７．ファミレス ２

　偶然が重なる時があるって言う事はこのことだ。
　私は、今ファミリーレストランでバイトをしている。
　フロアーに出て「いらっしゃいませ」とぎこちない挨拶をして、サービスをお客さんに提供している。
　朝の一時。この時間になるとお客さんは少なくなる。変なお客さんがくる事が多い。
　まず最初に入って来たのは、歳は四十代くらいで男同士で手をつないでいるカップル。同性愛者でいつも見つめ合って手を握りあっている。一人は髪を結んでいた。もう一人の方は顔がひょろ長く、ゲゲゲの鬼太郎のヌラリヒョンみたいな感じをしていた。
　次に入って来たのは、車椅子の女の人だ。男友達二人と来ていた。彼女は明るい笑顔をいつも絶やさない。私達の方まで元気づけられる。大学生らしくノートを広げて勉強をしている。
　次に入って来たのは、挙動不審の男性一名だ。店内を見渡すとダッシュで席につく変わったお客さんだ。店員の女の子が目当てのような感じがする。
　この前アルバイトに一緒に入っていた女の店員がおぼんを落としたときにダッシュで拾ってくれたらしい。その時、女の店員は苦笑いを浮かべていた。
　次に入って来たのは、髪が長くてミツ網にしているドラミちゃんが入ってきた。ドラエモンの妹のドラミちゃんのように可愛らしい顔をしているおばさんだ。背が高い無口な旦那さんと食べに来ている。
　これでだいたい今の時間に来るお客さんは揃った。このような客が揃って何かないわけがないと思っていたら、何かしら始まっていた。
　まず、ホモカップルが女の店員に声をかけてちょっかいを出していた。女にも興味があるのか不思議だが、女に相手にされなくなったら男にいくのかもしれない。
　挙動不審の男は相変わらずダッシュでドリンクを注ぎに行っていた。
　大学生達は静かに勉強をしていた。
　ドラミちゃん夫婦は、私に「今日は暇だね」と世間話のような事を話していた。私は作り笑顔を向けて、メニューを打ち込んだ。
　また店内のドアが開いてお客さんが入ってきた。女の人だった。どこかで見た顔だと思ったら高校生の頃、告白された女の子だった。男友達二人と来ていた。高校生の頃よりも大人になっていた。当たり前の事だけれども。
　「いらっしゃいませ」私は更にぎこちない挨拶をした。名前はエリと言った。
　「あら。お久しぶり。ここでバイトしているの？」エリが不思議がって聞いた。
　「今はね。」私は色々誤魔化して席まで案内した。髪は長くしていて、高校生の頃より美人になっていた。告白されてふった事を今になって少し後悔した。
　だけど、あの時は好きな人がいたし、エリをどうしても好きになれなくてふったのだからしょうがない事だと思った。
　次に入って来たのは、中学生の頃、私が好きで告白したカズミが入ってきた。彼氏と一緒だった。
　中学生の頃から大きな目をしていてショートカットだったが今でも変わらないでかわいかった。私は、このどうしようもない偶然にいら立った。
　「あれ。久しぶりじゃん。」カズミが私だと気付くと話しかけてきた。
　「やぁ。バイトで大変だよ。カズミ元気だった？」
　「もちろん。君も相変わらずそうで何よりだね。」
　「そうだね。」カズミの隣にいた彼氏があれ誰だよ。と聞いていた。色んな意味で戸惑っていた。ホモカップルが私の方を見て笑っていた。私の顔が変になっていたからなのだろうか。私が女の子と話す事が珍しいのだろうか。
　エリと少しはなれた席に案内した。ソファに座るとカズミは彼氏と仲良さそうにサッカーの話しをしていた。
　次に入って来たのは、これまた偶然に現在好きな女の子が入ってきた。彼女は女友達と一緒だった。名前は、ヨリコと言った。髪は長くて後ろで一つに結んでいた。目が大きくてかわいらしい彼女だ。
　私は、胸がドキドキとしていた。今日は、キリストが誕生した日なのか。独立記念日なのか。総理大臣の誕生日に決まっていると心の中で叫んだ。
　「こんばんわ。」私が挨拶するとヨリコは目を覗き込んでいた。
　「ここでバイトしてたの？私もしようかな。」ヨリコとは、昔バイトをしていた時に知り合って、よく街で顔を合わせていた。
　ヨリコは、友達に私の事を紹介していた。女友達は、本当にとか。へーとか言っていた。
　「アルバイトしてくれたら俺はうれしいよ。」
　「またぁ。冗談ばかり言って。」ヨリコは恥ずかしそうに私の肩を叩いた。
　それから、エリとカズミのグループよりも更に遠いテーブルへと案内した。今日は私にとって厄日のようだ。