１３．同窓会

　サマーホテル２３階の会場で、高校の同窓会があった。３０年ぶりに見る顔は、白髪と顔には皺が目立つ同級生が多い。
　私は、昔から老けているように見られていたから、今は少しだけ若く見えるのかもしれない。
　隣で、ビールを飲んでいるサトルが話しかけてきた。昔は坊主だったが、今は茶髪に染めている長い髪が印象的だ。
　「飲んでるか？」
　「あぁ、飲んでるよ。」グラスとグラスを重ねた。重ねるときパきっという音が響いた。
　「そういえば、サキの姿が見えないけど。」辺りを見渡したがいなかった。
　「お前、昔から好きだったよな。」
　「そんな事ないけど。」
　「サキ今日は来ないよ。」
　「なんで？」
　「家に電話したら母親が出て、サキは交通事故にあい、顔半分痣になって片足も引きずっているらしいぜ。」
　「そうなんだ。全然知らなかった。」
　「昔は、男もよりどりみどりだったけど、今じゃ犬も寄り付かなくて、鬱病になって引きこもっているらしい。」
　「まぢで！！最悪だね。」昔サッカー部のキャプテンだったアキラがステージに上がって、ギターをもって歌を歌い始めた。確か地方で歌って回っているって聞いたことがある。いい大人が、まだ夢を追いかけているのだろうか。
　歌を聞いていると、昔のサキの姿が思い出された。三つ編みとメガネというイメージで、頭が良くて、おひとやかで皆から愛される人だった。卒業式の時、黒板にメッセージを書いているが何を書いたかまでは思い出せなかった。
　確かアキラと噂になった事があったけど、遠い昔過ぎて忘れた。
　その時、会場の後ろの方で、ざわつく声がした。
　黒色の大きな帽子を深く被り、マスクをはめている地味な服を着たサキが立っていた。顔の痣を隠しているようだが、余計に目立っている感じがする。
　ただ、昔のつぶらな瞳だけは変わらなかった。
　ステージ方を見て、私とサトルがいるテーブルへと駆け寄ってきた。
　「久しぶり。母親がうるさくて、気晴らしに来ちゃった。」サトルが顔の痣を見るなり、他人行儀に違うテーブルへと移って行った。
　「事故の方はもういいの。」
　「うん。何とかすんだよ。」
　「大変だったね。」
　「うん。生きているのが不思議なくらい。」心の中で、何もいえねぇーと叫んだ。歌が終わるとアキラがこっちに来た。
　「お前、サキか。久しぶりだな。」
　「そうだよ。相変わらずみたいだね。」
　「夢をまだ追いかけてるよ。」
　「全然変わらないわね。」
　「サキは随分と変わったようだけど。」
　「少しだけね。」意味深にサキは俯いた。初恋の人には痣は見せたくないのだろう。サキの気持ちを考えると心が痛かった。
　「それじゃ。楽しんで。」と言ってアキラも違うテーブルへと移って行った。サキは、俯いたまま何も話さなかった。
　あれほど美人で、頭もよく、スタイルもよくて、パーフェクトだった高校生活が、人生たった一度の事故ですべてを失うなんて、神様なんてこの世の中にいないのだろうか。
　私はどうすればいいのだろうか。目の前にあったワインを飲み干した。
　「それじゃー。私帰るね。」
　「えっ、もう帰るの。」
　「皆の元気な顔も見れたし、言い残すことは何もないよ。」自殺でもするんじゃないかと思った。
　「今のサキに何もしてやれないけど、好きだった。」ずっと言えなかった言葉。今いう事ではないかも知れなかった。
　「ありがとう。だけどこの顔を見ても言える？」マスクを取り外すと顔半分焼けて、ただれていた。
　私は言葉に詰まって、下を向いた。
　「別にいいよ。私はこのままで生きていくって決めたから。」マスクをまたはめた。
　「好きだという気持ちは、今でも変わらないよ。」
　「うれしい。本当ありがとう。人生って不思議ね。昔は、美人でチヤホヤされていたのに、たった一度の事故で、男の人から見向きもされなくなった。人生ってそうやって帳尻が合うようにできているんじゃないかしら。」小さく手を振り、同窓会の会場を後にした。
　後姿がどこか寂しげだった。
　
　次の日、喫茶店で、同窓会の話しを昨日来てない友人に話をするとおかしなことを言った。
　「お前、サキは同窓会の前の晩に交通事故で死んでいたんだよ。」
　「嘘だろう。」昨日のサキの寂しげな後ろ姿がはっきりと思い出される。

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