きたい。だから―――
「ミオリネさーーーーーん!!」
「・・・聞こえてるわよ。」
(え…!?)
「ギャアギャア騒ぐんじゃないわよ、スレッタ。」
(ミオリネさん・・・ひょっとして、私の声が、聴こえて・・・?)
「当たり前でしょ。私が自分の花婿の名前を忘れる訳ないでしょ。」
サラっと当たり前のように、そして相変わらず「ツン」として言ってくれる、いつものミオリネさんだ!
(ミオリネさぁ~~~~ん💦)
「だーかーらぁ、ちょっとは落ち着きなさいよ!」
(は、はいぃっ!)
私は慌てて居住まいを正す。ミオリネさんの声を聴くと、背筋がピンとするのです。
(でも・・・)
そう言えば不思議に思う。
(あの~・・・なんで私の声が聞こえて・・・?)
「そうね。」
ミオリネさんは私―――「エアリアル」の前で腕を組んで私を見上げた。
「今のアンタはデータストームの向こうにいるってことはわかっているの。アンタだってずっとエアリアルに乗っている時、声が聞こえていたんでしょ。エアリアル・・・エリクトの。」
(はい・・・)
「多分、それと同じよ。」
(は?)
「『家族』には聞こえるのよ。つまりはアンタがリンクしたい、と思った人には、こうして直に声が聞こえるの。私は仮にもアンタの嫁なんでしょ。だったらつまりは「家族」じゃない。」
(でも、私はグエルさんに負けて・・・)
「今現在レンブランCEOが不在でミオリネが代表である以上、「ホルダー=ミオリネの夫」という図式は成立してはいない。あの決闘で賭けたものはミオリネじゃなかっただろう。」
(グエルさんも私の声が聞こえているんですか!?)
「あぁ。家族、ではないんだろうが、とりあえずお前に認められたって事だろう。それに―――」
グエルさんがいつもの自信たっぷりの笑顔で見上げてくれた。
「俺が惚れた女の声を、忘れる訳ないだろう。」
(グ、グエルさん///)
ちょっと照れくさい。でも、二人が私の声が聞こえているって、こんなに嬉しい。
「アンタ、泣くにはまだ早いわよ。」
(なななな、泣いてなんかいませんっ!)
「わかったわかった。」
ミオリネさんが手をヒラヒラさせて。むむ、信じてくれてないようです。
(それにしても、何でミオリネさんとグエルさんがここに・・・?)
思えば、お母さんがエリクトお姉ちゃんを取り戻した後、これは凍結されるっていうのに、このタイミングで都合よく現れるなんて。
不思議に思ってたら、まるでこの質問も想定していたように、私の賢い花嫁さんが答えてくれた。
「何でって、アンタを取り戻すために決まっているでしょ!」
(私を、取り戻す・・・?)
「いい?アンタの母親はクワイエット・ゼロを成功させてエリクトを取り戻した。それならもうガンドシステムも凍結。この先のベネリットグループにはエアリアルのような機能を必要としないとして、シャディクとアンタの母親がアンタごと封印するわ。だけどそんなことはさせない。アンタも、株式会社ガンダムも取り戻す。だから「決闘」をするわよ!」
(け、け、け、決闘ですか!?誰と?どうやって!?)
「多分相手は二人よ。もちろん一人はミカエリス...シャディクが出てくる。そしてもう一人は―――アンタの姉、エリクト。」
(―――っ!そんな、エリクトお姉ちゃんは、解放されて―――)
「聞いたところ、4歳で3機も撃墜した腕前なんですってね。そんな優秀なパイロットを、貴方の母親が見逃すはずはないでしょ。」
・・・流石はミオリネさん。そんなところまで読んでいるなんて。
「だからこっちも二人出すわ。一人はグエル。ダリルバルデの調整もかねて、今ここに状態を見に来たの。そしてもう一人は―――」
誰だろう・・・チュチュさんとか?地球寮の誰か?それとも…エランさんとか!?
「私よ。」
(えぇーーーーーっ!?ミオリネさん、パイロットじゃないですよね!?)
「だけど、株式会社ガンダムの動きが取れない今、地球寮には頼れない。だとしたら使えるのはエアリアル、つまりはアンタしかいないでしょ!」
(そうですけど・・・今の私はエアリアルで、パイロットではなくって・・・)
「基本操作さえ教えてもらえれば、私が動かして見せるわよ。あの時初めてエアリアルに乗った時は、私とエリクトは家族じゃなかったからジョイントできなかった。でも今なら私の夫が支えてくれる―――そうでしょ!?」
(ミオリネさん・・・)
「アンタと一緒に戦って勝ち取って見せる。アンタが言ったんじゃない。逃げれば一つ、進めば二つ。だったら進んで見せようじゃない。そして、一緒に行くわよ」
(一緒にって、どこへ?)
「地球へ―――水星を豊かな星にして、学校を作って、その為に地球でトマトだけじゃない、色んな野菜や果物、生き方を勉強しに、人類の故郷に行くの!そして株式会社ガンダムの医療技術を地球に広めるの!いいわね!」
(はい!)
私は手を伸ばす。機械の大きな固い指。
でもそこにちゃんとミオリネさんが小指を絡めてくれた。
行こう!今度はお母さんの為じゃなく、自分のために、ミオリネさんのために、自分で踏み出して見せます!
・・・Fin.
***
はい。初の水星の魔女SSです。
本編とあまり繋がっていないのは―――やっぱり「夢落ち」だからです!(爆!)
昨日の夜、またこんな夢を見ちゃったんですよ💦
2シーズン目のEDでエアリアルがスレッタの胸を貫いた後、現れたドレス姿の女性。アレは多分エリクトな気がします。そう思っていたら、プロスペラさんは何時かエリクトとスレッタの身体を入れ替え(クワイエット・ゼロの完成系)するんじゃないかと思って。そうなると、スレッタの精神はデータストームの向こうに行くんでしょうか。それともエアリアルになって・・・?
―――そうした妄想を抱えながら寝たら、夢に見たみたいですw
で、やっぱり夢なので途中で切れた。
・・・というのも、本日朝の4時半に地震が起きまして。
あの<ビャンビャーン>というアラームと、携帯にエリアメールがガンガンに鳴って、見事に夢が中断されました💧
なんで最後は地球に行こうと言い出したのかは謎ですが、しょせん夢なので謎のままです!
とりあえず、本篇は現在17話。
残り6~7話だと思うのですが、この先どんな展開になるのかはわかりませんが、多分こんな浅はかな展開にはならないはず!
本編を楽しみにしたいと思います(^^ゞ
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