浮揚力欠く航空市場 ANA、機材・路線も削減へ
高尾 泰朗
日経ビジネス記者
高尾 泰朗
日経ビジネス記者
新型コロナウイルスの感染拡大に端を発した航空業界の苦境が続いている。
ANAホールディングス(HD)傘下の全日本空輸(ANA)は賞与カットなど身を切る改革に追い込まれた。
国内では旅客数が増えつつあるが、値下げキャンペーンで単価が下落。
ANAHDは海外市場開拓のため増やしてきた大型機の削減など、さらなる構造改革が必至だ。
「ANAは機材の削減や路線の見直しに踏み込まざるを得ないだろう」。
航空業界に詳しい桜美林大学の戸崎肇教授は、今後の経営、市場環境を考えると、
ANAが今回、労働組合に提案した人件費削減策だけでは改革として不十分だと話す。
ANAは労組に冬の賞与をゼロにする提案をした。
従来、賞与を生活給の一部として、夏と冬の2回に分けて、それぞれ月例賃金の2カ月分を支給してきた。
今年の夏もすでに1カ月分に半減させていたが、さらに踏み込んだ。
夏の賞与はリーマン・ショックの影響が残る2010年度以来の減額だったが、
冬のようにゼロになるのは初めてだ。
従業員約1万5000人の多くを占める一般職の月例賃金は一律5%カットを提案、
遅くとも21年の1月から実施する計画だ。
一般職まで含めた賃金の引き下げは国内線の競争が激化し、国際線も赤字が続いていた00年以来となる。
賞与分も含め、年収は3割下がる。退職金を割り増しする希望退職制度の実施も提案した。
希望退職制度はこれまでもあったが、退職金を上積みするのは2013年度以来だという。
航空市場はまだ浮揚力を欠いており、こうした構造改革で十分という見方は少ない。
国内線の20年4~6月期の旅客数はJALが前年同期比13%、ANAは10%まで落ち込んだ。
7月に回復したが、稼ぎ時のお盆期間とコロナ禍の「第2波」が重なり、再び需要は低迷した。
国際線の4~8月の旅客数はJALが前年比1~3%、ANAも3~4%と低迷が続く。
旅客単価も下がっている。
6月までは単価の安い旅行需要が低迷し、残ったのが高単価のビジネス需要だったため、
単価だけをみると前年同期よりも上がっていた。
この状況が、7月になって変わった。
移動制限の緩和を受け、両社は早期購入の割引幅を大きくするなど、価格競争になった。
ANA、JALは普通運賃が4万円台の羽田―那覇間で片道7000円台の設定もあったほどだ。
旅行商品向けの運賃も下がったもようだ。
ある中堅航空会社の8月の旅客単価は前年同月に比べ2割強下落。
「多少の差はあるが、どの航空会社も単価が下落している」(大手幹部)
市場にまったく明るい材料がないわけではない。
ANA・JALでは10月から「Go To トラベル」の対象に
東京発着の旅行が追加されることが発表されて以降、予約数が増えた。
JALの9月の国内線旅客数(速報値)は前年同月比38%、
座席利用率(同)は約6割まで回復した。
2社の10月の旅客数は前年比5割程度まで回復する見通しだ。
国際線では、韓国やシンガポールとのビジネス目的の往来が条件付きで再開し、
アジア各国とも同様の入国制限の緩和に向け政府が協議している。
また渡航自粛要請の緩和や、入国後の2週間の待機も条件付きで免除することも検討しているようだ。
それでも航空大手は、厳しい経営環境が続くことに変わりはないと考えている。
航空各社はこれまで資金繰りの確保を急いできた。
ANAHD、JALの自己資本は両社とも6月末時点で9000億円以上あり、債務超過に陥る可能性は当面ない。
ANAHDは6月までに5350億円の借り入れを実行し、これに加えて融資枠を5000億円に拡大した。
JALも融資や社債などで約3000億円を調達し、2000億円の未実行のコミットメントラインを残している。
ANA、機材戦略のツケ回る
ANAHDは10月27日に予定される2020年4~9月期の決算発表の場で、構造改革案を発表する。
そこに、大型機材の削減や路線見直しも盛り込まれる見込みだ。
機齢の古い大型機を早めに退役させることを優先させる。さらに「超大型機A380など機齢の若い機材も、
減損覚悟で売却などの手を打つ必要が出てくるかもしれない」という見方もある。
就航路線について、国内は羽田・大阪国際(伊丹)空港発着を中心とした高収益路線に経営資源を集中させる見通しだ。
ローカル路線の中にはコロナ禍前から利用率が低迷しているものもあり、撤退や恒常的な減便は免れないだろう。
就航時期が未定の都市も含めると50空港以上に乗り入れる国際線でも、
一時的な拠点の縮小・撤退に踏み切る可能性がある。
コロナ禍はANAとJALのどちらにも同じような影響を与えたが、取るべき対策の度合いには差がある。
JALは10年の経営破綻後、経営合理化策の一環で機材の小型化を進めた。
一方、ANAはA380に代表されるように、事業拡大のため中大型機を積極的に導入した。
20年3月末のANAの保有機材に占める中大型機の割合は6割強、対してJALは5割強だった。
これが両社の国内線の座席利用率の差を生んだ。
6月まではANAのほうが高かったが、7月はJALが46.6%なのに対し、ANAは約41%と低い。
8月はJALが36.4%、ANAが約30%だ。
「ANAは需要が回復する前は小型機をフル回転させることができたが、
需要がやや回復し始めたときに中大型機を投入する必要が出て、利用率が下がったのだろう」(業界関係者)
財務状況にも差がある。
ANAHDは6月末時点でJALの2.7倍にあたる1兆3589億円の有利子負債を抱えており、
追加の資金調達余力はJALの方が大きい。
さらにJALは有利子負債としてバランスシートに計上しているがANAHDは計上していない、
機材のオペレーティング・リースによる調達に関わる「未経過リース料」が3月末時点で3814億円ある。
ANAが整理解雇のようなさらなる人員削減策に打って出る可能性はあまり高くない。
人員を大幅に減らしてしまうと、予想以上に早く需要が回復した場合、事業規模を速やかに戻せなくなってしまうからだ。
ANAが35~49歳の従業員向けの復職の可能性を残した転職支援制度を労組に提案したり、
JALが全体の7分の1にあたる1000人の客室乗務員に地方の観光振興の支援などの業務を
兼務させたりといった施策を取っていることからも、そうした考えが読み取れる。
ANAHDは調達額の一部が資本金として認定される「劣後ローン」による資金調達に向け、
取引銀行と協議を進めている模様だ。
さらなる資本増強に向け公募増資の実施の可能性も取り沙汰されている。
銀行団や株主からの理解を得るには、身を切る改革が必要という事情もあるだろう。
JALも安心はできない。
経営破綻時に機材の小型化や路線縮小を実施しており、リストラ余力はあまり大きくない。
事態が長期化すれば、
政府保証の付いた融資の実行などといった公的支援の可能性も視野に入ってくると見られている。
マレーシアのLCCの日本法人、エアアジア・ジャパン(愛知県常滑市)が日本での事業継続を断念するなど、
厳しい状況が続く中でどう長期的に収益を確保していくのか。
具体的な戦略が一層重い課題として各社にのしかかっている。
以上
ANAの機材内訳はワイドボディ機が圧倒的に多い
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10月16日初便 仁川から成田へ飛行中
行きは2人だったとか・・・帰りは何人でしょうか?