福島県との県境にも近い茨城県久慈郡大子町川山嵯峨草の地にここ数年来毎年通っている魅力的な滝がある。その滝は「月待の滝」(つきまちのたき)で、久慈川の支流大生瀬川が複雑な形状の岩壁を流れ落ちる。古くから安産、子育て、開運を祈る二十三夜講の場として信者が集まりその月が出るのを待ったことからその名がつけられたという。また二枚目の写真でわかるようにこの滝は岩盤の下部が深くえぐれていて、滝水の裏側に入り込むことができることから「裏見の滝」の別名もある。
この写真で見ると滝水は三筋になって流れ落ちている。奥の小さな細い流れが「子滝」で、一枚目の写真のように正面から見ると、左端の流れがいったん中段の滝つぼに溜まってから方向を変えて小さな滝になり隣の親滝に寄り添うように流れ落ちている。そして手前の落差の大きい二筋の流れが「夫婦滝」と 呼ばれる。
晩秋の頃には滝前のイロハモミジがきれいに色づく。
奥久慈大子の郷といえば真っ先に日光の「華厳の滝」、熊野の「那智の滝」と並ぶ日本三名瀑の一つ「袋田の滝」を思い浮かべる。「袋田の滝」から北へ車で走ればわずか10分程度しか離れていない「月待の滝」は知名度では劣るものの、古くから女性に縁が深い祈りの場として知られ、またその名のゆかしさからも静かな北茨城の名所となっている。
ゆっくり時間をかけて撮影を済ませ、滝前の珈琲と蕎麦の名店「もみじ苑」で滝を眺めながらひと休み。いつもいろいろな滝を訪ねているが山の中が多くて、これほど滝のすぐ近くにのんびりできる店がある撮影場所は少ない。この滝の脇には大きな水車がある。この水車小屋はそば粉製粉、手打ち、珈琲焙煎室として使用されている。ご主人は二本の深い井戸を掘削し名水を汲み上げて自家焙煎珈琲にも蕎麦にもこだわり、また全国の名のある蕎麦店を行脚して研修を重ねた人だという。実に居心地のよい場所で訪れる人にとってはありがたいことだと思う。
(2017/4/25 撮影)