一年に一度のせつない風が胸をかすめていった。
夏が終わると少し冷たい何とも言えない風が吹いている。秋の始まりを私達に教えているかのように胸に鋭く突き刺さった。
この風が吹くとタバコ屋の洋子の事を思い出す。
あれは、50年前。
洋子は高校生で私は大学生だった。
おさげ髪がよく似合っていて、笑顔が素敵だった。私がタバコを買いに行くといつも笑顔で挨拶をしてくれた。タバコ屋の娘だった。私が毎日通って仲良くなった。
洋子は愛想が良く、近所でも評判だった。近所の子供からは、おねぇさんと親しまれていた。
洋子は子供が大好きだった。
学校が終わるとカバンを投げ出して、近所の子供とかくれんぼや缶けりなどをして遊んでいた。
スカートで缶けりをしている姿は何とも勇ましかった。
私は、その男まさりな性格に惚れていた。
私が女らしい所があったからだろう。洋子からいつも女みたいな奴だなとからかわれていた。
子供達と缶けりやかくれんぼをする時は、洋子が鬼で私はすぐに見つかった。早く捕まるので近所の子供からも笑われていた。
子供のように洋子も笑っていた。笑った時に見える八重歯が大好きだった。
私も一緒に大声で笑った。なぜか洋子の前だとすぐに笑える事が出来た。
懐かしくて時々思い出す洋子の笑顔。
今も洋子は元気だろうか。
無性に会いたくなって、タバコを買いに行くついでに洋子の顔を見に行った。
タバコ屋の前を通りすぎて店の中を見た。店の中に可愛らしいおばぁさんが座っていた。膝に猫を乗せていた。
久しぶりに見た洋子は、顔がしわくちゃで誰だか分からなかったが、何となく雰囲気で洋子だとすぐに分かった。
洋子は眼鏡を外してウトウトと眠っていた。私が話しかけるとビクッと起きた。猫も驚いて、飛び上がってどこか逃げていた。
「久しぶりだね。タバコを買いに来たのかい」寝ぼけた洋子は落ちている眼鏡をかけた。ぼやけて見えているのか目を細めていた。
「あぁ。何となく洋子の顔を見たくなってね。洋子は元気だった?」私は昔の面影を探していた。あまり見当たらなかったが、笑顔が何となく面影があった。
「元気だったよ。懐かしいね。お互いかなり歳を取ったね」
「確かに若くはないね。」お互いため息が出た。血圧の話や健康の話しをした。ずっと何気ない会話をしていた。
子供が近くで缶けりをしていた。缶を蹴った音が響いていた。タケちゃん鬼だよ。と言っているのが聞こえてきた。
「タケシ、缶はもっと遠くに飛ばすもんだよ。」タケシの姿を見ると、洋子が店の中から怒ったように言った。
私が手本を見せるから待ってろと言って外に出て来た。
洋子は、白髪頭に小柄な体を引きずっていた。洋子は裾を捲くると助走をつけて缶を蹴った。何とも可愛らしい走りだった。ヨボヨボのばぁさんが蹴った缶は少し倒れただけだった。
ゼェゼェと倒れそうになっていた。蹴った後、歳にはかなわないねと笑った。笑った時、入れ歯がカタカタとなっていた。
男まさりな所は相変わらず昔と変わっていなかった。
私も洋子ももう若くないと実感していた。タケシ達は、それを見てケラケラと笑っていた。
「こら、タケシ笑うんじゃないよ。」洋子はしかめっ面をした。タケシはふてくされて、黙り込んでいた。その後、タケシは孫だと言った。
「そうなんだ。どうりで似てると思ったよ。」
「そう、やっぱり似てるか。」洋子は照れていた。孫を誉められる事がよっぽどうれしい事なのだろう。私も孫を誉められるとうれしくなる時がある。この世の中でこれほどうれしい事は無いのかもしれない。
「それじゃ。また。」私はタバコを一つもらった。
周りでは近所の子供が元気に遊んでいた。
洋子は、店に戻るといつもの場所に座ってまた居眠りをウトウトとはじめていた。猫も洋子の膝が気に入っているらしくまた戻ってきていた。猫も退屈そうに欠伸をすると丸くなって寝ていた。
私は子供達の間を抜けて、タバコに火をつけた。
タバコを一息吸って煙を吐き出した。煙はモクモクと冷たい風に揺れて秋の空へと消えていった。
夏が終わると少し冷たい何とも言えない風が吹いている。秋の始まりを私達に教えているかのように胸に鋭く突き刺さった。
この風が吹くとタバコ屋の洋子の事を思い出す。
あれは、50年前。
洋子は高校生で私は大学生だった。
おさげ髪がよく似合っていて、笑顔が素敵だった。私がタバコを買いに行くといつも笑顔で挨拶をしてくれた。タバコ屋の娘だった。私が毎日通って仲良くなった。
洋子は愛想が良く、近所でも評判だった。近所の子供からは、おねぇさんと親しまれていた。
洋子は子供が大好きだった。
学校が終わるとカバンを投げ出して、近所の子供とかくれんぼや缶けりなどをして遊んでいた。
スカートで缶けりをしている姿は何とも勇ましかった。
私は、その男まさりな性格に惚れていた。
私が女らしい所があったからだろう。洋子からいつも女みたいな奴だなとからかわれていた。
子供達と缶けりやかくれんぼをする時は、洋子が鬼で私はすぐに見つかった。早く捕まるので近所の子供からも笑われていた。
子供のように洋子も笑っていた。笑った時に見える八重歯が大好きだった。
私も一緒に大声で笑った。なぜか洋子の前だとすぐに笑える事が出来た。
懐かしくて時々思い出す洋子の笑顔。
今も洋子は元気だろうか。
無性に会いたくなって、タバコを買いに行くついでに洋子の顔を見に行った。
タバコ屋の前を通りすぎて店の中を見た。店の中に可愛らしいおばぁさんが座っていた。膝に猫を乗せていた。
久しぶりに見た洋子は、顔がしわくちゃで誰だか分からなかったが、何となく雰囲気で洋子だとすぐに分かった。
洋子は眼鏡を外してウトウトと眠っていた。私が話しかけるとビクッと起きた。猫も驚いて、飛び上がってどこか逃げていた。
「久しぶりだね。タバコを買いに来たのかい」寝ぼけた洋子は落ちている眼鏡をかけた。ぼやけて見えているのか目を細めていた。
「あぁ。何となく洋子の顔を見たくなってね。洋子は元気だった?」私は昔の面影を探していた。あまり見当たらなかったが、笑顔が何となく面影があった。
「元気だったよ。懐かしいね。お互いかなり歳を取ったね」
「確かに若くはないね。」お互いため息が出た。血圧の話や健康の話しをした。ずっと何気ない会話をしていた。
子供が近くで缶けりをしていた。缶を蹴った音が響いていた。タケちゃん鬼だよ。と言っているのが聞こえてきた。
「タケシ、缶はもっと遠くに飛ばすもんだよ。」タケシの姿を見ると、洋子が店の中から怒ったように言った。
私が手本を見せるから待ってろと言って外に出て来た。
洋子は、白髪頭に小柄な体を引きずっていた。洋子は裾を捲くると助走をつけて缶を蹴った。何とも可愛らしい走りだった。ヨボヨボのばぁさんが蹴った缶は少し倒れただけだった。
ゼェゼェと倒れそうになっていた。蹴った後、歳にはかなわないねと笑った。笑った時、入れ歯がカタカタとなっていた。
男まさりな所は相変わらず昔と変わっていなかった。
私も洋子ももう若くないと実感していた。タケシ達は、それを見てケラケラと笑っていた。
「こら、タケシ笑うんじゃないよ。」洋子はしかめっ面をした。タケシはふてくされて、黙り込んでいた。その後、タケシは孫だと言った。
「そうなんだ。どうりで似てると思ったよ。」
「そう、やっぱり似てるか。」洋子は照れていた。孫を誉められる事がよっぽどうれしい事なのだろう。私も孫を誉められるとうれしくなる時がある。この世の中でこれほどうれしい事は無いのかもしれない。
「それじゃ。また。」私はタバコを一つもらった。
周りでは近所の子供が元気に遊んでいた。
洋子は、店に戻るといつもの場所に座ってまた居眠りをウトウトとはじめていた。猫も洋子の膝が気に入っているらしくまた戻ってきていた。猫も退屈そうに欠伸をすると丸くなって寝ていた。
私は子供達の間を抜けて、タバコに火をつけた。
タバコを一息吸って煙を吐き出した。煙はモクモクと冷たい風に揺れて秋の空へと消えていった。
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