うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

Dear.My Split

2022年11月19日 21時16分25秒 | ノベルズ

―――僕の姉が大人になってしまった。

 

 

「え?一緒に行かない!?」

オーブ内閣府の執務室に木霊する僕の声。向かい合う相手は机に向かったまま僕に視線を合わせることなく、書面から一時も目を離さずにサインをし続けている。

「あぁ。というか当り前だろ?セイラン親子もいなくなったこのオーブを守れるのは私しかいないんだからな。」

「うん、そうなんだけど…」

言い淀んだまま、次の言葉が喉に詰まる。

 

 

最後の砦であるオーブを守り、ディスティープランを執行しようとするデュランダル議長を止めるため、僕らは明日、宇宙に発つ。

それまで所属も明らかになっていないAAをはじめ、エターナルも、ストライクフリーダムも、インフィニットジャスティスもオーブ軍籍を与えられ、その乗組員たちにも正式に辞令が下りたのはつい先ほどの事。

―――「お前たちの身柄はオーブが保証する。」

そう一言残した彼女は、1人軍令部を後にした。

らしくない…彼女だったら「私も行く!皆にだけ最前線で戦わせるわけにはいかない!」と言うに決まっていると信じて疑いもしなかった。なのにこの肩透かしを食らったような、未だにその違和感が拭えなくって、すっきりしない。なので気分転換に外に出た。夜風の心地よさに足の向くまま向かった先は内閣府。見上げたら、もう夜も更け始めたこの時間なのに、執務室の分厚いカーテンの隙間から、まだ煌々とした灯りが零れていた。

気になってそのドアをノックすれば、彼女は一人うず高く積まれた書類に囲まれ、書面に目を通していた。

「珍しいな。お前がこんなところに来るなんて。出撃はもう明日だぞ。少しでも身体を休めておけよ。」

ドアを開けた一瞬、彼女の視界が僕を捕えた。が、直ぐに視線は書類の上。こうして気遣いを見せてくれるのは嬉しいが、気にかかっていたことを彼女に問いかける。

「…カガリは一緒に行かないの?」

「あぁ、行かない。」

書面から視線を外さず、落ち着き払ったその言葉が信じられなくって、僕は思わず声を上げてしまったんだ。

 

 

 

勿論、「私も行くぞ!」と返事が来たら、速攻止めるつもりでいた。多分彼女ならこういうだろうと100%予想していた。だから何とか諭してこの地を守って、と言おうとしていたのは僕なのに…

「私が護るべき場所はこの地だ。ここに住まう国民だ。彼らを守らずしてどうする?」

そう言って彼女はようやく顔を上げて、僕の顔を直視する。

「うん、そうなんだけど。カガリなら前戦に立って戦いそうな気がしていたから。」

「何を言う。ルージュぶっ壊したの、お前だって自覚はあるのか?」

痛いところを衝かれた。確かにフリーダムを失ったため、カガリの愛機を借りたまではいいが、スペックの違いから僕のスピードに併せることができず、ストフリを受け取ってそのままにしてきちゃったんだ。

「ごめん。でも『アカツキ』があるじゃない。」

「あれはロアノーク大佐が受領した。彼ほどのパイロットがMS無しじゃ勿体ないだろう。」

「…。」

僕のいないところで、もうこんな風に事が色々進められていたなんて。僕らの所属や階級のことも粛々と進められていたし、彼女は本当に最初から一人でこの地に残るつもりだったんだ。

今までカガリと離れたことは何度もあった。それでも安心できたのは、頼りになる皆が彼女の傍にいたからだ。でも今度は違う。アスランも、ラクスも、AAの皆も、彼女の傍で力になっていた皆が一斉にいなくなってしまうんだよ? たった一人でこの地に残るんだよ? 不安じゃないの? 湧き上がってくる不安感が口を突いて出てしまう。

「カガリ、1人で大丈夫?やっぱりアスランにいてもらった方が―――」

「キラ。」

低く、それでいて落ち着き払った声が僕の声を制した。

その声は、感情のままに語っていたかつての彼女ではない。

「議長の傍には、あのシンがいる。今やZAFTのエースパイロットだ。お前だってコクピットを狙わないようにしていたとはいえ、あのフリーダムを落とされただろう? そしてアスランの話ではもう一人、凄いパイロットがいるらしい。レイって言っていたかな? この二人を相手にお前一人では荷が重い。アスランとの共闘が何より必要じゃないのか?」

「確かにそうだけど…」

正直、カガリがここまで敵の布陣をも把握していると思っていなかった。

だって彼女をAAに連れてきたときは、オーブの行く末にひたすら執着していて、挙句自分の人生まで犠牲にしようとしていたくらいだったし。

初めて出会った時から、どちらかというと直情的で、それが「彼女」だった。出会いから2年経った今も彼女はそのままだった。そう思っていた。今の今まで。

気づかなかった。何時の間に、彼女はこんな風に変わっていたのだろう。

「心配してくれてありがとうな、キラ。でも私は大丈夫だ。寧ろお前たちが帰ってくるこの場所を守っているから。必ず生きて帰って来いよ。」

僕が言葉に詰まっているのを察してか、そう言って立ち上がって、彼女は僕の前に歩み出でる。

久し振りに間近でゆっくりと彼女を見た。

初めて会った頃、その金眼には意志の強い…例えば大きな炎が燃え盛っているのが映っていた。彼女の信念そのものが燃え盛っているように。

今も炎は消えてはいない。でも違うんだ―――他者を圧倒し、意に反するものを焼き尽くすような炎じゃない。温かくって柔らかで…そう、皆がその火を囲みたくなるような、温かく寄り添いたくなるような、そんな瞳。

彼女は僕の手を取り、ギュッと握りしめてくれた。

「お前に全権を託す。よろしく頼むな。」

「ちょ、ちょっと待ってよ!全権って…」

「何を今更驚く? お前、結婚式から私を強奪したり、戦闘に関してもAAの判断を仕切っていたの、お前じゃないか。」

焦る僕に、目をキョトンとさせて言う彼女。慌てて僕は首を横に振る。

「でも、僕はオーブ軍全権を預けられるほどの器じゃないよ。」

「そうか?私にはオーブが連合と同盟を結んだとき、「それを認めちゃったのは、カガリでしょ?」とかラクス顔負けの指導者ぶりだったじゃないか。」

「う…その、あの時は、言い過ぎちゃったよ。ごめん。」

あの後、ラクスにこっそり「あの場でカガリさんお一人を、責めることはよろしくありませんわ。もう十分その責務に苦しんでいらっしゃるんですから。」と忠言されたっけ。あとでラクスが「天使湯」でカガリのフォローしてくれたのは聞こえてた。

だが彼女は笑って少し俯いた。

「確かに責められるのは辛かったけど、いい発破になったさ。やり方があれで正しかったのかはわからないけれど、少なくとも間違えてもそれ気づくことが大事ってわかったんだから。お前はもうそんなこと、とっくに気づいていたのにな。私はまだまだお前に追いつけていなかった。」

「僕はそこまでの人間じゃないよ。さっきのことだって、既に気負っているカガリを子供みたいに責めちゃったし。それにラクスが単身宇宙に行くって言った時も、ラクスに諭されるまで僕も同行するつもりだったし、エターナルの危機にはもうすぐオーブも戦闘が始まるのに、ラクスを助けることを優先したし、感情の方が先走ることもあったくらいなんだよ?」

「そりゃ大事な彼女を助けたいと思うのは、至極普通の事だろ?恋人、しかもあのラクスを失うなんて、絶対あってはならない。大丈夫。お前は十分に自分を知り、周囲を知り、世界を見て判断できる大人だ。」

なんでかな。

そう言ってくれる彼女の向こうに、あの写真の幻影が見える。

生まれたばかりの僕らを抱いて微笑む女性。

あの女性の表情と、今目の前の彼女が重なる。

何だか、彼女の言葉が、母の言葉のように重なって聞こえてくるんだ。

そう思ったら、彼女と離れるのがたまらなく辛くなってしまう。

顔に出しちゃいけない。彼女を不安にさせちゃいけない。こうして精一杯見送ろうとしてくれているのに。

すると彼女は

「何だよ、その不安そうな顔。任せろ、こちらにも防衛部隊はいくつか用意している…お前の傍でお前に守ってもらうのは、もう大丈夫だ。その分、お前はラクスを―――大事な恋人を守れ。それともそんなに全権を任されるのが怖いか?」

「…」

未だ言い淀む僕に、彼女は

「ほら…よしよし。大丈夫。大丈夫だから…」

そっと背に手を回し、あの時と同じように抱きしめ、背を摩ってくれる。

それだけで、なんでついさっきまで不安で逆巻いていた心が凪いでいくんだろう。

AAの中のたった一人のコーディネーター。誰が言葉をかけてくれても精神がどんどん荒んでいた時、彼女にこうしてもらったら心が落ち着いて行ったっけ。

これが血のなせる業、なんだろうか。

「ごめん。もう大丈夫だから。」

そう言って彼女の両肩に手を添え、身を離す。

「こんな姿、ラクスに見せられないや。」

そう言って笑う僕に、彼女は首を静かに横に振る。

「彼女に男らしいところを見せたいのは当然さ。たとえ今まで弱い部分を見せたことがあっても、成長して彼女を支えられるだけの男になったんだ、ってな。アスランは親友として、ラクスは恋人として。…でも、それ以外に何か言えないことがあるとき、苦しいことがあるときは、私に言いに来い。私はいつでもここで、お前を待っているから。」

 

やっぱり、彼女は大人になってしまった―――

 

ううん。違う。

元々彼女は強さに見合うだけの優しさと心の広さを持っていたんだ。ただ、まだ出会った頃は、気性の強さが大きかっただけで。

今はウズミ様のように、こんなに落ち着いて世界を見ている。

そして、僕のことも―――

たった一人の血のつながる、僕の片割れ。

彼女にしかできないやり方で、僕を癒し、一歩進むための背中を押してくれる。

 

それなら僕は僕のやり方で、絶対君と、君の大事なものを守るから!

 

「カガリ、ありがとう。絶対アスランは僕が護って、カガリの元に返すからね。」

「ばか。アスランだけじゃない。お前も、ラクスも、AAのメンバーも皆で帰って来いよ。でないと許さないからな!」

「うん。ありがとう。じゃぁ、帰るね。」

「気を付けて帰れよ。」

当り前の会話が、まるで家族みたいで。

僕の半身、もう一人の僕、ラクスとはまた違った意味で、大切な人。

また会おうね。

絶対、今度は笑顔のままで、言うから。

 

―――「ただいま、カガリ。」って―――

 

 

・・・Fin.

 

 

***

 

なんか久しぶりに双子を書きたくなったので、殴り書き(笑)

アスカガスキーではあるんですが、時々猛然と双子スキ―が爆裂するんですよw

今地デジの地方局で種運命を放送しているんですが、本放送から17年経って見ると、また改めて色々妄想が湧き上がってきまして。特に双子は中盤は一緒に行動しているので、安心して見ていられるのですが、オーブ本土戦以降、カガリが治世に忙殺されるようになると、殆ど絡まないのが寂しくって(´Д⊂ヽ なので、こんな妄想が湧くんですよ。

後、本放送見た時は、何もかも行く末を悟っているキララクが、ホント神格化されたみたいに見えちゃったんですが、17年かけて落ち着いて(笑)見直すと、案外キラ君も発言がまだ若いな、って思うところがちらほら見えてきて、やっぱり年相応だったんだなって安心しました♥ まだ18歳だもんね。いくら身体&体力は大人(コーディーは)年齢でも、精神ってやはり年と場数を踏まないと成長できないと思うんです。彼らは彼らなりに道を模索して、必死に戦って生きてきた。なので普通の青年からみればかなり達観していると思います。2度も大戦潜り抜けてきたからね。なので、ここで引き合いに出すのはあれなんですが、シンも多分凄い成長したと思います。今度の劇場版で監督が「一番決着がついたのがシン」とおっしゃっていたそうなので(トークショーで)、勝ちも負けもない第3者陣営にいたキラアスラクカガと比べ、彼は敗戦陣営を体験していますし、数々の喪失もありました。そんな彼がキラ…までは行かないかもしれませんが、どんな成長をしてくれるのか、凄く楽しみ♪そしてキラとの絡み&オーブでカガリとどう歩み寄れるか、双子との関係が早く見てみたいです!

そして―――劇場版で、双子の絡みはあるかな~。幸せな双子のキャッキャウフフ♥(*/≧▽≦)人(≧▽≦\*)♥が見たいわ(*´Д`)ハァハァ

そうそう、今双子フリークさんに素敵な企画をTwitterでやっているようで、

折角だから、乗ってみた!♥素敵な作品が沢山掲載されているので、じっくり読みに行くんだ!


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