思い出した頃に書き綴る毎度おなじみ(か?)大梵林(ボリウッド)映画祭。今回は今世紀に入ってからの比較的新しめの作品で、アンチローカル映画ファンの間ではちょいと有名なアクション・コメディ作『AWARA PAGAL DEEWANA』(02)を紹介。
マフィアのドンがある日突然心臓発作で死んでしまう。その彼はアメリカの銀行に10億ルピー相当のダイヤを遺産として残していた。遺産騒動をきっかけに互いの事をよろしく思っていないドンの息子ヴィクラーントと彼の娘婿グルは対立し、血で血を洗う抗争が始まった。それと同時にヴィクラーントの陰謀により国際指名手配されたグルの懸賞金を狙って平凡なインド系アメリカ人・アンモールも動き出し、事態はより大きなものになっていく…
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以前紹介した『PURAB AUR PACHHIM』では西洋化に苦悩するインド人を描いていたが、30年近く経つ今作では悩むどころかアメリカ在住の2世インド系アメリカ人はもちろん、インドの都市部に住む人たちまでもがごく自然に欧米スタイルの生活を営んでいる姿が当たり前のように描かれていた。
作品は基本的にコメディで、ドロドロした遺産騒動とは別に在米インド系アメリカ人のアンモールが隣に越してきた国際指名手配犯のグルによって、嫁にいびられながらも平凡な生活を送っていたのが次第に抗争に巻き込まれていく様が悲しくて、笑える。そしてグルの妻で遺産相続権利者であるプリーティに恋をしてしまったり、反対にアンモールの女性秘書がグルに惚れてしまったりとラブ・コメディ部分ももちろんありインド娯楽映画の定石は外さない。
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肝心の(アクション映画好きだからね)アクションシーンは物凄く出来が良く、銃器アクションあり、カー&バイクアクションあり、そして格闘アクションありと盛りだくさんだ。特に格闘アクションは『マトリックス』に代表する香港経由ハリウッド直輸入的アクションとはいえ、なかなか工夫がされていて香港アクション映画好きにも十分堪能してもらえると思う。
というのも、この映画のアクション指導はコアなクンフー映画ファンにはおなじみのフィリップ・コー(高飛)が担当していたのだ(無記名だがディオン・ラム(林迪安)も参加との事)。最初に登場する中華マフィアの放った刺客たちのアクションがやけにクンフー映画的だったのはその為だったのか!と一人納得した次第だ。
香港の武術指導家たち、今世紀に入って至る所で仕事してるんですね。大御所のユエン・ウーピンやチン・シウトンはもちろん、フィリップ・コクやトン・ワイ等といったマニアックな面子までもが海外作品でその名を連ねている事実は、長年香港クンフー映画を観続けた者たちにとってこんなうれしい事はないだろう。
ただ、高飛はこれ以前よりフィリピン映画界で活躍しており、現地で活躍する大島由加里の作品の監督や製作なども手がけているし、当ブログでも以前紹介したSFアクション大作『SUPER NOYPI』(06)でもアクション指導を受け持ったりとフィリピン映画界には無くてはならない存在となっている。果たしてこの映画の製作者はどういう経路でこの人選をしたんだろう?と気にはなるところだ。ディオンは多分『マトリックス』に参加していたからという気はするが。
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なぜアンチ・ローカル映画ファンにこの作品が知られているかというと、劇中に『マトリックス』のコピー場面があるからなのだ。
オリジナルではネオとトリニティがビル内で派手な銃撃アクションをするシーンをこの作品ではすべて(トリニティの壁歩きも)一人の俳優で行っていて、そのシーンだけがクローズアップされて紹介されているのである。たしかにそのまんまコピーは許される事ではないにしろ、その場面が存在するからといって作品全体を低く見てしまっていいものだろうか?それに評価するなら、まず全編通して観るべきからではなかろうか?それではあまりにもこの作品が可哀想である。
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