
○古いことを知っているだけでは何にもならない。
剣道もそうである。昔の先生は方はこうだった。立派だった。
昔はあんなことも、こんなこともあった。
等々よく知っていることは良いことではあるが、ただ知っているだけでは何もならない。
或る大先生は偉かったと懐古調だけに止まらず現代の社会は何もかも昔より
うんと進んでいるのだから、現代に即応する剣道、現代に活かす剣道でなければ何もならない。
だから自分の他に見られない良い個性を見極めそれを生かし、
工夫して自分で剣道を作りあげていかなければならない。
でなければ今の目まぐるしい実社会に剣道が溶け込み、
剣道即実生活の実をあげることは出来ないであろう。
我々は何か壁にぶつかり、行き詰まりになると、古い事を参考にして考える必要はあるが、
それでも参考になることは少ないのである。宗教で言うなら、坊さんが慈の中にある
八万ものお経を読んでも、明日の事を知らない者は何の役にも立たない。
明日を知る者は智者である。後世を知り、未来を知る。
即ち、過去、現在、未来、三世の因縁を生き抜いて行く。
ここに剣道修行の心得として大切なことである。
以上先師から教わり、私自身徒ら(いたずら)に過去の郷愁にとらわれず、
一刀流を更に極め現代剣道に如何に活かしてゆくかが自分に与えられた使命と心得、
これからも精進してゆきたい。
私は時々日曜の朝、鈴木健二アナウンサーの「お元気ですか」の番組を見て、
自分の勉強の資としている。次にその中で私が成程と感に打たれた話を披露しておく。
○坂田栄男名誉(碁)本因坊のお話
大正9年生ル、今迄64回優勝された。昭和36年には連続7回優勝されている。
これが放映されたのは、去年(昭和61年)の10月19日(日)の朝であった。
お話の要旨。
1)アマは教わるが、プロになると教わらない。又、教えない。故にプロは自分で強くなる。
2)碁は激しく攻めるのと辛棒に辛棒を重ねて凌ぎ打つのと二通りあるが、
自分は今迄、時代に応じ、この二通りあった。
3)勝負で勝とう勝とうと思ってやると勝から遠ざかるものである。
4)坂田氏は色紙に「傲骨虚心(ごうこつきょしん)」と書かれた。
これは常に気概をもって生きると同時に、謙虚に、という事で、
若い時、鳩山一郎氏より頂いた言葉だそうである。
5)勝負は気合と気合のぶつかり合いで相撲と似ている。
即ち気力がなければ勝負が出来ない。集中力は疲れてくると無くなる。
若い時はよいが、年をとるとうすらぐ。
故に年をとれば、時間の使い方を研究しなければならない。
本当の苦手は自分のミスに気がついても泰然自若(たいぜんじじゃく)として
表情を変えず打つ人だと仰った。
我々剣道を志す者大いに勉強になると思いませんか。
○剣道は藝術也と№8に書きましたが、往年の日本画の大家、横山大観(明治元年水戸生れ、
東京美術学校第一期卒、学校長、天心の薫陶を受ける)は
「芸術は感情を主とす、世界最高の情趣を顕現するにあり」という事を座右の銘としておられた。
さすが日本一、世界に名だたる芸術家である。以上