
「2月までは持ちこたえていたが、3月でガクッと来た」。ANAホールディングスの幹部は新型コロナウイルスの感染拡大による急激な業績の落ち込みをこう表現する。全日本空輸(ANA)の2月の国際線は旅客数が前年同月に比べて25%落ち込んだものの、座席利用率は損益分岐点とされる5割を上回る64%を維持していた。
ただ、中国だけでなく米欧にも感染が急速に広まると3月の減便は約9割まで拡大。利用率も大きく下落して旅客収入が激減し、人件費を中心とする固定費の負担が利益を圧迫した。28日に発表する20年1~3月期の連結最終損益は594億円の赤字となったもようだ。30日に決算を控える日本航空(JAL)の1~3月期も233億円の最終赤字となったもよう。ANAHDと同じく、これはほぼ3月単月の赤字とひとしい。
ANAHDとJALの危機感が日に日に増している。減便規模は4月以降も拡大しており、市場予想の平均では20年4~6月期はANAHDが2120億円、JALが1650億円の最終赤字となっている。
手元資金の水位も急速に低下している。JAL幹部は「業績も大変だが、今はキャッシュをどうするかだ」と苦しい心情を打ち明ける。旅客収入の大半を失っても人件費や機体の整備費など固定費はかかる。資金流出額はANAHDで1カ月あたり1000億円、JALで600億~700億円規模と見られる。昨年12月末時点の手元資金はANAHDが約3900億円、JALが約3300億円あったが、足元の状況では何も手を打たなければ半年も経たずに運転資金がなくなる計算だ。
資金調達の動きが早かったのはANAHDだ。日本政策投資銀行(DBJ)の危機対応融資を活用し、まず3000億円程度を調達する見通し。一時帰休制度の対象をグループの約半数にあたる2万人に広げ、人件費の抑制にも着手した。ANAHDにやや遅れて、JALも民間金融機関に3000億円の融資を要請した。
海外では航空会社の窮状に対し、政府による手当を講じる例が目立つ。米国は航空業界に合計500億ドル(5兆3500億円)規模の資金支援を決め、仏蘭エールフランスKLMも仏政府からの政府保証などを利用して70億ユーロ(約8100億円)の借り入れを決めている。
日本では航空会社で作る業界団体の定期航空協会(東京・港)が大幅減収への支援策を政府に求めた。ある航空大手幹部は「国ごとに支援に濃淡が出ると、機体やサービス品質の維持に差が出てくる。収束したあと反転攻勢に出ようとしても国際競争力を維持できなくなる」と焦りを見せる。
一方で、巨額の債務を抱えることは経営の安定と引き換えに経営の自由度が制限されることにもなりかねない。とくにJALは経営破綻時の記憶が色濃く残る。公的資金を受けるかわりに、12年から5年にわたって投資の抑制を国に求められ、ANAに比べて機体の船齢などで見劣りすることになった。複数のJAL幹部は「借りたお金は返さないといけない。借りられるだけ借りるという考えはない」と話す。
航空業界ではコロナが収束したとしても「国際線の需要は2年は落ち込んだまま」「そもそも需要自体が元の水準には戻らない」といった声がある。将来の競争力を維持するための支援は必要だが、自立のためには過度な有利子負債は抱えられない――。戦後ほぼ時を同じくして設立された両社は、危機のなかでのジレンマにどんな解を見いだすのだろうか。

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JAL、3000億円融資を要請 旅客減の長期化に備え
2020/4/27 0:05日本経済新聞 電子版
日本航空(JAL)がメガバンクなど主要な取引先銀行に対し、
3000億円規模の融資を要請したことがわかった。
新型コロナウイルスの感染拡大で大幅な減便が続いており、
この先半年程度に必要な運転資金のめどをつける。
旅客減の長期化に備え、政府系金融機関を含めて6000億円規模の調達を検討する。
日経ビジネス記者
藤中 潤
スクープ ANA、DBJから1兆円融資枠で調整 民間からも3000億円
藤中 潤
スクープ ANA、DBJから1兆円融資枠で調整 民間からも3000億円
日本政策投資銀行(DBJ)は、ANAホールディングス(HD)に対し1兆円規模の融資枠を設ける方向で調整する。
メガバンクなどもANAHDに対し総額3000億円規模の協調融資枠を設ける方向だ。
新型コロナウイルスの感染拡大による航空需要減や減便で業績が悪化するANAは大規模な資金調達枠を確保して、
財務の健全性を保つ狙いがある。