カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

権力と戦う歴史を振り返る   シカゴ7裁判

2021-12-17 | 映画

シカゴ7裁判/アーロン・ソーキン監督

 1968年にベトナム戦争に反対するデモや集会を行っていた群衆が、警官隊と衝突し多くの負傷者を出すことになった。そのデモ隊を首謀したとされるいくつかの団体の代表が合わさっての裁判となった史実をもとに、映画化したもの。それがシカゴ7と言われているらしい。裁判の場所がシカゴだったことと、この裁判が悪名高いものとして、アメリカでは有名なものなのだろう。実際に映画でこの暴徒化するデモ隊の事件を観てみると、現代では考えづらい警官を含む公権力の強権ぶりを観ることができる。逮捕され、一部の被告は保釈が許されていたとはいえ、圧倒的に不利な立場にありながら、自分たちの正義を貫こうとした姿が描かれていく。また、裁判官の不公平な采配によって一方的に傷つけられる黒人の立場もあり、残酷である。このような歴史が、黒人差別の遺恨を現代まで残している原因であることが理解されることだろう。
 とはいえ、映画としての脚本がよく練られていて、エンタティンメント作品としても十分に面白い。最初は平和的にデモを行っていた各グループだったが、実際には様々な監視下に置かれており、計画的に締め出された上に小競り合いが繰り返され、そうして最終的には踏み外すきっかけができていく展開が、徐々に内情とともに明かされていく。公権力の恐ろしさと、アメリカ社会の若い力と自由のための思想のようなものが、しっかりと考えさせられる内容だと思う。いくら正義のためだとはいえ、デモ隊の方にも落ち度はある。そういう政治的なバランスも保たれていて、日本によくある単なる偏った左翼映画ではない。こういうところは、大いに見習って日本の思想映画も作ってもらいたいところである。
 見た目は多少だらしないヒッピーのような人々が、実はしっかりした考えを持っていたり、政治的な野心を持った白人があんがい臆病だったり、白人社会から威圧的に暴力を振るわれ続ける黒人代表が、根気強く無駄に終わることを知りながら抵抗をしたりする。一緒に裁判を受けているものの、実際はちゃんと連帯していなかったり、仲の良い関係でさえない。弁護する弁護士だって、この不利な状況を打開する明確な方策を持っていない。何しろ敵は、この法廷を支配している裁判官でもあるのだ。
 しかしながらこういうのを見てしまうと、やっぱり日本とはデモの質自体がぜんぜん違うのだな、ということも分かることだろう。米国の民主主義と日本のそれは、何か本質的に違うものなのかもしれない。日本の若者もデモする人はいるだろうが、アメリカの若者とは違う種類の人々だ。別段同じものである必要は無いのだろうが、ちょっと現実は悲しいという感じかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする