風のBLOG

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『ヘレン・ケラー~ひびき合うものたち』2013秋 西日本地域・東日本地域ツアー3

2013-10-17 11:35:05 | 全国巡回公演
西日本地域から始まった『ヘレン・ケラー~ひびき合うものたち』の巡回公演は、早くも4週目を迎え、東日本地域に向かいました。


10月 6日(日) 埼玉県 (公財)草加市文化協会 主催公演
   8日(火) 宮城県 尚絅学院中学校・高等学校
   9日(水) 福島県 原町高等学校・小高商業高等学校
  10日(木) 宮城県 石巻西高等学校・石巻好文館高等学校
  11日(金) 宮城県 気仙沼高等学校




草加市文化会館にて行われたこの公演は、草加市文化協会の方々と共に風が4年の月日を重ね、満を持して行われた公演です。
風の西垣が行う“コミュニケーション・ワークショップ”を、障がいをもつ方同士はもちろん、障がいをもつ方や様々な方々との架け橋となる願いを込めた活動を行い続け、劇場空間の理解や解放を深めるなかで、芸術の力と人間のひびき合いを地域の方々と共により開かれた空間のなかで共有することができることを願っての公演でした。
小さな観客の視線やその子を隣で見守りながらも、舞台上の出来事に小さかった頃の自身や親としての自身を重ね合わせながら熱い視線を交換する客席。
人間の出会いや響き合っていく鼓動が聞こえるような公演でした。






宮城県の尚絅学院中学校・高等学校での公演は、舞台を礼拝堂の中に組み上げる私たちもなかなか行う機会のない公演でした。
仙台市内には演劇を行えるホールや会館がたくさんある立地の中、生徒が芸術と出会うならば学校で行いたいという願いのある公演でした。
特別な仕込み作業になるため、担当の先生は公演の前日から劇団と学校の架け橋になるため様々な協力をしていただき、その姿が響き合うように公演後はサッカー部と野球部の生徒の皆さんが部活の時間ぎりぎりまで搬出作業をお手伝いしてくれました。



嫌な顔をするどころか舞台の構造に興味を持ち、楽しみながら劇団員と共に作業している姿が印象的でした。





原町高等学校と小高商業高等学校は現在おなじ住所にある学校です。
公演から約一年前、各学校の担当の先生とお話ししたときに、この二つの学校がこれから共に歩む時間の中で、風の『ヘレン・ケラー』が一つのきっかけとして歩みを支えることができると確信したのを覚えています。

小高商業高校の担当の先生は(公演の年に異動されてしまいましたが)「様々な体験を生徒たちは経験した、それは目には見えないものかもしれないが懸命に今を歩んでいる。しかし、単独では鑑賞行事が行えない。」と話されていました。(実はこの先生は原町高校の担当の先生の元生徒でした。)
そして原町高校の担当の先生はその想いが伝わるように、「原町の生徒も小高の生徒も絶対に食い入るように観ます!原町と小高の二つの学校が一緒に観ましょう。」と応えてくれました。
先生の生徒を信じる力、それは言葉だけではない、人と人の繋がり。
まさにアニーとヘレンの間にある目には見えない振動なのかもしれません。
公演当日は先生の言葉の通り食い入る様な、突き刺さる視線を送る今の生徒さん達の姿がありました。





石巻西高等学校と石巻好文館高等学校は午前と午後に分かれた公演。
例年ならば市民会館で2校合同行っていた学校ですが、今回の震災で市民会館が使えなくなってしまって石巻市の総合体育館での初めての演劇の公演でした。

学校の体育館の話もありましたが、別々の会場で行ってしまうと合同で行ってきた鑑賞教室の意味がなくなってしまう。やはり一つの会場で同じものを共有させてあげたい。という想いを体育館の方々も理解していただき、復旧工事のスケジュールも含め様々な協力をしていただきました。
あの日、総合体育館の中で真剣に、そして楽しみながら舞台を見つめていた二つの学校の生徒さんはとてもすばらしい方々に見守られていると公演を行いながら感じました。
終演後、好文館高校の図書委員の生徒さんが搬出のお手伝いに参加してくれて、劇団員に「次は何をしたらいいですか!?」と声をかけていました。
見守る大人達、そしてその視線を受け行動する彼らの姿はとても生き生きとしたものでした。





今週最後は気仙沼高等学校の公演です。

気仙沼はこの春に、フランスの芸術集団スーフルールと風の協働による“ささやき詩想レジスタンス 桜前線2000キロの旅”で最後に訪れた場所でもあり、あれから半年の月日が流れ、気仙沼に再会の意味も含めて上演に向かえた場所です。

開場から開演まで、舞台装置への驚きと劇場空間に入る興奮でざわつきが修まらない客席は、開演のベルと同時に静まりかえり、舞台上の出来事に対して無言のメッセージを送り続けていました。
あどけなさの残る表情から一変して、真剣な眼差しに変わる彼らの姿は舞台上で起こる何かを掴み取ろうとする力強さを感じました。
しかし、終演後に舞台を撤去に入る劇団員を見つけた時のキラキラとした表情も、やはり彼らの本来持っているすばらしい姿だと思います。
舞台前まで駆け寄り、俳優に声をかけ話し始める。即席の座談会のようになりました。
開演前から彼らを見続けていた担当の先生は驚くことなく、気仙沼高校の生徒ですから!と誇らしげに話してくれました。



草加市文化会館の終演後 アニー・サリバン役の渋谷と二人の小さな観客。


関東から東北まで、秋を感じるように北上した1週間でした。
風の巡回公演は常に次の公演地へ向かいながら、そして様々な想いを繋げるために行い続けています。

先日、草加の公演をプロデュースしていた西垣からこんな言葉をもらいました。

「語りかける」
実はこの言葉はとても新しい言葉なんだ。
語るとは違う“語りかける”
語るだけでは相手は存在していない、相手に向かい、そしてその人を感じるから言葉が出てくる。
だから今、語りかけることが重要なんだ。

この話を聞いたときに、今週の自分自身が感じた公演の実感がわき上がってきました。
アニー・サリバンとヘレンはお互いに語りかけている。
自分の何かを伝えたいとき、言葉だけで無く身体も何かを語りかけている。
それは終演後に舞台を見つめる生徒さんの表情やそれを見守る先生方の姿、そこに関わる様々な人たちの存在が現れている。
共有するものがあれば抱きしめるだけでも、笑顔がそこに新しく加わっていく。

芸術は様々な想いをつなぎ、そこに新たな何かを生み出す力があると思います。
でもそれを生み出すのは人と人との出会い、人間の生きる力なのだと感じました。

まだまだ今年の巡回ツアーは続きます!
更新を楽しみにして下さい!


文:白石圭司