瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

魔女の瞳はにゃんこの目・2―その13―

2010年07月23日 20時35分06秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その12へ戻】




「…後10分で夜明けだ…!そろそろ起きて準備しといた方がいいぜ…!」


朝とも昼とも夜とも知れぬランプの薄明りの下、懐中時計を見詰るウソップが囁きます。


「「Z~~~~!」」


左右に寝転がるルフィとゾロは、それに鼾でもって返事しました。


「……だから…起きろってんだよ!!おめェら!!」


囚われの身で在りながら余裕綽々に構える2人の頭上に、ウソップは怒りのパンチをかましました。


「…お、もう朝か?」
「…いってェなァ~!殴んなよ、ナミじゃあるめーし!」
「るせェ!!!今日で命潰えるかもしれないって瀬戸際に、ぐーすか寝入ってんじゃねェよ!!」
「しょーがねーだろォ?やれる事他にねーんだもん。」
「準備ったって特に必要有る訳で無し…精々いざという時の為、体力温存しとくに限るさ。」


頭に瘤載せ、寝惚け顔した2人が起上がります。

そこへガチャガチャと扉の錠が開けられる音が響きました。


「……お迎えが来たようだぜ。」


見詰る3人の顔に緊張が漲ります。


「…よォし――作戦開始だ!!」


扉が開く寸前、ウソップはゴクリと唾を呑込み、ポケットの中で時計と鎖の繋ぎ目を強く押しました。




「博士からの信号だ!!」
「よし!!すぐに発進ジュンビにとりかかるぞ!!」
「ラジャー!!」


轟音轟く滝の裏側、薄暗い洞窟内に、チビ野菜トリオの声が木霊します。

各々の手には、博士の持っている懐中時計に似た、小さく丸く平たい物体が握られていました。
銀色の表面には方向を指して赤く点滅する矢印信号。
じっと確認し終えると、3人は滝飛沫をバックに、威風堂々聳え立つ巨大合体ロボット『OYABIN28号』搭乗用の梯子を駆け上りました。


此処で説明せねばならないでしょう。
『OYABIN28号』――その驚きの性能を!


全長7mの巨大人型ロボット。
スクラップ部品を集めて造られたとはとても思えない、クールな輝きを放つメタリックシルバーボディ。
右腕の先はボクサーグローブの様に堅く握られた拳で、出力は脅威の1千馬力。
左腕の先にはドリルが搭載され、土木工事に於いても優れた能力を発揮するでしょう。
一見ずる賢くも取れる狐面フェイスは、見慣れると愛さずには居られない、微笑ましいデザインです。
頭頂部は2つに割れ、その先からは高圧電流ビームを発射出来るよう設計されていました。(但し使用すると即バッテリー切れを起して機体停止)

改良に次ぐ改良を重ね、一切の無駄を無くした、夢のスーパーロボット。
3体が合体して1体となる仕組ですが、勿論その際の無駄も省いて、最初から合体してあります。

先ず頭部を担当するピーマンが、後頭部に在るハッチを開けて(手動)、『ピメント号』のコクピットに着きました。
続いて胸部を担当するニンジンが、背面部に在るハッチを開けて(同上)、『キャロット号』のコクピットに着きました。
最後に脚部を担当するタマネギが、臀部に在るハッチを開けて(同々上)、『オニオン号』のコクピットに着きました。


「「「『OYABIN28号』、発進!!スクランブルゴー!!!」」」


チャララ~~~ララララ~~~♪ ラ~ラ~~~ララララ~~~♪(←BGM)


全員の搭乗を確認後、約1ヶ月練りに練ったカッチョ良い掛け声を叫びます。
スイッチレバーをガチャリと引下げると同時に、機体は激しい振動音を発しました。
ロボットの両目がビコーンと赤く輝きます。
カパッと耳まで大きく開いた口からは、滝飛沫すらも掻き消す甲高い咆哮。


『フェ~~~フェッフェッフェッ!!!!』


正義のロボットにしては悪役っぽい笑いを上げて、機体に繋がっていた充電池コードをパワフルに引き千切るOYABIN28号。
ズシンと大地を力強く踏締めんと出した1歩は――しかしバランスを脆くも崩させ――巨体は滝壺へと真っ逆様にダイブしてったのでした。


『フェ~~~フェッフェッ…!!!』


――ズドボォォォ~~~~ン…!!!!


浅い滝壺に、流水音を劈く轟音が響きました。


「…バ…バカ~~!!!タマネギ!!!足は頭部コクピットにすわるオレの合図通りに出せって決めてたろォ~!!?」
「…ゴ…ゴメン…忘れてた…!」
「…やっぱりまだカイリョウのヨチが有るんじゃ…」
「だからむねとこしにも窓をセッチしようってテイアンしたのに…!」

『ブェ~~~ブェッブェッブェッ!!!』


諸事情により、外部を見る窓は、頭部コクピットにしか設置されてませんでした。
割れ頭を水底に突刺し逆立ちする羽目に陥ったロボは、それでも健気に笑い続けています。
天地逆転したコクピット内に響く笑い声に、3人はこの先の不安を覚えずには居られませんでした。


「しょーがないじゃんか!博士が『むねはともかく、コカンがシースルーなのはカッコ悪ィ』なんて言うからさァ~~!」

『ブェ~~~ブェッブェッブェッ!!!』

「それを言うならハンドルそうじゅうってのも、いまいち決らずカッコ悪いよなァ~。」
「いまさら言ってもしょーがないだろ!?早く助けに行かなきゃ博士達の命が危ないんだからな!!」

『ブェ~~~ブェッブェッブェッ!!!』




夜明け間近の森の中で、巨大ロボが気の抜ける笑い声を轟かせていた丁度その頃――


ルフィ・ゾロ・ウソップの3人は、縄で後ろ手に縛られ、信者達よりナミの居る鏡の間へと連れ出されたのでした。


扉が開き、足を踏み入れると同時に、壁に床に天井に映ったナミの姿が、目に飛込みます。
しかし3人の少年は手筈通り直ぐに正面向直り、弓や槍を携え左右に居並ぶ信者達の間を、立止る事無く歩いて行きました。

足下でナミが自分達の影に隠れて、こっそりついて来る気配を感じます。

正面奥の鏡の前に立つスリムッドが、金色に光る右目を細め、3人を出迎えます。

老婆が鏡の前から退くと――そこには逢いたかった魔女の姿が在りました。


「……ナミ!」


重なり映る自分達の像、隙無く見張るスリムッドと信者達の像、壁端に並んだ燭台の灯火。
薄明りに照らされたナミが、両手を鏡に押し当て、呼掛けるルフィに向い、小さくコクリと頷きます。
頷き返そうとして、隣に立つゾロから、肩で軽く小突かれました。

目配せで「気取られるな」と伝えられ、慌てて側に立つスリムッドの顔を窺います。

幸いにもその時スリムッドは、首に提げてる金の懐中時計を取外そうと、頭を垂れていました。

鏡の前に並んだ自分達の眼前に、ぶらんとその時計が突き出されます。


「御覧。今丁度、朝陽の昇る時刻さ。…約束通り今から30分だけ、面会を許したげるよ。…最後の逢瀬になるだろうから、存分に別れを惜しむんだね。」


スリムッドはそう告げると、下卑た笑い声を上げました。

しかし鏡を隔てて相向う3人と1人は、無言のままじっと見詰合ってるだけ。

てっきり悲劇の中の恋人達の如く、永遠の別離を嘆き合う光景を想像していたスリムッドは、不審を感じるよりも拍子抜けしてしまいました。


「……どうしたんだい、お前達?折角会わせてあげたっていうのに……悔いを残さないよう、話したらいいじゃないか。」


声色優しく勧めるも、魔女と少年達はやはり黙ったままでした。

居心地の悪い静寂が、広間中に漂います。


「……おい…あいつら、確かに来るんだろうな…?」


待てども来ない援軍に痺れを切らして、3人の中央に立つゾロが、左側のウソップに向い、蚊の鳴く声で囁きました。


「…何やってんだよ…?…ちゃんと間に合うんだろうな…?」
「来る…!大丈夫…!…た、多分…きっと……。」
「…多分きっと!?おい、ふざけてんじゃねェぞ…!」
「だだ大丈夫だって…!今出たトコなんだよ…!……きっと。」
「出前じゃあるまいし…!『頑張ったけど間に合いませんでした』じゃ済まされねェんだからな!おい…!」
「そこの2人は何ボソボソと話合ってんだい!?…相手が違ってるじゃないか。」


ボソボソと話す小声を聞き付けたスリムッドが、ギロリと片目を剥きます。
睨まれた2人はピキーンと背中を緊張させ、慌てて口を閉じたのでした。


「…残り後10分!……ちょっとでもおかしな様子を見せたら、魔女は勿論、お前達の命も無くなると覚えておいで!」


ニヤニヤと笑いながら脅す老婆の視線の先には、左右を固める数十人の武装した信者達の姿が在りました。

目にしたウソップの震えが一段と強まります。
ルフィとゾロも息を呑んで、表情を険しくさせます。
鏡の中のナミの顔が、まるで死人の様に蒼褪めました。




3人の少年と1人の魔女が絶体絶命のピンチを迎えていた丁度その頃――


正義のロボット『OYABIN28号』は、ウソップ幼年発明団のリーダー『ピーマン』の掛け声に合せて、鏡のピラミッドが建つ小高い丘を目指してひた走っていました。


「1!!2!!1!!2!!1!!2!!1!!2!!……」

『フェ~~~フェッフェッフェッ!!!』


緊急事態とはいえ、正義のロボットとして村の平和な朝を乱してはならぬと、避けて選んだ獣道に轟く咆哮。
ズシンズシンと森を掻き分け震わす音に、怯えた鳥達が喧しく鳴いて空へと飛び立ちます。
敵のアジトを隠すかの如く、行く手を遮る乳色の靄。
しかしOYABINは怯む事無く、鉄のボディで切裂き邁進するのでした。

頑張れOYABIN!!
負けるなOYABIN!!
正義の力を見せてやれ!!


『フェ~~~フェッフェッフェッ!!!』

「………誰がこんな笑い声出すようセッケイしたんだろう?」
「………博士だよ。」
「………カッコ悪いよなァ、はっきり言って。」
「………全然、『正義の味方』っぽくないよね。」
「だから今は不満言ってる場合じゃないって!!!…そんな事より、見えて来たぞ!!ピラミッドが!!」


白く煙る靄の中、荒涼とした丘の上に建つ、異形の建物。

巨大なロボットよりも尚、高く聳える鏡の山。

昇ったばかりの朝陽に照らされたそれは、悪の巣窟に似つかわしくない輝きを放っていました。


「ようし…タマネギはそのまま一気にかけろ!!!ニンジンはオレがさけぶと同時に、右うででパンチだ!!!」

「「ラジャー!!!」」

『フェ~~~フェッフェッフェッ!!!』


ピーマンの指令通りに脚部を担当するタマネギが速度を上げ、胸腕部を担当するニンジンがロボの右腕を振上げ構えます。


「行くぞォォォ!!!『OYABIN・ジャスティス・ライト・マグナァァァム…!!!!』」


ピーマンがヒーローになり切って叫ぶと同時に、OYABINは渾身のパンチをピラミッドにお見舞いしたのでした。


――ズドガッシャーーーーーン…!!!!!




不気味に近付く振動音に次いで、雷鳴の様な激しい衝撃が、広間に伝わりました。

周りを固めていた信者達が、不安を隠さずざわめきます。


「一体何が起ったってんだいっっ…!!?」


動揺する信者達に押されて、スリムッドも堪らず角に設置された連絡管へと走って行きました。

老婆が自分達に背を向け離れた瞬間――「チャンス到来!」とばかりに、3人の少年の目がキラリと光ります。


「ルフィ!今だ…!」

「――おう!!」


返事をすると同時に、ルフィは縛ってた縄を、蜘蛛の糸の如く易々と引き千切りました。
ゾロも同じく引き千切ると、背中から抜いた刀で、ウソップの縄をも斬り落します。

自由を取戻したルフィの左掌が、松明の様に明々と燃立ちました。

浮んだ破魔の図象を握り締め、床に映るナミの姿を見据えます。


『ルフィ…!!』


透き通る壁の向うで、ナミがコクンと頷きます。

それに大きく頷きを返すと――ルフィは破魔の拳を――床に思い切り叩き付けたのでした。


「うおおおおおお…!!!!」


湖面に張る氷が砕けるかの如く、鏡の床にピシピシと亀裂が走ります。

真っ赤な拳が鏡を溶かして貫くと、ルフィは言われた通り、破魔の力を封じました。

握り締めた炎が消えると同時に、凄まじい力で中へと引張られます。

ルフィは歯を食い縛って掛かる力に抵抗し、空いた右手は床に掴らせ、己の左腕を限界まで伸ばしました。


「ナミィィ!!!掴れェェェ…!!!!」

『――ルフィ!!!!』


必死で伸ばした手に、ナミの両手が掴ります。

その手をぎゅうと握り締めると、死んでも離さぬとばかりに、渾身の力で引上げ始めました。




その14へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・2―その12―

2010年07月23日 20時33分57秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その11へ戻】




「なっ…!?なっっ…!??なァァァ~~~!???」


突然出現した大鏡に、ウソップが驚愕の悲鳴を棚引かせます。

不幸にも鏡は、目ん玉飛出させて驚く彼の頭上へ、ぐらりと倒れて来ました。

――ゴォン!!!!という物凄い衝撃音が、辺りに轟きます。


「…だから危ねーって言ったのに。」


鏡の下敷きになったウソップを、ルフィは軽い哀れみ篭めて見詰ました。


「…な!…お…!…け、警告は具体的に解るよう伝えやがれ馬鹿ヤロー!!!――ってかそんな事より!!お、お前も魔女…いや男だから『魔男』だったのか~~!??」
「『魔男』は不味いだろ、聞え的に。」


大きな瘤を頭に戴いたウソップが、鏡の下から這って出ます。
少々錯乱気味で喚いた言葉に、ゾロがツッコミを入れました。


「別に俺、『魔女』でも『魔男』でもねーぞ。」
「だったら今のは何だよ!??魔法じゃなけりゃ超能力だとでも言うのか!??」


きっぱり否定されるも、ウソップは食下がります。


「これは前の冒険の時に、俺とゾロとナミとで見付けた、シャンクスの宝だ!!『水明鏡』って言って、会いてェ奴の姿を映す、魔法の鏡なんだ!!」

「…あ~~??『水明鏡』???」


ルフィの言葉は今一説明が足りず、ちっとも要領を得ません。

頻りに首を傾げるウソップに構わず、ルフィとゾロは楕円形した青い鏡面を見詰ました。


「…映るかな?」
「今生きてるヤツなら呼出せるって言ってたろ。…ま、やってみるしかねェさ!」
「そうだな!」


映った己の黒い瞳を真直ぐ見据えます。
唾をゴクリと呑込むと、ルフィは再び呪文を唱えました。


「水明鏡よ水明鏡!
 我が前にナミの姿を映し出せ…!!」


――鏡面の中心から、波紋が広がりました。

覗き見るゾロやウソップ、ルフィの像が歪み、掻き消されます。

冴え冴えとした青い光の中、俯いて座るオレンジの髪の少女が映っていました。




「ナミ!!!」
「ナミ…!!」
「うう映ったァ~~~!??」


ルフィが、ゾロが、喜色満面に叫びます。
ウソップも裏返った声で叫びます。


「――ルフィ!!ゾロ!!…ウソップ!!」


自分を呼ぶ声に反応したナミが、パッと顔を上げました。

虚ろだった瞳に生気が戻ります。

安堵の溜息吐いて、3人に微笑を送りました。


「…良かった!『鏡』の事を思い出してくれて。」
「なあナミ!どうしたらお前をそこから出してやれる!?」


鏡にべったりと手を当て、ルフィが迫ります。
触れた箇所は水面の様に細波立ち、見ていると此処から潜って行けそうに思えました。

中に潜り、引張り上げる事が出来るなら…しかしその表面は普通の鏡と同じ、冷たく硬い物。
悔しさに引掻いた鏡は、キイキイとすすり泣く様な音を出しました。


「…無理よ。此処から私を引張り上げる事は出来ないわ。」


仕草から気持ちを読んだナミが苦笑います。


「…何か方法は無ェのか!?入る事が出来たんだ。出る事だって出来る筈だろ!?」


反対側からゾロも深刻な顔して問い掛けます。
両サイドから尋ねられたナミは、幾分顔を曇らせました。


「……無い訳じゃないわ。しかもルフィ…現状に於いて、それはあんたにしか出来ない。」

「俺にしか出来ない??」


ルフィが首を捻りつつ自分を指差します。
その顔を見詰め、ナミは無言で頷きました。


――直後、鏡の像がユラリと形を崩しました。


「「ナミ!?」」


焦ったルフィとゾロが、同時に名を呼びます。


「…やっぱり鏡の結界に邪魔されて上手く交信出来ないみたい…!長く保たないようだから、3人共これから話す事をよく聞いて!」


鏡の向うのナミは、覚悟を決めた顔で話し出しました。


「明朝、陽が顔を出してから30分間だけ、あの婆ァにあんた達と会わせるよう頼んどいたの!
 だから明朝、あんた達はもう1度、私が閉じ込められてる鏡の間に引き摺り出されるわ!
 鏡の間に入ったら、真直ぐ正面の鏡の前まで歩いて行って!
 よそ見しちゃ駄目よ、気付かれるから!
 そして隙を見付け…ルフィ、あんたの『破魔の拳』を、床の鏡に叩き付けて!」

「俺の『破魔の拳』を!?」


話を聞きながら、ルフィが左拳を握り締めます。

その拳がまるで炎でも握った様に、明々と輝きました。
傍で見ていたウソップが悲鳴を上げます。


「おおおお前…!!ひょひょひょっとして『破魔の拳を持つ者』かァァーーー!!?」

「おう!そうだ!!」


おっかなびっくり蒼白い顔して尋ねるウソップに対し、ルフィはあっさり告白しました。


「…そそそうか…!考えてみりゃ、魔女と知合いなくらいだもんな…!普通の人間な訳無ェよな…!」
「けどナミ、こいつの拳で叩かれたら、鏡どころかその下の地面まで割れるぞ!そんな事になったら、お前…」


壁際後退ってブツブツ呟いてるウソップをスルーして、ゾロが尋ねます。
しかしナミは彼の心配を打消すよう、にっこり笑いました。


「大丈夫よ!…私が閉じ込められてる床の鏡は、此処とは別の次元に繋がってる…だからルフィの拳で、その結界を撃破って欲しいの!
 …そして破ったら、今度は破魔の力を封じて、私の手を掴み引張り上げて!」

「破魔の力を封じる?」

「そうしてくれないと…私は、あんたの力で、消されちゃうもの…!」


そう話すナミは、シニカルな微笑を浮べました。


「……そうか。」


ルフィが少しだけ、瞳を曇らせます。


「別次元への扉を破魔の拳で造っても、力を封じた途端、直ぐに閉じようとするわ。
 そう簡単に引張り上げる事は出来ない…。
 ルフィ……まごまごしてたら、あんたの手は再び張った結界に挟まれ、千切れるかも知れないわ…!
 そんな危険を冒してでも……助けてくれる?」

「おう!!当り前だ!!!」


ルフィが然も当然とばかりに、力強く請負います。

ナミの茶色い瞳が、水を湛えて潤みました。


「…残る問題はどうやって隙を作るかだけど…。」
「それなら俺に良いアイディアが有るぞ!!」


今迄蚊帳の外に居たウソップが、おもむろに手を挙げて発言します。


「その『水明鏡』ってのは、どんな奴でも呼出せて、話が出来るのか?」

「現在生きてる人間ならね。」

「だったらピーマン達に連絡して、俺のとっておきメカで突撃させる…!」

「「「とっておきメカァァ!??」」」


突拍子も無いアイディアを受けて、3人声をハモらせます。


「ああ!…メカが突撃した騒ぎに乗じて、ルフィは床を叩き付けろ!大丈夫!この作戦でぜってェ上手く行く筈だ!!」


鳩に豆鉄砲食らった様な顔を並べる3人の前で、ウソップは長い鼻を擦り上げ自信たっぷり請負いました。


「…任せていいもんかねェ。あんなチビ連中に。」

「チビだからって見縊んなよ、マリモ侍!あいつらはやれば出来る幼児なんだからな!」

「……正直不安たっぷりだけど…他に浮ぶアイディアも無いから、あんたが出したのを採用しましょう。
 とはいえあの婆ァがきっちり妨害して来るのは読めてるし…。
 鏡から引上げようとしても、恐ろしい吸引力に阻まれる…下手したらルフィまで鏡に引き摺り込まれるかも…。
 だからウソップ、あんたはルフィが中へ入って行かないよう、後ろから引張って!
 そしてゾロは、その間無防備になる2人を、婆ァの妨害から守ってやって!!」

「おう!…任せろ…!!」


刀の柄に触れると、ゾロは不敵な笑みを浮べて請負いました。


「ま、これも縁ってヤツだろうからなァ…仕方ねェ、手伝ってやるよ!」


ウソップも諦め半分に笑って請負います。


全員の役が決ると、ゾロはナミにジェスチャーでもって、「掌を前に出せ」と伝えて来ました。

怪訝な顔を見せるも、指示通りにナミが右掌を突き出します。

するとゾロは、その上に自分の右掌を重ねました。


「……寂しいか?」

「………ヒキコモリ暦500年のキャリア持ってんのよ。どうって事ないわ!」


強がって笑うも、声は震えていました。


反対側からルフィが同様の仕草で、「左掌を前に出せ」と伝えます。

頷いて出した左掌に、ルフィの左掌が重ねられました。


「……絶対…助けっから…!!」

「…俺達を信じろ…!!」

「………うん…!」


右を向き、左を向いて、ナミが小さく頷きます。

潤んだ茶色い瞳が、音も無く広がった波紋に掻き消されて行きました。

次第に失われてく輝き――何時しか、重なる掌は、自分達のものに変っていました。




「……見ちゃらんねェなァ…ったく!」


苦笑混じりの声が掛かり、漸く我に返ります。


「おめェら鏡に映った顔をよく見てみろよ!…なァにが『仲間』だっての!」

「…たいがいしつけェな、てめェも。そうじゃねェっつったろ!」


浮べたニヤニヤ笑いの意味を察したゾロが、声を荒げます。
しかしウソップは益々笑みを深め、わざとらしく手で扇いで見せました。


「『絶対助けっから!!』、『俺達を信じろ!!』…あああ、クッッサ!!…ただの仲間相手に、おめェら毎度こんなクッサイ台詞かまし合ってんのかよ!?鼻曲る程の臭さ拡がり環境汚染拡大だぜ!!」
「煩ェこっちの勝手だ!!!臭くて我慢出来ねェなら、その無駄に長い鼻斬って花瓶に活けてやるよエレファントマン!!!」
「違う!!!ナミは『ただの仲間』なんかじゃねェ!!!『俺の大事な仲間』だ!!!」


割って入ったルフィの主張が、室内爽やかに木霊しました。

毒消されたゾロとウソップの目が点になります。


暫しの間の後、白けを嫌ったウソップが、パンと両手を打って、威勢良く立上りました。


「…考えてみりゃ悠長に語らってる場合じゃなかった。――そんな訳でルフィ!!一刻も早くピーマン達に繋げろ!!これより魔女奪還プロジェクトをスタートさせる!!」

「って何でてめェが偉そうに仕切ってんだよ…?」
「う~るせェェ!!!チーム1の知恵者が取仕切るのは当り前だろうがァァ!!!」
「別にお前を俺のチームに入れた覚えはねーぞー?」
「いいから!!早く繋いで下さいませっつってんだろうがボケコンビ!!!」


有耶無耶の内に仕切られるも、ルフィは言われた通りに、チビ3人を呼出す呪文を唱えました。

再び青く眩く輝く水明鏡。

中心から波紋が広がった後に、卓袱台座ってカレーを食べてるチビトリオの姿が現れました。




「ピーマン!!ニンジン!!タマネギ…!!」


鏡を抱えてウソップが叫びます。

その声に驚いて振向いた3人の目が、みるみる開かれました。

一斉に蒼褪めてく顔色。

タマネギの持ってたスプーンが、皿の中へカランと音立て落ちました。


「ギャ~~~~!!!鏡のお化けェ~~~~!!!!」
「しかも中に博士うつして博士の声でしゃべったァ~~~~!!!!」
「た!大変だァ~~~~!!!鏡が博士に化けてオレ達食いにやって来たァ~~~~!!!!」
「落ち着けお前ら!!!これはフィクションではなく実際の映像の俺様だ!!!!」


目から鼻から口から水分飛ばして逃げ惑う3人を、ウソップは大声出して宥めます。

そうして卓袱台バリケードを張って怯える3人に向け、指でチョイチョイと呼び寄せる仕草をして見せました。


「…はは博士…?」
「…ほ、本物の…?」
「おおお化けじゃなく…?」


3人バリケードを張ったまま、恐々とにじり寄って来ます。


「…ああ、何つうか…色々有ってなし崩しに、こうして魔法の鏡使って、お前らに連絡取ってる訳だが…」


モジャ頭をワシャワシャと掻き毟り、チビ共相手にどう説明したもんかと頭を悩ませます。
するとそこへ、ピーマン・ニンジン・タマネギが、鏡にビタッと顔をくっ付けました。


「うわっっ!?汚ねっっ!!」


涙と鼻水で濡れた顔がアップで迫り、反射的に鏡から身を引きます。


「な、何やってんですか博士ェ~!?昼食にも帰って来ないで、もう夕食タイムですよォ~!!?」
「早く帰って来て下さいよ博士ェェ!!!食後のおやつのプリンも食べずに、みんなずっと待ってるんですからねェ~!!!」
「どーしてもガマン出来ずに夕食始めちゃったけど、ちゃんと博士の分のカレー、残してあるんですからァ~~~!!!」

「煩ェ黙って聞けェ!!!!」


埒が明かぬと、泣付かれてあたふたしてるウソップ突飛ばし、ゾロが鏡の前で一喝します。

眼光鋭く雷落とされたチビ3人は、背筋をピンと伸ばして黙りました。


「…緊急事態だ!手短に話すからよく聞いてろ!…現在、俺達は敵のアジトに捕まってる!脱出する為には、お前らの力が必要なんだ!」

「「「つつ…つかまってるゥ~~~~~!!??」」」


再び広がるどよめき。

騒ぐ3人を再び制そうと、ゾロが大きく息を吸込みます。

その直後、今度はルフィがゾロを突飛ばし、鏡の前に乱入しました。


「そうだ!!ナミも捕まっちまった!!…このままじゃスリムッドってババァに消されちまうかもしんねェ!!」

「…『ナミ』って…あのコワイ魔女の人ですか!?」

「ああ!その恐くてタカビーな魔女が捕まえられちまっててな!」


背後からゾロとルフィを左右に押しやり、鏡の前に戻ったウソップが、タマネギの問いに答えます。


「そこでだ…魔女奪還全員無事脱出を成功させる為、お前達に指令を与える!」


此処でゴホンと1つ咳払いをして、シリアスな顔を決めて見せました。

見詰めるチビトリオが、緊張する様に喉をゴクリと鳴らします。


「…明日、日の出と同時に『アレ』に搭乗してピラミッドに突撃せよ!…そして俺達の居る場所まで駆け付けるんだ!場所は俺の懐中時計に内蔵された発信機の信号を辿れば解る筈だ。…お前達が乱入して騒ぎを起してる隙に…俺達は魔女を奪還する!」

「…『アレ』とは…まままさか『アレ』の事ですか…!?」
「いけません博士!!未だ『アレ』はシサクダンカイです…!!」
「使うには早すぎますよ…!!」

「今使わずに、何時使うってんだよ!?…大丈夫!27回も試作を重ねたんだぜ!!今度こそ上手く行くさ!」


顔色を蒼くしてピーマン・ニンジン・タマネギが詰寄るも、博士は頑として譲りませんでした。
決意を秘めた漢の双眸が、キラリとクールに光ります。


「…頼むぜ、ピーマン・ニンジン・タマネギ!!俺達の命、てめェらに預けた…!!」

「「「…博士ェェ…!!!」」」


3人に向い、親指を立てて力強く頷きます。
それを見たピーマン・ニンジン・タマネギも、同様のポーズを取り、「ラジャー!!」と叫びました。


鏡面に波紋が浮び、映像が途切れます。

輝きを失った中、そこには自分達の像が戻っていました。




「………で、『アレ』って何なんだよ??」
「ひょっとしてビーム兵器か何かか!?」


不安と期待の入り混じった視線が、背中に突き刺さります。

ウソップは自信たっぷり不敵な笑みを引いて、2人の方へ振返りました。


「『OYABIN28号』!!…俺のとっておき合体ロボだぜ…!!」




その13へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・2―その11―

2010年07月23日 20時32分49秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その10へ戻】




反省室は鏡の間と同じ階に、数室拵えてあるようでした。
白く塗られた壁に仕切られた部屋は、大人1人が寝転べる位の狭さです。
天井からランプが吊るされてる他は、何の飾り気も見当りませんでした。

いえ、室内入って奥には、トイレが在りました。
押込められた当初は縄で縛られてた3人でしたが、「便所が在ってもこのままじゃ用足せない」とウソップがごねたお蔭で、今は解かれていました。


「…見張りが居なくなってる!子供と見縊ってか、すっかり警戒が手薄だ!…脱出するチャンス到来かもしんねェぜ…!」


鉄の扉より上の壁には、小さく長細い明り取りが1つ、開けられていました。
そして扉には室内を見張る用に、同じ様な穴が1つ取り付けられていました。

天井近くに開いた明り取りから、手製の潜望鏡を使って外を覗いていたウソップが、声を弾ませます。

しかし背後に蹲る2人からは、何の応答も貰えませんでした。


「………あのな、お前ら……落ち込む気持ちは理解出来るが、そろそろ前向きに、これからの対策練ったりしねェか?何時までもそやって蹲ってちゃ、事態ちっとも好転しやしねェよ!」


振返って説教かましつつ、長く伸ばした筒を手で押して畳みます。
小さく折り畳まれた潜望鏡は、見た目キセルに似て思えました。
ポケットに仕舞い、相も変らず黙ったままで居る2人の傍に寄ります。
同じポーズで向い合う間にしゃがみ、ちらちらと視線を送るも、2人は微動だにしません。

室内はまるで通夜の如く、どんよりとした空気に満たされていました。


「………暗ェ!例えるなら新月の夜の墓参りの如く暗ェぞ、お前ら!未だ地獄に落とされた訳じゃあるめェし、ちったあ明るく愛嬌振り撒けよ!!言うだろうが!!『女は度胸、男は愛嬌』ってよォ~!!」


押し潰されそうな暗さに耐え切れず、ウソップが爆発します。
それでも2人は俯いたまま、ウソップを見ようともしませんでした。

深々と音立て降積る静寂の中、あからさまに大袈裟な溜息を吐きます。

ふと、左側蹲るゾロの背に括られた2本の刀が目に付きました。


「…ええとお前…『ゾロ』っつったか…?背負ってるそれって見た所真剣だよなァ?偽物ってこた、ないよなァ?…その刀でもってズババンと壁斬ったり出来ねェもんかな~なんて…!」


愛想笑いを浮べてゾロの傍ににじり寄ります。
コツコツ叩いてみた壁は、どうやら石を組み、漆喰で塗り固められてる様でした。


「なァ~どうよ?折角脱出に使えそうな道具持っててよォ~。ただジィ~ッと逃げずに居るなんて、間抜けもいいトコ――」


――いきなりガシッ!!と襟首を掴まえられました。

恐ろしくつり上がった目を向けられ、ウソップは「ひい!」と叫び、亀の如く首を竦ませます。


「…俺達だけ逃げたってしょうがねェだろうが…!!」

「べべべ別に自分達だけ逃げようなんて、一言も言ってねェじゃねェか…!」


こめかみに青筋立てて凄まれ、悪寒が全身を突っ走りました。
同じ少年で在りながら、まるでヤクザの様な迫力です。

涙目で自分を見る顔を認めたゾロは、押えてた首根っこを乱暴に解放しました。

ウソップが震えながら後退って離れます。

騒ぎの中でも、ルフィは全く顔を上げませんでした。


「…な、なァ!…あいつを助けるにしたって、このまま居ても埒が明かねェとは思うだろ!?…取敢えず俺達だけでも脱出して、一旦計画立て直してから助けに行くってのはどうだ!?ほら、あいつ魔女で死なないっつってたじゃねェか!少しの間なら持ち堪えられんじゃねェかな~~と…思ったりすんだが…」


提案持掛けるも、やはり何の反応も返って来ませんでした。

人が愛想振り撒き明るく盛上げようと努めてるってのに…次第にウソップは腹立たしさを覚え始めました。

八つ当り承知で愚痴ります。


「…考えてみりゃ、ピンチに陥った原因は、あの魔女に有るんじゃねェか!…何が『私は全知全能、不老不死で知られるオレンジの森の魔女よ』だ!『5分も経たない内にのす』とかほざいて、自分があっさりのされやがってよォ!ちっとも頼りになんねェ――」


再び――ガシリ!!!と、今度は両の肩を2人に突き倒されて、仰向けに転がされました。

ランプの灯りの下、顔に真っ黒い影を貼り付けたルフィとゾロが、射殺さんばかりにガンたれて迫って来ます。


「……すすす済みません!!済みません!!もももう言いませんから許して下さい…!!」


半端無い殺気を感じたウソップは、両手で拝みポーズを作って哀願しました。

グイッッ!!と強く両腕を引張られて上体を起します。
ウソップから手を離した2人は、また壁を背にして蹲ってしまいました。

その姿を眺めてウソップは、何度目かの溜息を吐いたのでした。


「…その…なんだ…お前ら揃って、あのタカビー魔女に惚れてんのか?」

「…ほれてるゥ??」
「…何馬鹿な事言ってんだ、てめェ?」


不機嫌な顔を起して、ルフィとゾロが返します。
完全に据わった目を向けられたウソップは、苦笑を漏らしつつ言葉を続けました。


「…俺には惚れてるとしか思えねェけどな!姿が消えて意気消沈、まるでこの世の終りが訪れたみてェな顔しやがって!」

「当り前だろ!!ナミは仲間だぞ!!」


ルフィが濁りの見えない黒い瞳で、真直ぐウソップを見据えます。


「仲間消されてこの世の春が来た様な顔する馬鹿は居ねェだろが!」


同じくゾロが、曇りの無い茶の瞳で、ウソップを捉えます。

あくまで直球な2人の態度に、悪いと思いつつも、笑いが込上げました。


「…まあ~いいさ!そういう事にしといてやるよってか――今はそんな談議に花咲かせてる場合じゃねェだろがァァァ!!!」


突然、卓袱台でも引っ繰り返しそうな勢いで、ウソップが立上りました。

呆気に取られるルフィとゾロの前で、モジャ頭掻き毟り喚きます。


「解ってんのか!?このままじゃ魔女も俺達も皆殺されちまうかもしんねェんだぞ!?そうさ多分殺される!!いやきっと!!間違い無く殺されちまうんだ!!まったくおめェらに関ったばかりに…こんな若い身空で夢だった発明王にもなれず、嬲り殺しにされるんだ俺は!!どうしてくれんだよ!?どう責任取ってくれんだよお~~いおいおいおいおい…!!」

「…逆切れた。」

「…駄目だこりゃ。」


床をドンドン叩いて悲劇のヒーローに浸るウソップを、ルフィとゾロはただ唖然と見守るだけでした。

大声で泣き喚いてるというのに、見張りが来る様子はとんと無く、ウソップの言葉通り難無く逃げおおせそうです。

しかし――

――だからこそ、自分達を放っておけるのだろうなと、苦々しい思いに胸が満たされました。


「……何とかナミと連絡取れればな。」
「今頃、どうしてんだろうなー、あいつ…。」


溜息吐く2人の頭の中、同時に或る物が浮びました。


「「そうだ!!『水明鏡』!!」」


互いに見合って叫びます。


「すいめいきょー??」


ウソップが泣き腫らした顔を上げて、素っ頓狂な声を出しました。

ルフィが被ってた麦藁帽子を脱ぎます。
手に持ち、ゾロと共に部屋の奥へと移動しました。


「…お…おい、お前ら…?…何おっ始めようとしてんだ??」
「あ、ウソップ、そこ居ると多分危険だぞー。」


不審を感じたウソップが、2人の傍へと這いずり寄ります。
ルフィはそんな彼に向け、のほほんと警告を発しました。


「ああ??危険???…何が????」


余計に不安を感じ、「?」マークを乱れ飛ばすウソップを気にも懸けず、ルフィは麦藁帽子に向い、呪文を唱えました。


「水明鏡よ水明鏡!
 汝、我が前に姿を現せ!!」


――その途端、帽子の裏から青く眩い光と共に鏡のパズルが零れ落ち、宙で1枚の大鏡へと繋ぎ合されました。




その12へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・2―その10―

2010年07月23日 20時31分28秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その9へ戻】




「……ナ…ミ…!」

「………ナミ…!」


床に転がったまま、ルフィとゾロは呆然とナミの消えた跡を見詰ました。


「………嘘だろ…消えちまうなんて…」


ウソップも2人の背後で、呆然と立ち竦むだけでした。

蝋燭に照らされた鏡の広間に、老女の勝ち誇った笑い声が木霊します。


「……う…ああああ…!!!ナミを返せェェ…!!!!!」


響く声に反応したルフィが、猛烈な勢いで老女に飛掛りました。
体当たりして床に転がし、戦慄く左拳を顔目掛けて落します。
ゾロも疾うに抜いてた2本の刀を、鬼の形相で構えました。


「良い子にしてないと魔女を本当に消してしまうよ!!」


今にもぶん殴る寸前――ルフィの拳は老女の眼前でピタリと止められました。
馬乗りに敷いた老女を息も荒く睨み付けます。
首を竦ませつつも、老女は意地の悪い笑みを浮べて言いました。


「…床を御覧!壁や天井もね!…あんた達の大事な魔女は、鏡の向うにちゃあんと居るじゃないか…!」


老女を突飛ばして床を凝視します。
ゾロも刀を構えたまま、四方の壁を見回しました。
ウソップは天井を見上げます。

無限に重なり映る薄暗い鏡像の中――ナミの姿は確かにそこに在りました。

床に壁に天井に…怒りに燃える金の瞳で、鏡の檻を叩くナミ達。


「ナミ…!?」
「ナミ…!!」

『ルフィ…!!ゾロ…!!』


2人を呼ぶ極小さな声が、鏡面を震わせます。


「少しでも暴れたら鏡を割ってしまうよ!!そうしたら魔女は2度と鏡から出られないまま、死んでしまうだろうねェ…!」


隙を見て3人から離れた老女が、隠し持ってたハンマーを、正面の鏡に向けて振上げます。


「やめろてめェ!!!!そんな事したらブッ殺すぞ!!!!」
「だったら全員矛を収めて大人しく捕まりな!!!!」


血相変えて喚くルフィに、老女が怒鳴り返します。

ゾロが歯軋りして刀を元の鞘に戻しました。
ルフィも悔しさ噛締め拳を解き、だらんと両手を下げます。
既にウソップはブルブル身を震わせ、お手上げ状態でした。

3人が戦意喪失したのを確認すると、老女は満足そうに頷きました。
未だ鏡の中で老女を罵ってるナミに向い、憐れむ様な声を掛けます。


「オレンジの森の魔女の弱点は『合せ鏡』。鏡の間で魔法を使うと、魔女は鏡に閉じ込められてしまう。昔話で読んだ通りだったねェ…たかが人間と、あたしを侮ったのが、あんたの敗因さ!」

『…婆ァ!!私にこんな真似して、安楽な死に方出来ると思うんじゃないわよ…!!』


ドスを利かせてナミが吐き捨てます。
爛々と輝く金の瞳で射竦められるも、老女は全く怯まずに嘲笑いました。


「あんたこそ、この3人の無事を願うなら、そろそろ口を慎みな!…でないと子供とはいえ、容赦しないよ!」


脅し文句を聞いたウソップが、「ひい!」と泣いて身を縮こませました。


『3人に手ェ出したら本気で殺すわよ!!!!』


ナミの顔色がさっと蒼白に変ります。
必死に鏡を叩く両手に、赤い血が滲みました。


「やれるもんならやってみるがいいさ!…いいかげんに自分の置かれた立場を理解したらどうだい?この子達を無事帰して欲しくば、魔力を封じて黙ってるこった!――そっちの3人も魔女を消されたくなければ、一言だって漏らさず無抵抗で立っておいで!」


老女の言葉に、広間はしんとした静けさに包まれました。

唇を悔しげに噛締めるナミ…その輝く瞳から、次第に光が消えて行きます。

瞳が茶色に戻った所で、老女は角に仕掛けてあった金属管の側に寄り、蓋を開けて信者達を呼びました。




数秒後、知らせを受けた若い男性信者が6人、広間の正面扉から入って来ました。

全員案内の女と同じく、白いパジャマの様な服を着ています。
その内の体格が最も立派な2人は、身の丈よりも柄の長い、大きな槍を片手に持っていました。

目にしたウソップの怯えが、更に強まります。


「如何されました!?スリムッド先生!」


槍を持った1番背の高い男が、老女に声を掛けました。


「悪い魔女に唆された子供達が、あたしの命を狙って入り込んで来たのさ!」

「この子達が!?」
「悪い魔女とは…一体??」

「安心おし!あたしの魔法で鏡に閉じ込めてあるから!」


尋ねる信者達の前で、スリムッドは得意げに鏡を指差しました。

信者がランプで照らしたそこには、幾重にも連なる自分達の像と共に、1人の少女が暗い眼差しで佇んでいました。

驚いた信者達が、一斉に悲鳴を上げます。

見回せば床から天井から四方の壁から…そのオレンジ色の髪の少女は、自分達をじっと睨んでいました。


「…な…なんて恐ろしい!」
「我々を憎々しげに睨んでいるぞ!」

「大丈夫だよ!鏡に閉じ込めとけば、何の悪さも働けないからね!」

「この様な恐ろしい魔女を封じ込めてしまわれるなんて、流石は先生だ!」

「なぁに、あたしの力に掛かれば、大した相手じゃなかったさ!」


信者達から尊敬の眼差しを注がれ、スリムッドは「ふふん」と得意げに鼻を鳴らします。

コツコツと叩いた鏡の向うで、少女の顔が一層険しくなりました。


「さてと…残る問題はその子達だ!悪い魔女に唆されたとはいえ、黙って帰す訳には行かないよ!全く反省してないようだしね!今からどうやってお灸を据えるか考えるから…その間縛って反省室に閉じ込めておくんだよ!」


3人の少年を見回したスリムッドが、冷やかに笑います。

信者達は直ちに指示通り、少年達に縄を掛けて行きました。


「先生!この子刀なんて背負ってますよ!しかも2本!…取上げますか!?」


ゾロに縄を掛けようとした信者が、刀に気付いて取上げようとします。


「俺の刀に触んじゃねェ!!!」


その瞬間、弾ける様にゾロが激しく抵抗しました。


「ゾロ止めろ!!!ナミが消されちまう!!!」
「バ馬鹿お前ら!!!一言だって喋ったら俺達無事帰れなくなっちまうかもじゃねェか~~~!!!」


スリムッドの言葉を思い出したルフィとウソップが、真っ蒼な顔して怒鳴ります。


「放っといても構わんさ!どうせ『子供の玩具』だしね!よしんば扱えたとしても…魔女が此処に閉じ込められてる限り、こいつら何にも出来やしないだろうよ!」


小馬鹿にしたような笑みを向けられ、ゾロの唇が一瞬、何かを言い掛けて歪みました。

信者が刀から手を離します。

縛り終えると信者達は、指示通り3人引連れ、鏡の広間を出て行きました。

出て行く刹那、ルフィが、ゾロが、ウソップが…振返ってナミを見ました。

ルフィが悔しそうに歯を噛締めます。
ゾロもきつく唇を噛んでいました。
ウソップが助けを乞うて瞳を潤ませます。

ナミは…そんな3人の姿を、冷たい鏡越しに、じっと目で追っていました。




「…悔しいかい?」


スリムッドがその視線を遮り、目の前に立塞がります。

白髪の向うから覗く瞳を、ナミは気丈に睨み付けました。
鏡に映るナミの像を、スリムッドの干乾びた指がなぞります。
その表情は何処か陶然としていました。


「…待っていたんだよ。ずっと…あんたが現れるのをさ…。

 『魔女の瞳はにゃんこの目
  闇夜に輝く金の色

  空の彼方を
  海の底を
  地の果てを

  心の奥をも見通す力』

 …御伽噺を繰返し、繰返し、聞かされて…

 その何でも見える瞳や、何でも聞える耳や、何でも出来る魔法に憧れた…
 …だから金の瞳を入れて、あんたになろうとしたのさ。

 そしてこうも考えた――

 ――本当にそんな魔女が居るのなら、捕まえて、あたしの『力』にしたいと…。」


低くしゃがれた笑い声が、指を伝って鏡面を震わせました。


『……どうする事がお望み?』


叫びを堪える唇が小さく戦慄きます。
まるで体に重石を括られて、冷たい湖の底に沈められる様な心地がしました。


「此処に一生居て、あたしの言う通りに『見て』おくれよ。鏡の中に居ても、見たり聞いたりは出来るんだろう?」

『…よく調べてあるのね。』


皮肉を篭めて微笑み返します。
スリムッドが顔を皺くちゃにして、掠れた笑い声を出しました。


「あたしの願いを聞いておくれなら、あの子達を解放したげるよ。」

『…願いを聞かなかったら?』

「どうするかって?…そんな酷い事、心臓の弱い年寄りの口からは、とてもじゃないが言えないねェ。」


さも愉快そうに笑うスリムッドを、ナミは黙って見詰ていました。


「さあ………どうするかい?」


片目をギョロリと剥き出し、弛んだ顔を近付けられます。
歯を折れんばかりに食い縛り、真直ぐ見返してやりました。


『………もう1度だけ、あいつらに会わせて!』

「会わせてやったら、願いを聞いてくれるのかい?」

『………。』


ナミは無言で俯くのみです。


「…明日、陽が顔を出してから30分の間だけ、会わせてあげようじゃないか。…それまでよく回答を考えておくんだね!」


ふんと鼻を鳴らして吐き捨てると、スリムッドは鏡から離れました。

信者が傍に置いて行ったランプを携え、広間に灯した蝋燭を全て吹消します。

そうしてツカツカと歩いて部屋を出ると、扉をガチャンと乱暴に閉めたのでした。


暗闇と静寂の中、独り残されたナミは、声も無く鏡を叩き付けました。




その11へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・2―その9―

2010年07月23日 20時30分13秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その8へ戻】





「『マジックミラー』…って何だ??」


老女とナミを交互に見比べ、ルフィが質問します。


「明るい所から見ると光が反射して鏡に思えるけど、暗い所から見ると反射する光が無いから、硝子の様に向う側が透けて見える…そういう鏡よ!」

「あ~~成る程!つまり『不思議鏡』ってヤツだな!」


ポンと手を叩きつつも、今一合点が利かない顔して、ルフィが頷きました。


「鏡が怪しいとは踏んでたが…どういう仕組になってるんだ?」


老女から目を離さずに、ゾロが聞きます。


「硝子の裏に極薄く水銀を塗るだけよ。そうすると『半分だけ鏡』に出来上るの。」

「そうか、『半分鏡』…!やっぱトリックだったって訳か!!」


ウソップの顔に血の気が戻りました。
黒壁で覆われた部屋に転がる老女を、憎々しげに睨んで叫びます。
つられて他3人も、老女をマジマジと見詰ました。

年の頃にして70は超えているだろう、背の低いでっぷりと肥った老女です。
部屋に解け込む為か、纏っているのは黒絹のドレス。
しかし髪は雪の様に白く、顔半分を覆って腰まで届いています。
露にされた右面には、金色の瞳が光っていました。


「…その右目、義眼でしょ。本来の瞳の色は違う。…だから左目を隠しているのね。」


慄いて後退る老女に向けてナミが言います。
見上げる瞳の中に、魔女の姿は映っていませんでした。


「……その金の瞳…!あんたまさか…『オレンジの森の魔女』…!?」

「ええ!…あんたとは違って、本者のね!」


老女の顔に一際くっきりと、恐怖の皺が寄ります。
心地好さげに鼻を鳴らすと、ナミは更に謎解きを続けました。


「マジックミラーを活用する為には、部屋の明暗の差がはっきりしてないといけない。
 だから見られる側の部屋は硝子張りに、見る側の部屋は黒塗りの壁で覆った。
 応接時間は直射日光の入る午前8~11時迄…曇雨雪の日は事前に断ってたんでしょう?
 マジックミラーは側に近付いてみれば、向う側が薄らと覗けてしまう。
 だから最初に私が近付こうとした時、あんたは声をかけて、興味を椅子の方に逸らそうとした。」

「しかし安直なトリックだよなァ。むしろ今迄よく騙して来れたもんだと感心するぜ。鏡の側近寄って覗かれたらアウトじゃねェか!」


割れた鏡をルフィと共に色んな角度から眺めつつ、ゾロが疑問を口にします。


「ただ占って貰うのに、大人しく10万ベリーも払うような人間は、最初から素直に信じてるって事だもの!
 入って来たら『椅子に座れ』、『姿勢を真直ぐ保って動くな』…簡単に言いなりになっちゃうでしょうよ!」

「…成る程!」


前髪を掻き上げ、ナミが吐き捨てます。
その言葉を聞いて、ゾロは心から納得行った様に、大きく頷きました。


「何時もなら私達の様な招かれざる客は、絶対に入れやしなかったでしょうけど――欲を掻いたのが仇となったわね!」


ぎろりと冷やかに睨みます。
再び老女に視線が集中しました。

黒い床に散らばった硝子の破片が、老女の周りでキラキラと光を反射しています。
その破片を後ろ手で払い、喘ぎながら後退る老女を、4人はゆっくりと追い掛けました。


――と、老女がいきなり、床の一部をバン!!と跳ね上げました。


そうして4人が唖然としてる間に、下へと身を滑り込ませ、忽ち姿を消してしまったのです。


「あ!!逃げたぞ!!」
「しまった!!…油断した!!」


残された一同が、焦って割れた鏡を飛越え、黒い間に駆け付けます。
老女が消えた床には丸く穴が刳り貫かれ、地下へと続くスロープが造られていました。


「…あんの婆ァ!あちこちナメた仕掛け造ってくれてェェ!!」


スロープを覗き込んだナミが、悔しそうに歯軋りします。


「まるで忍者屋敷だな。」
「ビックリハウス!おっもしれー♪」
「どどどうする!?…追うのか!?」
「追うに決ってるでしょーが!!!人の名前騙ってインチキ商売してくれちゃって…大体、あ~んな欲の皮の突っ張った婆ァの何処が私よ!?絶対許さない!!肖像権侵害の罪で地獄送りにしてやるわ!!」
「…結構嵌り役だと思うが――ぐおっっ!!!」


ぼそっと呟いたゾロの鳩尾に肘鉄かますと、ナミはマントを体の下に敷いて床の穴に飛込ました。


「待てナミ先に行くな!!罠かもしれねェだろが…!!」


怒り露に滑り落ちてくナミを、ゾロが焦って追い駆けます。

続いてルフィが勢い良くジャンプして滑降。

…それから1拍置いて、ウソップが恐々と滑り落ちて行ったのでした。




真っ暗なスロープを滑り落ちると、そこは真っ暗な部屋でした。

背後からシュルシュル滑って来る気配を感じ、直ぐにマントを羽織り直して場所を退きます。

壁に開いた穴からゾロとルフィが続いて現れ、遅れてウソップが着地失敗して悲鳴を上げました。


「全員、お揃いのようだねェ。」


4人が緊張漲らせて、声のした方へ顔を向けます。

闇の中にユラリと浮んだ仄白い頭。

見据えるナミの瞳が、再び金色に変りました。


「…『魔女の瞳はにゃんこの目、闇夜に輝く金の色』…普段は茶色で、魔法を使う時だけ金色に変る事までは調べちゃいなかったよ…!」


老女のしゃがれた笑い声が木霊しました。


「調査不足はいけないわv――敵を知らずして勝てる勝負だと思うんじゃないわよクソ婆ァ…!!」


凄むナミの全身から、金色の光が幾筋も放たれます。


――次の瞬間、放出した光が紐の様に変化し、ナミを拘束しました。


「なっっ…!?」


両手両足、まるで金縛りを受けたかの如く、身動きが取れません。


「ナミ!!この部屋、床と天井が鏡だ…!!」


刀を抜こうとしたゾロが、床と天井に映る己の姿を認め、手を止めます。

前に立つ老女が、ほくそ笑む気配を感じました。


「床と天井だけじゃないさ!壁だって…そうら!」


四隅を固定してた紐をナイフで切り、前後左右を覆っていた暗幕を落します。

中央立てて在った大きな燭台に火が灯りました。


――そこは全て鏡で仕切られた大広間。


薄暗い中、ナミを除く4人の姿と蝋燭の灯りが、無限に連なって見えました。

ナミの口から鋭く長い悲鳴が零れます。


「ナミ…!!?」
「ナミィィ…!!!」


異常を感じたゾロとルフィが、血相を変えてナミに駆け寄りました。


「ルフィィ…!!!ゾロォォ…!!!!」


断末魔にも似たナミの叫びが、広間を震わせます。

急激に薄まって行くナミの体。

ルフィが、ゾロが、無我夢中で手を伸ばします。

しかしその手は互いを掠めるだけで――



そうして魔女の姿は、跡形も無く消えてしまったのです。




その10へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・2―その8―

2010年07月23日 20時29分07秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その7へ戻】





明けて次の日の早朝、チビ野菜トリオを留守番に残し、4人は村外れの小高い丘を登りました。

荒れた草原に挟まれた1本道をてくてくと、案内役のウソップを先頭にして頂上を目指します。
昨夜まで厚く覆ってた雲は晴れ、東の空には三日月よりも尚細い月が、白くぼんやり浮んで見えました。
聞えて来るのは遠くで鳴く烏の声と、重い金袋を背負ったウソップがひーこら言う息遣いのみです。


「…案内役はいいとして…何で俺がこんな重い偽金背負わされて歩かなきゃなんねェんだよ…?」

「そうだなー。俺も何で何時もみたく空飛んで行かねーのか、疑問に思ってた。」

「中に入って当人に会うまでは、魔女である事を隠しておこうと考えてね。」


ウソップの愚痴を綺麗に無視して、自分の前を歩くルフィに向い、ナミが返答します。


「会う前に警戒されて逃げられちゃったら、元も子もないでしょ?」

「はー成る程!」
「だから何で俺が偽金背負わされなきゃなんねェのか聞いてるんだがっっ!!!」


ポンと手を叩いて納得するルフィを押し退け、ウソップは尚も粘ります。


「偽金偽金煩い奴ねー。リアリティに拘って本物そっくりの質感を再現したってのに。」
「いやそこは問題にしてねェよ!!聞きたいのは何で俺がこんな重てェ荷物背負わされなきゃならんのかって事だ!!」
「半分はあんたの為にしてやってんだもの。それくらい働いて貰わなきゃ!」

「…俺の為??」

「偽オレンジの森の魔女が嘘を吐いてる事を、信者達の前で明らかにしたいんでしょ?」


きょとんと目を点にするウソップの前に、ナミはビシッと指を突き付けました。


「…そ…そう考えて造った地震予知メカを、お前らがぶち壊しちまったんだろが…!!」
「気持ちは解るが、考えが甘ェんじゃねェか?」


最後尾を歩いていたゾロが、会話に割込みます。


「てめェがメカ使って『大地震が起きない』事を証明した所で…信者達は聞く耳持たねェよ。」
「ゾロの言う通りだと思うわ。事実、その女が予言を告げて、もう1年経ってるってのに…信者は増え続ける一方なんでしょ?」

「そ…!」


2人から言い募られるも、ウソップは返す言葉を思い付けず、金魚の如く口をパクパクさせるだけでした。


「この先大地震が起きずに10年、20年経とうが、信者達は離れやしない。その女を本物の『オレンジの森の魔女』だと信じてる内はね。」

「……じゃ!じゃあ…!!どうすりゃ良いってんだよ…!?」

「簡単よ!本者の魔女が信者達の前で魔法を使って、偽者を締上げちゃえば済む事だわ!」

「あ、成る程なー!偽者だって解っちまえば、誰も言う事聞かなくなる訳だ!」
「魔女に非ず、ただの人間だと証明出来れば、自ずと信者達の目は覚めると。」
「いや…しかし!しかしよォォ!!…締上げるって…それって敵の懐潜り込むって事だろ?だ…大丈夫なのか…?あいつ、大勢の信者に槍や弓持たせて武装させてんだぞ!証明する前に囲まれて襲われちまったら…!!」

「大丈夫だってばァ!――私は全知全能、不老不死で知られる『オレンジの森の魔女』よ!ただの人間のペテン女に負ける訳がないじゃない!5分も経たない内にのしたげるから、見てるがいいわ!」


ウソップの心配など鼻も引っ掛けず、ナミは仁王立ちして高笑います。

3人の少年はそんなナミから少し離れて、一言「恐っっ…」と、聞えないように呟きました。




丘の頂上に建てられたそれは、朝陽に照らされ、地面に大きな影を伸ばしていました。

名前の通り三角形の鏡を張巡らし、空を映してキラキラ輝くピラミッド。
それは周りの風景の中不自然に浮いて居つつも、満更でない美しさを感じられました。


「うっひゃあ~~~!!でっけ~~~!!」


見上げたルフィが感心して叫びます。


「高さ70m位は有るかしら?だとしてオリジナルの約1/2の規模って所ね。」
「近くで見ると玩具みてェで安っぽい造りだな。」


ルフィとは反対に、ナミとゾロが冷めた感想を述べます。

そんな彼等に向い、ウソップは己の唇に人差指を当てて「黙ってろ!」のサインを送ると、ピラミッドの斜め前に立つ、灯台の様な低く白い塔の前まで手招きしました。


「…何?この塔?」

「ピラミッドへの入口だよ。行った人の話によると、この塔から下降りて、地下通路から中へ入れる仕組になってるらしい。」


説明しながらウソップがコツコツとおっかなびっくり戸を叩きます。
程無く横の小さな口が開き、中から女の声が響きました。

用件を問われ、ウソップが答えます。


「生憎ですが先生の占いは午前8時~11時迄、加えてアポを取られた二十歳以上の方にのみと定められています。」

「こんな朝早くから伺って失礼とは思いましたが、あまねく評判の高い偉大な先生のお噂を聞き、私も有難い予言を戴ければと遠路遥々こうして参った所存…せめて一度なりともお目通り願えませんでしょうか?」


素気無くお引取り願われるも、ナミは猫撫で声で懇願しました。


「済みませんが規則ですので。第一、占って貰うには前金で10万ベリー必要なんですよ。貴方達子供にそんな大金…」
「お金なら有ります!」


明らかに迷惑そうな口振りの女の言葉を遮り、ナミが叫びます。


「…実は私…某国で姫の立場に在る者でして…この度小姓の数人を供に引き連れ、お忍びで参りましたの…。お金なら…この通り、1千万ベリーほど手元に用意して御座います…どうか、どうか一度だけでもお目通りを…!」


ウソップに金貨を降ろさせると、ナミは袋の口を開いて、金貨をチャリチャリと取出して見せました。
そうして両手を胸の前で合せて、瞳ウルウル哀願します。


「……先生に相談して参りますので、暫くお待ち下さいませ。」


そう言い置いて、女はカタリと口を閉じてしまいました。




次第に朝陽が高みへと昇り、側に建つピラミッドが輝きを増しても、女は一向に何も言って来ません。


「…失敗したかしら?」


塔に凭れて待つナミが、ポツリと呟きました。


「設定に無理有り過ぎたんじゃねーの?」
「姫と言うには、ちと品性が足りねェよな。」
「てゆーか誰が小姓だよ??」


呟きを耳にしたルフィ・ゾロ・ウソップが、周りを取囲んで口々に言い立てます。
ナミが3人の脛を木靴で思い切り蹴飛ばした直後――漸く口が再び開けられ、先程応対した女の声が届きました。


「先生が特別に見ても良いと仰りました。…中へどうぞ。」


ガラリと戸が上げられ、塔の中から白いパジャマの様な服を着た、若い女が現れました。
茶色い髪を腰まで伸ばした細身の女で、まあまあ美人に思えます。
女は先程とは打って変わって愛想の良い微笑を浮べ、金袋を受取ると4人を塔へ案内しました。


「ほら、上手く行ったじゃないv」


3人に向ってこっそり微笑んだ後、ナミは姫らしくスカートの裾を摘んで礼を言い、中に入って行きました。
続いてルフィ、ゾロ…少し遅れてウソップがビクビクしつつ入ります。

塔の内部には成る程ウソップの話通り、地下へと続く穴が開いていました。

ランプを掲げる女を先頭に、カンカン音立てて梯子を下ります。

真っ暗な中ランプに照らされた先を見れば、飾り気無く白い塗料で塗られた地下道が細く長く続いていました。


「…良かった。内部まで鏡張りって訳じゃないようね。…」

「そういやナミ…お前、鏡が苦手だったよな?」
「あそっか!お前魔女だから、鏡に姿が映んないんだっけ?」


周囲を見回したナミが、胸を撫で下ろして呟きます。
直ぐ背後でそれを耳にしたゾロとルフィが、声をかけて来ました。


「しっっ!馬鹿っっ!正体バラすような事口にすんじゃないわよ…!」

「どうかしましたか?」


無用心な2人の発言をたしなめるナミの声が、地下通路に木霊します。
案内役の女が足を止め、不審な顔して振返りました。


「「「べ、別に何でも…!」」」


慌てて笑顔を取り繕い、3人駆け足で後を追います。


「…お、おい!ちょちょっと待ててめェら!!置いてくなよォ~~!!」


自分を置いて遠ざかるランプの灯に、ウソップも焦って先を急ぎました。




暫くすると通路は行止りに当りました。
前を塞ぐ壁には、入った時同様に梯子が架かり、上へと続いています。
天井は丸く刳り貫かれていて、そこから燦々と漏れた光が、床に眩しく円を画いていました。


「私の案内は此処までです。どうぞ梯子を上って、部屋の中へとお入り下さい。先生は既に貴方達をお待ちでいらっしゃいます。但し、一般のお客様は直接先生にお会いする事は出来ません。…ですが先生は優れた瞳で貴方達の一挙手一投足までお見通しです。くれぐれも粗相の無いように…。」


女はそう言うと、梯子を上るよう促しました。
先ずは姫としてナミが…続いてルフィが…渋るウソップの尻を叩いて先に行かせ、最後はゾロが上ります。

上る途中でひょいと下を見ると、女の姿は疾うに見えなくなっていました。




穴から顔を出して見たそこは、陽の光が燦々と射し込む、サンルームの様な硝子張りの部屋でした。
2枚の三角形した窓からは、昇った朝陽がギラギラ照って見えます。


「うおー!!まぶしー!!目ェ開けてらんねー!!」
「ちきしょーサングラス用意してくるんだったァー!!」


急な明るさに目が慣れず、ルフィとウソップが目を瞬かせて喚きます。


「後ろ見ろよ!鏡が有るぜ!」


事前に目を慣れさせていたゾロが、逸早く冷静に部屋を見回しました。

三角に仕切られた小さな部屋です。
恐らくはピラミッドの角に位置するのでしょう。

外に面した2枚の硝子窓。

残る1面は鏡張りとなってい、陽射しを眩しく照返しています。

そこに魔女であるナミの姿は映っていません。
しかし他3人の姿は、くっきりと映っていました。

見た所普通の鏡と特に変りなく思えます。

鏡の前には白い革張りの長椅子が、少し離して備え付けて在りました。

ナミがこっそりと鏡に近寄ろうとしたその時――


「よく来たね、あんた達!待ちくたびれて疲れたろう!ささっ!そこのソファに座って、ゆっくり寛いでおくれよ!」


――突然、くぐもった声がかけられました。


「うわあああ!!?だ…誰だあああ…!!?」


ビビッたウソップが隣に居たゾロの陰に隠れて喚きます。


「誰だよお前!?何処からしゃべってんだ!?」
「ルフィこっちだ!声はこの椅子に仕掛けられた口から聞える!」


部屋をキョロキョロと見回し、声の主を探すルフィに、ゾロが椅子の背凭れを指差します。
見ると背凭れの真ん中に、小さなラッパ状の金属口が取り付けられていました。


「…本当だ!どうやら声の主は、自分の居る部屋~床~この椅子迄、長い管を通して伝えてるようね。」


ナミとウソップも側に寄って注目します。
覗いた口から再び愛想の良い笑い声が響きました。


「貴女様が彼の有名な『オレンジの森の魔女』ですの?」


ナミが普段より1オクターブ高めの声で、鏡に向い問い掛けます。


「ああそうとも!あたしがその『オレンジの森の魔女』さ!ようこそ可愛い姫様、お目にかかれて嬉しいよ!」

「まあ、可愛いだなんて…!噂通りの神眼ですのね!」


コロコロと愛想良くナミも笑います。
それに気を好くしてか、声は更に続けました。


「ああ、あたしの金の目は実によく見えてね!お前さんのオレンジの様に艶々と美味しそうな色した髪も、仔猫の様に円らな茶色い瞳も、形良く伸びた手足も、全てまるっとお見通しさ!」

「凄い!!見事に大当りですわ、先生!!」


パンッと大袈裟に手を叩き、ナミが驚いて見せます。
両隣で見守っていた3人も、一斉にどよめきました。


「マジすげー!!全部当てちまった!!」
「ババ馬鹿騙されるな!!何かのトリックに決まってるだろ!!――そうだ!!実はこの椅子の中に潜み、穴から覗いて…」
「…る訳無ェだろ。手で塞がれたら終いじゃねェか。まァ何か仕掛けが有るのは間違い無ェが…。」
「お前達!失礼な事を言うもんじゃなくてよ!」


無遠慮に騒ぐ小姓達を、姫がたしなめます。
そうして黙らせた後で、如何にも申し訳無さそうに、鏡に向って謝りました。


「躾が至らず済みません、先生!何分未だガキなもので、口も頭も頗る悪いのです!」


涙を浮べて謝罪する姫の姿を見て、3人の小姓達は何か言いたげに口を開くも、寸での所で堪えました。

殊更愉快そうな笑い声が、室内に響きます。


「最初は皆疑るもんさ!気にする必要は無いよ姫様!…どうれ、じゃあ、そいつらの姿も見てやろうかねェ?
 先ずそこの麦藁帽子を被った少年からだ。
 …お前さんの髪の色は黒、瞳の色も黒…左目の下には傷が1本有るようだね。
 そして赤いコートを着ている…どうだい、当ってるかね?」

「あ…当ってる!!メチャクチャ大当りだ!!――おいウソップ!!こいつ本物の魔女だぜ!!」
「だからおめェは呆気無く信じてんじゃねェよ!!!」


言当てられたルフィが、椅子の管を指差し叫びます。
無邪気にはしゃぐルフィを、ウソップは顔を真っ赤にして怒鳴り付けました。


「…お前さんは…えらく鼻が長いようだねェ。
 髪は黒く縮れていて、唇はタラコの様に厚ぼったくて…実に愛嬌の有る顔立ちじゃないか。
 そして医者の様な白衣を羽織ってる…どうだい、当ってるかね?」


ウソップの顔からザザザッと血の気が引きます。
ガクガクブルブル震えながら、焦点の合わない瞳で「嘘だ…トリックだ…」とうわ言を繰返しました。


「最後に見る緑のコートを着たお前さんは…皆の中で1番のっぽなようだねェ。
 髪は緑色で芝生の様に短く刈っている…おでこを出しているね。
 瞳の色は茶色だ。
 ……おやおや、大きな刀を2本も背負っている…いっちょ前に護衛役かい?」

「…俺の名前は解るのか?」

「え?」

「何でも見える魔女なら、解んじゃねェの?」

「そそ…それは…!」


ゾロの急な問いに、焦りを滲ませた声が、管から伝わります。


「まるで正面から見えてるみてェに当てっけど…俺達の名前なんかは解んねェの?」

「…そういやそうだなー!本物の魔女だったら名前だって解るはずだよな!なァお前!!俺達の名前当ててみせろよ!!」
「そうか!!名前は未だ当てられてねェ!!――やい、あんた!!真実魔女だっつうなら、俺達の名前を当ててみろ!!」


ルフィとウソップがゾロに同調して叫びます。


「もも勿論解るとも!!…けど名前を見るには、少ぅし時間がかかってねェ~~!」


管から聞える声が、急速にしどろもどろなものへと変りました。

ゾロが鏡に向って「ふん」と意地悪く笑います。
ルフィとウソップが「名っ前♪名っ前♪」と手を叩いて囃し立てました。


「コラお前達!!偉大な先生を困らせるんじゃありません!!」


調子に乗って踊り出したルフィとウソップをナミが諌めます。
右手でボコボコと2人の頭を殴り、空いた左手は伸ばして鏡の前へ。
殴られたルフィとウソップは、頭を摩りながら口を尖らせました。


「だってよォ~!姿は解っても名前は解らねェなんて、何かおかしくねー?」
「そうさ!宣伝通りの『何でも見える魔女』なら、半端無く全部言当ててみせろってんだ!!」

「いい!?先生はね、この鏡に映る物じゃなきゃ、見る事が出来ないのよ!!」


左人差指で鏡を示しつつ、ナミがしかめっ面して言います。


「「この鏡に映った物だけ??」」

「ええそうよ!!だって先生は――」


伸ばした指先から、鏡に向って迸る金色の光。

――パリーン…!!!と大きな音を立てて割れた瞬間、奥から「ぎゃっっ!!!」という悲鳴が聞えました。

割れた鏡の向うに現れたのは…左目を長い白髪で隠した老女の姿。


「――この、マジックミラーを通して、物を見てんだもの…!」


振向いたナミが、現れた老女に向って、冷たく微笑みます。

その瞳は、陽射しの中でも尚明るく輝く、金の色。

暗い部屋の中、椅子から転げた老女は、金切り声を上げました。




その9へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・2―その7―

2010年07月23日 20時27分56秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その6へ戻】




村から少々離れて建てられてた(←過去形)研究所から歩く事約30分。
ウソップと呼ばれた少年の自宅は、村の一角に建つ、黄色い土壁の小じんまりした物でした。

扉を開くと同時に、薬品の匂いでツンと鼻を付かれます。
室内はフラスコやビーカーといった実験用器具やら、得体の知れない化学薬品やら、字が汚くてとても読めない設計図やらがひしめき合って、足の踏み場も見当らないほど雑然としていました。

ウソップは棚で仕切って無理矢理空けた卓袱台スペースに全員を通すと、自身は上座に、右サイドにはピーマン・ニンジン・タマネギを、左サイドにはルフィ・ゾロ・ナミを着かせて、おもむろに話をし始めました。


「今から1年前の事だ。
 平和だったこの村に、『スリムッド』と言う名の、怪しい女占い師が住み着いた。
 そいつは自分の事を『オレンジの森からやって来た、何でも見える金の瞳を持つ魔女だ』と触回り、集めた大勢の信者を使って、村で1番高い丘の上に、巨大な鏡のピラミッドを建てやがったんだ。」

「鏡のピラミッド?」


カレーライスを掬う手を止めて、ナミが尋ねます。
ライスとカレーをよく混ぜ合せて1口食べた後、ウソップは更に話を続けました。


「ほほフヒムッドが…『もう直大地震が起きて、世界は破滅する。助かりたい者は自分の信者となり、ピラミッドに避難せよ』っつってな…。」

「鏡じゃ地震が起きたら、ひとたまりもないじゃない!」

「中央に更にピラミッド型したシェルターが在るらしいんだよ。…それを霊的な力で覆い、守る為に、鏡でピラミッドを拵えたんだと。」

「……思っ切し眉唾ねェ。本当に大地震を危惧してるってェなら、シェルターだけで充分でしょ。ハッタリかまして信者集めてるだけにしか聞えないけど。」


頬杖ついてスプーンを片手で揺らしつつ、さも呆れたようにナミは溜息を吐きました。


「ああそうさ!…どう見たってペテン師だよ、あの女!」


ウソップが険しい顔してジャガイモにスプーンを突刺します。
スプーンはジャガイモを真っ二つに分ち、木皿の底を叩いて高い音を響かせました。


「…けど…皆…『もしも本当だったら』って不安に思うのか…騙される人が後を絶ちゃしねェ…!!
 村の何人かも騙されて信者になっちまった!!
 信者となりシェルター入る為には1億ベリー…それ以外にも占い1件につき、10万ベリーもぼったくられるってのに!!」

「そりゃ凄ェ額だ。流石は『オレンジの森の魔女』だぜ。…ひょっとして、おめェの親戚だったりしてな。」


隣に座るナミに向い、ゾロが小声で茶々を入れます。
その顔をナミはじろりと睨み返すと、テーブル下の腿をギュッと思い切り抓りました。
抓られたゾロの口から「…!!」と、声にならない悲鳴が零れます。


「…最近じゃ、村の人達も諦め顔だ。
 説得したって聞かねェんなら、目が覚めるのを待つしかない、騙される方も悪いんだからって…。
 …けど…俺は皆が騙されてるのを知ってて、放っとく事は出来ねェ…!!
 だから地震予知メカを発明して、『大地震なんて起らない』事を皆の前で証明し、あの女の嘘を明らかにしてやろうと考えたってのに……!!」


そこまで話すとウソップは勢い良く腰を上げ、傍で黙ってカレーを掻っ込んでいたルフィの胸倉掴み、ガックンガックン激しく揺さ振りました。


「お前らが!!!お前らが落ちて来て破壊しちまったお蔭で、全計画がパアだ!!!半年の苦労が海の藻屑の水の泡だ!!!研究所まで吹っ飛ばしやがってちくしょーどうしてくれる!!?弁償しろ!!!元通りにしろ!!!タイムマシン乗って最初から出直せェ~~~!!!!」
「ぶっっ…!!!ばばばべぼっっ!!ばべーばぼぼべぶばぼっっ!!!」
「煩ェ馬鹿ヤロー!!!大体何で俺がそんなおめェらに夕飯御馳走してやんなきゃなんねーんだよ!!?そこが1番納得行かねーぞコンニャロー!!!!」

「あー駄目駄目。そいつら『貰った物は俺の物。奪った物も俺の物』なポリシーで生きてるから、言うだけ無駄だと思うわよ。」


そう言いつつナミは、よく煮込まれたジャガイモをスプーンで掬って、美味しそうに頬張りました。


「ぞっっ…!!んばごぼ言っばっべ!!――俺達お前の造ったメカの爆発に巻込まれた被害者なんだぞ!!お詫びに夕飯ぐらいごちそうすんのが筋ってもんだろォ!?」
「だからお前らが落ちて来た衝撃で爆発したんだろがっっ!!!ちゃっかり責任転嫁してんじゃねェよ馬鹿ヤロー!!!」


ウソップの手を振り払い、ゲホゴホ咽ながら文句を付けるルフィに、ウソップは泣きながらツッコミを入れました。


「…人類長年の夢でありながら、未だかつて誰も完成し得なかった画期的大発明を…一瞬で木っ端微塵子にしてくれやがって……どう弁償してくれんだよ~~~~おいおいおいおい…!!!」

「「「博士ェ~~~~!!!」」」


喚いてる内感極まったのか、ウソップは遂に卓袱台に突っ伏して泣き出しました。
ウソップの左側で並んで食べてたチビ3人組も、共鳴して激しく泣きじゃくります。
涙のカルテットを奏でる連中を、ルフィ・ゾロ・ナミの3人は、やれやれといった風に眺めていました。


「…『地震予知メカ』ったってなァ…自然現象を予知するなんて大それた事…人間に出来るもんかねェ?」


短い髪をガリガリ掻き毟って、ゾロが疑問を口にします。


「出来ない事も無いわよ。」


それに対してナミはあっさりと返答しました。


「どうやって?」


不審の表情浮べてゾロが聞返します。

食べ終えスプーンを皿に置き、「ご馳走様」を言うと、ナミは卓袱台を大地に譬えて、ゾロに説明し出しました。


「私達が立ってるこの大地は、決して安定した物じゃない。
 常に生物の如く、地底深くで鼓動を繰返してるの。
 地底からの鼓動を受けてく内…表面覆う硬い岩盤に、少しづつ亀裂が走る。
 そうして何時しか限界を超えて、解放されたエネルギーは地表へと伝わり、激しく揺さ振るの。

 ――これが『地震』のメカニズム。

 一気に破壊されて起る現象ではないのだから、前兆を正確に掴めれば不可能じゃないわ。」

「前兆を掴むったって…地底深くで起る現象なんだろ?地面に立って居ながら、どうやってそれを知るってんだ?」

「岩石は圧力を受けて破壊される直前、電流を発するわ。
 それをキャッチ出来れば、数時間~4日前以内に予知出来なくもない。
 多分この子が発明したのは、そういった地電流計測器だと思うけど…。」

「ああ、その通りだぜ!」


ちらりとナミから視線を送られたウソップは、咳払いして得意満面に認めました。


「へェェ!」
「そんな不思議メカ造ったのか!!すげーなお前!!」


ゾロとルフィが感心して目を見張ります。
ウソップは益々満更でも無さそうに、胸を反らせました。


「確かに、本当に完成させたのなら、凄いけどねェ。」
「本当に完成させたっつってんだろうが!!」


疑いの眼で自分を見るナミに、ウソップがムッとして叫びます。

――バン!!と彼に叩かれた卓袱台が、空になった6枚の木皿を震わせました。(ウソップは未だ食べ終ってません)


「俺様を誰だと思う!?この世に生を享けてから、今迄に発明した数8千点!!奇跡の天才博士『ドクターウソップ』様とは俺の事だァァァ!!!」



「ドクターウソップばんざーい!!」
「泣く子も笑わす正義の博士!!」
「長いお鼻は何でも出来るしょーこだぜ!!」


卓袱台に上り、腰に手を当て、カッチョ良くポーズを決めるウソップ。
その背後に回ったチビ3人組が、口笛吹き吹き拍手して盛上げます。

しかしルフィ・ゾロ・ナミの3人は、ハニワ顔して、しらーっと黙ってしまいました。


「…『ドクターウソップ』なんて、聞いた事有るかー?ゾロ??」
「いんや、聞いた事無ェな。」
「8千点ねェ…そんなに有るなら、此処に並べて見せてよ。」


ギクリと、ウソップが固まりました。


「…そっ!…それは出来ねェ!…が…」
「あら、出来ないのォォ?…やっぱり嘘なんだ!」
「ぐっ!!」
「違う!!博士はウソついてないよ!!」


ナミに追求され、返答に窮するウソップに、タマネギ頭のチビが助け舟を出します。


「今まで発明した数は、確かに8千点なんだ!!…ほとんど失敗しちゃったけど。」
「でも発明した数だけなら誰にも負けないんだ!!…たいてい造ったその場でこわれちゃうけど。」


追い討ちをかける様に、ニンジン頭のチビと、ピーマン頭のチビが、フォローを入れました。


「てゆーか、フォローになってないし。」
「てゆーかガキばっかだな。」
「て言うか、一体何なんだよ?このチビ共。」


いぶかしむナミ・ルフィ・ゾロの前で3人のチビは頷き合うと、卓袱台に飛上ってウソップを取囲み、同じくビシッと腰に手を当てポーズを決めました。


「博士の1の助手、『ピーマン』!」と、ピーマン頭の白衣着たチビが名乗ります。
「博士の2の助手、『ニンジン』!」と、ニンジン頭の白衣着たチビが名乗ります。
「博士の3の助手、『タマネギ』!」と、タマネギ頭の白衣着たチビが名乗ります。


「「「3人そろって…『ウソップ幼年発明団』だ!!!」」」

「そして俺様が3人の上に立つ天才博士、『ウソップ』様だァーー!!!」


高らかに宣言する4人の声が、室内に木霊しました。


「…齢4歳と思しき幼児を従える天才博士か。」
「…何だか知んないけど、卓袱台に上るのはお行儀悪いから、止めさせた方が良いわよ博士。」
「ま、いーんじゃねーの?楽しそーだし♪」
「うう煩ェー!!!笑うなァー!!!」


卓袱台オンステージを観る3人が、如何にもお愛想でパチパチと拍手します。
何処か馬鹿にしてる雰囲気感じ、ウソップは指を突き付け怒鳴りました。


「…確かに、未だ失敗してばかりで碌な発明してねェさ。…けどなァ!!俺は彼の発明王『ヤソップ』の息子だ!!親父の名に懸けても、何時か必ず世界の度肝を抜く様な発明をしてみせる!!」


そう宣言すると、ポケットから懐中時計を取出し、パカッと開いて3人の前突出します。

銀蓋の裏には、今よりずっと幼いウソップと、ウソップを抱締め微笑む鼻の長い女、そしてウソップに似たモジャモジャ頭の男とが、1枚の写真になって貼り付いていました。


「「「ヤソップ!!?」」」


笑っていた3人の目が、驚いた様に見開かれました。


「俺、お前の父ちゃん知ってるぞ!!シャンクスのチーム入ってる、すげー発明家だ!!『自分の持ってる光度計はヤソップが発明した物だ』って言ってた!!」
「…言われてみりゃ、写真で見た『ヤソップ』の顔にそっくりだ…そうか、てめェはその息子か!」
「私も知ってる!…そうか、鷹がトンビ産んじゃったのねー。」


掌返す様に興味津々、立上って自分の顔をジロジロ見詰るルフィ・ゾロ・ナミに、今度はウソップが面喰いました。


「…シャンクスって…お前等、あのトレジャーハンター『シャンクス』の知り合いか!?」

「おう!!シャンクスは俺の義父だ!!」


にかりと誇らしげにルフィが笑います。
その両肩をウソップに力いっぱい掴れました。


「…じゃあ!!…それなら、俺の親父の行方知らねェか…!?1年前、『シャンクス達と一緒に宝探しに行く』っつったまま…戻って来ねェんだよ!!レーダー造ったり、色々試してみたさ!!…けど…俺…未熟だから……ちっとも成功しなくて…!何処で何やってんだよ親父の奴!!知ってたら早く帰って来いって伝えてくれよォォ…!!」


卓袱台から飛び降り、悲痛な表情浮べて、ウソップが迫ります。
自分を真直ぐ見据える瞳から視線を外し、ルフィは静かに頭を振りました。


「……悪ィ、知らねェ。…シャンクスも…1年前から、行方不明なんだ…!」


ルフィを掴んでいた両腕が、ゆっくりと離れて行きます。
放心したウソップは、その場にしゃがんでしまいました。

ルフィとゾロとナミが、チビ3人共が、黙って元の席に戻ります。

暫くの間、全員一言も喋らず…室内は沈鬱な空気に満たされていました。


「………親父と約束したんだ。」


俯いたまま、ポツリとウソップが呟きます。


「…何時かきっと、俺も偉大な発明家になってみせるって…。したら親父…『発明家は何時如何なる時も、人の為になる物を造れ!』って…。

 ――親父の意志を継ぎ、日夜世の為人の為に研究続ける孤独な天才少年!!
 
 見た目は10歳の子供でも頭脳は大人!!
 それがこの俺、『ドクターウソップ』!!
 人々を騙し、私腹を肥やす、邪悪な魔女め…!!
 天の目は誤魔化せても、このウソップ様の目は誤魔化せねェェ!!!」

「よ!!ドクター世界一!!」
「ボクらの味方、ドクターウソップ!!」
「悪党どもにぶちかませ!!」


喋ってる内興奮して来たのか、再び卓袱台をステージにして、見得を切るウソップ。
ピーマン・ニンジン・タマネギの3人が、やんやの拍手喝采で、背後から盛り立てました。


「…よく解んねーけど、面白ェ奴らだなー♪」
「…ありゃ空元気超えて、能天気っつうんだな。」
「いーじゃねーかそれで!俺、面白くて楽しー奴は大好きだ♪」
「…まァでも兎も角……要は『自称オレンジの森の魔女の嘘を明らかにしよう』としてた訳で…どうやらこっちの目的と重なるみたいね…。」


そう呟いたナミは、卓袱台をドン!と叩き、盛上ってた4人の注目を集めると、用件を切出しました。


「ねェ、その『オレンジの森の魔女』が居る鏡のピラミッドまで案内してくれない?私達、そいつに用が有って、此処まで来たの!」


ウソップとチビ野菜トリオが「え!?」と同時に驚いて、ナミ達の顔をマジマジと見詰ます。


「…何だよ…?おめェらも『魔女の占い』目当てで、此処に来たってかァ?」


ウソップの3人を見る目が、急に冷ややかなものへと変りました。
ナミ達を前に、卓袱台上どっかりと胡坐を掻くと、すっかり冷えたカレーをガツガツ平らげます。
食べ終えた食器を重ねて台の端に片付け、大きなゲップを1つ吐いてから言いました。


「止めとけよ!…言っただろ!?人を騙して暴利を貪る強欲かつ邪悪なペテン師、それが『オレンジの森の魔女』の正体――」


――ドムッッ!!!!


「うぉえぇぇ!!!?」


ウソップの腹に、ナミのヘビー級右フックがめり込みました。


「…ゲッ!ゲボッ!!…な、何だよいきなり!?カレー戻しそうになったじゃねェか!!?俺何か拙い事言ったかよ!!?」
「別にィ~。ちょっと殴りたくなっただけよ!」
「そんな理不尽な理由で人殴んなよ!!!自分の気持ちに素直なのにも程が有るぞ!!!」


ウソップが前つんのめって涙目で抗議するも、ナミはプイと視線を逸らして澄ましてるだけです。
2人の遣り取りを観ていたルフィとゾロは、顔を見合せ噴出しました。


「…占って貰おうったってな~!1件につき10万ベリーもぼったくられんだぞ!そんな大金、お前等持ってんのかよ!?」


――パチン!とナミがウソップに向けて指を鳴らします。

すると宙に大きな皮袋がパッ!と現れ、ウソップの頭上にドサッ!!と落ちて来ました。


「痛ェ!!!なな何だ何だいきなり!!?――ってこれ、金貨じゃねェかぁぁ!!?」
「ほほ本当だ!!!中に金貨がぎっしりと…!!!」
「すげェェ!!!いくらくらい入ってんのかな!!?」
「こんだけ有ったらプリン何コ買えるかなァァ!!?」
「肉何kg買えっかなァ!!?」


袋を開けて見ると、中には金貨がぎっしりと詰まっていました。
豆電球型天井灯の光を受けてキラキラ輝く金貨に、ナミとゾロを除く全員が色めき立ちます。


「全部で1千万ベリー有るわ!」


はしゃぐ5人を前にして、ナミは平然と言ってのけました。


「1千万ベリーも!!?」
「こここれ全部お前の金か!?」
「すげーなナミ!!今度肉おごってくれよ!!」
「てゆーかオレ見てたぞ!!この人がパチンと指鳴らしたら、空中に金袋がパッと現れたんだ!!」
「そそそれって魔法ォォ~~~!!?」

「本物か?」


歓声と驚嘆と疑問が乱れ飛ぶ中、ゾロが冷静に尋ねます。


「勿論偽物よ。24時間後には跡形もなく消えるわ。」

「だろうな。」

「「「「「えええ~~~!!?ニセモノォ~~~~!!!?」」」」」


5人の落胆する声が、家中に木霊しました。


「…おお前…何者なんだよ…!?ひょっとして魔女…だとか?」

「ピンポーン♪御名答!」


あっさりとナミが認めます。
一斉にどよめくウソップとチビ野菜トリオ。
4人はナミの目前でヒソヒソと話し出しました。


「そそそう言えば…『ジシンドラー』爆発の方に目が行っちまってたけど…こいつ、空から箒に乗って、降りて来やしなかったか…?」
「ボク見たよ!それに…最初見た時、目が金色に光ってた!」
「金色ォォ!?馬鹿言え!!『オレンジの森の魔女』じゃあるまいし!!」
「そうだぞタマネギ!よく見ろよ!あの人の目、茶色いじゃないか――」


おもむろに全員振返って、ナミの瞳を窺います。

その瞳は先程まで目にしていたのと全く違い、金貨の様にピカピカ光り輝く金色でした。


「「「「金色に変ってるゥ~~~~~!!!!?」」」」


顔色を蒼白に変えた4人が、ナミから逃げるよう後退ります。


「…お…お前…もしかして、ひょっとして……『オレンジの森の魔女』じゃ…?」


壁に背中を擦り付け、恐る恐るウソップが尋ねます。
そのウソップの体に、チビ野菜トリオはブルブル震えて、がっしりとしがみ付きました。


「ええ!…正真正銘、本者のね!」


茶目っ気たっぷりにウインクして見せます。
4人の口から甲高い悲鳴が飛び出しました。




その8へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・2―その6―

2010年07月23日 20時26分44秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その5へ戻】





3つ目の高い山を越えた辺りで雲は薄まり…何時しか雪は止んでいました。
冷たい気流に押されて加速し、箒は山を下ります。
連なる山向うに沈もうとしている朱い夕陽。
振り返って見た空は、既に『夜』へと変っていました。


「な~~、ナミ~~、そろそろ許してくんね~~?」


最後部に座るルフィから、甘ったれた声が届きます。


「…何を許して欲しいの?私、別にちぃっとも怒ってやしないわ。」


言葉に反して先頭から、険を含んだ声が返って来ました。


「…ああ言ってっけど…ゾロ、どう思う?」


間に座るゾロに身を寄せ、ヒソヒソ耳打ちします。


「無茶苦茶怒ってるようにしか聞えねェけどな。」


苦笑いながら、ゾロもヒソヒソと返しました。


「だよな~~~。」
「聞えるようにヒソヒソ話すな!!ムカツクわね~!!」

「「見ろ!やっぱり怒ってる!」」

「煩い!!!」


前を飛ぶ烏達が、ナミの声に驚いて編隊を崩しました。


「大体何で俺だけが怒られて、1番後ろに座んなきゃいけねーんだ?ゾロだって一緒にした事なのに…ひいきじゃねーか!」


ルフィが口を尖らせて、尚も不平を口にします。
どうやら彼としては、何時もの指定席をゾロに取られた事が面白くないらしく…自分同様悪戯を働いたゾロはお咎め無しな理不尽に、納得出来かねて居るようでした。


「……別に贔屓じゃなく…言うなら、警戒度の差よ。」


山脈を抜け、下に野が見えて来た所で、ナミはぐっと箒の高度を下げました。


「警戒度の差??」

「…『刀』なら抜く時間が有るけど、『手』じゃ防ぎようがないでしょ!」

「お前未だ俺達の事疑ってんのかー!?『俺達はお前の事殺さない』って言っただろーが!!!」
「ったく疑り深いヤツだな!これだからヒキコモリは嫌だぜ!」
「…っるさいっっ!!…1度失った信頼を簡単に取戻せると思ったら大間違いなんだからね!」


憮然とした声を上げる2人に向い、ナミは振り返る事もせず言葉を返しました。
表情険しく握った柄が、汗でヌルヌル滑ります。

低く飛ぶ先に、ルフィ達の村に似た、小さな集落が見えて来ました。
どうやら目指していた村に着いたようでした。


「…そもそも前に座ろうが後ろに座ろうが、さしたる差も無いでしょうに…あんた何でそんなに前の席に拘る訳?」


ふと素朴な疑問を感じ、ナミがルフィに質問します。


「座るなら前の方が良いに決まってるだろ!1番後ろなんて格好悪ィじゃねーか!」


ルフィが堂々きっぱりと回答します。
それを受けたナミは「ふっ」と薄く笑い…振り返って馬鹿にするよう言い放ちました。


「…ガキ…!」
「なんだとォー!!?」


一瞬で血を沸騰させたルフィが、間に座るゾロの頭の上に身を乗り出し、挑みかかります。
負けじとナミも箒から手を離し、ゾロの頭の上で臨戦態勢を整えました。


「千年生きてるからって偉そーにすんなチビババァ!!!」
「誰が婆ァだ!!?チビ黒ダンゴ!!!」
「……おい…お前ら…。」
「そっちこそ誰がチビだよ!!?おめェの方がず~~~っとチビだろが!!!」
「そんなに身長差無いでしょ!!!精々3㎝位しか違わないじゃない!!!」
「……だから…お前らって…!」
「うるせー3㎝も低けりゃ充分チビだ!!!身長で比べりゃお前が1番ガキじゃねーか!!!」
「見た目の話してんじゃないでしょうが!!!中身の成熟度合いについて言って
んの!!!」
「……あ・の・な~~~…!!」
「俺の中身の何処がガキだよ!!?皮だってちゃんと剥けてんだぞ!!!」
「そうやって直ぐカッカする所がガキだっつうてんのォー!!!」
「……俺の頭上をリングにしてんじゃねェ~~~~!!!!!」


堪忍袋の緒を切らしたゾロが、2人の間を割って一喝します。
伸ばした両腕で分かたれた2人は、毒気が抜け落ちたかの様に漸く静まりました。


「空中で喧嘩すんなって言っただろうが!!!落ちたらどうすんだよ!!?」


レフリーの様に2人を両手で抑えたまま、ゾロが説教します。

…と、何故かナミが真っ赤な顔して、フルフルと震え出しました。


「……ゾロ…あんた…何処押えてんのよ…?」

「……何処って…?」


言われて伸ばした手の先を見ます。
掌はぴったりと、ナミの胸に宛がわれていました。


「……あ。」


思わず間抜けな声が、喉から漏れます。
意識した途端、掌に伝わる柔らかな感触。
反射的に力が入り、軽く掴んでしまいました。


――バチーーーン…!!!!


沈む夕陽に届けとばかりに、清々しいビンタ音が轟きました。


「馬鹿ーーーー!!!!」
「ちょっっ!!…待てっっ!!…事故だろ今の!!!…故意にした訳じゃねェ…!!!」
「何が事故よ!!?何時までも掴んでて…!!あああの瞬間あんたが考えた事公表して欲しいか!!?エロ馬鹿剣士ー!!!!」
「だから待てって…!!!此処…空…!!!」
「ほらな~!!だから俺を前にしときゃ良かったんだ!!」
「…だから…!!!此処空中…!!空中で暴れたら危ねェだろォがっっ…!!!!」

「「え??」」


ゾロの襟首掴んで、左右の頬をビシバシ張ってたナミの動きが止まります。
そろそろとさっきまで握ってた箒の柄を探ると…あら不思議、見当りません。
3人揃ってゴクリと唾を呑込み、下を向くと――

――そこにはお先に村へと急ぐ、箒の姿。


「ぎゃああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~…!!!!!」
「うあああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~…!!!!!」
「嫌あああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~…!!!!!」


箒の後を追い、3人も真っ逆様に落ちて行きました。




丁度その頃、真下に在る大きな研究所では、世紀の大発明が披露されようとしていました。


「…それではピーマン君!ニンジン君!タマネギ君!…テープカットの準備をしてくれたまえ…!!」

「「「はい!!博士!!」」」


極めて鼻を長く伸ばした白衣の少年の指示を聞き、3人の小さな子供がピシリと敬礼して応えます。
そうして自分達の決められた配置に付くと、懐から鋏を取出しました。
3人から博士と呼ばれた少年が、ポケットから懐中時計を取出してカウントを読み始めます。


「…10!…9!!…8!」


緊張の高まり故か博士のタラコ唇は震え、声は裏返っていました。
薄暗い研究所内で1ヶ所だけスポットライトが当てられたそこには、白い布で覆われた謎の物体。
テープカットを指示された3人が、各自布を留めているテープに鋏を入れる態勢を整えます。


「…7!…6!…5!…4!」


静寂の中、その場に居る者全ての視線は、白布で覆われた物体に注がれていました。


「「「「…3!…2!…1!…0!!!」」」」


4人声を合せてカウントをし終った瞬間――バサリ!!と外された白い覆い。

現れたのは、巨大なU磁石の様な異形のメカでした。
中心には、クラシックな針メーターが取付けられています。


「…遂に完成したぞ…!!全人類待望の地震予知メカ、『ジシンドラー』!!!」


両手を高く挙げ、博士が誇らしげに叫びました。


「「「博士~~~!!!」」」


テープカットを無事成功させた3人の子供が、目に涙をいっぱい浮べて博士に駆け寄ります。


「ピーマン!!ニンジン!!タマネギ!!」


迎える博士も目と鼻から滝の如く水を溢れさせて叫びます。

――ひしり!!と強く抱合った4人を、スポットライトが神々しく照らしました。


「バガゼ…バガゼ…ボグだぢ…づいにやっだんずで…!!」
「…泣ぐだ…!!ダマネギ…!!」
「ぐぜづ半年…!!ぞの間バガゼば夜もねぶらず昼間ねで…!!」
「…ああ、ぞうだな、ニンジン!…雨の日も風の日も…頑張っだよだァ~~!!」
「1日3食だげで…おやづも食べずにぢょぎんじで…!!」
「…うん…うん…無事完成じだがらにば、大好ぎなプリンも解禁だ!!…思う存分食おうぜ!!ピーマン!!」


3人に泣き付かれた博士の白衣は、最早汗と涙と涎と鼻水とでグシャグシャになっていました。

瞼を閉じれば蘇る、気の遠くなる様な苦労の毎日。
しかし今、全てが報われた…博士の胸に熱い塊が込上げて来ました。


「…有難うよ…皆!!お前達が付いて来てくれたお蔭で、この自信作は完成したんだ…!!」

「「「バガゼ~~~~!!!」」」


しっかりと抱合う4人は、天上から響く祝福の調べを耳に聞いていました。


……ヒュルルルルル~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……!!


――ああほら、打ち上がる祝いの花火の音まで聞える!


……ルルルルル~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……!!!


――あれ???


……ルルルル~~~~……!!!!――ドッッゴォォ~~~~~~~~ン!!!!!! 


「うわ~!!何だ何だ何だ!??」
「大変だ!!!屋根突き破って何かが『ジシンドラー』の上に落ちて来た!!!」
「ああ!??『ジシンドラー』がショートしてる!!!」
「火ィ噴いてるよ『ジシンドラー』!!!」
「ダメだ!!もう間に合わない!!…全員研究所から退避ーーー!!!」




――それは、想定外の悲劇でした。


突然研究所のトタン屋根を突き破って謎の物体が落下――それも運悪く新発明『ジシンドラー』の真上に降って来たのです。
一見頑丈なU字型金属ボディは、脆くもボキリと音を立てて割れ、中の配線を露にさせました。
火を噴きショートする『ジシンドラー』、慌てて消火作業に走る博士と助手達。
しかし悲しいかな、アンタッチャブルに暴走する機体。
諦めて外へと退避する研究所員達。

そして――


――ちゅどどぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~ん…!!!!!!


派手派手しくお披露目された『ジシンドラー』は、派手派手しく研究所を吹っ飛ばし、蝉より短い一生を終えたのでした。


「ジシンドラ~~~~~~~~~…!!!!」


博士の悲鳴を呑込み、もうもうとした煙が、かつて研究所の在った地から立ち上ります。
周囲の草むらを焼き、金属片を散らばらせた中から…ひょっこりと2つの影が浮びました。


「あ~~~…驚いた!何で落ちただけで爆発するんだ!?」
「馬ァ鹿!今のは俺達が爆発したんじゃなくて、運悪く俺達が爆発に巻き込まれたんだよ!」


ゲホゲホゴホゴホ咽ながら、煙から現れたのは黒焦げの少年2人。
呆気に取られて見ていると、今度は空から箒に乗った少女が、フワリと降りて来ました。


「ぶっっ!!…ちょっと目を離した間に、2人共随分イメチェンしたわね!爪先から頭の天辺まで真っ黒焦げよ!」
「煩ェ笑うな!!…1人だけ助かりやがって!!」
「しょうがないでしょ~。拾おうとしたけど、間に合わなかったんだもん!…無事生きてんだから、いいじゃない!」
「嘘吐け!!さっきの根に持って、わざと助けなかったんだろ!?陰険魔女めっっ!!」
「そうだ!!それでも仲間かよ!?はくじょー者め!!」
「……おい…おめェらか…?」

「「「は???」」」


口喧嘩してる最中知らない声がかかり、3人同時に振向きます。

目の前にはモジャ黒頭で鼻の頗る長い白衣の少年が、こめかみに青筋浮べて立っていました。


「…誰だ?こいつ??」
「…さあ?」
「誰かしら?」


3人が首を傾げます――すると鼻の長い少年はいきなりルフィとゾロの胸倉掴み、目から涙迸らせて怒鳴り散らしました。


「おめェらが!!!おめェらが俺の自信作を台無しにしてくれたのか!!?完成後僅か4分44秒で爆破しやがって!!記録更新だぞバカヤロー!!!ちくしょー返せよ『ジシンドラー』!!!俺の…俺の…血と…汗と…涙の…結……晶…!!」


そこまで怒鳴った所で――ガクン!!と白目を剥いて、仰向けに倒れてしまいました。


「ああ!?博士がショックで心のスイッチを切ってしまった!!」
「しっかりして博士!!」
「ウソップ博士ェ~~~!!!」


倒れた少年の背後から、頭にピーマンの様なへたを付けたチビと、赤い帽子を被りニンジンの様な頭をしたチビと、タマネギの様な頭をした眼鏡チビが駆け寄って来ました。
そうして倒れた少年を取囲み、必死に介抱し始めます。


「…一体、何なの?」

「「さーー??」」


足下に倒れてる少年を見詰ながら、3人は首を捻るばかりでした。




その7へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・2―その5―

2010年07月23日 20時25分29秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その4へ戻】





「時間は掛かるとしても、シャンクスの足跡を辿ってくしか道は無いわね。…今から一旦家に帰って、昔私が描いた世界地図を持って来るから…待ってる間あんた達は、地図とそうでない物とに分別してって。」


そう2人に言い残して1階降りたナミは、マキノに送られ出入口へと向いました。

マントを羽織って扉を開けた途端――ドドドドド!!!と、人波が一斉に階段下に向い、ドミノ倒しとなりました。


「あら!村長さん!?チキンおばさん!?それに……どうしたの皆、お揃いでいらっしゃって!?」


先刻ナミ達が道で会った村長とおばさんを先頭に、老いも若きも詰掛けた村人の数10人以上。
どうやら雪降る寒い外で、皆して扉に貼り付き、店内を窺っていたようでした。
呆気に取られてるナミとマキノの前で、村長が勢い良く指差し叫びます。


「見よ!!!この子じゃ!!この子が『オレンジの森の魔女』なんじゃ!!!」
「本当よ!!!私も見たわ!!この子がルフィとゾロを箒に乗せて、一緒に飛んで来る所を!!」


村長に続いてチキンおばさんも、ナミを指差し叫びます。
2人の言葉を合図に、詰掛けた村人は一斉にナミを取囲んで、口々に言い募りました。


「この子が有名な『オレンジの森の魔女』なのか!?」
「全てを見て、全てを知ってると云う、あの伝説の!?」
「とてもそうは見えんがなあ!」
「ただの可愛い女の子じゃないの!」
「噂では千年近く生きてると聞いたが…」
「瞳は金色だとも聞いたわ!」
「金色!?…この子の目、茶色いじゃないか!」
「村長とおばさんの見間違いじゃないのかあ!?」
「断じて違う!!わしはこの目でしっかと見たんじゃ!!」
「見間違いなんかじゃない!!確かに空から箒で降りて来たのよ!!――ねェ貴女!皆に本当だって言って頂戴!」
「本当に魔女だと言うなら…来年が豊作かどうか、見て貰えんかのう。」
「わしも!来年こそ結婚出来るか、見てくれんかね!?」
「私今好きな人居るのよ!その人私の事どう思ってるか見てくんない!?」
「ちょっと待てい!!お前は俺の事が好きだったんじゃないのかァァ!?」
「俺この前ボールを川に落しちまったんだ!!何処に在るのか見付けてくれよォォ!!」

「…う~~~…うるっっ…さァ~~~~~~~~い…!!!!!!」


ナミの一喝に、あれほど賑々しかった集団が、ぴたりと口を閉じました。

辺りにしんとした静寂が降ります。

そこへトントントンと階段を下りる足音が響きました。


「賑やかだと思ったら…やたら千客万来じゃねェか。」
「どうしたんだ皆!?今夜はこの店で祭か!?」


店の奥から現れたルフィとゾロが、詰掛けた集団を見渡し、呑気な調子で聞いて来ました。


「…知らなかった……ナミちゃんって、凄い有名人だったのね。」


2人の隣で、マキノが感心したように呟きます。

気勢を殺がれて黙ってしまった村人を、ナミは厳しく睨め付け――びしいっっ!!と両手指10本纏めて前に突立てました。


「1件につき10万ベリー!…それが払えなきゃ、視てあげない!」

「「「「「「「「「「高っっ!!!!」」」」」」」」」」


あまりな高額請求に、村人達は声を合せて慄きます。
互いに顔を窺い、直後、皆して苦笑いを浮べました。


「やれやれ…そんな高額じゃ、とても見ては貰えんなァ。」
「第一、本当に魔女なのかどうかも判らん内に…。」
「じゃから、本当に魔女じゃって…!」
「けど、物知り爺さんが言うには、『オレンジの森の魔女は世界一がめつい』そうですよ。」
「そうか!だとしたら、本物かもしれんなァ、この子。」
「でも10万ベリーなんて、まるで山3つ向うの村に居る魔女並だわ!」
「そういえば、あの村に居る魔女も、『オレンジの森の魔女』だと名乗ってるそうですね。」
「しかし載ってた写真とは別人だぞ!『オレンジの森の魔女』って2人も居るのか!?」
「わしゃ知らん。」

「…ちょっと…今言ったの…どういう事よ…?」


不穏な空気を漂わせ、ナミが村人達の会話に割込みます。


「え!?あっっ!!…済みません!!『世界一がめつい』なんて言って済みません!!」


詰寄られて、如何にも気の弱そうな眼鏡少年が、蒼白涙目で謝りました。


「そこじゃない!!…いえ、そこもかなり引っ掛ったけど!!…もう1人、『オレンジの森の魔女が居る』ってどういう事なの!?」


剣幕に圧されて、少年の顔から更に血の気が引いて行きます。
恐怖にブルブル震えつつも、彼は訊かれた通り素直に喋り出しました。


「昨日の新聞に載ってた記事ですが…此処から南へ山3つ越えて行った先に在る村に、1年前『自分はオレンジの森から来た魔女だ』と言って、1人の占い師が大勢の信者引き連れ住みついたそうです。
占って貰うには最低でも10万ベリー必要なのだそうですが、『何でも見える金の瞳を持っている』との評判を聞き、最近では遠くから頼って来る人も居るとか…」

「………人が500年引篭もってる間に、小賢しい商売人が現れたもんだわ。」


険しい表情で聞き終えたナミは、出入口前の階段塞ぐ人混み掻き分け、畦道へ出ました。
ルフィとゾロとマキノに村人達も、後を追い駆けます。

空はどんよりとした雪雲に覆われ、未だ夕刻だというのに、外は暗紫色の闇に包まれていました。
冷たい雪が引っ切り無く頬に当ります。
道の上には、来た時よりくっきりと、靴跡が残りました。

低く呪文を唱えると同時に、みるみる金色に変ってくナミの瞳。
そして宙から取出された大きな古箒。

村人達の間でどよめきが起ります。
箒に素早く跨ると、近くで見ていたルフィとゾロに向って言いました。


「…悪いけど…先に片付けときたい野暮用出来ちゃったわ。続きは明日にして貰ってもいい?」


それを聞いたルフィは、歯を剥き出し、にししと笑いました。


「おう!構わないぜ!」


そう一言返した後、ひょいと後ろに飛び乗って来ました。
続いてゾロも飛び乗ります。

…此処に来てナミは、2人がしっかりコートを装着してる事に気付いたのでした。


「…ちょっと!何ちゃっかり後ろ乗込んでんのよ…!?」
「仲間だろ?俺達。付合ってやるよ♪」
「早いトコ用事片付けて、捜索作業の続きやって貰わねェとだしな。」
「そーゆー事だ♪早く片付けたいなら、1人より3人!」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!!私を誰だと思ってるの!?手助けなんか無用!あんた達抜きでも1人でちゃちゃっと片付けられるわ!!」
「そーつれねー事言うなって!世の中何が起るか判んねーぜ?」
「困った時の後悔先に立たず。…前回だって充分役に立ったろ?」
「何が『役に立った』よ!!いいから早く降りろー!!!」

「「い・や・だ!!」」


どんなに怒ろうとも無しのつぶて、暖簾に腕押し、2人は頑として降りようとしませんでした。


箒を通して、2人の心が伝わって来ます。
ナミの頬が林檎の様な紅に染まりました。


「……解った…連れてったげるから…ルフィ!!あんたは最後尾!!ゾロの後ろに乗んなさい!!」
「えー!??またかよ!?何でゾロが前で、俺が後ろ座らなくちゃなんねーんだ!?」
「未ださっきの根に持ってんのか?執念深い女だぜ。」
「うっさい!!!言う通りにしなくちゃ連れてったげないから!!!」


ルフィとゾロからブーイング飛ばされるも、ナミは頑なに譲ろうとしません。
渋々2人が席順を入替えると、ナミは漸く空飛ぶ呪文を唱えました。


「箒よ箒
 風を受けて、滑る様に空を進め」


雪に埋ってた足が離れ、体がフワリと浮きます。
周囲の観客から、一際大きなどよめきが起りました。
次第に上昇してく途中、マキノと目が合います。


「行ってらっしゃい!…また珈琲、飲みに来てね♪」


優しくにこりと微笑まれ、心の中、温かい思いに満たされました。
手を振って応えます。


「珈琲美味しかったわ!有難う!」


言い終えた途端、一気に駆け上る箒。

雪降る空に舞上った3人は、あっという間に見えなくなりました。


「…村長の言う通りだ。本当にあの子、魔女だったんだ…。」
「…じゃからわしがあれ程…。」
「……10万ベリーか……分割払いは利くかのう…?」


驚き放心した顔を揃えて、3人が姿を消した雪空を仰ぐ村人達。

羽毛の様に舞い落ちる雪を眺めながら、マキノは1人微笑んでいました。




その6へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・2―その4―

2010年07月23日 20時24分11秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その3へ戻】





「コーヒー美味かったか?」

「ええ、美味しかったわよ。」

「だろォ~!?あのコーヒー飲んだら、他んトコのコーヒーなんて飲めねーぞ!」
「好みに合せて炒った豆を用意してくれるし、挽き方も丁寧なんだよな。」


カウンター向って右の奥に在る、梯子と呼んだ方がよさそうなほど急な階段を、3人は手摺に掴り、えっちらおっちら上って行きます。

明るい1階から薄暗い2階へ――正面伸びた長い廊下を、窓から射す雪明りが、間隔を空けて照らしていました。

木の扉が2枚、窓に向合うように並んでいます。
廊下の奥には、更に上階へと続く階段が架けられていました。


「階段手前の部屋はマキノの、その隣はシャンクスの資料室だ。」

「…ねェ、マキノさんって、どういう人なの?」

「ん??…そうだな~。普段は優しーけど、さっきみてーに、怒るとすっげー恐い。飯作るの上手くて、俺とシャンクスは何時も作って貰ってる。」

「そうじゃなくて…あんた達とどういう関係なのかを聞いてるの。ひょっとしてシャンクスの恋人?」
「違うぞ。」
「単なる大家と店子の関係だろ。」


間髪入れずに否定するルフィとゾロに、ナミは少々肩を竦ませ、微笑して言いました。


「…ま、恋人だったら、今頃店も開けてられず、もっと顔から悲壮感滲み出てるか!」

「シャンクスが家留守にしてんのは、何時もの事だもんな~。」
「1年の内1/4も村に居りゃ多い方だからな。一々心配してたら気疲れしちまう。」
「この2階の部屋も、元々は俺とシャンクスが寝室に使ってたけど…」


苦笑いながらルフィが取っ手を掴みます。


――バタン!!と扉が開いた途端、地図が雪崩の如く崩れ落ち、廊下に立つ3人の頭上へ降り注ぎました。


「…眠るどころか入るのも困難なっちまったんで、今では3階屋根裏部屋で寝てる。」

「……向う側の窓が見えないわ。」


天井にまで達しそうなほど部屋を埋め尽す資料の山を見て、ナミが呆然と呟きました。


「未だ他にも有るんだぜ!見付けた宝なんかは、シャンクスの研究所や、時々呼ばれて行ってる博物館や学校の方に置いてあるんだ!」

「…流石は世界を股に掛ける、名うてのトレジャーハンター『シャンクス』だわね。」

「俺のこの刀も、シャンクスが見付けたもんだ。」


ゾロが後ろに背負った2本の刀の内、赤い鞘の方を握って示します。


「…つかな、俺はこの刀と一緒に、捨てられてたらしい。」
「俺もゾロも、シャンクスが宝探しの旅してる途中で、見付ったらしいんだ!…『今迄俺が見付けた宝の中で、1番の大物はお前らだ』って、シャンクスの奴、笑ってた!」


ルフィが「にしし♪」と照れ臭そうに笑います。
ゾロも頭をガリガリ掻いて、照れ笑います。

義父シャンクスの事を語るルフィは誇らしげで、瞳には愛情が溢れていました。


「何時か、俺も探検隊の仲間に入れて貰って、世界中を旅して回ろうって決めてたんだ…。」


俯いたそこには、廊下を埋める地図の海。

拾上げた1枚を壁に凭れて眺めると、ナミは重い溜息を吐きました。


「…今度は何処そこへ行くとか、出発の日に聞かなかったの…?」

「……聞いてねェ。…ただ、俺にこの帽子を預けてっただけで…。」


被っている麦藁帽のつばに触れ、同じく壁に凭れます。
窓から見える雪の飛礫は、来た時より大粒に変っていました。


「…地図に印された場所を地道に廻ってきゃ、その内手懸りが見付ると思うんだがな…最近追ってたヤマなら、比較的上層に在るだろうし…。」

「それしか手は無いでしょうね……ルフィ、あんたの心配は解るけど、とても直ぐに見付る件じゃないわ。」


光に地図を翳し、壁を背中でズリながら、紙の絨毯に腰を下ろします。
ゾロもその隣に胡坐を掻いて座りました。

独りルフィは少し離れて壁に寄掛かり、窓の向うを眺めます。


「…せめて地図に書かれた印の意味が解ればな……これなんか、線毎に色変えてあんのは、何でだろうな?」


ナミが開いてる地図を覗き、ゾロは2ヶ所を指で弾いて示します。
弾かれたそこには、赤線が1本、青線が1本、引いてありました。


「ああ…これは恐らく『レイライン』よ!」

「「レイライン??」」


2人揃って素っ頓狂な声を上げます。

離れて立っていたルフィも、ナミの傍に座って地図を覗き込みました。


「そもそもシャンクスは、『レイライン・ハンター』の第一人者として、有名な人だもの…知らなかったの?」

「知らねー。」

「…あんた…それでよく『探検隊の仲間に入りたい』なんて言えるわね…。」

「その『レイライン』って、何の事だよ?」


首を捻るルフィとゾロに、ナミはさも呆れたよう、額を手で覆いました。


「『レイライン』ってのは『古代の道』の事よ!

 古代人は道を敷いたり建物を建てる時、必ず呪術的な意味を篭めて行ってたの。
 それを解き明かしたのがシャンクス。

 彼は地図を見て、点在する古代遺跡が1直線に繋がれてる事に気付き、『失われた古代の道が在る』と推理したのよ。
 手懸りは地名…古い遺跡が在る地域には、語尾が『レイ』で終る地名が多い。
 『レイ』とは古代語で『道』の意味…シャンクスの推理通りだったって訳。
 そうして世界中を旅して廻り、遺跡を探し当てては地図の上に線を繋ぎ、5本の古代路を発見した。

 地図に印された赤いラインは『レッドレイ』、青いラインは『ブルーレイ』…同様に『イエロー』、『ブラック』、『ゴールド』と見付けてったの――」

「…思い出した!」


話してる途中で、突然ルフィが声を上げました。


「何を?」


振向けばルフィの顔には、興奮したように血の気が上っていました。
黒い瞳を爛々と輝かせ、彼は話し出しました。


「実は俺…あの後…何十回も鏡出して、シャンクスに呼掛けたんだ。…てんで駄目だったけど……1度だけ繋がった時が有った!」


被っていた麦藁帽子を手に取り、じっと見詰ます。

帽子の裏にはナミの魔法で異空間への穴が開けられてい、『水明鏡』と言う魔法の鏡が隠されていました。

今生きている人間ならば、離れていても姿を映し、言葉を交せる不思議な鏡。




――…ル…フィ…ルフィ…だな…?


――シャンクス!!今何処に居る!?誰かに捕まって帰って来れないのか!?


――…ち…がう…!…安…しろ…極…て…安全……所…居る…。


――シャンクス!!何処に居るんだ!?帰れないなら俺、迎えに行くから、場所
教えろ!!


――…大……夫だ…!用……済め…ば…必……帰る…!




「……『用が済めば必ず帰る』?」

「…『極めて安全な場所に居る』?……全く意味が解らねェな。」

「……だから俺も、特には話さなかった。」


日が落ちて来て、益々廊下の陰が濃くなりました。
座り込んで話す3人の間に、重苦しい空気が流れます。


「………けど、シャンクスの言葉が本当なら…誰かに捕まってる訳ではないのかしら?」
「…自力で帰れるんなら、何故帰って来ないのか?……疑問だらけだな。」
「…何の用有って居るのか?……気に懸かるわね。」

「……鏡から姿が消える瞬間……シャンクスが言ったんだ。」




――…しか…し…そ…か…!…水明鏡…見付…たのか…!なら……


――後…一繋ぎだな…!!




「………『一繋ぎ』?」

「ナミの話聞いててピンと来た!ひょっとして…その『レイライン』ってのが、シャンクスの行方に関係してんじゃねーかな…?」


ルフィの言葉を聞き、ナミは手垢で汚れた地図を、マジマジと見詰ます。

大陸に引かれた、赤と青の2本の直線。


「一体……何を繋ぐと言うの…?」


悩む3人の前で、風に煽られた窓硝子が、カタカタと鳴りました。




その5へ続】
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