瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

君と一緒に(ルナミ編-その16-)

2010年03月30日 19時28分24秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
前回の続きです。】




「…別にそんなつもりで言ったわけじゃねーし」
「解ってる」

先に風呂場を出て寝室にもどったナミは、べんかいする俺の方を振り向きもせず答えた。
髪のすき間からチラッとのぞけた耳が、ものすげー赤い。
もちろん暖ぼーが効き過ぎてるせいじゃなく、そー言う俺もいまだに顔のほてりが引かなかった。

「『初めて泊まる』事を意識し過ぎてんのね、私…あんたも。舞い上がった脳味噌が、勝手に言葉を意味深なものに変換しちゃうのよ」

「思春期で困っちゃうわよねーv」なんて、おどけて笑う。
そうして鏡付きの机の上に目を落としたナミは、置いてあったパンフをガサゴソと読みあさり出した。
時折「へー」とか「ふーん」とかつぶやいて、ぼっとーする。
ぼっとーしてるフリしてんのかもしれねェ。
ほっぽられた俺は、ベッドの上であぐらをかき、ナミの後姿を眺めてた。

イスに座って足を組むナミが、パンフをパラパラめくる音だけが響く。
髪も…肩も…背中も…尻も…脚も…女の体って、どーしてあんなに柔らかそーなんだろう?
幼なじみの長い付き合いの中、意識せずにさわりまくり、どんだけ柔らけーかは知ってる。
スポンジでもつまってるよーな、男と全然違うソフトなだん力。
眺めてる内、そのさわり心地を無性に確認したくなった。
頭の中ではとっくに後ろから手を回してギュッと抱きしめてる。
けどマジでそんな事したら、ブレーキ効かなくなっちまいそーで恐い。
いっそそのまま抱きしめてプロポーズなんて作戦を考えた時、ふと鏡に映るナミがパンフでかくしてた顔を持上げた。
そして目が合った瞬間、逃げるようにまた、パンフで顔をかくした。

ダメだ、それじゃ…抱きしめる事とプロポーズ、どっちが一番の目的だか判らなくなる。
抱きたいのも有るけど、一緒に生きてく事、それを先に約束して欲しいんだ。

だから今はグッとがまんする決意をしたものの、部屋にじゅーまんしてるアヤシサは何とかしたい。
無言で居るからよけー気まずいんだと気付き、TVのリモコンを目で探したら、ナミが座ってる机の左横に置いてあった。
んなトコ置くなよ、不親切だな!
今ベッド下りてナミの側に近付いたらヤバイって、空気読めよ!
冷静に考えたらナミに言って、TV点けてもらえば良かったんだけど、テンパッてたこの時の俺は全く気が付かなかった。

「ね、ルフィ!これ体験してみない?…って何カチンコチンに固まってんの?あんた」

不意にこっちを振り向いたナミが、不審そーにたずねる。
何時の間にか俺は、そーとーこわばってたらしい。
一気に恥ずかしくなってきんちょーを解く、そのとたん背中がパキンッて鳴った。

「……今動いたら負けな気がしたんだ」
「何それ?独り『ダルマさんが転んだ』でもして遊んでたの?」

俺の内心のかっとーも知らずに、ナミはクスクス笑う。
んにゃ、さっき目をそらした意味を考えると、知っているのに知らんぷりしてるって事だ。
もし今抱いたとしてナミは嫌がるだろう、それを俺は理解した。
逆向きに座り直したナミが、イスの背を使って紙しばいするかのよーに、パンフを開いて見せる。

「此処に着いて直ぐ、あんたが私をヨットに乗せようとして連れてった、『パラディ』って場所を覚えてる?あそこで『セグウェイナイトツアー』ってのを受付てるんだって」
「せぐうぇい???」
「写真で見たところ、立ち乗りのスクーターって代物みたい」

そう説明しながら指差された写真を、俺はベッドの上であぐらをかいたまま、首だけを前に伸ばして見ようとした。
あくまで近寄らない気で居るのをさとったナミが、苦笑ってパンフを投げる。
ベッドに落ちたパンフの左半分には、クリスマスディナーの写真とメニューがのっていて、俺の目はすぐに吸い寄せられた。

「すげェ美味ほーvナミ、クリスマスツリー型のステーキだ!食いに行こう!!」
「その写真じゃないでしょーが。右下、右下の写真を見なさい!」

間ぱついれずに低い声でツッコミを返される。
俺は大人しくナミの指示にしたがい、右ページ下の小さな写真を見た。
自転車でもない、バイクでもない、見た事も無い乗り物を立ち乗りする3人の男女が、イルミネーションでピカピカ輝く夜の街を走ってく写真だ。

「どう?中々楽しそうでしょ?」

イスから身を乗り出して聞くナミの目は、すでに乗り気でキラキラだ。
俺だって珍しい乗り物は大好きだから、乗ってみたい。

「けど高過ぎるぞ、これ!90分で8千円もすんのか!?」
「あんたが食べたいって言った1万円クリスマスディナーよか安いわよ!それに30分2千円のコースも有るじゃない」
「スピードもあんま出なさそうだしなァ…」
「乗る前からグチグチ言うなんて、あんたらしくないわねェ」

金額にケチ付けたり、これじゃまるでナミみたいだなと、自分でも思う。
けどこれには訳が有る……ぶっちゃけ色々買い食いしたせーで、まだ1日目だってのに小づかいがピンチになっていた。
2千円だって今の俺には高い、福○んの土曜限定百円ぎょうざが、20皿食える計算じゃねーか。
しぶってる俺の様子から、ふところ具合を察したのか、ナミは信じられない提案をした。

「もし体験するなら、私が奢ったげても良いわよv」
「ほ、本当か!?短期取立て高い利子付けてか!?」
「んーん、利子なんて付けない、返せとも言わない、全部まるっと私の奢りv」
「マジでか!?明日嵐が来て地球終るんじゃねェ!?」
「…心変わりするわよ」
「よし乗ろう!!どうせだったら、その隣のナイトカヌーも試――」
「船は、お断り!」

「光の街セグウェイナイトツアー」の隣には、光る河をこいで行くナイトカヌーの紹介がのっていた。
ノリでちゃっかりそっちもおごってもらおーと考えたけど、残念ながらナミはそこまで気前の良い女じゃなかった。




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「セグウェイは環境に優しい、電動立ち乗りスクーターです。本ツアーでは先ず20分間店の前で講習を受けて頂いた後、光の街のスポットを巡る予定となっています。約30分と短いコースの為、全てのお勧めスポットを巡る事は出来ませんが、言うなれば本コースは『お試し』、乗り心地を気に入られ、もっと楽しみたいと希望される場合は、是非90分コースも体験してみて下さい♪」

ヘルメットをそーちゃくさせられ並んだ俺とナミの前で、コーチの男がはつらつとスマイルをふりまく。
店の入口に背を向けて立つその手は、見た目巨大コロコロっぽい乗り物のハンドルを握っていた。
近くで見たセグウェイはカッコ良いとも悪いとも言い切れねーびみょーな感じだ。
てか断然バイクの方がカッコ良いし、座って乗れる分楽ちんだと思う。

ウソップが乗り回してるバイクを、頭の中でイメージする。
買って自分好みに改造したマシーンを、ウソップは命の次に大事だと言って、仲間にも絶対貸そうとしない。
特に俺とゾロには断固貸すつもりねーんだと。
ムカツクからゾロときょーぼーして、こっそり乗る計画を企ててる。

つい思考がウソップのバイクに行ってる内に、コーチの説明は終ってた。
なんかボタンにさわるなとか色々注意されてた気がするけど、ま、いいか、乗ればカンで解るだろう。

陽が沈んで暗くなった空は、絵の具の色に例えるなら、ぐんじょー色。
濃くなればなるほど、オレンジ色の街灯が引き立って思えた。
店の隣の街路樹までキラキラ光ってる、まるで黄金の並木道だ。
俺達の後ろは真っ黒な海で、鏡みたいに街の明りを反射していた。

「18時になればオレンジ広場のツリーが点灯します。此処での講習を終えて広場に出発する頃、丁度点灯するでしょう。そしたらツリーの前で記念撮影をしたいと思います」

コーチがさらに説明する。
18時か…という事は教会の広場でやるっていう点灯式には間に合わねーなァ。
隣に立ってるナミも同じ事を考えたらしく、少しガッカリした顔になった。
けど仕方ねェ、あのまま部屋に居続けたら変な気起しそーだったし…。
プロポーズを済ますまでは、部屋にもどらないで居ようと決心した。

ひもで囲ったスペースの中、俺とナミはコーチが教える通りに、利き手でハンドルの真ん中を押さえ、反対の手でスティックを持った。
そう、ツアーと言いながら、参加者は俺とナミの2人だけ。
けれどコーチはさびしさをみじんも感じさせない陽気な声で、乗り方の説明を続けた。

まず俺に付きそって、足をゆっくり車体に乗せるよー言って来た。
教えられた通りに片足ずつ足を乗っけてく。
ところが上手く立てたと思ったら、車体が勝手にグルグル回転し出した。

「うわああああああああああああああああああああああ~~!!!!」

コマみてーにグルグルグルグル、どーやって止めたら良いのか解んねェ!

「ああああああああああああああああああああああああ~~!!!!」
「ルフィ!!」
「お客さんハンドル!!ハンドル傾けないで!!水平に握って下さい!!」

自分ではかたむけてないつもりなのに、なぜか回転しちまう。
グルグルグルグル、グルグルグルグル、目が回っても停まらず、俺はつい手を放しちまった。

「ああああああああああああああああ…!!!!――ああっ!!!!」
「ルフィーー!!!」
「お客さーん!!!大丈夫ですかーー!!!」

――ゴロゴロゴロロォーン!!!!と、派手な音を立てて、俺はセグウェイと一緒にたおれた。
…うええっ…胃がシェイクされて吐きそうっ…!!

うずくまる俺を気づかいつつ、続いてコーチはナミに付きそい、乗り方を教えた。
ひそかに転ぶ事を期待してたのに、ナミはスムーズに乗って、立って見せた。

――面白くねェなァ!!

その後コーチが再び俺に付きそってくれて、悪戦苦とーの末何とか立つ事に成功した。

「あんたは他人の話を聞かないものねェ」

それ見た事かとナミが笑う。
俺は不機嫌モードになって、そっぽを向いた。

コーチの解説によると、セグウェイのそーじゅーは、体重を移動する事で出来るらしい。
つまり前進する時は体を前に、後退する時は体を後ろにかたむける。
右や左に曲がる場合も同じ、かたむけた方向に進むんだ。
停止する時はハンドルを水平に、真直ぐ立てば良い。
それだけ解れば充分、運動神経には自信が有るんだ!
停止と回転をマスターし、前進の練習に進んだ俺は、コーチが教えた通り、体をめいっぱい前にかたむけた。

「ああ!!?うあああああああああああああああああ~~!!!!」
「お客さん!!!前に傾け過ぎですー!!!」
「ルフィ!!!ハンドルを水平にしてェーーー!!!」

――ゴロゴロゴロゴロ…ガッシャーン!!!!

予想したよりずっと速いスピードで発進したセグウェイは、俺を乗せたまま店に飛びこみ、商品だなに直撃したところで停まった。
助けに来たナミが、商品に埋もれた俺の姿を見て、「さながらボーリングのボールみたいだったわよ、あんた」と皮肉を言った。


追加されるダメージ、それでもくじけず今度は後退の練習をする。
コーチに教えられた通り、体重をめいっぱい後ろにかけた。

「ああ!!?ああああああああああああああああああ~~!!!!」
「お客さん!!!今度は後ろに傾き過ぎーー!!!」
「ルフィ早くハンドルを水平に戻して!!!海に落ちちゃうーー!!!!」
「あああああ…!!!!――クソッ!!これでどうだァー!!!!」

――グルルルル…!!――ダンッ!!!!

危うく海へ落ちる寸前、俺はとっさに背面宙返りをして着地した。
肩でゼーゼー息吐く俺を、ナミとコーチがほーけたように見てる。
と、コーチがおもむろにパチパチパチー!!と拍手をし、ナミもつられたよーに拍手した。
された俺は得意になるべきかならざるべきか悩んだけど、とりあえず2人に向いVサインで返した。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「えー……多少の不安は拭えませんが、この講習で僕が教えられる事は、もう何も有りません!予定してる時間を超過してる事ですし、幸い本日は平日で観光客も少ない事ですし、思い切ってオレンジ広場まで出発致しましょう!」

ダメージを受けてるわけじゃないのに、コーチの笑顔は何だか疲れていた。
隣に立つナミの顔も心なしか疲れてる。
無理ねーか…正直ナメてた、セグウェイのそーじゅーが、こんなにも難しいなんて。
それでも前進と後退と回転と停止の仕方をナミと俺がマスターしたところで、コーチはいよいよ場内ツアーに出発すると宣言した。
よーしよしよし!待ってました!!

先頭はコーチ、続いて俺、ラストはナミ。
列を作ったところでコーチは絶対にはみ出ないよう注意し、セグウェイを軽やかに発進させた。
後に続こうと俺も体を前にかたむけ――たつもりが、少し左にかたむいてたらしい。
しまったと思った時には遅く、途中でUターンしちまい、俺だけ逆方向に走り出した。

「あああ!!?あああああああああああああああああ~~!!!!」
「食み出ないでって言った傍から…お客さーーん!!!直ぐに停まってーーー!!!」
「ルフィーー!!!あんた独りで何処行く積りなのォーーーー!!?」
「ああああああ…!!!!――し、知らねェ~~~~~~!!!!」

すぐに停まろうとはしたんだ。
けど、つい握ってたハンドルを、めいっぱい前にたおしちまった。
その内しっそー感に酔い始め、気が付いたら2人の声が遠ざかってた。
体重を前にかけるほどスピードが出る、顔に当たる風がすっげー気持ち良い。
ヨットで走るのもこんな気分なのかな?そう考えたら停めらんなくなってた。

俺が走る左側には夜の海、波間に明りがユラユラゆれてる。
右側のお城みてーにきれーなレンガの建物を過ぎ、何もけーりゅーされてないさん橋を過ぎ、目の前に現れたのは細くて暗い1本道だった。

外灯で照らされたベンチに人影が見える、誰か居るんだ。
海を向くベンチに女が1人座っていて、男をひざまくらしてた。

近付いてく内…その女と男に見覚えが有る気がした。
肩をむき出しにした白いブラウスに、青いミニスカート。
夜でも明るく判る男の金髪、なじみ深いオレンジの髪の女。

「……ナミ!?――サンジ…!!?」

ベンチに座ってた女はナミで、そのひざに恋人のように頭を寝かせてた男はサンジだった。
驚いた瞬間、グラッとセグウェイがかたむき、投げ出された俺は、強く背中を打った。

痛みをがまんして、すぐに体を起す。
けれどもう1度見た時、ベンチには誰も座ってなかった…アトラクションの時と同じく、2人はまるで幽霊みたいに消えちまったんだ。








…写真は話に出したセグウェイ、旧パラディ前で撮った物。
以前も言いましたが、現在セグウェイの受付場所は、オレンジ広場ステージの真向いに建つアクティビティセンターに変ってます。
それと光の街ナイトツアーは冬季に実際有ったけど、30分2千円のコースなんてのはフィクションです…嘘吐いて御免なさい。(汗)

ブレーキが無いんで、足下がしっかり固定しない感覚に、最初は慣れんでしょうが、大抵は20分講習を受ければマスター出来る、操縦が楽な乗り物なんですよ。
宙返りは危険なんで真似しないで…ってかセグウェイはドッシリしてるから、無理なんじゃないかと思う。(汗)
興味を持った方は公式サイトのこちらを御覧下さい。
(→http://www.huistenbosch.co.jp/transport/detail/5120.html)


え~話の途中ではありますが、一旦此処で連載を中断して、続きは7/3以降に。(汗)
毎年の事ですが、ナミ誕の準備にかかりますんで。
残り3~4話は間違い無くナミ誕時に公開する積りなんで、その頃にまた読みに来て頂ければ嬉しいです。
尚、7/2迄のブログ更新予定は、4/1か4/3に書きますんで…。
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