フロントガラスを覆う雨粒を、懸命に拭き取るワイパーの音だけが車内に響く。
五分前から降り出した雨は、夜の街を幻想的に変化させる。水飛沫を上げて走っていく車や、にじんで見える街のネオン。だが車の中の静寂は同時にもしかして、この世界に自分だけがひとり残されてしまったのではないか?という、変な錯覚をおこしてしまう。
空調機から流れる冷たい風が、雨に濡れた身体から熱を奪い取り、わたしの心をより一層暗く寂しいものにさせた。
「――車を出しますよ、お嬢様」
「あ、はい!」
運転手から声を掛けられたわたしは、つまらない妄想から現実の世界へと一瞬にして戻る。
次第に雨粒の衝突音が大きくなってきた。どうやら本降りになってきた模様だ――
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