37セカンズ/HIKARI監督
最初はドキュメンタリータッチで、脳性麻痺で車いすの女性の電車移動や入浴(ちゃんとヌードになるので驚くが)シーンなどが描かれる。それで母子の関係が印象付けられるわけだ。
そのように麻痺のために体が不自由なユマだったが、実は人気漫画家のゴーストライターの仕事(実は搾取されているが)もしており、収入もあるようだ。また、年頃の女性として恋や性にも興味のある、いわゆる普通の女の子なのである。しかしながら障害のあるせいで、異性との普通の出会いも極端に少ないし、母親の過保護もあって、これまで本当に自由に出歩いたりお洒落したりすることに制限があるようだ。漫画家として独立したいという動機で様々な雑誌に作品を見てもらおうと試みるが、作品を見てくれるところがエロ雑誌しかなかったためにエロ漫画を描いてみるが、見てくれた編集者から、実際の性体験無しではちゃんとしたエロが描けないと言われ、一念発起して歌舞伎町に行って、専門の男性と買売春で性行為を試みるのだったが……。
これまで何でこの作品を観なかったのだろうと、本当に後悔してしまうほどの傑作である。もっと早くに、できれば劇場(とはいえ、田舎では公開されないだろうが→※佐世保では公開されたようだ)で観るべき作品だった。障害者の主演の作品は、どうも捉え方に問題のあるものも多いのだが、この作品はタブーにも真正面から対峙して勝負しながらも、ちゃんとエンタティメントとしても面白いのである。ギャグも笑えるし、ガツンと頭を殴られるようなカルチャーショックも受けるのではないか。そうしてどんでん返しのようなお話の仕掛けも見事だ。
障害者と接点の少ない人々は、ふつうの風景としては障害者とは距離のある態度しかとらないが(または心の中で嘘をついているか)、実は性風俗の人間は(お金の絡みもあるだろうが)ちゃんと障害者とは対峙してくれる、というコントラストも面白い。そうして結構リアルでもあったりする。自分の障害だけでも不自由で苦しめられているユマだが、母親との関係で、女性としての自我や独立といった問題とも格闘しなければならない。その突破口が性だというのも、実に人間を描けていると感じる。後半の大冒険で世界を変えてしまうというアイディアも、本当に素晴らしい。作り物の感動巨編を観るよりも(そういうものでも観ないよりはましかもしれないが)何倍も、僕らの生きる力を醸成してくれるのではあるまいか。
今作品は、いわゆる大人の映画ではある。僕も高齢の母親と同居している関係で、エロ・シーンが続く場面は緊張したが、いわゆるエロ目的の映画ではないので、気まずくても仕方が無いのだと思う(母が理解したかは分からない)。デート向きの映画とも違うかもしれないが、二人の将来のためには一緒に観た方がいいと、僕は考える。子供にわかるかは分からないが、子供も馬鹿にしてはいけない。いろいろなタブーは、ショックが強かろうが現実を見せるべきだと、僕は思う。何が言いたいかというと、万人が観るべき映画とはこれだ、と思うのである。さて、実際はどうなんでしょうね。それでも観ない人は観ない。現実とは悲しいが、そういうものかもしれないが……。