恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

13.僕の先生

2009年06月11日 | 物語
 古びた校舎。
 キーンコーン。カーンコーン。
 授業のベルの音。細長い廊下。
 教室。綺麗に並べられた机。
 教卓。黒板。壁に貼られた連絡事項。
 そして、真ん中に先生がいた。

 十年前に卒業して、色々あったけど、またこの学校に戻って来る事が出来た。
 学校に入ると、制服を着た無邪気な生徒から「先生。おはようございます。」と言われる。
 私も「おはよう。」と慣れない挨拶をすると、生徒から笑われる。
 若い先生が珍しいのだろう。
 
 職員室に入ると、先生たちは静かだった。
 昨日、教えてもらった席に座ると、隣の60歳で白髪頭の男のS先生が気さくに話しかけてきた。
 「おはよう。」声も体格と同じにごつかった。
 「おはようございます。」
 「今日からか。頑張れよ。」と言って、生命保険からもらったと言って、小さな飴玉をくれた。
 その後、大きな職員室で、70人くらいいる先生の前で挨拶をして、今日からパソコンの授業担当になった。
 教科書が来るまでの間、授業する事が出来ないので、職員室でひたすら勉強をしている。
 三日目くらいから、私の姿を見かねたS先生が「暇か。暇なら、授業見に来るか?」と言ってくれたので、「是非行きます。」と言って、キャドの授業を見る事にした。
 キャドとは、建築の授業で、パソコンで設計を書く時に役立つものである。
 
 S先生は、生徒から厚い信頼がある。
 
 生徒を職員室で怒る一言一言愛があるのだ。
 Tシャツの中に赤いシャツを着ている生徒がいれば、「なんやそれ。白シャツ。」と言い、スカート丈が短い女生徒がいれば、「スカート短くない。はい、伸ばす。」と言う。
 S先生は、愛があったら生徒を叩いても文句は言わないし、親からもとやかく言われないという。
 この時代で、S先生みたいな先生がまだ生き残っていると言う事が嬉しかった。

 生徒と眠い目を擦りながら、キャドの授業を受けた。
 チャイムが鳴り、職員室まで廊下を歩いていると、S先生の腰が悪い事に気づく。足を少し引きずっているからだ。
 「腰どうかされたんですか。」と聞くと、「ゴルフで痛めた。」と渋い顔して、素振りをして見せた。
 私は、笑ってS先生の後ろ姿を見ていた。
 S先生が通るたびに、生徒から話しかけられていた。
 腰を傾けながら、笑って生徒と話すS先生を見て、私がここに来た意味が物凄くあるんじゃないかなと思った。
 私もS先生みたいな背中で語る先生になりたいと思った。
 
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2 コメント

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戻れる幸せ ・・・ (ぽゆ子)
2009-06-16 09:48:06
懐かしい床の匂いまで
漂ってきそうなその場所に

戻れてあなたはあなたらしさを取り戻す。

戻れる場所があるって幸せ。

これから始まるドラマがいっぱい

その種から発芽させようと

わくわくしてるお話の妖精たち・・・。

楽しみにしてますね!

わたしもこの場所に戻れて
自分を取り戻しつつあります・・・。

感謝。

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教室。 (キーボー)
2009-06-17 20:08:01
 教室っていいもんですよね。

 実習なんで、パソコン室が多いんですけど、通る度に、先生が黒板に書いて、生徒が聞いている。
 そんな場面を見ていると、不思議な時間を過ごしているなと思います。

 きっと夢を見てるんでしょうね。
  
 不思議の国に迷い込んでいるみたいです。
 まだ、僕は、高校生なんじゃないかなと思ってしまいます(笑)

 早く初恋をしないと…。
 手遅れになっちゃうかな~(笑)
 
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