LIFE!/ベン・ステイラー監督
雑誌の写真の管理のような地味な仕事をしているサラリーマンの男が、ささやかな恋心を抱く女性との恋愛劇が軸になる。さらに紛失したかもしれないネガを探して、辺境の地を飛び回るうちに男らしく成長するというサクセスストーリーでもある。かなりぶっ飛んだコメディなんだが、映像が美しく、音楽の使い方も絶妙。もともとデビット・ボウイは映像に向く曲が多いとは思うが、荒唐無稽にドラマチックな映像とマッチして、実に感動的である。お話としてはかなり無茶なんだが、かなり勇気が湧く素晴らしい感動巨編といってもいい。ちゃんとおかしなところは笑えるので、自分なりに突っ込みを入れながら楽しんだらいいだろう。
うだつの上がらない男が自分の空想世界に入り込むというネタは、日本の漫画では定番のギャグだが、まあ、あちらでもそういう人がいるんだな、と改めて思った。特にうだつが上がらない男の特権だとは思わないが、たとえば赤毛のアンのような少女なら好ましい世界なのに、少年どころか中年の男がこれだと、非常に情けないと思われるのは、世界共通認識のようだ。そうなんだが、やはりこれは普通の人にだって、多少はありそうなものだけどな、とは思う。空想に没頭するほどリアルな社会では上手く行ってないという比喩ではあるが、しかし現実社会で上手く行く奴だって、口に出して言わないだけで、空想上のシミュレーションくらいはやっているだろう。実際に空想に耽ってボーっとしてしまうと危ない奴と思われるのだろうが、そこまで本当に没頭できるなら、それはそれでかなりの才能という気がしないではなかった。だからこそ有名な写真家にも一目置かれる頼れる男、ということになるんだろうか。
ネタバレになってもそう問題の無い映画かもしれないけれど、物語にはいろいろな伏線が張ってある。そういう展開になるという予想はつきにくいはずなんだが、謎解きが次々に明かされていき、それなりのカタルシスだ。成長物語と先に書いたが、しかしながらどうしてどうして! この男ただモノじゃないのである。外国人の顔つきについてははっきり言ってよく分からないところはあるんだが、ヤサ男がたくましくなっていく様が良く表れていて、ちょっとした勇気が人間を変えていくという象徴になっている。何事も行動主義だ、という信念が芽生える、絶好の啓蒙物語といえるだろう。