恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

17.ギャンブラー 1

2006年04月23日 | ギャンブラー
 カフェの店内は、若い男女で溢れていた。見つめ合っている男女。雑誌を見ている男女。会話を弾ませている男女。
 どうやらここは恋人達しか来たら駄目な所らしい。だが、俺は気にせずに競馬新聞を広げて、お気に入りのジッポで、タバコにカチッと火をつけた。
 一服吸うと、煙を吐き出した。煙はモクモクと室内の換気口へとゆっくりと吸い込まれていた。
 煙の気配を感じながら、目を凝らして競馬の予想をしていた。
 競馬、競輪、競艇、パチンコ、スロット、ありとあらゆるギャンブルを今までして来た。金がなくなる事なんて日常茶飯事だ。
 人生は、ギャンブルのようなものだ。
 一度失敗すると、戻る事は困難だ。
 いい女を探すのもギャンブルに似ている。世の中に何億人といる女から、自分に合いそうないい女を探す。
 例えば、この店内の中で一際目立つ女性。赤い帽子をかぶり、サングラスをかけ、小説を読んでいる。
 熱いコーヒーを一口飲むと、唇がカップにつかないように綺麗に拭き取る。その仕草が高級な女をイメージさせていた。
 俺のいく所で必ず逢う女性だ。
 薔薇の香りが妖艶な容姿にぴったりだった。
 名前は、ノリコ。
 いつものようにカフェを楽しんでいる。俺の姿に気付くと話しかけてきた。
 「あら。お久しぶり。相変わらずギャンブルしているじゃない?」
 「まぁな。ノリコも元気そうだな。薔薇の香りですぐ分かったよ。その匂いで男を狂わせてるんだろう?」
 「そんなことないけど。」
 「俺には、グッと来るんだけどな。今からどこか行かないか?」
 「それって口説いているの?」
 「まぁな。」
 「私がなびく様な女だと?」
 「勘違いではないと思うが。」
 「私、今エリートの男と待ち合わせをしているの。今度、超暇な時だったら相手してあげてもいいけどね。」
 「そんなつれないこと言うなよ。」俺達が話していると、背が高くて、白いスーツが似合う男が現れた。ノリコの方を見て手を振ると、ノリコが愛想よく答えていた。その後に、駐車場に停めてあった赤いスポーツカーに乗りこんで行ってしまった。
 今からドライブにでも行くのだろうか。いい女を落とすのはギャンブルの様なものだ。
 騙されると分かっていても時には騙されなきゃならない時もある。残していった薔薇の香り。刺がある程美しく感じるモノかも知れない。
 タバコに火をつけて、競馬新聞を読みながら、熱いコーヒーを一口飲んだ。うまいコーヒーだと呟くと女性店員がチラッとこちらを見ていた。
 ニコッと微笑むと、そのショートカットがよく似合う店員は愛想よく笑った。
 意味深な目で見ていたので、手招きをして、少し話しかけてみた。
 「君、何歳?」
 「20歳ですけど。」恥しそうに答えていた。
 「そうなんだ。若いね。名前はなんて言うの?」
 「えっとミドリです。」
 「いい名前だね。今の自分の気持ちにぴったりだよ。」
 「それってどういう意味ですか?」
 「君と遊びたいなと思ってね。終わるの何時なの?」
 「夜の十時ですけど。」
 「まだ時間があるね。終わってからどこか飲みにでも行かない?」
 「いきなり言われても。」
 「嫌ならいいけど。」
 「別に嫌というわけではないんですけど。」
 「それじゃ決まりだね。夜の十時に外で待ってるよ。」
 「えっと。それじゃ、分かりました。絶対待っててくださいよ。」ミドリは、はしゃいでいた。声をかけられた事がうれしそうだった。結構かわいいのに彼氏はいないのだろうか。
 その後、ミドリはカウンターに戻っていってお客さんに愛想よく接していた。
 俺もまだ捨てたものではない。若い女の子に声をかけてナンパに成功した。
 ミドリに手を振って店を出ると、彼女はありがとうございましたと言って、笑顔でウィンクをしていた。
 外は夕暮れ時で、妖艶な光が眩しかった。胸にはめていたサングラスをかけた。
 夜の十時まで何をしようかと背伸びをした。
 パチンコでも行こうかなと思い、時計を見たら、五時を回ったばかりだった。  今から五時間パチンコ屋にいるのも悪くないな。財布をそっと覗き込んだら、一万円札が寂しそうに一枚顔を出していた。

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