KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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マラソン旅日記~香川・丸亀国際ハーフマラソン2009vol.2

2009年02月12日 | マラソン参戦記
プログラムに名前のあった、土佐礼子の夫、村井さんが見当たらない。村井さんとは何度も同じレースに出ている。実はプチ自慢だが1度だけ勝ったことがある。'99年の北海道、村井さんは女子の先頭グループ、安部友恵さんをマークして走っていたが、終盤に大失速してしまったのだ。4年前の丸亀でも女子の優勝者とずっと並走して走り、テレビによく映っていた。

スタートして、沿道を見ると村井さんがいた。今回はエントリーはしたものの奥さんのサポートに徹するつもりだったようだ。スタートからいきなり橋ができていたが、これは問題ない。参加者が本当に多くなった。なかなか集団がばらけない。しかし、足止めを食っている、という感じでもない。地元の甲子園の常連校であり、駅伝も強い尽誠学園高校のブラスバンド部の演奏に見送られる。この大会の開催に力を添えたのは、日本陸連副会長で国際ロードレース連盟(AIMS)会長でもある帖佐寛章氏。彼の教え子が陸連専務理事であり、長く順天堂大学で指導をしてきた澤木啓祐氏。そして彼の教え子の1人が尽誠出身で山梨学院大出身の上田誠仁氏。その人脈に支えられてきたのか、初期のこの大会には、順大や山学大の現役学生や両校OBの参加が多かった。今はそういったコネに関係なく、様々なランナーが出場している。ハーフマラソンは元来は強化のための種目だ。トラックランナーには、スタミナをつけるために、マラソンランナーは、ペースを維持するトレーニングのためにエントリーしてくる。来月以降のマラソンの行方を占うレースでもある。

さて、速い流れに乗ると、思った以上にペースが上がる。1kmの入りが4分35秒。スタートラインを越えたのが手元の時計で見て18秒(実質は20秒)だから想定よりも速い。しかし、呼吸はさほど苦しくないし、「無理している」という感覚がない。数メートル前には、背中に「1時間30分」と記したペースメイカーもいた。しかし、彼らにはつくことはできない。ここは無理をするまい、と決めた。抑えて抑えて。入りのペースが維持できている。こうなると、自制心がどこかへ行ってしまう。半年ぶりのレース出場がもたらす高揚感も影響しているのか、昨年のタイム、1時間36分14秒を破ることを意識し始める。1km4分30秒をゴールまで維持すれば切れるタイムだ。この種の暗算は得意になった。

男女同時スタートの大会において、女子の先頭ランナーを多数のランナーが取り囲むように走る姿をテレビでよく見かける。海外のマラソンにおいては、女子の招待ランナーを、大会主催者が用意した「ガードランナー」が取り囲むということがQちゃんのベルリンマラソン出場以来広く知られることとなった。
「テレビに映りたいだけの奴ら」
「おじゃま虫ランナー」(某スポーツ紙の記者がコラムでそう書いた)と、彼らに対する批判が多いが、少なくとも、僕の経験で言えることは、男性と女性とでは、女性ランナーの方がペースメイカーに向いている。あくまでも僕がレースで一緒に走った人を見た印象で、実際にデータを調べたわけではないが、一定のペースを保って走る能力は女性ランナーの方が長けているのではないだろうか?僕もこうした大規模なレースでは、女性ランナーをペースメイカーとして走ることがよくあった。フルマラソンのベストが2時間20~30分台のランナーが、女性のトップランナーにつこうとするのは、ごく自然な流れである。

「平坦なコース」と言われている丸亀のコースだが、コース上には橋があり、そこでは上り坂がある。かつてはなんの苦に感じなかった程度の上りが足にずしんとくる。

4年前、野口みずきがアテネ五輪後の初レースとしてここを走った際には、登録の部よりも5分遅れてスタートしたのだが、6km過ぎて彼女に追いつかれてしまった。今回、特別参加のQちゃんにはどこで追いつかれるのだろうか。彼女を一目見ようと沿道の観衆は例年より多い。

しかし、当初に比べると年々観衆も「マラソンの楽しみ方」を心得てきたような感じを受ける。8年前にはただ眺めているだけの人も多かったが、声援が以前より大きくなった。沿道の皆さん、貴方たちの声はちゃんとランナーに届いているんですよ。

コースは片道1車線の県道。特に変わったこともない、どこの町にも通っているような普通の道だ。そんな道が年に一度、全国、そして今回から「国際」と銘打たれ海外からもランナーが集まり、レースを行なう。日常的な空間が非日常的な世界に変わる。僕の知人で、松山市内り中心部を通るマラソン大会の開催の実現を目指して活動している人物がいる。
彼は行政のトップには、
「マラソン大会を市内で開催しましょう。」
とは声をかけなかったのだという。
「年に一度、半日だけ市内の道路に車を入れないようにしてみませんか?」
と持ちかけたのだという。マラソン大会を開いたところで喜ぶのはランナーだけだ。都市型マラソンはいかに走らない人たちを巻き込むことができるかに成否がかかっているものなのだ。

この町に、すっかりマラソンは定着したようだ。フルマラソンの半分の距離であるハーフマラソン、というのがまた、いいのだ。車両規制時間もフルマラソンの半分で済む。「フルマラソン6時間以内完走」よりも「ハーフ3時間以内完走」の方が、ビギナーにとっては敷居が低い。

7km、8km、まだペースは維持できている。その分余裕はない。9km過ぎて広報車とすれ違う。今どき珍しくこのコースはほぼ中間点で折り返すコースだ。先頭がもうすぐ折り返してくる。

今年の箱根駅伝2区の区間賞を争った、山学大のメクボ・ジョブ・モグスと、日大のキダウ・ダニエルが並走してやって来た。やはりこの2人がトップだった。それを追う日本人ランナーたちの集団とはかなり差がついている。日本人ランナーの集団は大きく、誰と誰がいたのか分からないほど。あの特異なフォームの飛松誠がいたのも、ゴール後で知ったくらいだった。そもそも、今年は反対車線を走るランナーたちを眺める余裕が例年よりも少なかった。

中継車がやってくる。女子の先頭ランナーがもう来たのかと思う。女子のトップはマーラ・ヤマウチだ。それも独走だった。
「国際ハーフとか言っても、モグスにヤマウチ、日本に住んでるランナーばっかしやん。」
と思う方もいらっしゃるだろう。その気持ちは分からないこともない。日本国内のマラソンには未出場でも、ハーフは走っている世界のトップランナーは少なくない。アルトゥール・バリオス、ヘルマン・シルバ、カリド・ハヌーシ、モーゼス・タヌイ、ポール・テルガト・・・。バリオスにタヌイ、ハヌーシは優勝も経験している。国際駅伝とかよりも、こういう大会を走って欲しいとは思う。だが、モグスは2年前のこのコースで59分48秒で走っている。日本記録よりも遥かに上回る。日本人を夫にもつ英国人、ヤマウチは世界選手権と五輪に連続入賞している。そんなランナーたちが活動の本拠地を日本に置いているという事自体を我々はもっと誇らしく思うべきではないだろうか?

女子の2位は加納由理、3位は資生堂のランナー(平田裕美かと思ったら、一般参加で出場していた、“元祖スーパー高校生”藤永佳子だった)、そして4位は、赤いランシャツ、土佐だ!土佐礼子だ!レイコちゃんだ!

あれ見とん、れいこちゃんやがね。どしたんぞね、えらい速いこと走りよらい。ほんまに引退するん?しやせんわい。引退とか言よらんかったろがね。区切りじゃ言よったろ?引退と区切りは別もんぞね。

すれ違い様、声援を送った。
「とされいこ、頑張れ!」
だったか、
「れいこさん、頑張れ!」
だったか覚えていない。彼女にこの声は届いたか。僕の着ていた彼女の似顔絵入りTシャツが視線に入ったか。

11年ぶりのすれ違いだった。

(つづく)




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