１４．質屋

　無精ひげを生やし、ボロボロの服を着たうだつの上がらない男は、土手の川沿いで風景の絵を描いている。
　ススキとトンボを描き、橋を後ろに描いている。川も入れるか入れないかどうか考えている。
　今日は、日も暗くなったので帰る事にした。
　橋を渡ると、目の前に質屋がある。看板は傾き、蜘蛛の巣が窓の外に張り巡らされている。丁度蛾が飛んできて、蜘蛛の巣に引っかかった。その姿を見て、男は社会の縮図だなと感じた。
　質屋のガラス窓に飾られている絵具に目がいく。価格は３０００円。高くもなかったのだが、働いてない男にとっては大金だった。
　最近筆だけでは限界がある。秋の夕暮れの雰囲気を出すには、色が欲しかった。
　だけど、手が届かない男は、一時眺めて家に帰った。
　家に帰ると、病気の妻が布団で寝ている。昨年あたりから咳が止まらないと言って、病院にかかると、結核だと言われ、家で安静にしている。
　男が「ただいま。」というと「お帰りなさい。」と布団から起き上がり妻が向かえた。
　妻は、昔に比べて大分痩せた。だいたい華奢な方ではあったが、結核になってからは、頬の筋肉がげっそりとやせ細って見える。
　こんな貧乏では、体力がつくやつも買ってあげれない。
　妻が「ご飯出来てますから。」と言って、また横になった。
　テーブルを見ると、ご飯と小さな焼き魚が置いてあった。
　食べると何故か涙がこぼれてきた。
　
　次の日も男は、昨日の続きの絵を書きたくて、土手に来ていた。今日はその絵を全部仕上げた。
　帰り、妻の薬代がなくなったので、質屋に寄って筆を預けた。
　父から譲り受けたもので、高価な筆だったので、いくらかの足しにはなった。
　薬局で薬を買い、家に帰ると妻は横になって寝ていた。
　買ってきた薬と水を飲ませると、「この薬どうしたんですか。」と聞いてきたので、「パチンコで勝ったので買えた。」と嘘を言った。私が絵を書かなくなるというと妻が悲しむと思ったからだ。
　「そうなんですか。」咳を一回つくと薬が効いたのか眠ってしまった。
　
　次の日、妻は体の調子が良い。昨日の薬が効いたようだ。
　散歩がてら母から譲り受けた高価な着物を質屋に預けた。
　旦那の生活費の為に。

　それから何年かして、質屋には着物を着た美しい妻の絵が飾られてある。
　ネームプレートには、有名な画家の名前が書かれてあった。
　絵の横には、「妻に愛をこめて」と筆で書かれた文字がある。
　もちろん非売品とも書いてあった。

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