2ヶ月前。
施設の面会禁止が解除された日。おばちゃんに会いに行った。
面会時間は、15分。
今回のお土産は、夏のブラウスと、下着。
『まあ、菜菜美さんよ、悪いのー、顔だけ見せてくれたら、それだけで嬉しいのにー』
おばちゃんに、持参したブラウスを早速あててみる。淡い花柄模様。
「おばちゃん、似合うよ。また、普段着に着てよ」
そう言って、高知の従姉妹にすぐに電話をかけた。
従姉妹には事前に連絡しておいた。面会時間15分。1分たりとも無駄に出来ない。
おばちゃんは、手のひらをスマホに当てて持ち、上手に話す。
『コロナが落ち着いたら、会いに行くけんねー、それまで元気にしとってよー』
従姉妹の声がスピーカー越しに流れてくる。
「うん、まっちょるわ、来ての」
そう頷きながら、おばちゃんは、目を真っ赤にしていた。
隣で私もやっぱり、涙ぐんでいた。
帰り際、おばちゃんが駐車場まで送ってくれた。
駐車場は、施設の正面だ。
『おばちゃん、施設をバックに記念写真撮ろう!前に家の前で撮った時とおんなじじゃなあ。
今日は、施設がバックじゃよ』
そう言って、カメラを向けると、おばちゃんは、
「待てよ、」と言いながら、キッチリと立ち、カメラを見て、微笑む。
やっぱり、良い表情。
『おばちゃん、また、来るね』
「また、来ての、なんちゃあ、持たんと来てのー」
『元気でおってよーまたねー』
軽く手を振り、別れた。
おばちゃんの家には、小さな縁側がある。玄関からは、出入りしない。
いつも、その縁側が、おばちゃんの動線だ。
その縁側に何気なく落ちている、季節ごとに変わるもののカケラで、四季の移ろいが判かった。
お茶の乾いた葉の数枚。小豆の虫食いのカケラ。大根の葉っぱの切れ端。
取ったままで置かれたミョーガ。干し大根のカケラ。
玉ねぎの皮。そして、作業手袋。
縁側の下は乾いた土。おばちゃんの小さな長靴。鎌は縁側の右側の木に掛けてある。
目の前には空を背景に、広がる山々の稜線。四季折々に変わる山の色。生まれたての風の匂い。
今の季節は、茅刈りに勤しんでいた。
終わりかけの百日紅の赤と白。少しだけ冷たい風と、真っ新な青空と、
何処かで鳴いていたヤマガラの高い鳴き声。池に落ちるホースの水の音。
そして弾かれる音。自然の織りなすだけの匂いと音。
固い土に鍬を入れ、何度も何度も土を起こし、ひたすらに暮らして生きた歳月。人間を生きた日々。
自分自身の命を終える場所さえ、選ぶことが出来ない現実。
産まれて生きて逝くだけのことなのに、終焉の自分の人生の神輿を下ろす場所さえ、望めない現実。
おばちゃん、
私は他人に対して、
初めて心から思いました。
『魂を 抱きしめたい』
おばちゃん、
あのね、前から言いたかったんだけどね、私の名前は、
マチコでは、ないのです。
いつも、マチコさんよ、マチコさんよーって呼ばれたけど。
それとね、
おばちゃんが、呼んでいた
「イヌヨー、イヌよー、来たかー、一緒に来たかー」って、
呼んでいた犬の名前はね、ゴンっていう名前だったんだよ。
叔母やん(ヴヴヴ)にも、会えたかな?ネエさんも、きたかえーって、迎えてくれたかな。
おばちゃん、私はもう少しだけ、想い出の番人を続けます。
おばちゃん、
おばちゃんの時間と交差出来た事に感謝します。
一瞬一瞬の時間が煌めく事が出来た事に、感謝します。
ありふれた言葉だけど、ありがとう。
さようなら
また いつか。
合掌
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施設の面会禁止が解除された日。おばちゃんに会いに行った。
面会時間は、15分。
今回のお土産は、夏のブラウスと、下着。
『まあ、菜菜美さんよ、悪いのー、顔だけ見せてくれたら、それだけで嬉しいのにー』
おばちゃんに、持参したブラウスを早速あててみる。淡い花柄模様。
「おばちゃん、似合うよ。また、普段着に着てよ」
そう言って、高知の従姉妹にすぐに電話をかけた。
従姉妹には事前に連絡しておいた。面会時間15分。1分たりとも無駄に出来ない。
おばちゃんは、手のひらをスマホに当てて持ち、上手に話す。
『コロナが落ち着いたら、会いに行くけんねー、それまで元気にしとってよー』
従姉妹の声がスピーカー越しに流れてくる。
「うん、まっちょるわ、来ての」
そう頷きながら、おばちゃんは、目を真っ赤にしていた。
隣で私もやっぱり、涙ぐんでいた。
帰り際、おばちゃんが駐車場まで送ってくれた。
駐車場は、施設の正面だ。
『おばちゃん、施設をバックに記念写真撮ろう!前に家の前で撮った時とおんなじじゃなあ。
今日は、施設がバックじゃよ』
そう言って、カメラを向けると、おばちゃんは、
「待てよ、」と言いながら、キッチリと立ち、カメラを見て、微笑む。
やっぱり、良い表情。
『おばちゃん、また、来るね』
「また、来ての、なんちゃあ、持たんと来てのー」
『元気でおってよーまたねー』
軽く手を振り、別れた。
おばちゃんの家には、小さな縁側がある。玄関からは、出入りしない。
いつも、その縁側が、おばちゃんの動線だ。
その縁側に何気なく落ちている、季節ごとに変わるもののカケラで、四季の移ろいが判かった。
お茶の乾いた葉の数枚。小豆の虫食いのカケラ。大根の葉っぱの切れ端。
取ったままで置かれたミョーガ。干し大根のカケラ。
玉ねぎの皮。そして、作業手袋。
縁側の下は乾いた土。おばちゃんの小さな長靴。鎌は縁側の右側の木に掛けてある。
目の前には空を背景に、広がる山々の稜線。四季折々に変わる山の色。生まれたての風の匂い。
今の季節は、茅刈りに勤しんでいた。
終わりかけの百日紅の赤と白。少しだけ冷たい風と、真っ新な青空と、
何処かで鳴いていたヤマガラの高い鳴き声。池に落ちるホースの水の音。
そして弾かれる音。自然の織りなすだけの匂いと音。
固い土に鍬を入れ、何度も何度も土を起こし、ひたすらに暮らして生きた歳月。人間を生きた日々。
自分自身の命を終える場所さえ、選ぶことが出来ない現実。
産まれて生きて逝くだけのことなのに、終焉の自分の人生の神輿を下ろす場所さえ、望めない現実。
おばちゃん、
私は他人に対して、
初めて心から思いました。
『魂を 抱きしめたい』
おばちゃん、
あのね、前から言いたかったんだけどね、私の名前は、
マチコでは、ないのです。
いつも、マチコさんよ、マチコさんよーって呼ばれたけど。
それとね、
おばちゃんが、呼んでいた
「イヌヨー、イヌよー、来たかー、一緒に来たかー」って、
呼んでいた犬の名前はね、ゴンっていう名前だったんだよ。
叔母やん(ヴヴヴ)にも、会えたかな?ネエさんも、きたかえーって、迎えてくれたかな。
おばちゃん、私はもう少しだけ、想い出の番人を続けます。
おばちゃん、
おばちゃんの時間と交差出来た事に感謝します。
一瞬一瞬の時間が煌めく事が出来た事に、感謝します。
ありふれた言葉だけど、ありがとう。
さようなら
また いつか。
合掌
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