KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

マラソンを愛する皆様、こんにちは。
2022年は積極的に更新していく心算です。

アーカイブス「マラソン春秋」vol.14~箱根駅伝について語るときに僕の語ること①

2008年01月15日 | 「マラソン春秋」アーカイブス
さっそく、村上春樹さんの著書のタイトルをパクってしまいました(苦笑)。

現在は閲覧不能の旧サイトの記事を再掲載するシリーズ、今回は2003年の箱根駅伝についての記事。箱根駅伝という大会についての僕の印象はここから大きく変わっているわけではない。

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2003箱根駅伝雑感
at 2003 01/13 16:27

今年の箱根駅伝は、1987年に日本テレビが全国ネットで中継を開始して以来、最高の視聴率を記録したという。2日の往路が29.3%で3日の復路が31.5%(関東地方)。

どうして、かくも箱根駅伝は人気があるのか?しょせんは、関東の大学しか出られないローカル大会ではないかという批判もある。(ちなみに、関西の視聴率は往路で15.4%、復路で16.4%)「読売の天敵」であるスポーツ・ライターの玉木正之氏が、
「箱根の視聴率が、世界選手権の男子マラソンよりも高いのはおかしい。」
と語っていたが、一理ある意見ではある。学生の試合の方が、社会人よりも人気があるというのは、「健全」ではないと思う。
(ちなみに、玉木氏は京都出身)

しかし、元旦の全日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝)と箱根駅伝を見比べると、参加しているランナーの実力は、ニューイヤーの方が上なのに、「面白み」という点では、箱根の方が上回っている、と僕は感じる。

特に今年のニューイヤー、4区以降はコニカの独走状態となり、優勝争いという点では、興味が大きく薄れた。

箱根駅伝の中継に向けた、日テレの努力は尋常ではない。まさに社の年間最大行事というべき力の入れようである。毎年、中継のメインとなる山下末則アナのインタビューを読んだことがあるが、箱根の中継を担当するアナウンサーは、毎年、最低1ヶ月は各大学の取材を行うという。中には、夏合宿から立ち会うという。
そして、各区間に必ず、最低1ヶ所は定点カメラを設置して、先頭争いのみならず、後方のランナーの走りにもカメラを向けている。これがいいのだ。

今回のニューイヤー、記録を見ると、10人以上のごぼう抜きをしているランナーが3人いる。三菱重工長崎の阿部祐樹にトヨタ九州の中崎幸伸に小森コーポレーションの秋葉啓太。彼らの走りをなぜ映してくれない?そして、あの櫛部静二がニューイヤーに帰ってきたというのに、ほとんど無視である。彼の後輩で、昨年引退を表明した渡辺康幸さんが、レポーターとして起用されていたというのに、彼の走りを渡辺さんにコメントさせてもよかったのではないか?

どうも、TBSは、スポーツ中継に関しては、せっかくの好素材を台無しにしているように思えてならない。

箱根の楽しみは優勝争いだけではない。来年の出場権をかけた、シード権争い(10位以内)もまた、楽しみの1つである。そして、今回はシード権争いが実に熾烈だった。

愛媛出身のランナーが、中央学院大と日本体育大のアンカーだということを、「ガイドブック」等の資料で知ったのだが、まさかその2人がシード権争いで直接対決するとは思いもしなかった。そして、旭化成ファンでもある僕は、旭化成陸上部から、五輪代表になったランナーが監督を務める大学、東海大(大崎栄)と東洋大(川嶋伸次)と拓殖大(米重修一)との争いにも注目していたが、この3校もシード権争いに絡んでいた。さらには、僕の兄貴の母校である神奈川大も。(わが家において、箱根駅伝が盛り上がってきたのは、'92年の、神大の箱根復帰以降である。)

単に優勝争い以外の部分が盛り上がるスポーツというのは、底が深いと思う。

駒沢大と、山梨学院大との優勝争いもなかなか、見ごたえがあった。4区のカリウキはこれまで、箱根では調子を出し切れていなかったが、今回、ようやく、オツオリやマヤカといった先輩たちの域に達したと思う。なんといっても、走っているときの表情が実によかった。(その点、2区のモカンバは、防寒対策のために重ね着したウェアの着こなしも、タスキのかけ方もだらしなくて減点!)。復路のランナーも、よく頑張ったと思う。もしかして、「史上最強のメンバー」だった、早稲田大の追撃を振り切って優勝した、'94年の再現もありか?と思えたが、駒沢大は強かった。8、9、10区と連続して区間賞をとられたら、もう、恐れ入るしかない。

早稲田大はまさかのシード権落ちだったが、エースが欠場ではやむを得ぬか。今回、寒さのせいで、体調を崩した選手もいたと思う。やはり、ものを言うのは「調整力」だ。

前にも書いたが、読売新聞が昨年春に行った世論調査によると、
「あなたの好きなスポーツは?」
という質問に対し、「マラソン」は、野球に次いで2位だったという。今なら、サッカーに抜かれているかもしれないが、もしかしたら、この回答者の何割かは、箱根駅伝とマラソンを混同したのかもしれない。

今回より、出場校が4校増え、さらには、予選会のタイムを基に選ばれた学連選抜チームも含めて、参加チームが5チームも増えたのに、繰り上げスタートが無かった。これは、凄いことである。各大学のレベルがとてつもなく向上しているということだからだ。もしかしたら、今後、関西地区の視聴率対策として、関西の学連選抜チームのオープン参加も検討されるかもしれない。


検証:箱根から巣立ったマラソン・ランナーたち
at 2003 01/18 13:31

昨年の3月、男女の実業団駅伝の上位チームの、マラソン最高記録を調べてみた。名づけて、
「駅伝が強いとマラソンも強いか?」

実際、上位10チームのうち、大半が、マラソンのチーム最高記録保持者が現役選手として健在だった。特に女子の場合、三井住友、東海(現UFJ)銀行、天満屋と、世界陸上マラソン代表選手の所属チームがトップ3となった。

今回は、箱根駅伝で、同様のリサーチをしてみよう。今年の箱根出場校出身ランナーのマラソンのベスト記録によるランキングを作成してみて、箱根駅伝から、どのくらい「世界的」なマラソンランナーが生まれているかを検証してみようと思う。なお、タイムの後の数字は、今年の箱根の順位、「選」というのは、「学連選抜チーム」の略である。


1位 駒沢大 藤田敦史 2:06:51('00)①
2位 日本体育大 谷口浩美 2:07:40('88)⑨
3位 早稲田大 瀬古利彦 2:08:27('86)⑮
4位 中央大 佐藤信之 2:08:48('98)⑤
5位 大東文化大 実井謙二郎 2:08:50('96)④
6位 亜細亜大 帯刀利幸 2:08:52('01)⑰
7位 東海大 諏訪利成 2:09:10('02)⑦
8位 山梨学院大 尾方剛 2:09:15('02)②
9位 順天堂大 浜野健 2:09:18('02)⑧
10位 東京農業大 小指徹 2:10:26('91)選
11位 日本大 宇佐美彰朗 2:10:37('70)③
12位 筑波大 山本泰明 2:10:44('00)選
13位 専修大 森田修一 2:10:58('91)⑲
14位 東洋大 仙内勇 2:10:59('91)⑥
15位 神奈川大 近藤重勝 2:11:14('01)⑪
16位 国士舘大 添田正美 2:11:45('01)選
17位 法政大 磯松大輔 2:12:48('01)⑯
18位 國學院大 鈴木博幸 2:13:00('99)⑭
19位 関東学院大 荒井崇 2:15:04('99)⑱
20位 創価大 松永伸彦 2:15:27('02)選

以下は割愛させていただきたい。もしかしたら、ミスがあるかもしれないが、その際はご指摘していただければありがたい。

こうしてみると、比較的最近の記録、21世紀に入ってから更新された記録が多い。それ自体はいい傾向だ。(日大0Bよ、奮起せいよ!)

ところで、日本人でサブ・テン(マラソン2時間10分以内)ランナーは、37人いるのだが、その中に箱根出身のランナーは15人、と半数を割っている。そして、ご存知の通り、現在の日本記録保持者の高岡寿成は、京都の龍谷大出身である。

15人を学校別の分けてみると、早大が3人、大東大、山学大、日体大、駒大が2人、あとは、中大、亜大、順大、東海大から各1人ずつ。面白いのは、山学大の2人のサブテン・ランナーは、去年の12月に記録を出したばかり。そう、尾方と大崎悟史である。

はたして、箱根駅伝に出場することが、将来マラソンで世界を目指す際に、プラスかマイナスか?

結論は次回に。


検証:箱根から巣立ったマラソン・ランナーたち~完結篇
at 2003 01/22 01:14

テレビ局のたゆまぬ努力の甲斐あって、今や「国民的行事」にまでなった?箱根駅伝。
はたして、それは、世界で戦うマラソン・ランナーを生み出す、「登竜門」となっているだろうか?

結論を先送りしたが、その必要はなかった、と思う。結論はもうとっくに出ている。少しでもマラソンを知っている人なら、ご存知のことだ。

そもそも、今回、このような「検証」を試みたきっかけとなったのは、「Number」567号に掲載された、「正月の不思議な駅伝」という記事である。(筆者は阿部珠樹氏)僕が、「箱根駅伝雑感」で書こうとして、上手く書けなかったことを見事に表しているような部分もあったし、読んでいて違和感を覚える部分もあった。

その中の一節、
「よく『箱根駅伝からは多くのランナーが育った』などと言われるが、箱根を目標にせず、トラックなりマラソンなりの練習に集中すれば、もっと多くの名ランナーが生まれていたはずだ。」

そう、現在の男子の長距離種目、3000m、5000m、10000m、マラソンの4種目の日本最高記録保持者、高岡寿成は箱根を走っていない。箱根の練習をさせられるのが嫌だから、自宅から通える、龍谷大学に入ったという説もあるほどである。

そして、戦後の日本のマラソンのメダリスト、故円谷幸吉さん、君原健二さん、森下広一さん、いずれも箱根を走っていない。入賞者にまで広げると、宗猛さんに中山竹通さんも。メルボルン五輪で、ザトペックに先着する5位入賞の川島義明さんに、ご存知「こけちゃいました」の谷口浩美さんの2人だけである、箱根経験者は。

ついでに、日本最高記録を作った人も。寺沢徹さん、重松森雄さん、佐々木精一郎さん、宗茂さん、児玉泰介さん、現役では、犬伏孝行選手。いずれも、箱根未経験者だ。

ここまで、ネタが上がっているのに、何の因果か、日テレにも読売にも義理はないが、箱根を「弁護」してみよう。

確かに、五輪メダリストは、箱根を未経験だ。しかし、円谷さんや君原さんの時代は、現在よりも、高校や大学への進学率が高くなかったのではないか?この点は、意外と見落とされている。それに、五輪でメダルを取ってないからといって、宇佐美彰朗さんや、瀬古利彦さんの功績をないがしろにしていいわけがない。

箱根駅伝は「過酷なレース」といわれるが、20kmあまりの急勾配を全力で走ることを「過酷」というのなら、約10~18kmの距離を中1~2日で、3、4回走る九州一周駅伝や、青東駅伝もまた、「過酷」だと思う。そして、箱根未経験のマラソン五輪代表選手のほとんどは、箱根を走っていなくとも、青東か九州一周を走っている。それも、4年間どころでなく、選手生活の大半を占める年数を。

この日本で、陸上の長距離種目をしていて、駅伝と無縁でいることは、難しい。

テレビで全国放映されるようになって以来、より多くの人に箱根駅伝が知られるようになった。かくいう、愛媛在住の僕にしても、日テレの中継によって、箱根駅伝を知った人間である。それゆえ、箱根を走るランナーは、全国区の知名度を持つようになり、彼らが、卒業後、マラソンでの活躍を期待され、それが果たせないと、
「どうした?」
ということになる。箱根を沸かせたスターが、マラソンでは大成しないと、まるでジンクスのように言われるようになってくる。去年引退した、渡辺康幸など、その「ジンクス」の典型のように見られていた。

そう言えば、近年、日本の学生陸上界を席巻しているケニア人留学生でも、シドニー五輪代表になった、ジュリアス・ギタヒも、昨年のシカゴで、快走したダニエル・ジェンガも、箱根は走っていない。

ただ、先に掲載した、ランキングを見て、お気づきだろうか?20人のランナーのうち、全国ネットで放映するようになってからの箱根を経験した年代のランナーが15人もいる。
(國學院OBの鈴木博幸と、創価大OBの松永伸彦は、学生時代は箱根に出場していない。)

藤田敦史や、帯刀利幸、諏訪利幸ら21世紀に入ってから、自己ベストを更新したランナーも多い。今年のニューイヤー駅伝も、メンバーの半数以上を箱根出身者で固めたチームが上位を独占した。

箱根が全国中継されるようになってから、16年。まだ16年だ。お楽しみはこれからだ。

だからこそ、箱根駅伝は阿部氏の言うような
「聖性に裏付けられたイベント」
などでなく、純然たる「スポーツ・イベント」
として、語られるべきである。毎度のことですが、箱根を走っているのは、「無名の大学生」などではありませんよ。インターハイや、高校駅伝で実績を残した選手でないと、箱根の常連校へのセレクションをパスすることはできませんよ。都大路は、甲子園や花園や正月の国立よりも注目度が低いんだなあ。まあ、インカレの表彰台に立っている五輪金メダリストが、「学生時代は無名」よばわりされるくらいだから仕方がないか。

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「検証:箱根から巣立ったランナーたち」に登場するランキングの2008年度版を掲載しておこうと思う。この5年でどれだけランキングが変化したであろうか。

1位 駒沢大 藤田敦史 2:06:51('00)①
2位 早稲田大 佐藤敦之 2:07:13('07)②
3位 日本体育大 谷口浩美 2:07:40('88)⑫
4位 東海大 諏訪利成 2:07:55('03)棄
5位 中央大 藤原正和 2:08:12('03)⑦
6位 大東文化大 清水康次 2:08:28('03)棄
7位 山梨学院大 尾方 剛 2:08:37('03)⑥
8位 亜細亜大 帯刀秀幸 2:08:52('01)⑤
9位 順天堂大 浜野 健 2:09:18('02)棄
10位 帝京大 中崎幸伸 2:09:28('04)⑧
10位 東京農業大 小指 徹 2:10:26('91)⑰
11位 日本大 宇佐美彰朗 2:10:37('70)⑨
12位 専修大 森田修一 2:10:58('91)⑭
13位 東洋大 仙内 勇 2:10:59('91)⑩
14位 神奈川大 近藤重勝 2:11:14('01)⑮
15位 法政大 磯松大輔 2:11:42('03)⑯
16位 国士舘大 添田正美 2:11:45('01)⑬
17位 青山学院大 沖野剛久 2:12:24('06)選
18位 國學院大 鈴木博幸 2:13:00('99)選
19位 明治大 進藤吉紀 2:14:57('93)選
19位 関東学院大 荒井 崇 2:15:04('99)選
20位 中央学院大 平野 進 2:17:19('93)③
21位 拓殖大 塚本 徹 2:18:06('81)選
22位 立教大 須田秀夫 2:19:00('66)選
23位 平成国際大 F.ムヒア 2:20:19('06)選
24位 城西大 三瓶優太 2:21:29('06)⑪

('07年1月15日現在。上武大のマラソン最高記録は不明です。)

※「アーカイブス」において、旧サイトの記事は「原文ママ掲載」を原則としていますが、亜細亜大出身の帯刀秀幸選手の名前を「利幸」と誤記しておりました。改定版ランキングにおいて、訂正させていただきます。






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