KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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2008防府読売マラソン雑感 vol.1

2008年12月24日 | マラソン観戦記
今年で39回を数える、「若手の登竜門」と呼ばれる大会ではあるが、西日本の日テレ系列局では生中継されているのだが、関東ではどのくらい認識されているのだろうか?

なんだか、今年のM-1グランプリの優勝者や、「探偵!ナイトスクープ」みたいなことを書いてしまったが、実はこの大会、今回より出場資格が大幅に緩和され(ゴール関門制限が3時間以内から4時間以内に変更)、それに伴い出場を決めた僕の知人が、自社主催のイベントのために招待した某有名女子ランナーに、
「僕もマラソンを走っていて、今度防府に出るんですよ。」
と話しかけたところ、彼女からは
「何ですか?それ。」
という返事が返ってきたのだという。

子供の頃から吉本新喜劇や上方漫才などの関西のお笑い芸人が好きだったのだが、(約30年前の時点で)三枝師匠や仁鶴師匠に、やすきよにアホの坂田クラス以外は東京ではほとんど知られていないということを初めて知った時のようなショックだった。いや、これはこの某女子ランナーが、
「よく、それでマラソン中継の解説が出来るもんだ。」(僕の友人K氏談)
と批判されるべきなのかもしれないが。

関西ではメジャーだが、東京ではマイナー、まるでマラソン界のNON STYLEかメッセンジャー黒田である(なんじゃそりゃ)防府読売マラソン、21世紀に入ってからは独自のルートでエチオピアやロシアのランナーを招待し、「プチ国際マラソン」の様相を呈してきた。なんといっても、大会レコード所持者は、エチオピア代表にもなったハイレ・ネグシェである。

今回は海外招待選手が全てアジアからだった。韓国、モンゴル、中国、台湾から6人、北京五輪代表も含まれていた。2年前のドーハのアジア大会、男子の長距離とマラソンのメダルは、マラソン銅メダルの大崎悟史以外は、地元カタールとバーレーンのアフリカ出身ランナーに独占された。過去10度も優勝を誇る3000mSCに於いては、日本は選手派遣さえ見送ったほどだった。こうした現状に東アジア勢が団結し強化を図ろうという意図によるものであれば、この試みは支持したい。'90年の北京大会以来、マラソンで4連勝しながら、ドーハでは7位が最高だった韓国は、日本以上にレベルの低下に危機感を持っているはずだ。

'90年代半ばから日本人の若手ランナーや、在日ケニア人ランナーにペースメイカーを務めさせていたこの大会、今回は三菱重工長崎の福岡耕一郎が担当。ランナーとして出場していたら優勝も狙える実力者だ。5kmの入りは15分40秒。2時間12分のペース。参加者の持ちタイム最高は韓国のヒョン・ジョエンの2時間10分37秒だが、これは9年前にこの大会で記録されたもの。彼と昨年優勝の中森一也(大塚製薬)以外は皆持ちタイムが13分以上なので、また妥当なペース設定かと思われた。このペースを嫌って9km過ぎて飛び出したのはモンゴルのセルオド・バトオチル。プレ五輪として開催された今年4月の北京マラソンで優勝。その時のタイム、2時間14分15秒はモンゴルのナショナル・レコードである。1km3分までペースを上げ、集団を後方に追いやり、独走するバトオチル。

「モンゴルの選手は体幹部の筋力が強いですからね。」
とは、解説の坂口泰氏(中国電力監督)のコメント。過去には佐藤進氏(故人)や坂梨博氏(JFE監督)など、全国中継のマラソンでは聞けない解説が聞けていたのもこの大会の特徴だ。今回はこの大会で優勝歴もある石本孝幸氏(トヨタ九州コーチ)が中継車に乗り込んでいた。そういえば、旭化成時代の同僚でもあり、今は共にトヨタ九州でコーチを務める真内明氏は先日の福岡で完走していたな。

第二集団のランナーは誰もバトオチルを追おうとはしない。歯がゆさを感じた。持ちタイムからすれば自分たちとはそれほど差がないはずだ。決して「格下」ではない。ここは後を追うべきじゃないか。特に今回が初マラソンの糟谷悟(トヨタ紡織)、駒澤大時代に3度箱根駅伝優勝に貢献したランナーだが、「初マラソン初優勝」を目指すつもりなら、ここは追うべきじゃないのか?

「大相撲に続いて、マラソンもモンゴル旋風」
という翌日の新聞の見出しが頭に浮かび始めた。中間点は1時間5分16秒を通過。独走するバトオチルはこまめに給水も取り、最短コースを通りながら独走する。既に後方とは1分もの差をつけた。

モンゴルのランナーの日本のマラソンでの成績というと、僕の持っている資料では15年前の玉造毎日マラソンで4位に入賞した記録が残っているが、もともと高地であるし、身体能力は高いし、実は素質の高いマラソンランナーの「金脈」なのではないか。

福岡が退いたのは25km地点。第二集団を引っ張るのは地元防府在住の伊藤健太郎(協和発酵バイオ)。かつてはボストンマラソン優勝者の浜村秀雄氏も在籍し、全日本実業団駅伝にも11度出場した協和発酵防府だが、現在は28歳の伊藤が唯一の陸上部員である。監督の金次光行氏は、16年前の愛媛マラソンで4位に入賞、防府でも2位に入賞歴がある。

僕が伊藤を初めて見たのは7年前のこのレース。海外招待選手が上位を独占し、彼の4位が日本勢トップだったのだが、その特異なフォームに驚かされた。半開きの口に苦痛の表情を浮かべながら、首を前後に振り、腕は前後ではなく、顔の前でくるくると回している。当時、
「これはすごい!」
とネットに書き込んだ覚えがあるし、
「関東のマラソン・ファンにも、彼の走りを見せたい!」
とも書き込んだ。その時のゴールタイム2時間13分44秒が彼のベストタイム。翌年はシカゴマラソンに派遣されたが、完走したのに国際映像には彼の走る姿が映されず、残念だった。沿道のギャラリーには彼の走りがどう映っただろうか。

この数年は故障に苦しんでいたようだが、カネボウ陸上部が防府から東京に本拠地移転後は、九州一周駅伝では山口県チームのエース格である。夕方まで勤務に専念し、練習は夜、一人きりで発着点の防府陸上競技場の周回コースで行っている。

バトオチルの快走をよそに、日本人集団は牽制しあい、25km過ぎてペースが落ちた。これではいけない。坂口氏のコメントも手厳しくなる。伊藤の健闘を期待したいが、このままでは追いつけない。

快走してきたバトオチルだが、30km地点が近づくにつれてペースが落ちてきた。後ろを大きく振り返り、雨で濡れた顔に手をやる仕草が目についてきた。集中力がなくなってきているのか。

(つづく)





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